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原 尞 それまでの明日




原りょうの14年という間を置いての「沢崎シリーズ」最新作です。



十一月の初め、金融会社の新宿支店長の望月皓一という男が、赤坂の料亭業平の女将の身辺調査を依頼してきた。とりあえず業平について調べると、調査対象の女将は六月には亡くなっていたのだった。

依頼者に電話をするが捕まらないため金融会社の新宿支店を訪ねると、たまたま二人の強盗が押し入ってきた。支店長はおらず、金庫もあかないため、犯人の一人はもう一人を置き去りに逃げてしまう。警察の立ち合いのもと支店長室の金庫の中を確かめると、四~五億の現金の入ったケースが出てくるのだった。

そこで、望月のマンションを訪ねるとそこには同居人のものらしい死体が見つかり、ベランダで<こむらさき>という料亭のマッチを見つける。そのマンションの表で出会ったのは、強盗事件のときに居合わせた海津という青年だった。



私がこの作者原りょうの作品を始めて読んだのが2004年11月に出版された『愚か者死すべし』で、それを読んだのが2013年の7月だとメモに残しています。

(本当はその前に読んだことはあるはずなのですが、かなり昔であり、タイトルも覚えていないので、上記『愚か者死すべし』を最初に読んだ作品ということにしておきます。)

そのメモには、「何か感情移入できない」とも書いているのです。五年も前に読んだ作品なので詳しい内容は覚えていませんが、ストーリーに何となくの違和感を持った記憶があります。

次に、世界的なミステリ叢書であるハヤカワ・ポケット・ミステリから沢﨑シリーズの第一作である『そして夜は甦る』が出されたのでそれを読み、かなり惹きこまれて読みました。この作品はチャンドラーの『大いなる眠り』を彷彿とさせる作品で、まさにハードボイルドであり、その細かな描写と共に主人公沢崎の魅力にあふれた作品として、面白く読んだのです。


次いで最新刊の本書『それまでの明日』に至ります。ところが、本書『それまでの明日』では、また一歩引いてしまっている自分がいます。どうにも物語世界に入り切れませんでした。はやり、ストーリー自体に不自然さを感じたのです。

冒頭の沢崎のもとに来た依頼人の描写や依頼人との会話、その後の、調査対象が既に死亡していた、というところまでは非常に期待できる流れでした。

しかし、その後の強盗事件に巻き込まれたあたりから何となくの違和感を感じ始めます。依頼内容を果たしていくうちに別の大きな流れに遭遇し、巻き込まれていくという設定は一つのパターンですが、そこに正体不明の若者が絡み、話は少々見えにくくなっていきます。


これは後で思ったことですが、本書のストーリーは特別な山があるわけではありません。途中ではっきりとしたイベントが起きるわけでもなく、ただ、新事実が少しずつ明らかにされていくだけです。

そうしたあまり大きな山の無い物語の運び方が、近頃のテンポの速い物語になれた身には物足りなく映ったのかもしれません。また、海津などというよく分からない人物の登場などもその理由なのかもしれません。



でも、「第二級活字中毒者の遊読記」の焼酎太郎さんが「でも14年ぶりですよ。細かいことはいいじゃないですか」とおっしゃることには大賛成です。七十歳を超え、なお本書のような作品を書かれるそのエネルギーには脱帽するばかりです。

本流のハードボイルドとして読み応えのあることは間違いないのです。是非続編を期待したいものです。

原 尞 そして夜は甦る





極端な寡作家で知られる原尞の、強烈なインパクトを残したデビュー作の、長編のハードボイルド小説です。

原尞の新刊『それまでの明日』が出たことに驚いていたところ、伝説のデビュー作が、新たにハヤカワ・ポケット・ミステリから刊行されました。図書館で新刊コーナーに置かれたところだったのですが、誰も借りようとはしないみたいで楽に借りることができました。



私立探偵の澤﨑の事務所に海部と名乗る男が佐伯というルポライターについて聞いてきた。しかし、結局二十万円を置いて出ていってしまう。

その直後に美術評論家の更科修蔵の代理人弁護士の韮塚という弁護士から、佐伯というルポライターを知っているなら明日更科氏の邸まで来てほしいという電話が入った。

翌日、更科氏の邸まで行くと、更科修蔵の娘の佐伯名緒子から佐伯というルポライターを探して欲しいという依頼を受けることになった。



冒頭の澤﨑の事務所での場面で残されたのは、テーブルの上の金の入った封筒と、静かに漂う紫煙と「タバコをありがとう。口は悪いが、タバコの趣味は悪くない。」との海部の言葉でした。この場面だけで王道のハードボイルド小説だと分かり、そして読者はこの物語に惹きこまれます。

この冒頭の場面だけで、すぐにチャンドラーの作品を思い出してしまいました。雰囲気そのものがチャンドラーであるのと同時に、探偵が大富豪の家へ行き、そこで一人の女性と出会うという場面もチャンドラーで読んだ気がしたのです。読後に調べると多分チャンドラーの『大いなる眠り』だと思われます。


本書のプロットはかなり複雑です。登場人物もかなりの数にのぼり、誰がどのような役割を担っていたのかが分かりにくくさえなります。それでも、一つずつ謎が明らかにされていくにつれ、更に物語に引き込まれていくのです。

なにより、ハードボイルドの一番の魅力である主人公の性格設定が、まさにハードボイルドであり、探偵としての、また一人の男としての筋を強烈に持っていて、魅せられます。

ハードボイルドとしては必須の小道具も、両切りの“ピース”という渋いタバコです。今では知らない人も多そうな銘柄ですが、そもそも嫌煙運動華やかな現代では受け入れられないかもしれません。



私立探偵である澤﨑としては、公権力の利用ができれば実に便利であり、その協力者的立場にいるのが新宿警察署の捜査課にいる錦織警部です。ルパン三世の銭形警部を彷彿とさせるこのキャラクタ―もまた本書の魅力に一役買っています。

また、本書に関しては、ハヤカワ・ポケット・ミステリという世界的な叢書から出るということも見どころです。ハヤカワ・ポケット・ミステリ自体、 世界のミステリー作品を紹介している叢書であり、中学・高校時代に大人の本という印象を持っていた記憶があります。たしか、この叢書のSF版もあったはずですが、それはまた別の話でした。

勿論、文庫版も出ており、ハヤカワ・ポケット・ミステリへの思い入れのない人は文庫版のほうがいいと思われます。


原 尞 愚か者死すべし

愚か者死すべし愚か者死すべし
(2004/11/25)
原 リョウ

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愚か者死すべし 早川書房 本書は沢崎シリーズの、第二期のスタートを告げる作品。大晦日、新宿署地下駐車場に轟いた二発の銃声とともに、沢崎の新たな活躍が始まる。(AMAZON内容紹介)

昔この作者というかこのシリーズは読んだことがある筈なのだけれど、どうも違和感を感じてしまう。主人公の沢崎に感情移入できない。

東直巳という割と読み易いハードボイルドを読んだばかりだからかもしれない。

主人公の行動の細かな描写などをみると、ハードボイルドという点ではこの本の方が本流なのかもしれない。しかし、北方謙三、志水辰夫、東直巳と続く、わりとテンポがあって読み易い文章の流れに慣れた身としては若干距離を置いてしまう。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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