FC2ブログ

あさの あつこ 薫風ただなか




あさのあつこの描く青春小説であり、その時代小説版として青春時代小説と言えるでしょう。


「薫風」とは、「初夏、新緑の間を吹いてくる快い風。」のことを言うそうです( goo国語辞書 : 参照 )。



鳥羽新吾は、かつては「藩学」に通っていたのですが、石久藩中老の子息である瀬島孝之進の取り巻きに袋だたきにされ、それを誰もとがめない風潮に嫌気がさし、いまの薫風館へと通うようになっていました。

ある日、妾のもとに居続けている父兵馬之助が久しぶりに家に帰ってきたかと思うと、薫風館を探るようにと新吾に申しつけます。石久藩藩主の沖永山城守久勝を無きものにしようとする企みがあり、薫風館のものは皆庭田一派だというのです。

ある日、町中で薫風館でできた親友である弘太郎や栄太と談笑していると、瀬島やその取り巻きと会ってしまいます。その折に、弘太郎や栄太にやり込められた取り巻きらでしたが、その後、栄太が何者かに打ちのめされ、死線をさまようことになってしまうのでした。



本書はまさに青春小説でした。プロローグで、現代の薫風高校野球部の試合の場面から幕を開けているので、一瞬、装丁とは異なり現代小説なのかと思ってしまいましたが、本編が始まると、高校野球に打ち込む若人の姿がそのまま時を越えた若者の姿として物語が始まりました。

藩の上士の子らが通う「藩学」で今でいういじめにあい、より自由な校風の薫風館に通い始め、素晴らしき友を得て明るい日々と送っている主人公の新吾です。

その新吾の現在の鬱屈は、上士という身分に強いこだわりを持つ母親の存在でした。下士の子らも通う薫風館に、新吾が通うこと自体が許せないことなのです。

新吾は「身分」や「家柄」というものに重要な価値を見る母親の嫌味に日々付き合わねばならないことに嫌気がさしていたのです。

本書は、そうした新吾の社会を見る目の変化を如実に表しています。当初は「家柄」のみしか眼にはいらないと思っていた母親の意外な側面を見出し、同様に父親の有する地位を自らの実力と勘違いしているその息子の彼なりの苦悩を知り、信頼していた人の意外な一面を見たりと、元服前の少年の成長の様子が封建的な時代を背景に語られています。

その様子自体も物語としても面白く読み進めていたのですが、更に少年の視野が広がり、今まで見えていなかった事柄を知るにつけ意外な真実が見えてくるさまなど、ミステリーとしても面白い物語でした。

この著者の『弥勒シリーズ』で見せた、深い闇を抱えた登場人物のしつこいばかりの心象描写も本書ではあまり見られず、青春小説としての側面が強く前面に出ています。

シリーズ作品の多いこの作者の新しいシリーズものの開幕かと思いきや本作だけの単発での作品でしたが、時代ものの青春小説として面白く読めた作品でした。

青春小説としてかなり良くできた一冊ではないでしょうか。

あさの あつこ 花を呑む


「弥勒」シリーズの第七弾の長編小説です。

海辺大工町の油問屋東海屋五平が尋常ではない死にかたで死んだ。体には針の穴一つ無く、ただ深紅の牡丹がいくつも口に突っ込まれており、その場にいた女中は「恨みを晴らしてやった」と言う幽霊を見たと言うのだ。その翌日、五平の囲い者である女も佐賀町の仕舞屋の庭の牡丹の根元で、白い襦袢を血のりで真っ赤に染めて死んでいるのが見つかったのだった。

本書は信次郎の謎解きがメインとなった、まさに捕物帳と言うべき作品になっています。その本筋に添えて、伊佐治の息子嫁であるおけいの失踪騒ぎも加わっています。その上で、このシリーズの常である、登場人物それぞれの心象描写がこれでもかと言わんばかりに続くのです。

この心象描写がすこし鼻につきだした、とはこのシリーズの前の巻の『地に巣くう』で、ブログ「第二級活字中毒者の遊読記」の焼酎太郎さんの「なんだか鬱陶しくなってきました。」という感想に若干の賛意を示した私でしたが、本書ではまさに「鬱陶しい」という印象が強くなっています。

もう少しさらりと書いても良いんではないか、と思うのです。とはいえ、捕物帳としての面白さあって、やはりうまい書き手だと、あらためて思いました。

東海屋五平の死の謎を探る信次郎と伊佐治ですが、伊佐治の家では息子嫁のおけいが二度の流産により自分を責め、自分を見失ってしまい、家を飛び出してしまいます。一方、清之介のもとにも兄の家来である伊豆小平太が五百両という大金を借りに来るのですが、その借財の理由は兄の病だと言うのです。

それらの、本書の本筋とは違う脇筋の挿話と思われた話が、終盤一つの糸につながっていくのですが、その折の信次郎の謎解きは結構読み応えがありました。

作者の言葉によると、「結末をまったく考えずに書いている」と言われています。それにしては伏線がそれぞれにきちんと回収されており、とても無計画では書けないと思うのですが、そこをこなすのが作家という職業の人たちなのでしょうか。

冒頭の事件が起きた時、風邪で寝込んでいた信次郎であり、その信次郎に風邪をうつされ、その後の探索が後手に回ってしまった伊佐治です。でありながら、捜査の王道である聞き込みを丁寧にこなしながら、関係者の言葉から次第に事件の裏を解きほぐしていく信次郎の描写は、清之介とのいつものようなやりとりもありながら、伊佐治との掛け合いがなかなかに面白く読むことができました。

加えて、伊佐治の家庭の話、それに清之介の兄との確執の行方、そして本筋とは離れたところではありますが新たに登場したキャラクタ―の存在も気になるところです。作者自身はこのキャラをどうするかはまだ決めていないということですが、多分何らかの形で絡んでくることになるのだと思っています。

再度書きますが、過剰な心象描写を少し抑えてもらって、シリーズの更なる継続を願いたいところです。

あさの あつこ 燦 7 天の刃


燦シリーズの第七弾です。

田鶴に戻った燦を待っていたのは、闇神波の襲撃であり、彼らに拉致され売られた篠音や與次の悲惨な現状だった。燦は篠音を助けるために圭樹の、そして圭樹と共にいる伊月に助力を願うのだった。

いよいよ田鶴藩での日々が始まります。しかしながらそこに待っていたのは、燦にとっては幼なじみの悲惨な現状であり、また圭樹や伊月にとっては、藩内部の権力闘争でした。

伊月の家である吉倉家では、伊月の父吉倉伊左衛門が久しぶりに返ってきます。筆頭家老として新しい藩主に目通りを済ませ、藩の未来に期待を抱きつつ久々の帰宅だったのです。

本書で既に七巻目。余すところ一巻しかありません。しかしながら、本書はやっと田鶴藩に帰ってきたところで、話はほとんど進んではいません。

なのに物語は圭樹の藩政改革、伊月のこれから、燦の周りの人たちの行く末、と決着すべきは山積みです。一巻が160~170頁前後で刊行されているこのシリーズです。二時間もかからずに読み終えてしまうほどの長さしかない中で、どのように決着をつける気でしょう。次巻を早く読みたい気にさせられました。

あさの あつこ 天を灼く


一人の未だ元服すら済んでいない少年の伊吹藤士郎と、正体のよく分からない剣士柘植左京とを主人公とする、あさのあつこの新しいシリーズです。

父は、天羽藩の不正に加担した責めを負い腹を切ることになったが、その前夜、伊吹藤士郎は牢内にいる筈の父から呼び出しを受ける。必死で駆けつけると、一振りの刀を形見として渡され、介錯をするように言われるのだった。父は何故に自刃しなければならなかったのか、父の汚名を晴らすことはできるのか。

あさのあつこの作品の一つに『燦』というシリーズがあります。文春文庫から書下ろしで刊行された全八巻の物語です。このシリーズの主人公は、田鶴藩主二男の圭寿に仕える田鶴藩筆頭家老の嫡男である吉倉伊月という少年で。加えて、伊月の双子の弟である燦が伊月を、そして圭寿を助け活躍する物語です。

本書は、一人は厳しい環境で育った剣の使い手であり、一人は育ちのいい少年剣士というコンビという点で、この「燦」というシリーズと同じような設定の物語になっています。そして同様に、いまだ頼りなさの残る籐士郎を殺人剣の使い手である左京が助け、江戸への旅、そしておそらくは江戸での籐士郎の生活を助ける物語になると思われます。

あさのあつこの物語は、登場人物の心象をしつこいほどに描写し、彼の行動の理屈を丁寧に説明するという特徴を感じます。

本書の一頁目にある「空は焼けている。それなのに、篠つく雨が降っていた。地を叩き、ざあざあと騒擾の如き音を立てる。」などという描写は他では目にしない描写です。漢字をあまり多用せずに読みやすい日本語を使うというのが、この頃の小説の一つの作法であるように思っていたのですが、あさのあつこという作家の場合、その逆を行っているようです。

そうした、いかにも日本的な心象描写のすぐあとに、主人公籐士郎の家族である姉美鶴や母茂登子、それに籐士郎の親友の風見慶吾や大鳥五馬らの快活で幸せそうな情景が描かれ、この物語は始まります。

このあと、姉や左京の出生にまつわる秘密や、藩の重鎮たいまでも絡む不正の実情などがたたみ掛けるように語られ、物語は一気に読み終えてしまいました。

この作家の『弥勒』シリーズほどではないにしろ、闇を内包する物語かと思っていましたが、どちらかというと籐士郎の成長ぶりが描かれていきそうな雰囲気も漂う開幕ぶりであり、この著者お得意の青春小説になるのかもしれません。

ちょっと主人公が若すぎるのではないかという心配はありましたが、元服前の十四歳の少年の行動とは思えない籐士郎の行いのせいもあってか、十四歳という年齢はそれほどに意識しないで読み進めることはできました。ただ、そのことを意識すると、若干出来すぎではないかという危惧はあります。

それでも、今後が期待できる新シリーズの始まりを思わせる第一巻目でした。

あさの あつこ 燦 6 花の刃


燦シリーズの第六弾です。

領民のためにも田鶴藩を立て直そうとする圭樹は、いよいよ田鶴へと帰国することになった。田鶴藩立て直しのためには、国元の田鶴藩筆頭家老である伊月の父吉倉伊左衛門と江戸藩邸にいる田鶴藩年寄の山内兵庫之助のような重鎮のみならず、伊月や燦ら若者の力をも必要だとする圭樹だった。

いよいよ圭樹の入部、帰国の運びになります。この巻は、圭樹が帰国するまでのいきさつが語られ、圭樹の国造りの思惑も明らかにされます。

加えて、前巻から少しずつ描かれていた静門院の過去がより明らかとなり、お吉との触れ合いもあって、お吉ともども、より物語に深くかかわってくるのです。

それと共に、伊月の父親の貌も見え始め、圭樹の真実をも含め、物語の真の姿が露わになりそうな巻でした。巻を重ねるごとに伝奇小説的興味が増し、物語としての面白さも倍増しているような気がします。

この作家はストーリーテラーとしてもかなりの力を持っていそうな気がしています。

プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR