高嶋 哲夫 富士山噴火


これまで読んだ高嶋哲夫のパニック、シミュレーション小説の中では一番面白いと感じた小説でした。

御殿場市にある養護老人ホーム「ふがくの家」の施設長である新居見充は、三年前の平成南海トラフ大震災のとき、陸上自衛隊のヘリのパイロットとして救護活動についていたが、自分の妻と息子を救うことができなかった過去をもっていた。そんな折、静岡日報の記者で友人の草加の紹介で日本防災研究センターに行き、富士山が噴火すると聞かされる。噴火の可能性の高いことを信じた新居見は市長の黒田に働きかけ、非難の準備に取り掛かるよう進言するのだった。

本書の主人公は自衛隊員として活躍した人物で、三年前の平成南海トラフ大震災で娘以外の家族を失っています。そのことで娘は新居見から離れ、東京で医師として働いています。この親子の確執が徐々に解けていく様子もサブストーリーとして見所の一つです。

富士山噴火が現実のものとなったときに、新居見を中心としたグループの活躍で、御殿場市や富士宮市など近隣都市の九十万人にもなる住民の避難が開始されます。

この避難行動の描写は、エンターテインメント小説として手に汗を握るスリル満点の読み物として仕上がっており、なかなか本を置くことができませんでした。しかし、この小説に引きこまれて緊張感のある展開に目を離せない状態になってはいるものの、書かれている内容は全くの絵空事ではない、ということが読んでいる間も頭をよぎります。

小松左京の名作『日本沈没』を読んでいたときは、そのスケールの大きさにエンターテインメントとして純粋に楽しむことができました。大地震の可能性は否定できなくても、日本そのものの消滅という事態は無意識のうちに空想と割り切っていたからです。しかし、本書の場合、可能性がたとえ数パーセントであってもゼロではなく、現実に阪神大震災、東日本大震災を経験しているのですから、どこか冷めている自分がいました。

何度も書きますが、小説としてはかなり良くできた作品だと思います。だからと言って難点が無いわけではありません。退官した自衛隊員が事実上自衛隊を指揮する、などということはあり得ないでしょうし、九十万人という住民の避難が数日で可能だとはとても思えません。でも、そうした現実論をも越えたところでこの小説は展開しています。それほどに面白いです。一方、それをしなければ全滅という事態が目前のものとなったときに、人間はいかなる行動を取るものか、考えさせられる小説でもありました。

これまでに『M8』『TSUNAMI』『東京大洪水』と災害小説を書いている高嶋哲夫という作家ですが、ここに『富士山噴火』という小説が加わりました。エンタメ小説としてもよくできているし、啓蒙の書として読むことも可能かもしれません。他に『首都感染』『首都崩壊』というシミュレーション小説も書かれています。

蛇足ですが、先日、NHKテレビの「ブラタモリ」という番組で「富士山」をテーマにした回がありました。そこでは富士山の成り立ちの説明があり、古富士などの名前も出てきていました。同様の説明が「宝永火口」の成り立ちも含めて本書でも為されていて驚いたものです。身内が富士市に住んでいる身としては身近な話でもありました。そこへこの本ですからすぐにこの番組を思い出していました。

高嶋 哲夫 M8


かなりリアルなシミュレーション小説でした。

1995年1月17日の阪神淡路大震災の被災者でもある瀬戸口誠治は、地震関連のシミュレーションプログラムを開発する。その結果は、M8クラスの東京直下型の地震が起きるというものだった。同じ被災者である河本亜紀子が秘書をしている堂島智子衆議院議員に会い、東京で起きる直下型地震への対応を働きかける。しかし、地震学会は南海地震の可能性を予測するのみで東京直下型地震は除外している以上、総理への直談判などとんでもないという。そんな中、M5.5クラスの地震が東京を襲う。

この作家のいわゆる「パニック小説三部作」のうちの二作を読み終えました。作品としては『首都感染』『首都崩壊』と合わせて4作目ですが、本作が一番読み応えがあったように思えます。

阪神淡路大震災や東日本大震災を経験している人々が多数いるというなか、実際に起こった阪神の地震を描写することはとても困難を伴うことでしょう。作者が実際に被災された方かどうかはわかりません。しかし、小説ではなく『[体験者が明かす] 巨大地震の後に襲ってきたこと』や『巨大地震の日―命を守るための本当のこと』『東海・東南海・南海 巨大連動地震』といった啓蒙書(と言ってもいいでしょう)を書かれている筆者ならではの描写が随所に記されています。

東海大地震など、確実にくると言われている地震に備えるためにも本書のようなことが起こらないことを祈るばかりです。

しかし、こう言いつつも実際地震に対する備えをしないのがほとんどの人でしょう。どこかで自分の身の回りにはそういうことは起こらない、と思っている自分がいるのです。

地震ではありませんが、大きな台風が九州の真ん中を縦断するコースで北上したばかりです。まずは直前の災害に備えた動きをしましょう。

内容が内容ですので、面白かったというにはかなりの語弊があります。しかし、エンタメ小説してみるとかなり読み応えのある小説であるのも事実です。とはいえ、やはり、本書にも出てくる阪神淡路大震災や東日本大震災を経験した日本人としては面白がってはいられない、というのが本心です。

私の住む九州は両地震とも直接の影響はありませんでしたので、更に他人事として語ってはいけないという気持ちがあります。テレビ画面を通してみるその大惨事は、私には決して理解できるものではなく、安易に語れないのです。

そうした意味では啓蒙の書としての本書の意義はかなり大きいものがあるのではないでしょうか。この作家の書くさまざまなパニック小説には、そうした思いが込められていると思えます。

高嶋 哲夫 首都崩壊


「首都崩壊」というタイトルからくる、地震による惨禍が描写された作品、との思い込みとは異なる内容の作品でした。

国土交通省のキャリアである森崎のもとに、日本の東都大学地震研究所の前脇とアメリカの大統領特使という立場に居るロバートというまったく異なるルートから東京直下型地震発生の可能性が高いという情報がもたらされた。そのすぐ後に同じ情報に接した総理大臣の能田は、国交省内に首都移転チームを立ち上げる。以前首都移転構想のリーダーだった村津を首都移転室の室長とし、森崎もそこに所属することになるのだった。

以前のこの作家の作品である『首都感染』のときもそうだったのですが、主人公の立場があまりにも都合が良すぎます。つまり、アメリカ大統領特使と親友なので外交の重要案件に総理よりも先に接しますし、また日本の地震研究の第一人者とも親友であって、常に最新の情報を抱えている立場にいるのです。一方新室長の村津の娘は世界的な建築家の所員であり、首都移転の青写真を作るチームの一員です。

本書の中心的な論点は、地震そのものよりも、地震をきっかけとする首都移転と、東京の崩壊に伴う経済面での危機にあります。その中心に主人公がいて、地震に対する脆弱性を指摘された日本の格下げを図る格付け会社との折衝や、また乗り込んできたヘッジファンドに対応したりと大忙しで、それには最新の情報が必要だったのでしょう。

こうした特別な視点を持つ物語であることからか、エンターテインメント小説としてみると若干迫力に欠ける印象はあります。また、室長村津の個人プレーとして都合よく進みすぎるきらいもあります。しかし、それでもユニークな視点を持ったシミュレーション小説として、はまる人もそれなりには居るのではないでしょうか。

私も、物語としての面白さを否定しているのではありません。政治的、経済的に関連してくる膨大な問題点を捨象し、首都移転、および必然的に考慮すべき(と書かれている)道州制の問題を中心に据え、その絡みとして格付け会社との交渉、ヘッジファンドとの対決が側面を固めるエピソードとして描かれ、それはそれで面白いのです。

もともと私は「経済」の仕組みが良く分かっていないので、描写されている経済関連の情報があまり意味を持って入ってこないということもありますし、道州制の問題にしても、その本来意味するところまで深く勉強し、考えたことが無かったので、その意味では考えるきっかけにもなりました。

ちなみに蛇足ながら、「ヘッジファンド」の意味が良く分からずに調べてみました。ここでいう「ファンド」とは投資家集団であり、公募ではなく私的に集めた資金を様々な手法で運用するファンドをヘッジファンドと言うそうです。言わば私的な巨大投資家集団ですね。正確には意味合いが異なるようですが、ここではそのようなものと考えてもいいでしょう。

高嶋 哲夫 首都感染


中国の雲南省で新型のインフルエンザが発生し、いくつかの村で住民全員が死亡した。折しも北京ではサッカーのワールドカップが行われており、中国政府は新型インフルエンザの発生をひた隠しにしていた。世界保健機関(WHO)のメディカル・オフィサーを半年前にやめてから黒木病院で内科医として勤務していた瀬戸崎優司のもとに、中国国境で新型インフルエンザが発生したらしいとの情報がもたらされる。瀬戸崎優司は、内閣総理大臣が父であり、別れた妻の父親が厚生大臣であるため、日本に新型インフルエンザが侵入しないよう断固たる処置をとるように進言するのだった。

パニック小説としてまあ良くできた物語ではありました。と同時に、主人公の設定が少々都合良すぎるのではないかとの印象がぬぐえなかったのも否めません。強毒性の60%を超える致死率を持つ新型インフルエンザの出現、中国政府の隠ぺいなどは、この手の小説のお決まりであり、これはまあいいのです。

しかし、東京封じ込めという強硬策を実行させるには、総理大臣および厚生大臣に強烈なパイプを持つ人間の存在が必要と考えられたのか、その両者が主人公瀬戸崎の父及び義理の父という、こちらも強硬な設定が設けられているのです。

パニック小説で描かれるのは、緊迫した状況下での人間ドラマだと思うのですが、本書では人間ドラマという点で少し弱いという印象を持ちました。同じことの繰り返しになってしまいますが、重要な登場人物が、主人公の父親、別れた妻、別れた妻の父親、主人公の友人などと、主人公の周りに集中していて、舞台設定に違和感を感じないわけにはいかないのです。

では、パニック小説のもう一つの醍醐味である、危機的状況下での対応策という点ではどうかというと、パンデミックに対しての「東京封鎖」という大きなイベントを設定してあります。しかし、その封鎖を実効的なものとするための施策が、一応は描写されているけれども、そこで出来事が意外ではありました。端的にいえば、物足りませんでした。

結局、危機的状況下での人間ドラマと、異常事態への対応策のそれぞれが満たされない気持ちで終わったのです。

この本の前に読んだこの著者の作品としては『ジェミニの方舟』があるのですが、こちらの方が若干ですが、現実感があり作品の世界に入りやすかったと思います。エンターテインメント小説としても、かなり面白く読めました。

とはいえ、パンデミックという極限状況下での、自分は大丈夫、ひとりくらい、という認識の怖さ、個々人のエゴイズムなどは、それなりに描かれていたのではないでしょうか。現実にそのような事態が起きたときに、自分が冷静に対処できるかはいつも言われることではありますが、なかなかに難しいことでしょう。こうした出来事が架空の物語ではなく、現実化した時に個々人がどのように行動するかのシミュレーションとしての意義を持つことができれば、それはまた大きな意味を持つと思います。

この作家は他に「地震」や「津波」などをテーマにした作品や、映画化もされた「ミッドナイト・イーグル」のような冒険小説もあるそうなので、また読んでみたいと思います。

高嶋 哲夫 ジェミニの方舟


自然を相手にしたパニック小説です。この著者の『M8』『TSUNAMI』という作品とあわせてパニック小説三部作があり、本書はその三冊目だそうです。

東京の荒川領域は、「街は川の流れよりも低い位置に広がってい」て、堤防が決壊すればひとたまりもなく壊滅するだろう海抜ゼロメートル地帯である。静岡県牧之原の「日本防災研究センター」に出向している東都大学理工学部地球物理学科の講師・玉城孝彦は気象を専門とし、スーパーコンピュータを使っての台風の発生メカニズム等の研究をしているが、そのシミュレーションは超巨大台風の襲来を描き出した。数日後、中心気圧が820ヘクトパスカルを下回り、最大瞬間風速は80メートルを超えるという超巨大台風が首都東京に襲いかかる。

エンターテインメント小説としては一級の面白さを持った小説です。台風が次第に巨大化していく様を描く前半は次第に不気味さが広がっていきます。20年ほど前にあの19号台風の直撃を受けた身としては、いやでもその時のことを思い出してしまいました。

後半は実際に超巨大台風に直面した時の行政の動きを描きつつ、主人公家族のありようを追い掛けています。

本書はパニック小説です。決してシミュレーション小説とは言えないと思います。危機に際しての行政の対応を追い掛けてはあるのですが、そこに重点があるのではなく、あくまで主人公やその妻、子らの動きがメインです。

台風の脅威を背景に、主人公家族の戸惑いを中心に人間の自然の脅威に対する対応を描いていて、パニック小説としての面白さが十二分に展開されています。国や東京都という行政の活動の描写が二次的であるのが功を奏していると感じました。

勿論、小説の宿命として、特に台風の規模などはデフォルメされている部分もあるでしょう。しかし、現実に福島原発での惨事を経験している現在では、その誇張も決して誇張とは思えないところが怖いです。自然の前では「何が起こるか分からない」という主人公の言葉が重く感じられます。

初めてこの作者の作品を読んだ、と思っていたら、あの映画化された『ミッドナイト・イーグル』の作者でした。まだ、原作本は未読ですが、本書を読む限りは変に専門的な言葉をちりばめるでもなく、読み易い文章で、一気に最後まで読んでしまいました。他の作品も読んでみたいと思わされる作家さんでした。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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