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アンディ・ウィアー アルテミス







マット・デイモン主演で映画化もされたベストセラーSF小説『火星の人』を書いたアンディ・ウィアーの第二作目となる長編のSF小説です。

本書の舞台は、月面上の街、アルテミスです。アルテミスは直径500メートルの中にある、アームストロング、オルドリン、コンラッド、ビーン、シェパードと名付けられたバブルと呼ばれる五つの巨大な球体から成り立っています。

ちなみに、この五つの名前は、現実に月世界へ降り立った五人の宇宙飛行士の名前です。

アルテミスは観光資源で成り立っていて、主人公たちは施設を維持するための労働者としてアルテミスに住んでいます。



主人公はサウジアラビア生まれ、アルテミス育ちの二十六歳。ジャスミン・バシャラ。六歳から付きで暮らし、物心ついてからは地球の土を一度も踏んでいないので、地球の六分の一しかない重力に慣れきっている。(大森望 解説 より)


このジャスミン・バシャラ、通称ジャズは、提示された巨額の報酬のために月の実業家トロンド・ランドヴィクからの、ある掘削機械の破壊工作の依頼を請けるのですが、その仕事をやりとげる前に、当のトロンドが殺されてしまいます。

トロンドを殺した犯人の情報を得るためにトロンドの家で会ったジン・チュウに会いに行ったジャズは、ジンの部屋にいた殺し屋に殺されそうになってしまいます。

何とか逃げ出したものの、ことは地球上の巨大犯罪組織の絡んだ事件へと発展し、アルテミスの崩壊を招きかねない危険な事態に陥ってしまったのでした。



ここまでが文庫本前巻のおおまかな流れです。本当は、最後の殺し屋との対決に至るまでに、アルテミス屋内での火災事故への対応の仕方や、屋外でのサンチェス・アルミニウムの精錬所での収穫期の破壊活動の様子などのサスペンスフルな場面が幾つか展開しています。

そうした場面でのテクノロジーの解説は、正直半分も理解できるものではありませんが、何となく理解できたような気分になるのですから不思議です。それは、主人公の一人称で普通の言葉で語られるその語り口にも理由の一端があるのでしょう。このことは前作と同様です。


その前作『火星の人』では、主人公はひとり取り残された火星で、何とか生き延びるために知恵を働かせ、身の回りにある品物で数年間を生き延びる算段をつけ、その困難を乗り越えるサバイバル術を見せてくれたのでした。

本作の主人公も、その明晰な頭脳を活かし、あるときは犯罪行為に手を染め、あるときは迫りくる危難を身近にあるもので回避します。前作と異なるのは、今回の主人公には助けてくれる仲間がいることです。

ただ、前回の主人公も軽口をたたくことはありましたが、それは火星という惑星で一人生きる中での独り言であり、淋しさを紛らわす手段でもありましたが、今回はそれとは異なります。かなり饒舌であり、悪口でもあり、喋り過ぎです。

独白ではあるにしても、少々無駄口が過ぎます。とにかく読んでいてリズムが狂い、物語を読み進める上でかなり邪魔に感じたものです。


ただ、先にも述べたようにSFとしての読者の知識の補完のための説明はやはりさすがなもので、主人公の行動の一つ一つを簡単に、分かりやすく、示してくれています。

それは月という地球の六分の一しかない重力のもとでの建物外での歩き方から始まり、建物に入る時のエアロックの使い方や、建物内での時間の決め方など、細かいところまで描いています。

つまりは、いわゆるハードSF的な展開ではあるのですが、ハードの要素をあまり感じさせずにストーリーが展開していくのです。

今後もこのアルテミスを舞台にした作品が書かれるかもしれないとのことですので、楽しみに待ちたいと思っています。

ちなみに、本作も既に映画化の話が決まっているそうです。こちらも早くみたいものです。

アンディ・ウィアー 火星の人


これは面白い本でした。内容は火星版のロビンソンクルーソーですが、SFとしての面白さを久しぶりに堪能できました。ちなみに、かつて上映された「火星のロビンソンクルーソー」という映画とは関係がありません。

マーク・ワトニーは有人火星探査チームの一員だったが、猛烈な砂嵐による緊急の火星離脱の直前に吹き飛ばされ、ひとり無人の火星に取り残されてしまう。無線も壊れてしまい、連絡のとりようもないワトニーはいかにして生き抜くのか。壮絶だが、ユーモラスなサバイバルが始まった。

とにかく、ハードSFという分類はされているのですが、これまでのハードSFとは異なり、中学生の数学でも理解できるような計算で必要な食糧、酸素量等を導き出し、それを、身近にあるものから創意工夫によって作りだしていきます。その過程は、実際は高度な学問、知識に裏付けられた工夫なのでしょうが、あまり難しさを感じさせません。

しかし、本作で一番の特徴として挙げなければならないのは主人公マーク・ワトニーのキャラクター設定でしょう。ひとり無人の火星に置き去りにされた男の能天気なこと。

基本的にマーク・ワトニーの手記(正確にはログ)の形で、それも一人称で述べられていますが、その姿勢は常に前向きです。例えば事故から一夜明けたときのログは、「けっして完全に絶望的な状態ではない。約四年後にはアレス4が到着して、火星に人間がもどってくる。」「というわけで、それが僕のミッションだ。」と、前向きに生きていこうと決心します。このあと、自分が四年間を生き抜くに必要な水、食糧、空気などの条件を考察し始めるのです。

そして、その条件の考察のときでもユーモアあふれるその文章が光ります。例えば、生き抜くためにはカロリーだけが足らず、毎日1100カロリーを作りださなくてはなりません。そうした状況でカロリー消費を減らすために、「片腕を切り落として食べれば、貴重なカロリーが獲得できて、必要なカロリーの総量を減らせる。いや、それはちょっと違うか。」

また、「あとがき」でSF評論家の中村融氏が引用している文章。それは、「エアロックは横倒しになっていて、シューッという音がずっときこえている。だから、空気が漏れているか、蛇がいるかどっちかだ。どっちにしても困った状況だ」。

他方、火星を離れた地球のNASAや緊急離脱した宇宙船の内部の場面などでは、通常の三人称での描写に移ります。このNASAでの描写などは、いかにも「SFおたく」だった作者らしく登場人物の配置も上手く、そこでの描写もとても新人とは思えません。何とかして火星で一人生きている主人公を助けようと努力するその姿は心を打たれます。

本作は作者アンディ・ウィアーの処女長編だそうです。それも、もとはネット上に少しづつアップしていたところを、あまりの人気に大手の出版社が目をつけ出版する運びになったと言います。

ここのところ、SF作品を読む機会が減ってきていました。でも、本作のような、驚きに満ちた世界を繰り広げてくれる作品に出会うと、やっぱりSFの面白さを再認識し、新たな感動を呼び起こしてくれる作品を探したくなるのです。

また、あのSF映画の名作「エイリアン」の監督のリドリー・スコットにより、主人公をマット・デイモンが演じて映画化されるそうです。これまた今から楽しみです。

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(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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