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春日 太一 仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル


春日太一の作品では以前『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』を読み、描かれた内容の持つ熱気と情熱とが、作者の映画に対する愛情を感じさせる作品だったので、本書を読む気になったものです。

しかし、残念ながら本書に関しては『あかんやつら』ほどの情熱は感じられませんでしたし、それに伴って読み物としての面白さも感じにくいものでした。

その差がどこにあるのか良く分かりませんが、本書は映画産業全体を俯瞰した描き方であることからくるのではないかと思います。つまり『あかんやつら』はミーハー的な見方をしていた私の読み方に応えてくれていたのに対し、本書はそうではなかった、と言うことではないでしょうか。

『あかんやつら』は子供のころ見た映画スターの実像であったり、映画そのものの制作過程での裏話などが、それなりに細かく描かれていました。それに対し、本書はより大きく、映画産業史に近い描き方であったというところでしょう。

ですから、本当に映画史をしっかりと知りたい人にとっては読みやすいのかもしれません。ただ、現実に映画産業に携わっていた人たちからの若干の批判めいたレビューがあったのも事実です。こうしたレビューはネットを探すまでもなく、Amazonでのレビューに見られるところです。

蛇足ながら、この本を読んで数日後にテレビで映画『待ち伏せ』が放映されました。この本には、この映画が作られた時代にあってはスターシステムで作られたこの映画も、その神通力はもはやない、と書いてありました。

しかし、今回初めてこの映画を見て感じたのは、そもそもこの映画はストーリー自体に魅力を感じなかったのではないか、ということです。つまりはスターシステムや役者の演技を言う前に、脚本そのものの魅力を感じなかったのでしょう。中村錦之助や石原勇次郎には存在感は無く、三船敏郎も用心棒のイメージを引きずっているだけでした。ただ、勝新太郎だけが存在感があったように思います。それと浅丘ルリ子の演技はさすがでした。

春日 太一 あかんやつら 東映京都撮影所血風録


半年近くも前に友人から読めと言われて貰った本。やっと読了しました。いやぁ~、何故今まで読まなかったと後悔することしきりです。ノンフィクションですが、対象が映画なので興味は尽きません。

もしかしたらルポルタージュとしてのノンフィクションを読むのは、若い頃に読んだ沢木耕太郎の『一瞬の夏』以来かもしれません。本の詳しい内容はもう覚えていませんが、カシアス内藤が再度プロボクシングのリングに戻り闘う姿を描いた作品でした。

あの本も著者の熱意も含めて面白かったのですが、本書は何と言っても私の好きな映画の世界が舞台ですから、対象をリアルに頭の中に描くことができます。感情移入どころか、その世界の中に入っている気持ちです。

東映の成り立ちには長門裕之、津川雅彦兄弟の叔父さんにあたるマキノ光雄という人が大きく関わり、五島慶太を総帥とする東急グループの小会社である東横映画株式会社がその前身である、などの話から始まります。「マキノ」という名前は、映画好きの人は知らない人はいないくらいに偉大な名前ですね。

東宝や大映といった大手の映画会社の後発である東映は、片岡千恵蔵、市川歌右衛門らのスターシステムを確立し、そのシステムから次世代のスターである中村錦之介、大川橋蔵らが輩出します。その後、スターシステムも下火となると任侠路線が生まれ、鶴田浩二、高倉健、藤純子らの時代になります。次いで来たのが実録路線であり、菅原文太らが大活躍するのです。

こうした名前は、私が小学校の頃から社会人になる間に見ていたスクリーンの中にいた人たちであり、私の世代の人の映画の歴史はこれらのスターたちと共に育ってきたのです。

本書はこうしたスターたちのエピソードも満載でそれだけでも読み応えがあります。しかし、本書の面白さはそれだけにとどまりません。これらのスターを生み出す東映という会社のシステムそのものから描き出しています。トップである社長の個性が東映の路線に大きく影響するのは勿論、名物プロデューサーらが張り切る姿が生き生きと描写されているのです。

任侠路線、実録ものともなるとその世界の人達との関わりも出てくるし、映画製作のスタッフ自身がその世界そのもののようになっていたなど、裏話には事欠きません。有名な話としては、『山口組三代目』という高倉健主演の映画を作るにあたり、本人の協力もあったらしく、当然のことながら警察と衝突し、このシリーズは二作で終わってしまいます。その代わりに東映が作ったのが『県警対組織暴力』という、警察とヤクザとの癒着が描かれた作品です。

でも、言えるのはそうして徹夜続きでも映画を作り続けてきたスタッフらは、大スターも会社の役員も、現場の使い走りに至るまで本当に映画が好きだということです。その現場の情熱が溢れんばかりに描かれているこの本の著者もまた映画が好きだということが伝わってきます。

この作者のルポに限らず、他の人の映画の本も読んでみたいと思わされた一冊でした。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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