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結城 充考 アルゴリズム・キル


独特のSFっぽい雰囲気を持った、長編の警察小説です。

組織捜査を逸脱する行動が問題視され、所轄署の警務課に異動になったクロハ。内勤中心の日々は単調だが、ようやく慣れ始めた。しかし、身元不明で傷だらけの少女が保護され、未成年の不審死が連続するなか、クロハのもとにも、存在しないはずの少年に関する、「奇妙な噂」がもたらされる。独自調査をはじめるクロハだったが、彼女は常に誰かに監視されているような気がしてならなかった―。(「BOOK」データベースより)

久しぶりに読んだクロハシリーズでした。そのためでしょうか、どうも読んでいてリズムに乗れませんでした。

それは、一つには、期間が空きすぎたため、読み手の私はこの作品の基本設定を忘れているのにも拘らず、物語は既存シリーズの情報をそのままに、殆どの説明も無く進んでいくところにあると思われます。

そして、最大の理由はクロハの心象の描写に多くのスペースが割かれすぎていて、読んでいて違和感を感じてしまうからだと思われます。それは個人の好みに帰着する問題でもあるのでしょうが、これまでのシリーズでも同じタッチで書かれていたとは思えない印象を持ってしまったのです。

以前このシリーズを読んだときはこのような印象は無く、ただSFっぽい雰囲気を持った文章であり、独特なリズムを持っている作品だとのイメージのみがあったと思います。

本書でのクロハはその能力を買われながらも、所轄での仕事を懸命にこなそうとしています。ただ、捜査本部にいる自分をどうしても考えてしまうのです。

また、周りもクロハをほっておこうとはせずに、その能力を利用しようともします。そうした折に区役所の子供支援室からの、虐待の疑いのある少年の保護の立ち合いの依頼の電話を受け、その後の無戸籍児童の問題へと繋がっていくのです。

一方、未成年の不審な死が続き、クロハの属する所轄署に捜査本部が立つことになります。捜査本部にはかかわりの無い警務課員であるクロハは、捜査に携わることもできない自分の立場のままに、戸籍を持たないであろう社会的には存在しない扱いになる子供の行方を捜し続けるのでした。

残念なことに、クロハの心象描写の冗長さに加え、ストーリーの分かりにくさも感じてしまいました。普通の警察小説とは異なる、独自の世界であるだけに、もう少し分かりやすく書いて欲しいという気持ちは、本書で初めて持ちました。

そしてこれは以前から感じてはいたことですが、バーチャルの世界を描くときに、ノートパソコンの画面という二次元の世界であるにもかかわらず、まるで3D世界の中に放り込まれたかのような描写をしてあることにまで違和感を感じてしまいました。本書では物語の筋を追いにくいということもあってか、特にそのことを感じてしまったようです。

今のままであれば、今後このシリーズが続くとしても読まなくても良いかという気になってしまいました。

結城 充考 躯体上の翼


サイバーパンク作品と言っていいのかどうか、少々判断に迷うSF小説です。どちらかというと、サイバーパンク臭を十全にまとわりつかせたアクション小説、というところでしょうか。SFに関心の無い人はまず読まないであろう作品です。

舞台となる世界は、「佐久間種苗」という会社に事実上支配されている、高度な管理社会である共和国です。そして主人公は員(エン)という名前の、「佐久間種苗」により創造された対狗防衛仕であって、同時に雇用契約を結んでいる存在です。この社会は炭素繊維躯体に覆われた地表に住む「難民」がおり、そのほかに「人狗(ひといぬ)」という存在がいるようです。これらの存在に対し、共和国は一定の期間毎に攻撃を繰り返しています。員が互聯網(ネット)の、色々な情報に接していると、cyと名乗る存在と交流を持つことになります。しかし、共和国の緑化政策は、cyのいる地域への攻撃を決定します。cyを助けたい員は、「佐久間種苗」との契約の更新を拒み、共和国の艦隊を攻撃すべく、出撃するのです。

本書はこうした設定の、また個々の言葉の意味については何の説明もありません。ですから読者が自分でイメージするしかありません。

でも、例えば「炭素繊維躯体」という言葉をみると、普通には「からだ」若しくは「構造を支える骨組」を意味します。しかし、本書を読み進めるとそうした意味とは少々異なり、どうも「樹木」をイメージする方が近い気がするのです。

このように、本書では通常の言葉の意味とは異なる使い方がされている個所があります。ということは、読者それぞれが個別に持つ印象で読み進めていくしかないのですが、この"あいまいさ"のもたらす個々人の印象こそが作者の狙いなのでしょう。

このように、言葉の明確な定義の無いままに、雰囲気だけを身にまといながら読み進めることになるので、かなり読み手を選ぶでしょう。この点で、どこか酉島伝法の『皆勤の徒』を思い出していました。しかし、そちらは有機体の質感をグロテスクなまでに前面に出していたのに対し、本書は無機質です。物語の持つ全体としての雰囲気は全く異なります。ただ、言葉の説明がないこと、作者により作り上げられた世界観の中で、人間とは異質の存在が動き回ること、が共通するのでしょうか。

本書は、一歩間違えば、近時たまに見られる、作者のひとりよがりの小説やコミックと同様の、読者不在の物語になりかねない危うさを感じます。世界観、表現する単語の説明の無さは、そうした危険性もあると思います。

本書はそこまで読者不在だとは思いませんが、語られない世界観をイメージすることに、面白さを感じない読者は少なからず居ると思うのです。常に詳しく描写した方が良いとは思いませんが、少なくとももう少し、イメージを構築する手掛かりがあればと思いました。そうであれば更に面白く読めたのにと、非常に残念に思ったのです。勿論、これは個人的な好みに帰着する問題なので、ことの善しあしを言うつもりはありません。

「員」や「cy」という登場人物の命名の仕方も含め、独特の世界観を持つ物語です。個人的には、決して嫌いではない作風ですので、更に追いかけてみたい作者です。

結城 充考 クロム・ジョウ


本書の惹句には「疾走感120%!ノンストップ・ハードボイルド・ミステリー。」という文句があります。残念ながら、少々オーバーな惹句ではありました。

ジョウは、友人である佐藤翡翠(サトウヒスイ)の頼みで、数日間の住い(隠れ家)を探してやったお礼にと、小さな円筒形のライターを貰う。しかし、何か裏があり、それを隠していると感じたジョウは、ヒスイの言葉の裏を探るべく動き始める。と、貰ったライターが実は記憶装置であることに気づく。その後、ヒスイから聞かされていた男が殺されるところに遭遇するのだった。

以前読んだ「クロハ・シリーズ」でもそうでしたが、どこかサイバーパンクの雰囲気を持った背景設定が為されています。脳と機械の融合などという舞台設定があるわけではありませんし、篠突く雨が降っている訳でもないのですが、決して抜けるような青空が広がっている風景は想像できません。つまりは、モノトーンの風景の中で、薄暗いビルの谷間を這いずりまわっているイメージなのです。

タイトルにもなっている17歳の少女ジョウが主人公です。その子が誰にも好かれるヒスイという女の子からの頼みごとを受け入れてしまったことから、正体不明の敵から追われ、逃げまくるのです。

17歳という少女が、これまで生きのびてきた知恵を働かせ、何とか生きのびる道を探り出そうとするのです。相手が小娘だとなめてかかるそのことが逆に自分の強みだと自覚し、必死で生き抜こうとするジョウの姿は、それなりに魅力的であり、感情移入の対象になり得ます。

しかし、アクション小説でもなく、小娘なりの弱い腕力を助けてくれる人物が登場する訳でもないその設定は、どこか中途半端に思ってしまいました。クロハシリーズの時に感じた主人公の力強さは無く、その印象は作品自体の印象となってしまったのです。

当初思ったこの作家の作品にしては、面白いのですが、期待していた程ではないという、少々残念な物語でした。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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