富樫 倫太郎 生活安全課0係 ヘッドゲーム


『生活安全課0係 ファイヤーボール』を一作目とする生活安全課0係シリーズの二作目です。

杉並中央署生活安全課「何でも相談室」、通称0係に娘の死の真相を調べて欲しいという相談が持ち込まれる。今年だけで名門高校の女子生徒が二人、飛び降り自殺をしているのだ。0係の変人キャリア警部・小早川冬彦は相棒の万年巡査長・寺田高虎と高校を訪れるが、そのとき三人目の犠牲者が…。KY(空気が読めない)刑事が鋭い観察眼で人を見抜くシリーズ第二弾! (「BOOK」データベースより)

小早川冬彦警部は、前作同様、というより当然の話ですが、あいかわらずに空気を読めず、寺田高虎巡査長の神経を逆なでしながら勤務に励んでいます。

高円寺学園高校で、今年に入ってから二人がマンションの屋上から飛び降りて自殺するのですが、学校はもちろん、警察も何らの対応を取りません。そこで、自殺した生徒の母親が杉並中央署に調査を願い大声を出しているのですが、そのことをきっかけにして、例のごとく小早川警部がその事実に事件性を見出すという導入です。

案の定、早速高円寺学園高校に行ってみると、更にもう一人飛び降り自殺者が出ているといいます。調べていくと、三人に共通する事柄が見えてくるのでした。

このような事実が出ても、学校側は何の対応をとることもないため、小早川警部は幾度となく学校に顔を見せることになります。学校側は当然これを嫌うのですが、寺田高虎巡査長でさえも、いつもの通りに小早川の早とちりだとして小早川の見解に与しません。

ついに、問題の高校の校長や教頭は警察上層部に苦情を申し立て、小早川らは当該高校への立ち入りを禁じられてしまいます。

そんな中、この高校の副理事長が胡散臭い人物として浮かび上がるのですが、その前にこの副理事長の妹が立ちふさがるのです。

それなりに軽く読めて面白い物語であることは否定できません。しかし、何故かこれらの事実から事件性を見出すのは小早川警部だけなのです。

どうみても、ベテランである寺田巡査長でなくても連続自殺について何らかの疑問を抱いてしかるべきだと思うのですが、小早川警部だけが事件性に気づくというのは無理があると感じます。

物語の設定上、小早川警部だけが頭脳明晰であり、確率上からも疑問を抱くという流れは分からないではありませんが、少々周りの人間の能力が無さ過ぎるのです。もう少し小早川警部の特異性を自然に描いてくれれば、と思ってしまいます。

それでも、コメディタッチの本書ですので、あまり整合性を求め過ぎてもとは思うのですが、好みの問題ですので仕方がありません。物語の世界観として納得できるものが欲しい、ということだけなのです。

そうは言いながら、たぶんこの作家の作品をぼちぼちと読み進めることになると思います。

富樫 倫太郎 生活安全課0係 ファイヤーボール


なかなかにコミカルで、気楽に読むことができる長編の警察小説でした。

杉並中央署生活安全課に突如誕生した「何でも相談室」。通称0係。署内の役立たずが集まる島流し部署だ。そこへ科警研から異動してきたキャリアの小早川冬彦警部。マイペースで、無礼千万な男だが知識と観察眼で人の心を次々と読みとっていく。そんな彼がボヤ事件で興味を示した手掛かり、ファイヤーボールとは?KY(空気が読めない)刑事の非常識捜査が真相を暴くシリーズ第一弾!(「BOOK」データベースより)

富樫倫太郎という作家の作品は、新選組の土方歳三を描いた『土方歳三』しか読んだことが無く、活劇小説の書き手という印象しかありませんでした。

しかし、本書を読む限りでは実に読みやすい、それでいてそれなりの読み応えもある小説の書き手ではありました。

主人公小早川冬彦という男は、キャリアでありながら現場の仕事をしたいという思いを持っているずば抜けた頭の良さを持っている男ではあるのですが、頭の良さは対人関係には全く無関係のようで、人の心に無神経に踏み込んでいることにも気付かない人物、という設定です。

無類の運動神経の無さや対人関係の悪さなどから警察庁から科警研、即ち「犯罪行動科学部捜査支援研究室」に出向していた冬彦が、暇つぶしに警察の裏金問題についてのテレビや新聞の報道をもとに推論で書きあげたレポートがお偉いさんの目にとまり、レポートのことを忘れるという条件でかねてよりの念願の警察の現場に出ることになります。

そのために配属先の杉並中央警察署生活安全課に設けられたのが、杉並中央署の吹きだまりである「何でも相談室」です。ゼロをいくつ掛けあわせてもゼロのまま、というところから通称「0(ゼロ)係」と呼ばれています。

冬彦は四十歳になる巡査長のベテラン刑事である寺田高虎と組んで現場に出るのですが、この寺田という男が傍若無人を絵にかいたような男で、何かと冬彦に突っかかります。でも、冬彦には通じず、かえっていらいらする寺田です。

現場に出て早々に立ち小便に関する苦情や、認知症のお婆さんの保護、放火事案などに出会うのですが、これらの事案の陰に事件性を見る冬彦です。それに対し、あきれるほかない寺田でした。

こうした個々の事案の他に、杉並中央署には暴力団に情報を流している内通者がいるらしいということから、警視庁の監察室から二人の人物が派遣されてきていて、その捜査も続いています。

本書は通常の警察小説と異なり、軽くて非常に読みやすい作品です。それは冬彦を始めとする登場人物たちのキャラクター設定にもよるのでしょうが、とにかく深く考えずに読み進めることができます。プロファイリングの得意な冬彦の推理はことごとく外れますが、その後事実関係が明確になっていくにつれ、当初見当違いと思われていた冬彦の言葉が次第に現実化していく様子は小気味いいのです。

『土方歳三』で感じていたこの作家の特色の無さは本書で見事に覆りました。

本書には続編もあるようですし、また別のシリーズもあるようです。改めて読んでみようと思います。

富樫 倫太郎 土方歳三(上・下)



新選組の活動に対する奇をてらった新たな解釈もない、歴史小説としてではなく活劇小説としての、楽しく読める新選組小説という印象の作品です。

日野の田舎で喧嘩や女のことで奉公先をしくじってばかりの歳三は、奉公人は務まらないとして石田散薬の行商に出る。出先で剣術修行に励んでいた歳三は、日野村に剣術の出稽古に来ていた天然理心流の島崎勝太、後の近藤勇と立ち合い、義兄弟の契りを結ぶ。その後、天然理心流の道場の試衛館に居候するようになっていた歳三は、試衛館の仲間らとともに京に上る決意をする。

以上のところから物語は始まり、京での新選組結成、池田屋事件までが上巻です。下巻では、山南敬助の脱走事件、油之小路事件、鳥羽伏見の戦いの敗戦を経て江戸への退却、北海道へ渡り蝦夷政府を立ち上げ、そして新政府軍との戦うまでが描かれています。

富樫倫太郎という作家さんは名前だけは知っていても読んだことはありませんでした。いつかは読んでみよううと思いつつ今に至ったのですが、真っ赤な装丁のこの本が目にとまり、富樫倫太郎の土方歳三というので早速借りました。

上下二巻で七百頁を超えるボリュームなので、覚悟をして読み始めたのですが、思っていた内容とは異なりサクサク読めてかえって驚いています。平易な文章で会話文が多く、時代背景も必要最小限の説明なのでじつに読みやすい。逆にもう少し新選組に対する独自の解釈を入れてもらってもいいのではないかと思うほどです。

勿論、歳三と近藤勇の出会いの場面など、細かなところでは富樫倫太郎という作家なりの見方で登場人物が動いていて、それはそれなりにおもしろいのです。しかし、それ以外の歴史的事実の解釈での面白さはありません。代わりに活劇小説として読めばかなり面白い物語だと思います。

しかし、下巻に入り、江戸への退却のあたりからは、土方歳三の人間像が生き生きとしてきたように感じました。特に北海道へ渡り、蝦夷政府を立ち上げ、そして新政府軍と戦うころになると、これまでの本書の印象とは異なってきます。会津での戦いを経て、榎本武揚と共に北海道に渡るころの新選組、つまりは土方歳三の消息について私があまり知らない、ということもあるのかもしれません。

これまでこの時代を詳しく描いた小説で思い出すのは北方謙三の『黒龍の柩』くらいではなかったかと思います。著者の富樫倫太郎氏もここらの物語は思い入れがあるようで、他に『箱館売ります』を始めとする『蝦夷血風録』シリーズも書いておられます。

繰り返しになりますが、全般的にみて、私がこれまで読んだ新選組ものからすれば一番通俗的と言えるかもしれません。土方歳三の幼いころから新選組を立ち上げ、北海道で新政府と戦い戦死するまでを700頁を超える痛快読み物として仕上げてあります。しかしながら、その頁数の割には軽く読みとおすことができました。会話文が多く、様々な出来事も深く踏み込むことなく流してあります。

蛇足ながら、「朝日新聞デジタル:土方歳三の最期を記した書」などには、歳三の最後は明確ではなく、一本木関門近くでの戦死という話も「司馬遼太郎の『燃えよ剣』の影響」ではないかと書いてあります。やはり、子母沢寛の三部作もそうですが、何より『燃えよ剣』はあちこちで出てくる作品であり、もう一度読み返してみようと思います。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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