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池井戸 潤 下町ロケット ヤタガラス





本書は、『下町ロケット ゴースト』に続くシリーズ第四弾です。



本書では、佃製作所の番頭の殿村が退職し、帝国重工の財前道生も異動しています。そして、あのダイダロスと資本提携をしたギアゴーストの伊丹と袂を分かった島津裕が佃のもとを去っていく場面から幕を開けます。

そんな折、帝国重工の財前道生から連絡が入り、無人農業ロボットの分野に参入したいので、佃製作所の得意分野であるエンジンとトランスミッションの供給を願いたいと言ってきます。

そして、ロボットの自動走行に関して、佃航平の学生時代の友人である北海道農業大学の野木博文教授の力を得たいのでその説得方も頼みたいというのです。

しかし、その話を聞きつけた的場が自分が取り仕切ると言いだし、佃製作所はこのプロジェクトからはずされるというのでした。

一方、殿村は同級生だった稲本の農業法人への参画を打診されます。しかし、その話には大地主の三男坊である農林業協同組合の担当者である吉井という男も絡んでいると聞いた殿村の父は、あれはだめだと切り捨てます。

そんなとき、突然、佃は無人トラクターの映像と共に「ダーウィン・プロジェクト」という名前がニュースで報じられるのを見るのでした。



今回はこれまでの作品と少々構造が異なるようです。

これまでの池井戸潤という作家の物語の流れは、主人公の前に立ちふさが難題を主人公らの必死の努力で打破し、若しくは乗り越えて成功に辿りつくというのが他の作品も含めての順当な流れでした。

しかし、本書は帝国重工とギアゴーストとの勝負の側面が第一義であり、それは重田や伊丹の的場に対する恨みをその根底に持っているのです。企業活動としての対立という外形のもと、個人感情を根底にした物語となっています。

それはそれで、また面白い話であることに違いはないのですが、少々気になりました。



また、人物造形が少々類型的になっているようです。。帝国重工の的場にしても、その部下である奥村にしても自分の出世が第一義であり、他者はその道具にすぎないと思っています。また、重田も復讐ありきです。

伊丹も前巻の『下町ロケット ゴースト』で人情味のあるやり手経営者であった筈が、本書ではまるで別人のような人から受けた恩も簡単に無視できるような人物設定になっているのも気になります。

ただ、重田が来し方を振り返り、その虚しさを思う場面だけは救いでした。

他にも思うところはありますが、それでもなお面白い小説です。テレビで放映されているドラマと合わせて今楽しみに感じている作品です。

テレビドラマといえば、来年にはラグビーをテーマにした池井戸潤の新作をもとにドラマが製作されるという話を目にしました。早く読みたい気持ちでいっぱいです。

池井戸潤 下町ロケット ゴースト




本書は、第145回直木賞を受賞した『下町ロケット』の続編『下町ロケット ガウディ計画』に続くシリーズ第三弾です。

シリーズの第一作『下町ロケット』、第二作『下町ロケット ガウディ計画』はTBS系の日曜劇場で阿部寛を主演に、安田顕や立川談春、恵俊彰、土屋太鳳、それに吉川晃司ほかのキャストでテレビドラマ化され、大変な人気を博したシリーズです。

実はそれ以前にも、三上博史主演でWOWOWの連続ドラマWでドラマ化されていたのですが、WOWOWを契約していない私はそのことを全く知らずにいました。

TBS版のテレビドラマは豪華なキャストということもあってか大変面白く見させてもらったものです。しかしながら、やはりこの物語の面白さは原作にあります。池井戸潤という作家の痛快小説の作り方が非常にうまく、どの作品も読んでいてすぐに物語の世界に惹き込まれてしまうのです。

そして、本作『下町ロケット ゴースト』も勿論面白い作品でした。



今回の佃製作所は、まず帝国重工の業績悪化に伴う籐間社長の退任、及びそれに伴う大型ロケット打ち上げのスターダスト計画の見直しという佃製作所のメイン技術であるバルブ供給契約に関する経営上の危機にと工面します。

次に、佃製作所の別の大口取引先であるヤマタニからの取引縮小の通達を告げられます。更には、佃製作所の重要なメンバーである殿村の父親が倒れるという家庭の問題が発生するのです。

この取引縮小という危機に際し、佃製作所社長佃公平の新しい試みは、トランスミッション事業への参入でした。トランスミッションに関するノウハウを持たない佃製作所は、相談先のヤマタニからギアゴーストというベンチャー企業を紹介されます。



このギアゴーストこそがこの物語の核になる企業であり、佃製作所の今後の命運をも握る企業となります。

それは、この物語がギアゴーストの行うトランスミッション用バルブのコンペへの参加に伴う、佃制作所とその対抗馬である大森バルブとの競争の物語という意味であり、そしてまた、ギアゴーストと、そのライバルというには大き過ぎるトランスミッションメーカーの「ケーマシナリー」が仕掛けてきた特許権侵害の訴訟の物語でもあるということなのです。

こうした物語に佃製作所が大きく関わり、物語が展開していくことになるのですが、その様がまさに痛快です。

そして、この物語は一応の決着を見るのですが、ネタバレとは言えないでしょうから書きますが、話自体は帝国重工のロケット打ち上げに絡む物語となるだろう次巻『下町ロケット ヤタガラス』へと持ち越しになります。

こうし多構成は前回のテレビドラマの『ロケット編』と『ガウディ編』と同じつくりであり、原作自体からテレビドラマ化を意識した構成になっているのではないかと思います。

ともあれ、本書が面白いことに違いはなく、次巻『下町ロケット ヤタガラス』は今秋にも発売されるということですので楽しみに待ちたいと思います。

池井戸 潤 ルーズヴェルト・ゲーム




痛快企業小説の第一人者である池井戸潤の、社会人野球チームの活躍をも交えた、ちょっと視点が変わった痛快小説です。



本書の主役は、かつては名門と言われた野球チームを有する青島製作所という中堅電子部品メーカーです。

しかし、社会的な不況の中で会社の業績は下降線をたどるばかりで、会社内には社会人野球チームを配しするべきという声も起きていたのです。そんな中、村野三郎野球部監督と社長とが喧嘩別れをし、村野監督はあろうことかチームのエースと主軸打者を連れてライバルのミツワ電器に移ってしまう事態が起きるのでした。

野球部部長の三上文夫総務部長は、大道雅臣という男を推薦され、新監督として迎えます。ただ、古参の選手たちは新監督のデータ重視の方針に異を唱えます。

一方、不況は会社の存続そのものをも危うくし、主要取引先から取引の縮小を告げられ、青島製作所社長の細川充は今後の方針に苦慮し、銀行の圧力もあって、リストラ策の実行を決断します。

ライバルのミツワ電器の値段を無視した攻勢があり、また青島製作所の専務である笹井小太郎を筆頭とする野球部の廃止を求める声が次第に大きくなってくるなか、廃止の危機を迎える野球部は沖原和也という強力な戦力を手にするのでした。




著者の池井戸潤は、2008年9月に起こったリーマン・ショックによりもたらされた不況下で、「読んで元気になってもらう小説を書こうと考え」、映画『メジャーリーグ』を念頭に、「企業間競争の代理競走である社会人野球にスポットを当てることに決めた」そうです( ウィキペディア : 参照 )」。

本書は、青島製作所の存続、つまりは対外的な経営努力と会社内部での派閥争いという普通の経済小説の流れの他に、野球部の活躍という新たな要素が加わり、特定の主人公は置かない多視点で描かれた小説として、物語としての魅力を増しています。

まず青島製作所自体の、ミツワ電気やジャパニクス社との間での経営陣の駆け引き、苦労があります。

その上で青島製作所内部での細川社長と、笹井専務ら一派との派閥争いがあり、また青島製作所野球部の廃止を主張する笹井専務らと、野球部存続に奔走する野球部部長の三上総務部長との確執があって、そうした状況が重畳的に描かれているのです。

勿論、それらの争いは個別ものではなく、青島製作所の生き残りという経営問題を中心にした一つの話であり、その軸のもとにそれぞれの話が描かれています。

青島製作所自体の物語も、青島会長というこの会社を立ち上げた人物が魅力的です。笹井専務という誰しもが次期社長と考えていた人物ではなく、コンサルタント会社に勤めていた細川充という人物を連れてきて社長としたのもこの青島会長でした。

その期待に応えて青島製作所の売り上げを伸ばした細川社長でしたが、世間は不況の波に襲われ、青島製作所もリストラ策を実行しなけらばならなくなる事態にまで陥っていたのです。

当然のことながら、野球部の存在自体を否定するものが現れるのは当たり前でした。青島製作所はその経営を維持できるのか、風当たりが強くなるばかりの青島製作所野球部は廃止されてしまうのか胸躍る物語が展開されるのです。

特定の人物を主人公として据えるのではなく、多視点で描いているこの物語は、だからなのか、若干ですが中途半端な印象もありました。

例えば、新しい野球部監督はもう少し話が広がるかと思えば若干知り切れな印象ですし、野球部の救世主の沖原和也も少々物足りません。かなり悲惨な仕打ちを受けていた沖原ですが、彼についてのエピソードがやはり物足らないのです。

本当は、これだけで一つの話ができそうな野球部の物語なのに、企業小説の一側面としてこれだけ描き出してあるのですからよく描いてあるというべきなのかもしれませんが、もう少し膨らまして盛り上げてほしい、と思ったのです。

それだけ面白かったのであり、もったいないと思えたということです。

池井戸 潤 空飛ぶタイヤ





主人公赤松の経営する赤松運送のトレーラーが死亡事故を引き起こします。事故を起こしたトレーラーの製造元であるホープ自動車は、その事故は赤松運送の整備不良による事故だとの結論をだします。当然のことながら赤松運送は社会的に非難を受け、取引先からは取引を停止されます。

倒産寸前の状態に陥りながらも、赤松は自社の整備不良という結論を出したトレーラーの製造、販売元であるホープ自動車の対応に不審なものを感じるのでした。

一方、ホープ自動車カスタマー戦略課の課長沢田悠太は、赤松運送からの再度の調査依頼を単なるクレーマーのたぐいだとして無視した態度を取り続けます。しかし、次第に自社内の品質保証部の態度がおかしいことに違和感を感じ、調査を始めるのです。

また、赤松運送から融資依頼を受けた東京ホープ銀行自由が丘支店の担当者は、赤松運送が有力取引先との取引が打ち切られたこともあり、融資に難色を示すのでした。そして東京ホープ銀行本店営業本部の井崎一亮は、自分が担当するホープ自動車製のトレーラーが起こした事故であることに一抹の不安を抱きます。

赤松は長男の拓郎が通う小学校のPTA会長を引き受けていましたが、拓郎がいじめにあっているらしいこと、また一部の親が赤松運送の事故を問題にしているらしいことを知り、そちらでも問題を抱えることになります。

まさに四面楚歌の中、赤松は赤松運送の専務で、赤松の親の代から勤めている宮代直吉らに助けられながら、問題のトレーラーを製造した財閥系の会社であるホープ自動車に対し闘いを挑んでいくのでした。



これまで『オレたちバブル入行組』や『下町ロケット』更に『陸王』など、池井戸潤の痛快経済小説を胸躍らせながら読んできましたが、本書はそれらの作品を上回る熱量を持った作品として一気に引き込まれてしまいました。

この作品は、2002年に現実に起きた三菱自動車のトレーラー事故をモデルにしている作品であるため、被害者、そして加害者となった運送会社が現実に存在していることがいつも頭にあり、この作品を単純に面白いとして読むことに微妙に後ろめたい気持ちを持ちながらも、引き込まれていきました。

本書実業之日本社版の文庫の解説には、「現実の事故をなぞって小説を書いたと誤解しかねないが、一読すれば明らかなように『空飛ぶタイヤ』は、全く独立した物語である」という言葉にホッとしたものです。

ただ、本書はその事故がきっかけに書かれただけだということは頭では理解していたのですが、現実の事故では事故を起こした会社は似たようなことがあったのだろうと考えずにはおれませんでした。

そした気持ちを抱きながらも、「熱い物語」という言葉がまさに本書を如実に表した言葉と言ってよく、主人公の熱さに引きずられてしまったと言わざるを得ません。そのくらいこの物語の熱量は凄いのです。

本書は赤松社長の視点を中心に描かれているのはもちろんなのですが、他方でホープグループ内部での視点も描き出してあります。ホープ自動車自身の沢田悠太、それに東京ホープ銀行の井崎一亮がそれで、こちらも財閥系の巨大企業内部の動向を、財閥系企業の持つ優越感、その内部でのサラリーマンとしての上昇志向、他方で営業マン、また銀行マンとしての良心などを複雑に絡ませた物語として成立しているのです。

この三つの視点が絡み合い、とくに赤松社長の家庭的な問題も加わって物語は加速度的な展開をみせ、目を話すことが出来なくなりました。

登場人物が、とくに敵役であるホープ自動車の重役の描き方などがステレオタイプであるという印象はありますが、その悪役が生きていることも事実で、赤松社長の前に立ちはだかる巨大な壁としての存在感を増しています。

だからこそ、そうした赤松社長に差し伸べられる救いの手が一層感動的になるのでしょう。まさに解説にあった「熱い物語」という言葉がピタリと当てはまる物語でした。

ちなみに、本書はWOWWOWで仲村トオル主演でドラマ化されています。また、2018年6月には長瀬智也を主演に、今をときめく高橋一生やディーン・フジオカといった役者さんを配しての映画化も予定されているそうです。

また、上記書籍イメージは実業之日本社文庫版ですが、2009年には講談社文庫版が上下二分冊で出版されています。

池井戸 潤 陸王




『半沢直樹』で一躍名を挙げた池井戸潤の、『下町ロケット』と同じく、中小企業の商品開発にともなう苦労を描いた痛快経済小説です。

埼玉県行田市にある老舗足袋業者「こはぜ屋」社長の宮沢紘一は、足袋屋としての将来に希望を見出せず、老舗足袋屋としての技術を生かせる分野と思われるランニングシューズを新規開発し、業界へ参入しようと考えます。

しかし、銀行の営業マン、スポーツ用品店の店主、シューフィッター、新素材の特許技術を有する職人気質の中小企業社長等々の知恵を出してもらっての開発も、当然のことながら必要な資金繰りや、靴を構成する新たな素材探し、それに既存の大企業による妨害工作などの壁が立ちふさがるのです。

そうした壁の一つを乗り越えるとまた現れる新たな壁を何とか乗り越えながら突き進む「こはぜ屋」の姿は、『下町ロケット』の佃製作所の姿に重なり、同じように読者の胸をうつ作品として仕上がっています。

そもそも従業員二十人という小企業の強みは、会社百年の歴史が有する足袋を生み出す技術力であり、縫製の職人たちではあるのですが、いかんせんランニングシューズとなるとその素材探しから始まり、それには金もかかれば人手も足りません。

本書は、会社が有する技術を利用してロケット開発に参画したり、心臓弁を開発するという『下町ロケット』のように、会社が主体となって苦難を切り開いていくという話ではありません。

そもそもの発想の発端からして銀行の営業マンからの新規事業を起こすことを勧められたことから始まるように、宮沢社長を中心とした「こはぜ屋」に多くの人々が力を貸すという形を取っています。

例えば、資金繰りのみならず、新規事業に関連する人材を紹介するのも銀行の営業ですし、シューズの素材に関する特許を持っている人物や、シューズフィッター、走ることの専門家など、多くの人が集まり、知恵を出し合ってランニングシューズを作り上げているのです。

その上で、出来上がった靴を実際に履いてその具合をフィードバックするランナーが加わります。

更に、痛快小説での魅力のある敵役が必要ですが、勿論本書でも大手スポーツメーカーがその役を担い、あの手この手での嫌がらせ、より具体的な妨害工作を仕掛けてきます。

そして銀行の存在です。資金繰りに苦しむ「こはぜ屋」の資金調達に際し、壁として立ちふさがるのです。その役が支店長であり、銀行の貸付担当であったりします。

そうした事がらの一つ一つに、走ること、走るための靴についての作者の綿密な調査に裏付けられた説明が加わり、物語に一段と奥行きを加えています。

その上で、痛快小説として、読者のカタルシスを十分に満たすだけの困難さとその壁の打破するための努力とがうまく組み合わされて上質な物語と仕上げられているのは、やはりこの池井戸潤という作家の力量という他ないと思われます。

本書も役所広司や寺尾聰という名優をはじめ、その他の個性的な役者たちによりドラマ化されています。これがやはり面白い。本書の物語の流れをそのままにドラマ化している点も見逃せません。

蛇足ながら、この作者の『空飛ぶタイヤ』という作品も映画化され、2018年には公開されるそうです。こちらも楽しみです。
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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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