東野 圭吾 疾風ロンド


東野圭吾の多くの貌の中のコミカルな味付けのある側面が出た、宝探し的側面のあるサスペンス色を持った長編娯楽小説です。

生物兵器を盗み出し、テディベアのぬいぐるみを目印にスキー場のそばに埋め、三億円を要求した犯人は、そのまま交通事故で死んだ。上司から探索を命じられた栗林和幸は息子の秀人を手伝いとして、犯人が生物兵器を埋めたと思われるスキー場に向かう。

東野圭吾と言えば社会性に満ちたミステリーこそが醍醐味とも思えますが、その多彩な才能は多くの分野の作品を発表しています。勿論コミカルな作品も少なからず書かれており、本作も肩の力の入らない、コミカルな側面を持ったサスペンス娯楽作品と言えるのではないでしょうか。

そもそも、盗み出した生物兵器をスキー場の近くの林の中に埋めるという行為自体がシリアスな設定からは遠い設定ですし、生物兵器を盗み出した犯人自体がいなくなるということも意表をついています。

また、当初の探偵役と思われた栗林和幸もとある研究所の研究員であり、何年もスキーをしたことの無い中年のサラリーマンなのです。そこで、中年の男の先生役として中学生の息子が登場し、スキー場で知り合った地元の中学生の女の子に淡い恋心を抱き、その行方も気になります。

実際の探偵的な立場にはスキー場のパトロール隊員である根津昇平という男と、その彩りとして昇平の幼馴染である瀬利千晶とがいて、スキー場狭しと飛び回ります。

息子の秀人が走り回る点では青春小説的な雰囲気をも持ちつつ、監視員の男が探索する点ではサスペンス小説の趣きをも持っていると言えるでしょう。端的に言えば、若干焦点がぼけているのです。

とはいえ、宝探しとしての側面ではコミカルな設定が生かされ、サスペンスの味付けも為された贅沢な物語と言えないこともないのでしょう。いや、そこまで言うのは言いすぎでしょうか。

東野圭吾の描く人間ドラマを期待する人には期待外れとしか言えない作品です。そうではなく、難しいことは考えずに面白い小説を期待する人には向いていると思われます。スキー場を舞台にした娯楽作品なのです。単純に楽しめば良いのです。

東野 圭吾 夢幻花


いつもの東野圭吾の物語を期待していたら、少しだけ自分の思惑とは異なる物語でした。

秋山梨乃の祖父の秋山周治は独り暮らしをしていたが、ある日何者かに殺されてしまう。梨乃は庭から消えた黄色い花のことが気にかかり、預かっていた黄色い花の写真をブログにアップするが、ブログを見て近づいてきたのは、警察庁に勤務する蒲生要介だった。要介の弟の蒼太は梨乃と知り合い、ともに事件の真相解明に向けて動き出すが、西荻窪署の刑事である早瀬も、個人的な事情から事件を追うのだった。

主人公は蒲生蒼太であり、パートナーとして秋山梨乃ということになるのでしょう。この二人が探偵役として秋山周治の殺害事件の真相を探り当てようとするのです。それに、蒼太の兄蒲生要介や、秋山老人とは昔息子の件で縁のあった早瀬亮介刑事が絡んで真相解明の手伝いをします。

東野圭吾の物語の面白さは、社会性のあるストーリーにあり、またそのストーリーに仕組まれた仕掛けの面白さにあると思っています。そしてその仕掛けや伏線の回収の仕方もまたうまいのです。つまりは東野作品の面白さは作品全体を通した、二重、三重の仕掛けの巧みさにあると思っているのです。

ところが、本作品ではその仕掛けが今一つピンときません。「変化朝顔」という道具が、本作品の大きな仕掛けの核になっているのですが、それがうまく機能していない気がします。

物語としては面白いのです。数十年前に起きた殺人事件。そして蒼太の初恋、梨乃の従兄の尚人の自殺などの事件が起き、梨乃の祖父である秋山周治の殺害へと続きます。これらの無関係の事柄が最終的には一つのことへと収斂していく手際はいつものことながらにうまいものだと思います。でも、例えば『新参者』や、先日読んだ『ナミヤ雑貨店の奇蹟』には及ばない作品だと思うのです。

本作品は、東野圭吾の物語のレベルとすれば、その作品群での位置は上位には来ないということなのです。勿論これは個人的感想であることは言うまでもなく、実際本書を最高傑作に近い、と評価する人もいるようです。

東野 圭吾 ナミヤ雑貨店の奇蹟


やはり東野圭吾という作家さんはうまい、としみじみ思わされた一冊でした。この作品は第7回中央公論文芸賞を受賞しています。

東京から車で二時間ほどの場所に位置する町の一角にある雑貨店は、どんな悩みにも応えてくれることで有名だった。ある日、コソ泥を働いてきた若者らが、もうだれも住んでいないこの雑貨店に逃げ込んできた。ところが、そこに一通の封書が舞い込む。誰かが悩み相談の封書を投げ込んできたのだ。若者らは、この封書を無視することもできず、返事を書くことにした。

この作品は推理小説ではありません。言ってみればほのぼの系のファンタジー小説というべきでしょうか。

私が読んだ東野圭吾の作品の中でファンタジー系の小説と言えば『パラドックス13』をまず思い出します。『トキオ』もファンタジーといっていいでしょう。私が読んでいないファンタジー系の作品としては『虹を操る少年』や『パラレルワールド・ラブストーリー』が挙げられているようです。

一応連作の短編集という構成なのでしょうが、これだけ各話が関連してくると一つの長編として捉えるべきとも思えます。それほどにそれぞれの物語が他の物語の伏線としても機能していて、最終的に全体として一つの作品になっているのです。いや、本書の成り立ちをあらためて考えると、やはり一冊の長編と言うべき気がしてきました。

あまり書くとネタバレになるので書けませんが、「ナミヤ雑貨店」を中心として様々な人たちの生き方が時代を越えて交錯し、互いに助け、助けられして影響を与えあっているのです。私たちの人生もそうで、今のあなたのその行為は他の人に深く影響を与えるかもしれないよ、人間としてのお互いの存在は互いに深くかかわりあっているのだよと言っているようです。

この物語は推理小説ではありませんが、例えばコソ泥を働いてきた若者らや「ナミヤ雑貨店」に届く手紙を書いた人の素性、その手紙を出した人にまつわる秘密、悩みに答え続ける「ナミヤ雑貨店」の店主の最後の願いの意味など、次々に沸き起こる謎を丁寧に説き起こしながら、物語の終わりに向かいつつも張られていた伏線はきれいにかたずけられていきます。

この物語は、純粋に人間を描いた心温まるヒューマンスートリーとしても面白い物語として仕上がったと思えます。それが、興味をふくらませられる謎絡みでの物語に仕上げられていいて、読み手の興味は更に増すのです。

それにしても、何の変哲もない一軒家を舞台に、「手紙」という道具立て一つで、読み手の心に静かに語りかけてくる物語を紡ぎだすのですから、この作者のストーリーテラーとしての力は、あらためて言うまでもないのですが、うまいものだと感心させられます。

東野 圭吾 真夏の方程式

真夏の方程式 (文春文庫)真夏の方程式 (文春文庫)
(2013/05/10)
東野 圭吾

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やはり、さすが東野圭吾という作品でした。この作家さんにたまに見られる少々強引な設定という感じもあったけど、でも、やはりこの人の作品は一級の面白さがあります。ガリレオシリーズ第6弾です。

海の美しい玻璃ヶ浦での開発の話が持ち上がった。学者としての意見を求められ現場に参加する湯川だったが、行きの列車で偶然一緒になった恭平少年と同じ宿に泊まることにした。ところが、翌日同じ宿に泊まり合わせた宿泊客が死体で見つかった。事故として片付けられようとした事件だったが、亡くなった人物が元警官であることが判明し、身元確認のために来る夫人に同行してきた警視庁の管理官はそこに事件性を見出すのだった。

恭平と湯川が泊まったこの宿は、恭平の伯母一家の経営する旅館で、玻璃ヶ浦自体がさびれていくのに伴い老朽化している旅館でした。その旅館で、恭平少年に湯川が物理学の面白さ、学問の面白さを少しずつ説いていき、恭平が、わずかずつ湯川に心を開いて行く過程が描写されています。この二人の関係が謎解きとは異なる本書のもう一つの見どころになっていて、事件の背景のせつなさに一つの救いを与えているようです。

このシリーズにしては珍しく湯川の方から事件の背景の調査を依頼します。その折に何時ものことながら草薙刑事との掛け合いもあるのですが、今回は草薙の方からの捜査依頼ではないので、この二人の会話も草薙の報告という形で終始します。

何となくこのシリーズの感じがこれまでと異なるのは、やはり、本作品が恭平少年を軸に据えた描写になっているからのようです。結論にしても、恭平少年の存在があればこそ、としか考えられず、通常であれば違った結論になるのではないかと思われます。

この作家の作品はその殆どを読んでいるのですが、いかにも近年の作品らしく、人間ドラマを中心に据えた読み応えのある作品に仕上がっています。

結論のあり方に関しては異論も少なからずあるようですが、小説としての面白さはさすがのものです。いつものことながら、それなりの水準の作品を発表し続けるその力量にはただ脱帽するばかりです。

東野 圭吾 マスカレード・ホテル

マスカレード・ホテルマスカレード・ホテル
(2011/09/09)
東野 圭吾

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マスカレード・ホテル 集英社 待望の新ヒーロー誕生! 極上の長編ミステリ 都内で起きた不可解な連続殺人事件。次の犯行現場は、超一流ホテル・コルテシア東京らしい。殺人を阻止するため、警察は潜入捜査を開始し・・・。1行たりとも読み飛ばせない、東野ミステリの最高峰。 (AMAZON内容紹介)

やはり東野圭吾の作品は読み応えがある。紹介にあるような「東野ミステリの最高峰」と言えるかどうかは疑問があるが、それなりに面白かったのは間違いない。

ただ、この作家の作品にしては少々期待外れの感もあった。

この作家の近年の作風からすると、本来ならばもう少し人間が緻密に描かれているのではないか。この作品にはその人間描写が薄く、ひと昔前の本格推理小説の謎解きのための謎解き、に近い印象がある。

本項も仕事中にメモとして書いていたもの。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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