半村 良 江戸打入り


この本もまた、半村良の未読の作品が目の前に現れたのですぐに借りたものです。半村良の作品はそのほとんどを読破していると思っていたので、驚きました。タイトルを聞いたことすらありませんでした。

三河の岡崎の北にある足助の在の鈴木金七郎は、鈴木家の最後の男として、秀吉の小田原攻めに徳川家康の雑兵として参戦することになった。秀吉に従う家康配下の金七郎は、家を残すために生きながらえるべく目立たぬように雑兵でいたのだが、自然とその才が目立ってくるのだった。

この本についても何の前提知識もないままに読み始めました。「江戸打入り」というタイトルからして、何らかの活劇ものであり、文字通り江戸にいる何者かに戦を仕掛ける話、などの漠然とした先入観は見事に覆されました。今まで読んだことのない、雑兵目線での戦国時代、いや戦そのものを語った物語だったのです。

半村良という人の作品は、虚構の話を、史実の裏付けでいかにも本当らしく思わせながら、奇想天外に展開される話が魅力であり、また、その手腕に酔っていたものです。

ところが、本書は綿密な下調べをうかがわせる、戦国時代の新たな知識を随所にちりばめてあります。

金七郎は、血縁の家に世話になりそこから戦に出るのですが、その家は作事担当です。言ってみれば工兵であり、土木建築などの技術を持った集団です。家を永らえさせるために生きねばならない金七郎は小荷駄の護衛役という、比較的安全な役回りになっていますが、戦場において新米であることに変わりはなく、何かと新たな知識を吸収していきます。そして、そのさまが読者に戦国時代の戦の様子を垣間見せてくれるのです。

例えば、金七郎は休一という会下僧と知り合います。会下僧とは、戦時に敵味方区別なく説法をしたり経をあげたりする僧のことだそうで、自由に戦地を通行できた彼らは様々な情報も見聞きします。この会下僧がこの小田原攻めでの種々の情報を金七郎にももたらしてくれ、それは読者にとっても戦国の世の裏方の解説にもなるのです。

また、雑兵たちの仕事ぶりばかりではありません。彼ら下っ端の、戦や世の中に対する視点もまた見所です。これまで読んできた歴史小説は武将や剣豪、庶民であっても何らかの能力を持った言わばヒーローの物語でした。本書は全くの一般庶民の物語です。百姓の目線での戦というものに対する考察でもあります。

これまでの半村良のイメージが若干変わった、その意味でも面白い小説でした。

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