藤井 太洋 オービタルクラウド


インターネットが発達した現代のテクノロジー社会を前提に、いかにもSFらしい想像力にあふれた作品です。

主人公は、Web上で流れ星予報サービスを運営する青年・木村和海(かずみ)。彼は近々流れ星になるはずの、イランの使用済みロケットが不自然な動きをしていることに気付く。その頃、民間宇宙旅行を主導するIT長者ロニー・スマークは、軌道ホテル滞在に向け、出発の準備を進めていた……。

以上は「週刊文春WEB」上の評論記事でまとめられていた文章です。

ネット上で電子書籍販売をしていた作品が評判を呼び、更に第二作目の作品が2015年の「第35回日本SF大賞」を受賞するのですから見事です。たとえそれが著者が言うように「編集者との共同作業」だとしても、前作の『Gene Mapper』を終え、本作品を本格的に書き始めてから半年で仕上げた、というのですから、ただただ驚くばかりです。

主人公は、流れ星予報サービスをしている木村和海という青年です。フリーランスの若者たちが集うシェアオフィスで、天才的なプログラマーである沼田明利らとともに活動しています。

冒頭から頻出する専門用語はハードSFの常ではありますが、それでも比較的身近な単語です。物理学の難解な理論が展開される話ではありません。スマートホンレベルの話が入り口で、そこから宇宙の話につながるのです。なんといっても現役のプログラマーでもある著者のようなので、こうした世界の描写はお手の物でしょう。

本書の中心となるアイディアは「長く強靭な紐(テザー)を使って宇宙船などの軌道を変更する方法」(by Wikii)である「テザー推進」という概念です。これは全くの空想ではなく、現実に生きている考え方で、その概念をSFらしくふくらましてつかってあるのですが、これがまた面白い。

現在の地球の大気圏の外側、人工衛星が飛び交っている層には宇宙ゴミ(スペースデブリ)が散乱しているらしく、北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)では一辺10cm以上のスペースデブリはすべて把握しているのだとか。

そんな中での著者の描くテロリストの活動はいかにも現代的です。スマートホンの基盤を利用した仕掛けや、アメリカをミスリードするために仕組まれた翻訳エンジンの汚染などが、特別に難しい理論などを使わずに、現在の身近な技術をベースに構築していく、そのアイディアが見事としか言いようがありません。

細かなことですが、例えば物語の終盤近く、シアトルの町でスターバックスの第一号店を訪れようとする和海に、「本物はその奥にある」というくだりがあります。こうした描写もまた物語のリアリティーを増しますね。でも、筆者は現地に行かずにネット情報をメインに描いたということですが、こうした話もネット上で見つけたのでしょうか。

本書はネット上のテクノロジーの他に、冒険小説的な側面をも持っています。テロリストの仕掛けた宇宙での罠を見破る和海と明利、そして彼らを助けるJAXAの職員、そして米軍、CIAのインテリジェンスのプロが彼らを助ける役割に回り、宇宙で展開されるスペース戦争の回避を目指します。

人物像の書きこみ不足や、現実感を欠く登場人物の行動など、気になるところも少なからずあります。しかし、それ以上に、アイディアとそれを生かすテンポ良く進む文章とは、読み手の心を捉まえて離さないのです。

「内なる宇宙」を舞台に展開されることの多いニューウエーブ的な物語の多かった近時のSF作品の中で、久しぶりにハードSFらしい物語を読んだ気がします。

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(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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