和田 竜 村上海賊の娘



小説を読んで血が騒ぐ感覚を覚えたのは久しぶりのことです。本書はそれ程に面白い物語でした。この作者の文章は『のぼうの城』でも視覚的だと思いましたが、本書では更に映像的です。また、キャラクターの造形が上手く、彼らの台詞が直截に心に響いてきます。2014年本屋大賞受賞は納得です。

戦国時代も終わり近くの1568年(永禄11年)、信長の強引な政策は石山本願寺などの反発を招き、1570年(元亀元年)の姉川の戦いの後、石山本願寺および浅井・朝倉氏が挙兵します。この戦(いくさ)は将軍義昭の仲介で和睦をすることになるのですが、このときから織田信長と浄土真宗本願寺との間に、世に言う「石山合戦」が約十年もの間続くことになります。

本書は石山合戦の中でも三度目の大きな戦いであり、1576年(天正4年)に毛利氏と織田氏との間に起こった、「天王寺の戦い」と「第一次木津川口の戦い」を描いた小説で、それぞれの戦いがに上巻、下巻の山場を構成しています。

本書の魅力は、生き生きとしているその登場人物の造形でしょうか。まずは本書の主人公である海賊村上武吉(たけよし)の娘、景(きょう)が「稀代の荒者」で「大層な醜女」なのですが、しかし純粋なのです。彼女が全編にわたっての鍵となります。

この景を見守る各武将が生き生きとしています。宣教師のフロイスに「日本の海賊の最大なる者」と言われたのが、景の父村上武吉で「能島(のしま)村上」の当主です。そして、景の兄の元吉(もとよし)、弟の景親(かげちか)らがいて、一方、敵役である真鍋七五三兵衛(まなべしめのひょうえ)や、鉄砲集団雑賀党の首領である鈴木孫市(すずきまごいち)らが重要な位置にいます。

他にも個性的な武将が登場し、単なる命知らずではなく、男の琴線をくすぐる存在として描かれています。それは本書の中で泉州侍について語っている言葉ではありますが、「常に俳味を持って戦うのだ。強敵に立ち向かう阿呆の理で戦うのだ。」という言葉に表れているでしょう。「俳味」とは「軽妙・洒脱な味わい」と辞書にはあります。打算抜きに、命のやり取りを楽しむ男どもなのです。

著者はインタビューの中で、当時の人間の「命についての考え方」を現代の人間の感覚でとらえてはいけないと言っています。そうしないと「時代の空気が見えてこない」と言うのです。そして「当時の空気」として「恐怖に対して鈍感だった」と言っています。

実際、本書の登場人物は見栄でもなく文字通りに「笑いながら」死んでいくのです。この点は読みながらも、少々やり過ぎだろう、と思わないでもなかったのですが、そこはあえて書かれていたのだと、このインタビューを読んで思いました。

本書の最大の魅力は、綿密な資料の読み込みに裏付けられたリアリティーでしょう。資料の読み込みだけで一年を費やしているそうで、多くの細かな場面描写に資料の裏付けを示してあります。それは人物の性格にまで至っており、読み手は実際書かれている事柄があったのではないかと思わせられてしまいます。逆にこの資料の提示が邪魔だという声も散見しました。この点は読み手の好みにもかかわってくるのでしょうが、本屋大賞を受賞している事実はこの手法が受け入れられているということではないでしょうか。少なくとも私は実に楽しく読むことができました。

確かに、武将同士が海戦のさ中に異なる船同士でまるで隣にいるかのように話し合ったりと、細かな点を言えば首をひねる個所も多くあるのです。しかし、そうした疑問点を持ちつつもこの筆力には圧倒されてしまった、というのが正直なところでしょうか。

久しぶりに単なる面白さを越えた、読み応えのある小説でした。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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