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安生 正 レッド・リスト





生存者ゼロ』で、第十一回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した安生正の長編パニック小説です。



十二月五日の午後、虎の門中央病院では続々と劇症疾患を発症した患者が運び込まれていた。大腸感染症や破傷風などの原因の異なる感染症であり、何が起こっているのか、病院のスタッフまでもが生命の危険にさらされていた。

そんな中、対応に追われる厚生労働省健康局の結核感染症課の課長補佐の降旗一郎や国立感染症研究所村山庁舎の都築裕室長らをしり目に、街中で一人の女性がヒルに襲われ死亡するという事件が起きた。しかもヒルの体内から破傷風菌と新種の赤痢菌が見つかったというのだ。

一方、東京メトロこと東京地下鉄株式会社本社の工務企画課長の山口は二人の刑事の訪問を受けていた。刑事からは、多数発生している行方不明事件の被害者の一人の、銀座線の京橋駅でトンネルの奥に何かを見つけてトンネル内に入っていく映像を見せられるのだった。

そしてこの冬、日本は記録的な寒波に襲われることが予想されていた。



「レッドリスト」とは、絶滅のおそれのある野生生物の種のリストです。国際的には国際自然保護連合 (IUCN)が作成しており、国内では、環境省のほか、地方公共団体やNGOなどが作成しています。環境省_レッドリスト : 参照 )



『生存者ゼロ』は若干の期待外れで、『ゼロの迎撃』はそこそこの面白さがあり、三作目の『ゼロの激震』は説明過多という印象を持ったこれまでの安生正作品でした。

そして、本作『レッド・リスト』はこれまで読んだ安生正作品の中では一番期待外れでした。ちなみに、前作『Tの衝撃』は未読です。

勿論、パニック小説として途中で投げ出すほどに面白くないというわけではなく、それなりに楽しめた作品ではあったのです。

しかし、どうも登場人物にリアリティが感じにくい。特に主人公となる降旗一郎が気の弱いエリートという当初の設定にどれほどの意味があるのか、良く分かりません。助言者としての都築裕博士も今ひとつ存在感がないし、何よりもこの手の作品でよく出てくるマッドサイエンティストの村上教授に至っては現実感が全くありません。



一番本書で感情移入できなかったのは、パニックの原因となる生物のありようです。詳しくはネタバレになるので書けませんが、どういう説明があったとしてもリアルな物語としての世界を考えにくいのです。

また、殺人事件としての捜査も、最終的には一本の流れにまとまっていくのですが、そこの描き方も無理を感じ、物語の世界観に浸ることができにくく感じてしまいました。



とまあ、ここまで否定的なことばかり書いてきましたが、これまで挙げてきたこと以外に書くことがないから書いた、というのが正直なところかもしれません。

積極的にこういう理由でこの小説は面白いと胸を張って言うことができないので書きやすい批判的な言葉を連ねてしまった、というところです。



パニックの原因となる事象が実に現実味がある、と言えないとなかなかに感情移入できにくいものだと覆い知らされた作品でもありました。

安生 正 ゼロの激震


一言で言えば、パニック巨編ということになるのでしょうが、これまでのこの作家の作品からすると首をひねらざるを得ない長編小説でした。

金精峠で土砂崩れが起こり、足尾町の人々は原因不明の死を遂げ、富岡では大火災が発生するなど、関東北部では未曾有の大災害が頻発していた。そんな折、元大手ゼネコン技術者の木龍のもとに、奥立という男が訪ねてくる。すべてはマグマ活動にともなう火山性事象が原因で、これ以上の被害を阻止すべく、技術者としての木龍の力を借りたいという。だが、彼の協力もむなしく大噴火は止められず、やがてマグマは東京へと南下していく―。地球規模の危機に技術者たちが挑むパニック・サスペンス巨編!(「BOOK」データベースより)

関東を吹き飛ばすだけのリアリティを持たせるためには、学術的な理論の裏付けが必要だとして小難しい理屈を並べてあるのでしょうが、エンターテインメント小説としてそこまで必要だったかは疑問です。

同様の舞台設定の作品として日本そのものを海の底に沈めてしまった小説があります。小松左京の『日本沈没』です。この作品は本作の上を行く舞台設定ではありましたが、日本が沈むその学問的理由付けは最低限のものでした。読者が日本が沈むという設定を受け入れるに必要最小限のものだったのです。

本書はそうではなく、説明が過多です。代わりに、描かれているべき人間の描写があまりありません。主人公の木龍でさえクライマックスに至るにつれ、陳腐さのみが鼻についてきました。ですから、それまで理詰めで行動しているはずだった香月が破綻した行動を取るなどの不可解な行動も出てきてしまうとしか思えません。

今、日本では『シン・ゴジラ』が大ヒットしているそうです。私はまだ見ていないのですが、この映画の見どころの一つとして政府側の人間の描写がよく描かれているという点があるように聞きました。未曾有の大災害に際してこの国のかじ取りをする人たちを描いてこそ、ゴジラに立ち向かう人間のリアリティが描かれると考えられたのでしょう。

残念ながら本書はそうではありません。行政の動きは背景でしかなく、各大臣はステレオタイプです。この作者のこれまでの作品から、本書もかなりの期待を持って読んだことが裏目に出たようです。ハードルを上げに上げて読み始めたので、その反動は大きなものでした。

蛇足ながら一言。熊本地震を肌で体験した身としては、この手の小説は読みにくいかと思っていましたが、それほどでもなく、わりと客観的に読めたように思えます。私の住んでいる地域でも震度6強もあった熊本地震ですが、あの揺れを体験した後で本書は逆にリアリティを感じなかったのかもしれません。

その後各地で地震が続き、昨日は鳥取県で最大震度6弱という地震がありました。日本各地どこで大きな地震があってもおかしくないこの頃です。タンスの転倒防止など身近なことからでいいです。地震対策は十分に取られるよう願います。

トイレ用に湯船に水をためておくなど、この小さな対策が現実にはなかなり大きな対策なのですよ。

安生 正 ゼロの迎撃

ゼロの迎撃 (「このミス」大賞シリーズ)ゼロの迎撃 (「このミス」大賞シリーズ)
(2014/07/10)
安生 正

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前作の『生存者ゼロ』はパニック小説とても分類できる物語でした。思いもよらない存在による人類に対する危機を未然に防ぐべく感染症学者と陸上自衛官とを中心に活躍する話で、第13回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した作品です。しかし、大賞受賞作ということでハードルを高くして読んだためか、若干期待外れとも言える作品でした。

本作は、日本国憲法9条の解釈及びその解釈に基づく運用が大きく変わろうとしている今の時代背景を見越して書かれたのかもしれませんが、じつにタイムリーな作品と言えると思います。

ある日突然東京の街の真ん中でテロ攻撃が実行され、多数の物的、人的損害が出た。あまりにも虚を突いた攻撃のため、後手に回る政府。防衛庁情報本部情報分析官の真下俊彦三等陸佐は三人の部下と共に正体不明のテロリストに立ち向かう。が、テロリストの緻密な計算の上にたった行動は真下らの読みをも上回り、真下らも後手後手に立たざるを得ないのだった。

前作とは異なってミリタリーサスペンスと言って良いのでしょう。自衛隊の現下の状況を踏まえ、法律論までかなり踏み込んで書かれています。

序盤は正体不明のテロリストに対する政府の姿勢、行動を法律論として展開し、自衛隊出動の法的根拠を探しあぐねる姿が描かれます。その間にもテロリストに対峙している警察は次々と撃破され、死者は増すばかりです。ここで、後に野党らから追及される恐れを考慮し及び腰になる政治家らの姿が描かれるのは、こうした状況を描く小説のいつものパターンだと言っても良いでしょう。本書は法律論の展開がより詳しい点に特色があるかと思います。

そして、主人公に自衛隊の分析官を持ってきているところが新鮮です。ただ、情報分析官が第一線で活躍するわけにはいかないところが弱点で、その代わりとなる部下を配置しているのですが、これはそうしなければならなかった、というところなのでしょう。

テロリストにはテロリストなりの論理があり、それなりの主張が展開されるのが普通ですが、本書ではそうした展開ではなく、ハン大佐という個人の持つ理由を直接の理由としています。冷徹で優秀な軍人であるハン大佐の魅力が本書の見どころの一つと言えるかもしれません。

情報分析官の真下とハン大佐の対決はかなり面白く読むことが出来ました。

個人的には前半の議論の部分は未知の論点もあり、引き込まれて読みました。後半にはアクション満載の展開になるのですが、それはまた前半とは違った展開で手に汗握る面白さがあります。

個人的には前作よりも面白い作品だと思いました。

安生 正 生存者ゼロ

生存者ゼロ (『このミス』大賞シリーズ)生存者ゼロ (『このミス』大賞シリーズ)
(2013/01/10)
安生 正

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北海道の石油採掘基地で職員全員が死んでいるのが発見された。調査に向かった自衛官である主人公廻田は感染症学者の富樫博士と共にウィルスの存在を疑う。次いで北海道のとある町の全滅の方が入るが、感染のルートが分からない。そのうちにとんでもない事実に直面する。

2013年第11回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。

パニック・スリラーという分野は私が好きな分野の一つでもあるので楽しみに読んだ。

しかし、何か今一つのめりこむことができない。

梅原克文の「二重螺旋の悪魔 」や高野和明の「グレイヴディッガー」を読んだ時の様な興奮が感じられないのです。

読んでいる最中から文章が堅く感情移入しにくいと感じていて、更に登場人物設定も不自然さが目についていたし、そちらが気になって落ち着かないのです。ステレオタイプな政治家や鍵を握る学者達の描写も不満が残ります。

勿論、それなりの面白さはあり、ストーリー展開の意外性などは今後に期待は出来る作家さんでしょう。

絶対的な自信を持ってお勧めできる、とまではいかないが、まあ、面白い小説と分類してもいいのではないかと思います。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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