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佐伯 泰英 夢三夜 新・酔いどれ小籐次(八)





新・酔いどれ小籐次シリーズの第八弾です。



文政八年(1825年)の年も明け、俊太郎は初稽古に来た創玄一郎太や田淵代五郎とともに弘福寺の道場で稽古をしており、昼過ぎに目覚めた小籐次もそこに現れ稽古をつけるのだった。

翌日はおりょうの実家である北村家へと年賀に行くことになっているが、おりょうは六歳年長の仲の悪い兄靖之丞が、小籐次や俊太郎に不快な思いをさせるのではと案じているという。実際、翌二日に北村家を辞する際に兄に出会い、研ぎ屋風情を連れてくるなといわれてしまう。

翌三日も稽古三昧の俊太郎らだったが、浅草寺への初詣の際、またまた掏摸を捕まえる俊太郎だった。



このシリーズは、シリーズを通しての主人公に敵対する大きな勢力、などという設定はありません。どちらかというと、巻ごとに小籐次に対する恨みを晴らす目的や、大名同士の功名心などの私的な闘争に巻き込まれることが多いようです。

つまりは、研ぎ屋としての小籐次の日常を日常として描きながら、小籐次の周りで起きる、細かな事件を解決していくことのほうが多いのです。

そして、そのさまが痛快小説として実に心地よく描いてあります。

小籐次の日常を描くことが小説として成立しているのであって、そこらが、同じ佐伯泰英の『吉原裏同心シリーズ』などと異なるところではないかと思われます。



本書の場合も、小籐次に敵対する相手として現れたのは小籐次の妻であるおりょうの兄という設定です。

その兄が弓の使い手であるとはいえ、まずは小金につられた浪人を差し向けるという、その強さが喧伝されている小籐次に対してあまりに無知な仕掛けをしてきます。

それでもなお、物語として成立するだけの広さがこのシリーズにはあると思われます。それだけ小籐次というキャラクターが成功しているということでしょう。

佐伯 泰英 浅き夢みし: 吉原裏同心抄(二)




吉原裏同心抄と題された、吉原裏同心新シリーズの第二弾です。



麻の願いで出かけた鎌倉の旅も終り、常の日々に戻った幹次郎たちだったが、柘榴庵では麻のための別棟の建設も順調に進んでいた。また、前巻で問題を起こした桜季が、また騒ぎを起こしそうになり、なんとか花魁への道を歩ませようとする幹次郎だった。

一方、鎌倉で襲われた「吉原五箇条遺文」に絡む一件は吉原内部から情報が洩れたと思われた。そこで、吉原での不審な出来事を調べると、江戸町にある半籬の萬亀楼の長男である増太郎が絞殺されていた。萬亀楼の当代の主は古希を過ぎた勇佐衛門であり、世話役も務めていて「吉原五箇条遺文」について知りえる立場にあったらしい。

南町奉行所定廻り同心の桑平市松に増太郎殺しの詳細を調べてもらうと、南本所番場町を縄張りにする本所の源助が、倅の暗がりの規一郎にやらせたのではないかというのだった。



加門麻の柘榴庵での別棟の建設も順調にすすみ、幹次郎、汀女との家族としての暮らしも軌道に乗り始めます。そして、幹次郎の身辺でも「吉原五箇条遺文」に絡む暗躍があり、本巻になってやっと新しいシリーズが動き始めたようです。

とは言っても、幹次郎は既に前巻での鎌倉への旅で何者かに襲われており、それは「吉原五箇条遺文」に関係した襲撃であったと思われるのですから、新シリーズの第一巻目からその布石はあったと言えます。

ともあれ、前巻での旅の物語とは異なり、まさに本シリーズの舞台である吉原の物語が展開されます。


廓の外に出た薄墨こと加門麻も新しい生活が始まったとはいえ、かつての自分の禿であった桜季はまだ何か屈託を抱えているようでもあり、吉原との繋がりは切れてはいません。

汀女も玉藻の結婚などもあって、店を切り盛りを任されている状態でもあり、やはり吉原との縁は強いものがあります。

そして幹次郎も、改めて「吉原五箇条遺文」の問題が浮かび上がり、今後も吉原の存続に力を尽くす必要がありそうです。


とはいえ、新シリーズに入る前に思っていたほどには物語の展開に変化は無いように思えた本書の流れでした。せっかくシリーズを一新したのですから、今後の思い切った展開を期待したいと思います。

佐伯 泰英 旅立ちぬ: 吉原裏同心抄




吉原裏同心抄と題された、吉原裏同心新シリーズの第一弾です。



自由の身となった薄墨太夫こと加門麻は、神守幹次郎とその妻汀女と共に、柘榴の家での暮らしが始まっていた。麻は、幼い頃に頃に母と行った覚えがある鎌倉へと行きたいと願い、三人で旅をすることになる。

ただ吉原では、吉原に四か所ある社の賽銭が何者かに盗まれるという事件が起きていた。また、かつて吉原からの足抜きを謀り、江ノ島で幹次郎らに始末された小紫ことおこうの妹で、薄墨が可愛がっていて新造になったばかりの桜季の様子がおかしい、などの問題があった。

錠前の知識を持っている人物を探しだした幹次郎は、南町奉行所定廻り同心の桑平市松の力を借りてその事件を解決し、また、桜木に聞きかじりの事実を吹き込んだ人物をも探し出しこれを解決する。

何とかこれらの事柄に始末をつけたあと、やっと鎌倉へと旅立つ三人だったが、彼らを監視する目もまたついてくるのだった。



吉原裏同心シリーズも新しいシリーズに入り、どんな物語になるのかと思っていましたが、少なくとも本書に関しては特別に変わった点はありませんでした。

ただ単に、花魁の薄墨が加門麻という本名に戻り、幹次郎と汀女との共同生活が始まった、というだけのことです。

美女二人とのひとつ屋根の下で暮らす幹次郎に対し、男のゲスな思いを抱きながら読み進めることになりますが、もちろんそうした事柄とは関係なく、幹次郎と汀女夫婦は、新たな家族である麻との新生活を始めるのです。

今回は特別な変化は見られないにしても、この後は吉原の存続に関わる「吉原五箇条遺文」なる御免状をめぐる戦いが主となり、この物語が展開していくのでしょう。

そこに、吉原の面々が幹次郎を立ててどのように戦うのか、その闘いに麻がどのようにかかわるか、など、興味は尽きません。

佐伯 泰英 大晦り 新・酔いどれ小籐次(七)




新・酔いどれ小籐次シリーズの第七弾です。

前巻で、盗まれた「らくだ」を取り戻しに行った際に落馬して腰を強打し、久慈屋夫妻とともにおりょうを連れての熱海の湯治ですっかり元気になった小藤次です。



師走のある日、魚河岸の北にある瀬戸物町で火事があり、娘が一人行方不明になっているという。小藤次がいつものように久慈屋での砥ぎ仕事を終えると、老中青山忠裕の密偵おしんが、瀬戸物町の火元で得ある飛脚問屋熊野屋太兵衛の跡地で待っている密偵の中田新八のもとへと連れていく。

彼らの話によると、この焼け跡から二人の焼死体が出ており、その二人は御庭番であって何者かに喉を断ち切られていたと告げる。そして、行方不明の娘は熊野屋の火付けを目撃し、攫われたのではないかというのだった。

そこに、何者かが近づいている気配に二人が身を隠したところ、十数人の不審者が敷地内へと入ってきた。しかし、赤目小藤次の名前を聞くと何も言わずに退却したのだった。

九十年前の八代将軍吉宗の時代に御庭番家筋十七家が定められ、うち四家が追放され、新たに別家六家が加わって今は十九家となっていることなどの、御庭番の表面上の来歴しかできない二人に、小藤次は二人が仕える老中の青山忠裕にこの事件の背後にある詳しい話を聞くのだった。



今回の小藤次の物語はかなり読み応えがあるものでした。というのも、ある飛脚屋の出火と、それに絡むであろう一人の少女の行方不明という出来事が、老中をも巻き込んだ伝奇小説的な色合いを持った作品として仕上がっているからだと思われます。

そうした展開のもと、小藤次が一人の娘の命を助けるその一点で、自らの、そして家族の命をも賭けて奔走するという、痛快時代劇の王道とも言えそうな物語展開になっているのです。

やはり、物語の筋立てがきちんと組み立てられている話は面白い、そう思わせられた物語でした。

また、今回は火付盗賊改という新たな人物が登場するのですが、今回の物語では殆ど顔見せ状態でその活躍もありませんでした。ということは、彼らが今後の小藤次の物語で敵対する組織として相応の見せ場を設けてくれるのではないか、という期待を持たせてくれます。

いまのところ佐伯泰英の描く時代小説シリーズの中では私の好みに一番合致しているシリーズです。より一層の活躍を期待したいものです。

佐伯 泰英 流鶯: 吉原裏同心(二十五)




吉原裏同心シリーズの第二十五弾です。

吉原会所に突然、「裏同心」を希望する女性が現れた。十八歳と若い「女裏同心」に戸惑う吉原裏同心の神守幹次郎と会所の面々。一方、札差の伊勢亀半右衛門が重篤な病に罹り、幹次郎は遺言を託される。遺言には、薄墨太夫にかかわる衝撃の内容が書かれていた―。薄墨太夫、幹次郎、汀女にとって大きな転機となる内容とは何か。シリーズ最大の山場が待つ第二十五弾! (「BOOK」データベースより)


冒頭には吉原の「裏同心」志願だという嶋村澄乃と名乗る娘が現れ、会所はひと騒ぎになる様子が描かれています。一方、薄墨太夫の贔屓筋である札差の伊勢亀半右衛門が危篤に陥り、幹次郎は半右衛門から重大な遺言を託されるのでした。

本書は剣客としての幹次郎が活躍する場面はありません。それでも、このシリーズでは久しぶりに物語を堪能することができました。それだけのインパクトと、人を惹きつけるストーリー性がありました。

この頃の本シリーズは若干マンネリに陥り、本来の面白さが失われつつあるように感じていました。ところが、新たな登場人物、それも剣の使い手である若い娘を裏同心見習いとして登場させ、更にはこのシリーズの重要な登場人物の一人である薄墨こと加門麻の身の上に重大な変更を加え、物語として強烈な展開としています。

中ほどに薄墨に懸想した侍との小さなエピソードをはさみつつ、札差筆頭行司である伊勢亀半右衛門の最後に立ち合い、半右衛門の息子である千太郎とも知己を得た幹次郎です。江戸の大商人とも繋がりを得、妻の汀女と共にまた新しい段階へと進むのです。

こうして、アクションメインであったこのシリーズのいつもの展開とは異なり、本書はどちらかというと吉原を舞台にした人情劇に近い話となっています。痛快時代小説としてではなく、実に小気味いい物語の流れであり、個々の活劇的な出来事としては大きなものは何もないのですが、インパクトの強い物語展開となっているのです。

次巻からはまた新しいシリーズ環境で面白い物語展開を期待できそうな本書の流れでした。
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(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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