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谷口 ジロー・久住 昌之 孤独のグルメ


この物語は最初はテレビドラマとして人気が高くなっているという話から知りました。松重豊という芸達者な役者さんがそこらの食堂や甘味処に入り、ただひたすらに食べ、その感想を独白する、それだけのドラマ(と言っていいものかは分かりませんが)です。私の暮らす地方では昨年でしたかやっと放映されたので勇んで見たものです。

ただただ食し、そして感想を言う、それだけのドラマですが、妙に心惹かれるものがあります。評判になるのも良く分かる、そういうドラマでした。それは松重豊という役者さんのおいしそうに食べるその演技がうまい、ということが一番でしょうが、番組の構成が良くできているのでしょうね。

と、そういうドラマの原作になっているコミックが本書です。テレビドラマ以上に一話が短い漫画でした。何しろ一話分が八頁しかないのです。ただ、谷口ジローという漫画家の絵の力がすごい。

主人公の井之頭五郎は個人の輸入代行業者で、あちこちに顧客を有しています。その仕事の合間に街の食事処に立ち寄り、食すのです。たった八頁に収められた一コマ一コマがものすごく丁寧です。その中で主人公がただ食べる。谷口ジローという漫画家の画力に恐れ入るばかりです。

そしてこの物語の原作を担当しているのが久住昌之という人です。本当に「食べる」ということが好きな人なのでしょう。この人が食べ歩いた実体験を文字に起こし、それを谷口ジローが絵にしている、多分そいうことでしょう。

谷口 ジロー 父の暦


図書館にもコミックがあるとは知りませんでした。そう言えば、他の人の予約本の取り置きとしてコミックもありましたが、あくまで子供向けのものとの認識でした。まさか谷口ジロー作品までもあるとは驚きです。目の前にあったその本を早速借りてきたのは言うまでもありません。

理髪店を営む父の仕事の傍らで、陽だまりの床で一人遊ぶ男の子の姿が描かれている場面でこの物語は始まります。それは、主人公の幼き頃の思い出の場面であり、「かなり幼い日の、もっとも心なごむひとときのように思われ」ます。

ページをめくるとそこはもう現在で、主人公の職場に父の死を知らせる電話が入り、姉と会話をしている場面が始まります。

作家の内海隆一郎氏が「まえがき」で書いているように、「あたかも私小説のようにさえ見える」本書です。

かつて見た映画で『初恋のきた道』という作品がありました。チャン・イーモウ監督による作品で、チャン・ツィイーのデビュー作でもある映画です。この映画が、一人の青年が母の葬儀で母の若かりしころを回想する、というものだったのですが、自分の親にも若いころがあり、青春と言える時期を過ごしたのだと、あらためて思い知らされたものです。

本作も、主人公が葬儀の後のお斎の時間に、叔父らの言葉もあり、父親の若いころを回想する構成です。主人公の幼い頃の両親の離婚のため父との仲が疎遠になり、長じてからは逃げるように上京して殆ど郷里には帰っていなかった主人公です。叔父から聞かされる見知らぬ父の姿から、会話を避けていた自らの姿勢を悔やむ主人公の姿の描写は、良質の小説を読んだときのような心地よさをもたらしてくれました。

小説は文字で、映画は映像で、漫画は絵で、それぞれが一個の表現手段であり、そこには差は無いと常々思っています。本書のような作品に出会うと、一層その思いを強くするのです。小説では人物の内面を表現するのに情景を描写する手法などがありますが、漫画の場合はそれが絵になるだけですね。また、人物も絵で表すのですから、役者の演技と同様に人物の表情も描けるのですから、ある意味では文章よりもより直接的な表現手段ではあります。

この作家にの作品には、『坊ちゃんの時代』のような漱石を描く作品や、『散歩もの』や『孤独のグルメ』のようなエッセイ風のコミックもあれば、夢枕獏原作の『神々の山嶺』の劇画化作品などもあります。近いうちに是非読んでみたいものです。

蛇足ながら、『孤独のグルメ』は松重豊の主演により映像化されていて、近時私の地元でも放映されていて、早速見たのですが、ただ単に食事をする、そのことだけで45分を持たせるその番組構成、役者の演技力に脱帽するだけでした。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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