長岡 弘樹 白衣の噓


この作家では初の医療の分野を舞台にしたミステリーの短編小説集です。
「最後の良薬」
職員わずか四十人の、専用のホスピス病棟もない個人病院に、進行性胃がんのために緩和ケアを受けるしかない女性患者が転院してきた。副島真治は何故かこの患者を担当させられるのだった。
「涙の成分比」
バレーボールの日本代表の選手である彩夏は、姉の多佳子を乗せて運転しているときにトンネルの崩落事故に遭い、足をはさまれてしまう。
「小医は病を医し」
T町役場入庁六年目の角谷は、心筋梗塞で入院することになった。ある日、担当医の指示で移った二人部屋には喬木という盗犯係刑事がいるのだった。
「ステップ・バイ・ステップ」
曽根川共済病院の医師上郷仁志は、外科部長の西本直守から、無断欠勤が続く研修医の様子を見て報告するようにといわれ、うつの兆候が見られるその研修医に脱感作療法を命じる。
「彼岸の坂道」
S総合病院の救命救急センターを率いる、ミスが皆無という津嘉山の退職が迫り、その後を継ぐのは、友瀬逸朗か、それとも生原なのか。そんなとき、津嘉山が救命センターに運ばれてきた。
「小さな約束」
N署地域課に勤務する浅丘秀通の姉の美鈴は、刑事課勤務の末に腎臓を悪くして入信することになった。担当の貞森慈明医師によれば腎移植が必要だというのだった。

これまでのこの作者の作品である『傍聞き』や『赤い刻印』などと同様に、緻密な計算の上に構築され、読者の想像の裏を行くように描かれている短編集でした。

どの物語も特定の個人の視点で語られています。その語り手の知らないところで起きている事柄が、物語の方向に影響を与え、読者の思いもかけない結末へと導いてくれます。

そして、本書では、他のミステリー作品のような事件はおきません。第一話の「最後の良薬」にしても、副島真治という医者に、自分には分からない理由で特定の患者の担当にさせられ、後にその理由が判明するのですが、その理由が、貼られていた伏線の回収の過程で明らかになっていきます。

こうした意外性こそが、特に短編のミステリーの醍醐味と言ってもいいと思いますが、長岡弘樹という作家は、そこのひねりが上手いと思うのです。

個人的には、多分オチ、結末を最初に考えられ、その結末に向けての人間ドラマを構築されていると思うのですが、そこの人間ドラマに若干の強引さ、を感じないでもありません。

しかし、そうした強引さを差し引いても、読み終えた時の裏切られ感といいますか、意外性が心地よいのです。

人間ドラマが展開しやすい医療の分野で長岡弘樹という作家の上手さが光った作品集だと思います。

作者自身、「医療にはネタがたくさんありそう」と思っていたそうで、もしかしたら、本書以外にも医療ものの作品を書かれるのかもしれません。その時を楽しみに待ちたいと思います。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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