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武内 涼 妖草師


本書の解説で文芸評論家の細谷正充氏は、大きく言えば草木の怪異譚に属すると書いておられます。ただ、本書が妖怪譚ではあっても、いわゆるホラーと呼べるのかは疑問が無いわけではありません。それほどに、いわゆる妖怪ものとは違います。

江戸中期、宝暦の京と江戸に怪異が生じた。数珠屋の隠居が夜ごと憑かれたように東山に向かい、白花の下で自害。紀州藩江戸屋敷では、不思議な蓮が咲くたび人が自死した。はぐれ公家の庭田重奈雄は、この世に災厄をもたらす異界の妖草を刈る妖草師である。隠居も元紀州藩士であることに気づいた重奈雄は、紀州徳川家への恐るべき怨念の存在を知ることに―。新鋭が放つ時代伝奇書下し! (「BOOK」データベースより)

この世ならざる常世の世界に生育する「妖草」なるものを操る妖草師、という設定は、エンターテインメント小説の読み手としては魅力的だと思ってしまいます。

こうした妖術を操る物語を紡ぎだす作家としては山田風太郎がまず挙げられるでしょうし、現代では夢枕獏らがいます。これらの作家の作品は私の好みにも合致し、自信を持って面白いと言える作品でした。

しかしながら、本書は今一つ私の琴線に触れません。登場人物も庭田重奈雄という公家を主人公として、池大雅や曾我蕭伯という実在の画家を配し、共に妖草を退治するのですが、どうもこれらのキャラクタ―の人物像が読み手に迫ってきません。この物語を面白いからお読みなさいと自信を持ってお勧めはできないのです。

しかしながら、そもそも私が本書を読もうと思ったきっかけは、本書が「この時代小説が すごい! 2016年版」で第一位になっていたからです。

つまりは、多くの人が、私がこの頃の時代小説ではベストの面白さだと思っている辻堂魁の『風の市兵衛シリーズ』を三位とし、また同様に私がかなり面白い小説だと思っている金子成人の『付添い屋・六平太シリーズ』を四位としていて、これらの物語よりも本書『妖草師』を面白いと評価しているのです。

残念ながらそうした事実がある以上は私の好みが一般とずれている、ということを認めるしかありません。

ただ、こうした単純に物語世界に浸って話を楽しむ作品にしては、どうしても主人公の重奈雄という人物の描写が今一つピンとこないのです。脇を固める池大雅や曾我蕭伯らについてはさらにそうです。登場人物の書込みが薄く、勿論敵役の無明尼についても、終盤その正体が明らかにされはしますが、やはりよく分からないのです。

ここで、私は夢枕獏の『陰陽師シリーズ』をそれほどには面白いとは感じていなかったことを改めて思い出してしまいます。物語の背景が公家らであるということが共通してはいるものの、そのことが話の面白さに影響あるとも思えません。また、「妖しのもの」などという設定が半端というわけでもなさそうで、結局、何が私の好みに合わなかったのか不明です。

ただ一つ、物語の起伏をあまり感じなかった、との思いはあります。その点が琴線に触れなかった理由なのかもしれません。

本書には続編も出ていますが、読もうかどうか迷っています。続編では私の好みに合致する仕上がりをみせていればいいのですが。

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(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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