深町 秋生 卑怯者の流儀


警視庁組対四課の刑事である米沢英利という中年刑事を主人公とするハードボイルドミステリーで、第19回大藪春彦賞の候補作になった作品です。

「野良犬たちの嗜み」
仁盛会若頭補佐の浦部恭一から、自分が経営する韓国人クラブのホステス行く絵不明になり探して欲しいと頼まれた。調べると、浦部の近いところにいるものが拉致したらしいのだ。
「悪党の段取り」
薬物の捜査係のエースである組織犯罪対策課第五課の出渕正義警部が、女とベッドにいるところを写真に撮られたと泣きついてきた。エースに恩を売るチャンスだと、米沢は無料でその頼みを惹きうけるのだった。
「はぐれ者たちの成熟」
米沢とその上司である大関芳子警視とは、かつての新宿署で、今は組織犯罪対策課という、当時の刑事課四係で一緒だった。昔その大関と共に逮捕したことのあるチンピラのチンスケが出所してすぐに襲われたという事件が起きた。
「秘めたる者らの殺気」
赤坂の老舗和菓子屋の若旦那が美人局にあっているところを助けた数日後、美人局をしかけていたチンピラが殺されるという事件が発生した。
「策略家の踊り」
警視庁警務部人事一課監察係佐竹巡査部長 知らないうちに米沢の口座に百万の振り込みがあり、また自分の部屋の天井裏にはけん銃が隠してあった。月岡早苗を名乗る女からの依頼で悪徳探偵社が動いていたのだった。
「生き残りの騙り」
自分をはめようとしている月岡早苗という女は、かつて当時の荒生組組長高埜喜一逮捕に協力してくれた女で、すでに死んでいるのだ。宮沢は事件の裏を調べ始めるのだった。

本書は警視庁組対四課の米沢英利というベテラン刑事を主人公とした、コミカルに味付けしてある、いわゆる悪徳警官ものの警察小説です。

ハードボイルドではあるのですが、主人公が冴えない中年刑事であり、決して颯爽とした格好良さはありません。彼は裏社会に幅広いつてを持ち、彼らのトラブル解決の頼みをも金で引き受ける、典型的な悪徳警官なのです。

第二話で、ヤクザの内部にまで調査の手を伸ばすときなども、関東の広域暴力団の印旛会の大物組長である濱田年次など、裏の世界の大物とつながっていることからこの世界で生きていけるという米沢なのです。

しかしながら、かつてはそうではない、情熱に満ちた警官であったようで、その片鱗が少しずつ明らかになっていき、この程度はネタバレにもならないでしょうから書きますが、最後の二話で米沢の過去が明らかになります。

主人公の米沢の存在感があるのはもちろんですが、脇を固めるキャラクターがまた良いのです。米沢英利のかつての部下で現在の上司である、組織犯罪対策課第四課女性管理官の大関芳子警視は、女子プロレスラーも顔負けの体格を有しています。また、米沢の天敵であるのが人事一課の奈良本京香監察官で、いつか米沢を挙げようと狙っているのです。

米沢が苦手とする上司達が共に女性というのも面白く、特に大関警視とのやり取りはコメディとしか言いようがありません。それはまた奈良本監察官との間でも似たような感じではありますが、大関警視とのやり取りは別格です。

このごろのこの作者、深町秋生の作品は先日読んだ『探偵は女手ひとつ』といい、本書といい、実に面白く、エンターテインメント小説として読み応えのある作品が多い気がします。

人情面での優しささえも垣間見せる米沢を主人公とする本書は、新たなヒーローとして続編を期待したい作品でした。

深町 秋生 探偵は女手ひとつ


『果てしなき渇き』で第3回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した深町秋生の、椎名留美という女性を主人公とする、六編からなるハードボイルド連作短編小説集です。

椎名留美は娘とふたり暮らし、山形市で探偵をしている――とはいうものの、仕事のほとんどは便利屋の範疇だ。パチンコ店の並び代行、農家の手伝い、買い物難民と化した高齢者のおつかい、デリヘルの女の子の送迎などなど。シーズンを迎え、連日さくらんぼ農家の手伝いをする留美に、元の上司である警察署長から、さくらんぼ窃盗犯を突き止めて欲しいという、久し振りの探偵らしい依頼が入ったのだが……。(「光文社」公式サイトより)

何といっても本書の特徴は、秋田弁を話すシングルマザーが主人公だということでしょう。全編山形弁での会話が弾み、独特な雰囲気を醸し出しています。

東直己の『探偵・畝原シリーズ』を思い起こさせる、裏社会の闇に飲み込まれて悲惨な目にあっている一般人の救済という趣きを持つローカルなハードボイルドであり、山形弁の心地よいリズムが、描かれているテーマの重さを少しなりとも軽くしています。

椎名留美はかつては刑事であったのですが、現在は私立探偵として開業しています。しかしその実態は便利屋であり、パチンコ店の並び代行、デリヘルの娘の送迎などをしています。

第一話「紅い宝石」では、さくらんぼ農家の収穫の手伝いをしている留美ですが、さくらんぼ窃盗事件について走り回ることになります。その依頼者は留美のかつての上司で、現在は東根警察署の署長なのです。

第二話「昏い追跡」では、留美はスーパーの保安員をしています。今回は、万引き犯の実態を詳しく描写してあり、話は万引きで捕まえた少女の死に隠された謎に迫ることになります。

本シリーズの重要な登場人物の一人である畑中逸平という男も登場するのもこの話です。逸平は留美が現役警察官の頃よく手を焼かされた不良の大物だった男で、このシリーズでも留美のボディーガード兼暴力装置的立場にいます。

第三話「白い崩壊」では、奥州義誠会という暴力団の幹部である石上研から、さらわれたデリヘルを探して欲しいという依頼を受けることになります。女を、金を稼ぐ道具としか考えずまた扱いもしない男たちの世界に飛び込んでいく留美でした。

この石上も本シリーズでちょくちょく顔を出すことになる人物で、留美の裏社会へのつながりの大きな道筋にもなる男です。

第四話「青い育成」では、留美は雪おろしの仕事の依頼者である元クラブのママである一人の老婆の探偵としての依頼を受けることになります。自分の店子である初老の男の元に訪ねてくる女の素性を探るようにとの依頼であり、その先には意外な事情が隠されていました。

一人の老婆の、淡いロマンスを背景に極道社会への暗い道筋が照らし出される物語でした。

第五話「黒い夜会」では、逸平の浮気を疑った逸平の恋女房の麗の依頼で逸平を見張ることになる留美でした。逸平の行動にはホスト業で借金を負わされた友達を助けるという理由はあったのですが、ホスト社会の裏事情も隠されていたのです。

第六話「苦い制裁」では、ストーカー事件の実態が描かれます。一度ストーカー事件を処理した男から、新たなストーカーらしき事案の相談を受けます。しかし、その裏には隠された事実がひそんでいたのです。

本書ではまずは留美のキャラクター造形の上手さが光ります。留美の個人的な事情としては、一人娘がいるシングルマザーであること、過去には刑事であったが現在は探偵業を開業しているものの、実態は便利屋としての仕事の方が多いこと、くらいが判明している事実でしょうか。

そして、向こう見ずな性格でもあり、暴力団事務所であろうと必要であれば乗り込んでいくだけの度胸を持った女性でもあります。しかし一方で、そうした際にはほとんどの場面では逸平なり、警察との繋がりなどを利用した保険を掛けておくことも忘れない慎重さもあるのです。

この手の物語の決まりごとではあるのですが、警察と裏社会とのパイプは欠かせません。留美はその両者を上手く使いながら、事件を解決していくのです。

なかなかに小気味よく、私の感覚にピタリとはまる小説でした。続編が出るのを大いに期待したいと思います。

深町 秋生 猫に知られるなかれ


やっと来月から落ちた瓦の修復に取り掛かれるかも、との連絡がありました。お墓も若干の修復が必要であり、屋根や壁、ブロック塀など合わせると、今後いくら位の見積もりが出てくるものか、頭の痛い日々です。それでも、家屋全壊や半壊のお宅が何件もあることを考えると、少なくて済んだと考えるべきなのでしょう。

さて本書ですが、「果てしなき渇き」で一躍ベストセラー作家になった深町秋生の、その後の活躍の舞台であるバイオレンス路線とはちょっと違う、終戦直後の日本を舞台にしたスパイ小説です。

第一章「蜂と蠍のゲーム」 終戦後の池袋。かつて泥蜂と呼ばれた元憲兵の永倉一馬は、陸軍中野学校出身の藤江から、緒方竹虎らがひそかに設立した諜報機関CATに誘われる。その藤江がまず持ちかけてきたのは、終戦時に起こされた襲撃事件の首謀者と目されている大迫元少佐がGHQのケーディスを狙っているというものだった。

第二章「竜は威徳をもって百獣を伏す」 毒物兵器の青酸ニトリールを持ち出していたらしい登戸研究所の元研究員であった闇医者が渋谷で死んだ。元諜報員の藤江忠吾は元陸軍少将岩畔豪雄(いわくろひでお)のもと、捜査を開始する。

第三章「戦争の犬たちの夕焼け」 戦時中、上海で作った特務機関の活動で大金を得、GHQ右派と組んでいる新垣誠太郎の会社が襲撃された。CATは犯行集団がシベリアに抑留されているはずの関東軍特殊部隊と突き止め、藤江と永倉は捜査に乗り出した。

第四章「猫は時流に従わない」 池袋駅前でGI相手に暴れていた永倉は幼馴染の香田徳次に出会い、今やっている仕事を手伝うように頼まれた。しかし、その仕事というのがどうもあやしいしろものだった。

この作家の、バイオレンス絡みの極道か警察の物語、という一連の流れからするとかなり雰囲気が違います。吉田茂や緒方竹虎なんぞという、戦後すぐの日本に実在した大物がちりばめられたスパイアクション小説なのです。それも、主人公の永倉一馬の活動を中心とし、永倉をスカウトした藤江らと共に日本再生を図る組織の一員となることを了とした男の物語なのです。ただ、スパイアクションとは言っても、諜報戦の側面よりもアクションが主だというのはこの作家ならではでしょうか。

だからと言っていいのか、これまでの深町秋生の小説のような、バイオレンスというスパイスの効いたたたみかけるような場面展開はこれほどのようにはありません。それは一つには、戦後日本を取り巻く政治状況や、闇市などに代表される力強く再生しようとする日本の雰囲気の描写などが入っているからでしょう。

また、本書の構成としては四つの「章」から成ってるのですが、実際は短編と言っても良い四つの物語から成っていることもその一因かもしれません。

それぞれの物語で戦争で負った傷を抱えながら苦しんでいる男たちが出てきます。その一人ひとりが負っている苦しみは永倉と同じであり、たまたま立場が異なるところにいるにすぎないともいえ、そうした男たちの物語でもあります。

本書はもしかしたらシリーズ化されるのかもしれません。本作は舞台設定が大掛かりな割には展開される物語が平板であり、せっかくの舞台が生きていない感じはします。しかし、この作者なら今後面白い物語ができそうだし、そうした作品が出ることを期待したいと思います。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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