長岡 弘樹 教場0: 刑事指導官・風間公親




あの鬼教官が、殺人現場に臨場!

第一話 仮面の軌跡
日中弓は、借金の肩代わりに芦沢健太郎と交際を続けてきた。大企業の御曹司から見初められ別れを告げるが、芦沢に二人の秘密を暴露すると言われる。
第二話 三枚の画廊の絵
画廊を営む向坂善紀は四年前に離婚し、息子匠吾の親権を手放した。高校二年生の匠吾には、抜群の芸術的センスがある。本人も芸大進学を希望しているが、その夢を阻む者が現れた。
第三話 ブロンズの墓穴
佐柄亜津佐の息子である小学三年生の研人は、学校でいじめに遭い、登校拒否になってしまった。だが担任の諸田伸枝は、いじめの存在を認めない。面会を拒否する諸田に、佐柄は業を煮やしていた。
第四話 第四の終章
派遣社員の佐久田肇は、隣室に住む女優筧麻由佳の美しさに惹かれていた。その佐久田のもとへ、麻由佳が助けを求めてやってくる。彼女の部屋にで俳優の元木伊知朗が、自殺しようとしているというのだ。
第五話 指輪のレクイエム
自宅でデザイン事務所を営む仁谷継秀は、認知症の症状が進む妻・清香の介護に疲れ果てていた。仁谷は五十歳、清香は七十歳。こんな日が来ることを覚悟はしていたが、予想よりも早かった。
第六話 毒のある骸
国立S大学の法医学教授である椎垣久仁臣は、服毒自殺した遺体を司法解剖する際、事故を起こし、助教の宇部祥宏に大けがを負わせてしまった。事が公になれば、自らの昇進が流れてしまう。
(「内容紹介」より)



教場』で一躍人気ものとなった鬼教官・風間公親の、刑事としての現場時代を描いた全六篇の短編小説集です。

各話の内容は上記「内容紹介」に譲りますが、これまでの『教場』『教場2』に比べると、その面白さは半減したように思えます。

物語は、T県警の各署にいる経験三か月の刑事が定期的に本部へ派遣され、風間公親という指導官の下で三か月間みっちりと教えを受ける、風間道場という刑事育成システムに送り込まれた新米刑事の話です。

これまでの教場が警察学校での話であって、風間公親がそこでの教官であったように、本書の場合は現場の刑事の話ではあっても、これまで同様に風間刑事の指導の様子が語られているのです。

ただ、本書の場合、閉ざされた社会内部での話ではなく、警察現場での話であり、風間刑事の指導も学生に対するそれではなく、実際の事件に即した刑事としての着眼点なり、考え方についての指導であり、その点ではかなり異なる内容の話となっています。

目星の付いている犯人の犯行を如何に暴いていくかという、「誰が」ではなく「如何にして」若しくは「何故」といった観点からの指導の物語であり、新米刑事の着眼点を、落第、つまりは駐在所勤務からのやり直しという脅しともとれる言動で叱咤し、犯人へとつながる道筋を見つけさせるのです。

その過程の描写で犯人の側からの視点がまずありますので、犯人が何故そうした犯行に及んだのかという動機の描写がまずあり、犯人のトリックなり、アリバイ工作なりを覆し、犯罪を暴きたてることになるのですが、ここで私は、犯人側のやむを得ない事柄の結果犯された犯罪について、犯人に対しての言及が何もないところに違和感を感じたようです。

これまでのこの著者の各作品では、登場人物の心象の描写があり、起きた事件の事後処理なり、結末報告なりのフォローがあったと思うのですが、本書の場合は犯人の側の後始末はありません。

トリックにしても、どこか現実感を書いた犯人側の設定、そして描写であるためか、これまでのような切れのよさのある伏線の回収は感じられませんでした。

もしかしたら、風間シリーズに対する私の期待感がそう感じさせたのかもしれません。

長岡 弘樹 白衣の噓


この作家では初の医療の分野を舞台にしたミステリーの短編小説集です。
「最後の良薬」
職員わずか四十人の、専用のホスピス病棟もない個人病院に、進行性胃がんのために緩和ケアを受けるしかない女性患者が転院してきた。副島真治は何故かこの患者を担当させられるのだった。
「涙の成分比」
バレーボールの日本代表の選手である彩夏は、姉の多佳子を乗せて運転しているときにトンネルの崩落事故に遭い、足をはさまれてしまう。
「小医は病を医し」
T町役場入庁六年目の角谷は、心筋梗塞で入院することになった。ある日、担当医の指示で移った二人部屋には喬木という盗犯係刑事がいるのだった。
「ステップ・バイ・ステップ」
曽根川共済病院の医師上郷仁志は、外科部長の西本直守から、無断欠勤が続く研修医の様子を見て報告するようにといわれ、うつの兆候が見られるその研修医に脱感作療法を命じる。
「彼岸の坂道」
S総合病院の救命救急センターを率いる、ミスが皆無という津嘉山の退職が迫り、その後を継ぐのは、友瀬逸朗か、それとも生原なのか。そんなとき、津嘉山が救命センターに運ばれてきた。
「小さな約束」
N署地域課に勤務する浅丘秀通の姉の美鈴は、刑事課勤務の末に腎臓を悪くして入信することになった。担当の貞森慈明医師によれば腎移植が必要だというのだった。

これまでのこの作者の作品である『傍聞き』や『赤い刻印』などと同様に、緻密な計算の上に構築され、読者の想像の裏を行くように描かれている短編集でした。

どの物語も特定の個人の視点で語られています。その語り手の知らないところで起きている事柄が、物語の方向に影響を与え、読者の思いもかけない結末へと導いてくれます。

そして、本書では、他のミステリー作品のような事件はおきません。第一話の「最後の良薬」にしても、副島真治という医者に、自分には分からない理由で特定の患者の担当にさせられ、後にその理由が判明するのですが、その理由が、貼られていた伏線の回収の過程で明らかになっていきます。

こうした意外性こそが、特に短編のミステリーの醍醐味と言ってもいいと思いますが、長岡弘樹という作家は、そこのひねりが上手いと思うのです。

個人的には、多分オチ、結末を最初に考えられ、その結末に向けての人間ドラマを構築されていると思うのですが、そこの人間ドラマに若干の強引さ、を感じないでもありません。

しかし、そうした強引さを差し引いても、読み終えた時の裏切られ感といいますか、意外性が心地よいのです。

人間ドラマが展開しやすい医療の分野で長岡弘樹という作家の上手さが光った作品集だと思います。

作者自身、「医療にはネタがたくさんありそう」と思っていたそうで、もしかしたら、本書以外にも医療ものの作品を書かれるのかもしれません。その時を楽しみに待ちたいと思います。

長岡 弘樹 赤い刻印


傍聞き」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞した長岡弘樹の短編集です。惹句には「長岡ミステリー史上、最も巧緻な伏線と仕掛け」とありました。しかし、私の読み方に問題あるのかもしれませんが、面白く読みはしたのですが、そこまで言うほどとは思えませんでした。


「赤い刻印」
「傍聞き」に登場した羽角啓子、菜月親子が登場します。啓子から思いもかけず、お祖母ちゃんは生きている、と聞かされた菜月は、祖母チサのいる老人ホームに行くが、冷たくありらわれてしまう。しかし、時を経るにつれ心が通い、思いもかけない事実が浮かび上がってくる。

「秘薬」
K女子大医学生の水原千尋は、記憶障害を患い、記憶が一日しかもたなくなってしまった。千尋の担当である教授の久我良純は、千尋に一日の記録としての日記をつけるように言う。だが、いつの間にかバインダー式の日記の頁が入れ替わっていた。

「サンクスレター」
息子が自殺した原因を調べるよう要求する父親葛城克典は、授業中の教室に押し入り、直接子供たちを問い詰めようとするのだった。担任である城戸万友美は、葛城に対しある言葉を言う。

「手に手を」
認知症の母鈴子と、精神に障害のある弟の久登の面倒を見て婚期を逃してしまった和佳は、歩道橋で突然誰かに触られたり、風呂場の手すりが外れていたりと、立て続けに細かな、しかし不思議な事件に遭うのだった。

私には、この四編の物語の中では「赤い刻印」が一番読みやすく、また分かりやすい物語でした。しかし、ネットで読んだ書評を見ると「サンクスレター」の完成度を高く評価してあります。

しかしながら、「サンクスレター」は、確かに仕掛けがうまいとは思うのですが、教室内での担任教師万友美と葛城とのやり取りに現実感を感じられませんでした。教室の中でパソコンで侵入者である葛城にメールを打つという行為はいかにも現実感がありません。普通はそれだけの余裕があれば外部に助けを求めると思えるのです。その点を除けば意外性や落ち着きどころなどは上手いと認めざるを得ないとは思います。

どの物語も、細かなところまで気をつけて読んでいないと伏線を伏線と気付かないほどに緻密に組み立てられています。それでいて、親子や家族、そして師弟間など、情感豊かな人間模様を描き出すのです。そうした仕掛けを見ると「最も巧緻な伏線と仕掛け」という惹句の文句も、売らんがための大げさな言葉とまでは言えないと思う作品集ではありました。

長岡 弘樹 教場 2


教場』に続き風間公親教官を配した、警察学校を舞台にした連作のミステリー短編集です。「風間公親教官を配した」というよりは、風間公親教官ありきの物語ですので、教官風間公親シリーズとも言えそうな物語です。

●第一話 創傷(そうしょう)
初任科第百期短期課程の桐沢篤は、風間教場に編入された不運を呪っていた。医師から警察官に転職した桐沢は、ゴールデンウイーク明けに最初の洗礼を受ける。
●第二話 心眼
風間教場では、備品の盗難が相次いでいた。盗まれたのは、PCのマウス、ファーストミット、マレット(木琴を叩く枹)。単独では使い道のないものばかりだ。
●第三話 罰則
津木田卓は、プールでの救助訓練が嫌でたまらなかった。教官の貞方は屈強な体格のスパルタ教師で、特に潜水の練習はきつい。本気で殺されると思ってしまうほどだ。
●第四話 敬慕
菱沼羽津希は、自分のことを初任科第百期短期課程のなかでも特別な存在だと思っている。広告塔として白羽の矢が立つのは、容姿に秀でている自分なのだ。
●第五話 机上
仁志川鴻は、将来の配属先として刑事課強行犯係を強く希望している。元刑事だという教官の風間には、殺人捜査の模擬実習を提案しているところだ。
●第六話 奉職
警察学校時代の成績は、昇進や昇級、人事異動等ことあるごとに参照される。美浦亮真は、同期で親友の桐沢篤が総代候補と目されるなか、大きな試練に直面していた。(「内容紹介」より)

前作『教場』がかなりの面白さを持っていたため、本作もそれなりの期待をして読み始めました。結果は、面白かった、の一言です。個人的には前作よりも物語が練れている感じはしました。特に、学生同士や教官の為す暴力が全くと言っていほどに影をひそめており、よりリアリティを感じもしました。

著者のインタビューを読むと、前作のときは警察学校の「取材が叶わず「数少ない文献で知識を仕入れて」描いた警察学校」だったらしく、「実際に取材すると、いまの警察学校では暴力はご法度。その話が頭にあったので、バイオレンスなシーンは前作と比べたら抑えられているのでは」と述べられています。(「ほんのひきだし インタビュー 参照」)

表題作が第61回日本推理作家協会短篇賞を受賞された、この作者の短編集『傍聞き』を読んで思ったことでもあるのですが、細かな仕掛けがうまい作家さんですね。著者自身「アイデア小説」が好きだととのことで、資料を良く読みこまれた上で「短編は余計なものをそぎ落として、アイデアを際立たせる形式」として執筆されているそうです。

傍聞き』や前作の『教場』そして本書それぞれにアイデアが十分に生かされていて、風間教官のこの言葉はここに結びつくのか、など、読んでいて「うまい!」と思わされる個所が随所にあるのです。

意外性、を持つ物語。その最たるものは最後の「奉職」でしょうか。この物語の最後に語られる風間教官の一言を書きたいがためにこの物語はあったと思われるほどでした。

どうも続編がありそうです。楽しみに待つ作品がまた一つ増えました。

長岡 弘樹 傍聞き


秀逸なアイデアがぎっしりと詰まっている、全四編の短編推理小説集です。

「迷走」

救急隊の隊長である室伏光雄は、娘加奈が交通事故で車いす生活になっていた。そして今、室伏の救急車はその事故の時の担当検事を搬送しようとしていたが、救急病院が近くなったところで何故か病院の周りを迷走させるのだった。

レビューを見ると本作のトリックには疑問を感じている人もいるようです。しかしながら、私はその意見には同意できず、良く練られている物語だとの印象しか受けませんでした。室伏が理由も告げずに救急車を迷走させた訳も、それなりに説明をつけてあるし、作者のテクニックのうまさを感じるばかりだったのです。

「899」

消防署員の諸上将吾が急行した現場の火災は、諸上が想いを寄せる女性の初美が住む家にも延焼していた。ところが初美の生後4カ月の娘がまだ家の中に居るという。諸上は指示された部屋を探すが赤ちゃんは見つからない。しかし、諸上が他の部屋を探す間にその部屋から同僚が見つけ救い出すのだった。

この作品に関しては、トリック自体に無理がありはしないか、トリックの活かし方にも強引さは無いかと、若干の疑問を感じないではありませんでした。でも、若干の疑問を感じながらもいつの間にか惹きこまれてしまったのも事実です。本書中の他の物語に比すと若干無理を感じましたが、それでもなお面白いと言える作品でした。

「傍聞き」

刑事である羽角啓子の自宅裏手に住む老女が居空き窃盗にあい、横崎という窃盗常習犯が逮捕される。しかし、横崎は罪を認めないどころか真犯人を知っていると言い出し、あらためて啓子に告げるというのだった。

日本推理作家協会短篇賞を受賞した作品です。「傍聞き(かたえぎき)」とは「漏れ聞き効果」のことであり、「どうしても信じさせたい情報は、別の人に喋って、それを聞かせるのがコツ。」だそうです。このタイトル自体がトリックのヒントになっているのですが、どれがどのように仕掛けられてるのか、実に読み応えがあります。更には二重の仕掛けという驚きもありました。

ただ、現実的に考えると普通の人間がそこまでの仕掛けを考えることができるものか、などの疑問点はあります。ではあるのですが、物語としての瑕疵になっているとまでは思えず、ただただトリックの上手さ、見事さに感じ入ってしまいました。

「迷い箱」

ものを捨てるためのひとつのテクニックの一つとして、捨てると決断できないものを一時的に入れておく箱のことを「迷い箱」と言います。一旦その箱に入れておいて一日に少なくとも一度その箱の中身を確認する。そうすると処分する思い切りがつくというのです。この物語は、「刑務所を出て行き場のない人を一時的に預かる更生保護施設を舞台にした作品」で、過失で女児を殺してしまった碓井章由という、自らの心の整理のつかない元受刑者を見据える施設長の設楽結子の目線で語られる物語です。

人間心理に深く踏み込んだ作品です。作者自身も言っているように、本短編集のトリック自体が実に心理的なトリックではあるのです。中でも本作品のトリックは人の心を深く考察しないと描けない作品でしょう。一歩の踏み出し、それがなかなかに難しく、踏ん切りをつけるそのための仕掛けであります。


総じて本短編集は良くできた作品集でした。トリック重視の物語をここまで面白く読んだのは久しぶりのような気がします。本作品集がこれまで読んだ二冊よりも早く書かれていたのには驚きましたが、これまでの二冊も根底には細かな仕掛けがあり、その仕掛けの上に物語が成立していた作品であることを思うと、それも納得できる話でした。この作者もしばらく追いかけてみたい作家の一人ですね。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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