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大内 美予子 沖田総司


新選組ものと言えばいつもの東屋梢風さんのサイト「新選組の本を読む ~誠の栞~」に紹介してあった作品です。文藝春秋『オール読物』2013年3月号の記事「この新選組小説がすごい!」に紹介してある名作とのこと、早速読んでみました。

冒頭からしばらくは、それほどのことはない小説だと思いつつ読み進めていました。

本書では、19歳の総司の日野でのとある一日の場面から、京で新選組が成立するまでを、「京へ」という13頁しかない冒頭の章で描いてあります。その後「壬生浪人」「池田屋」との章が続き、それぞれに芹沢鴨暗殺、池田屋事件が語られています。ここまでで全体の四分の一程で、ほかの作品であればこの二つの事件がメインになり、十分な書き込みが為されるところです。

つまりは新選組は重要ではあるものの舞台でしかなく、あくまでそこに生きた沖田総司の物語として成立しています。そのために新選組の歴史を浅くしか触れられていない本書に違和感を感じたのだろうと思います。しかし、この二章を読み終える頃には本書に取り込まれていました。

また、これまでに知っていた歴史的事実と言われていることとは異なる点が少なからずあることも一因だったのかもしれません。しかし、東屋梢風さんの、本書が書かれた頃はまだ知られていなかった事実が多数ある、との指摘を思い出し、単に時代背景の独自の設定として読み飛ばせていました。

この作品は、沖田の描き方が感情過多になることもなく、わりと客観的に、それでいて総司の内面にもそれなりに踏み込んで描かれています。また、新選組の物語ではなく、新選組を舞台とした青春小説としての一面も強く感じます。似たような青春群像として描かれた作品に木内昇の『新選組 幕末の青嵐』がありますが、あちらは群像劇であるのに対し、本書は沖田総司個人に焦点が当てられています。またこちらのほうが若干センチメンタルな仕上がりになっているとも言えそうです。

それは、総司の淡い恋心を描くにしてもそうです。だからと言って感傷過多というのではありません。人を愛することに距離を置く総司、そして、軽口をたたいてばかりの総司、随所で子供とふれあい笑い声の絶えない総司、そうした総司の描き方は近年の新選組の物語を考えると決して目新しいものではないのですが、40年前の作品という事実を無視してもその上手さが光ります。

油小路事件から鳥羽・伏見の戦いなどの歴史的事件は、総司が現場に居ないのですからさらりと触れるだけにとどめ、あくまで総司を描くこの物語は、40年も前に書かれたという時間の経過を感じさせない、のめりこんで読んだ作品でした。

本書について「あとがき」で書かれているところからすると、本書が大内美予子氏の小説としては処女作なのではないかと思料されます。それまでどのような仕事を生業とされていたのかもわかりませんが、そのこともまた驚かされる事実でした。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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