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山本 一力 つばき


読み始めてすぐに、この物語は以前読んだ本の続きだと気付きました。本書は、一膳飯屋「だいこん」の女あるじである’つばき’の一生懸命な生きざまを描いた作品なのですが、本書の舞台となる「深川」の前に、浅草での一膳飯屋「だいこん」の繁盛記があったのです。

深川という、江戸でも独特な気風を持つ町で、一膳飯屋の「だいこん」を開店したつばき。浅草で苦労した末の新しい土地での店開きだった。そこに、江戸でも大店である佐賀町の木島屋から、上棟式のときの弁当という大口の注文が舞い込む。新しい土地での幸先のいい仕事に、精いっぱいの心意気で、客先の体面をも考えた弁当をこしらえるつばきだったが・・・。

メモによるとほとんど三年ぶりの山本一力の小説です。しばらくぶりではあったのですが、短い文章をたたみかけるようにかぶせてくるこの人のリズムは、相変わらずに心地よいものでした。決して美しくはなく、武骨と言うほうがしっくりとする文章から紡ぎだされる人情劇は、同様に心に染み入るものでした。

主人公が、困難に直面しながらも、ひたすらに人としての正道を貫き、周りの人の助けを得て、商売の心得を学びながら成長していく、一つのパターンの物語ではあるのです。押し寄せる荒波のような難題に際し、例えば大店の主であったり、例えば裏稼業に生きる侠(おとこ)であったり、という助太刀があらわれ、主人公の危機を救う、という物語ですね。

そうした定番ものではあるのですが、魅力的な登場人物や、巻き起こるトラブルへの、さまざまな人たちの助力を得ながらも主人公の必死な、それでいて真摯に対処していく物語の筋立てが実に魅力的です。

随所にみられる、人間としての誠実さこそ本道である、というメッセージはさまざまな形で読み手の心に迫ってきます。

たしかに、当初の上棟式のための弁当の注文についての発注者のことなど書かれていない事柄もあります。重要の登場人物の一人である、かつては伸助と呼ばれていた閻魔堂の弐蔵との間柄についてもなんとなく中途半端です。

そうした疑問点を持ちつつも、全体を貫くつばきの商売に対する姿勢、取り組みかたは、読者の心をつかんでしまうのです。

この作者の作品は、大体において一気に読んでしまいます。読みやすいので時間もそれほどかからない、ということや、感情移入しやすいキャラクタ設定の故でしょうか。この作家の各物語には、さまざまな職業の主人公が登場し、女性が主人公のものも多数あるのですが、そのほとんどが魅力的であり、本を置くことが難しいと感じさせられるのです。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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