秋山 香乃 士道の値ー伊庭八郎幕末異聞(2)


幕末の剣客の一人として知る人ぞ知る伊庭八郎を主人公とした長編時代小説の第二作目です。

江戸の町を震撼させる連続辻斬り事件が起きた。下手人はその太刀筋から心形刀流の遣い手と思われる。伊庭道場の若き天才剣士・伊庭八郎は事件の探索に乗り出した。そんな折、二年前に吉原の禿だった娘と再会する。美しく成長したサダに八郎の心は激しく揺れる。気鋭の女性作家の書き下ろしシリーズ第二弾。(「BOOK」データベースより)

「伊庭八郎」は、「幕末江戸四大道場」の一つである「練武館」の長男として生まれ、「伊庭の小天狗」との異名も取るほどの腕前であった人物です。幕末に作られた講武所では教授方にもなり、将軍上洛の折には護衛のために共に上洛しています。鳥羽伏見の戦いの敗走の後、箱根での戦いの際の負傷で左前腕から先を自ら落とし、隻腕の剣士と呼ばれるようになりました。その後北海道へと渡り元新選組の土方らと共に闘いましたが、被弾し亡くなりました。

この八郎の十五歳のときの話が第一巻『未熟者―伊庭八郎幕末異聞』で、本書はそれに続く十七歳の頃の八郎を主人公とした第二作目です。二作目というのは、図書館で、ちょうど目の前に著者が秋山香乃で、伊庭八郎が主人公の作品だということでそのまま借りたためです。

本書の第一印象としては、個性を感じられないということでした。前に読んだこの作者による『新選組藤堂平助』という作品は、BL的雰囲気は持っているものの、藤堂平助目線という新たな視点の新選組物語で歴史小説としては自然でしたが、やはり強烈な個性は無かったと思います。

本書も同様なのです。そして、主人公が伊庭八郎である必然性もあまり感じられませんでした。厳しく言うと、この物語は可もなく不可もないのです。私の好みには合致しない物語でした。主人公が新しい設定であるためにかなりの期待を持ったのですが、それがいけなかったのかもしれません。

ただ、本書はシリーズの第二巻目であり、登場人物の紹介など、人物の性格付けなどは第一巻で既に終えているはずなのです。ですから、順番に読んでいれば八郎の人物像も多分違っていて、物語への感情移入の仕方もかなり違っていたのではないかという気はします。

とくに本書は物語の背景に八郎を取り巻く恋模様を配してあり、八郎の義妹である礼子や、前巻で既に出会っているらしく八郎にほのかに恋心を抱いているのであろう登美などの存在に結構重きを置いてあることなど考えると、読んだ順番が異なるというのは致命的だったかもしれないのです。

一度はこの作家の作品はもう読まなくてもいい、などとも思い掛けましたが、やはり、少なくとも第一巻は読んでみるべきかとも思いなおしています。

秋山 香乃 新選組藤堂平助


新選組関連の小説等をまとめたサイト「新選組の本を読む ~誠の栞~」に、藤堂平助を描いた本と紹介してあったので読んでみました。

新選組の話なのでストーリーそのものは特別な違いがあるわけではありません。しかし、当たり前ですが人間関係が異なります。

本書で藤堂平助という男をあらためて見直すと、この男について何も知らなかったことに気づきます。知っているのは、新選組の四天王と呼ばれるほどの剣の使い手であること、伊東甲子太郎についていき油小路で殺されたこと、くらいでしょうか。魁(さきがけ)先生と呼ばれていたこと、事実津藩主・藤堂和泉守の落胤という話もあったこと、浪士組結成時に最年少の20才だったこと、等々色々関連本を読んだ筈なのに知りませんでした。

本書の一番の特色は、このサイトの管理人である東屋梢風さんも書かれていますが、藤堂平助と土方歳三との関係が、まさに「一種のBL小説とも解釈できそうな」表現になっていることでしょう。直接的な表現があるわけではないのですが、藤堂平助の心の動きが女性的なのです。平助は土方に助けられたと言えるその出会いから、土方に親しみを覚え、ついには京にまでついて行きます。一方で、土方の冷たさに何か裏切られたような思いを抱く平助もいます。

例えば、本書の始めの方で、新しい新選組の隊規を恐れて逃亡をはかった隊士を斬首した土方に対し、「非情な土方に藤堂の胸がざわめく。」「背筋が寒くなる思いだが、今なおあの男に魅せられる。」と言わせています。この一文だけでは分かりにくいですが、このような藤堂の心の揺らぎが、随所で繰り返されます。反発を覚えながらも離れられない心の揺れは、男のそれではなく、男に惚れた女の心の動きと考えれば納得できるのです。

本書も後半になると、確かにそうした気配は薄くなり、時代背景も緻密に抑えられていて歴史小説の醍醐味を味わうことができます。しかし、やはり藤堂平助の心の迷いは続いていて、そしてやはりその迷いは女性的なのです。

本書を普通に歴史小説として見るとき、流れが自然であり物語としての違和感はあまり感じません。山南敬助の脱退事件もこの作者なりの歴史的な事実をふまえた解釈が為されています。更には、藤堂平助の一大転機となる、伊東甲子太郎の高台寺党への参画の理由も自然に描かれています。前記サイトの管理人東屋梢風氏の「義理人情の世界」という言葉には、つい「うまい」と思ってしまいました。

ただ、違和感を感じないとは言っても、それは全体的な流れのことであり、個別の描写などではやはりついていけない個所も多々あります。具体的には、まずは上記のBL的な展開です。やはりこの匂いは好みではありません。他に細かいところ挙げてみれば、「刀を鞘から抜き放ち、直に抱いて寝る」ことなど出来るのかと思ってしまうのです。

この作家の他の作品も本書ような感じであれば、それは私の好みではありません。でも、このBL的な気配さえなければ、十二分に面白い作品だと思います。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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