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木内 一裕 デッドボール


テンポが良い文体が特徴の一つでもある木内一裕という作家の、一種遊び心満載と言ってもよさそうな、痛快(青春?)(アクション?)小説です。

何をやってもうまくいかず、自棄になっていたノボルは、1000万円という金に惹かれ、絶対に怪我をさせない約束で誘拐に手を貸すことになった。ところが、約束の場所に金を持った人間は現れず、翌日、自分らは殺人事件の犯人になっていた。

ノボルという律義さだけが取り柄だという主人公と、佐藤というノボルを犯罪に引きずり込んだ男、そして被害者宅の弁護士である成宮弁護士とその愛人の愛美(まなみ)、本書は殆どこの四人で成立しています。

本書はプロローグとエピソード、それに四つの章から成っているのですが、基本的には章ごとに、厳密には同じ章の中でも、随時視点が切り替わっています。そして同じ場面を異なる人物の視点で見るという、面白い構成です。

とにかく場面転換が早く、登場人物の立ち位置がコロコロと変わります。短めの文章をたたみ掛けるように注いでくる書き方は、全体の構成とも相まって、実に映画的との印象を持ちました。

木内一裕という作家の特徴の一つに、ジェットコースター的な疾走感が挙げられますが、本書もその特徴から外れていません。ただ、『藁の楯』や『水の中の犬』のようなバイオレンスの要素はありません。一種のコンゲームと言えるでしょう。

とにかく、単純に物語の世界に乗っかって楽しむ、そういう本です。

木内 一裕 バードドッグ

バードドッグバードドッグ
(2014/07/30)
木内 一裕

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この作家の作品はどんどん読みやすくなっている感じがします。

本書のシリーズ第一作目『水の中の犬』は別人が主人公で、本書に比べると少々暗いトーンで進行する物語でした。そこでの登場人物の一人だった男がその後の主人公の立場を引き継いだのが元ヤクザ矢能政男を主人公とする本シリーズです。前作の『アウト & アウト』からはコミカルな雰囲気をも漂わせながらも、こわもてのヤクザが主人公らしい暴力的な雰囲気を漂わせています。しかし、第一作のような暗さはなく、どちらかと言えば能天気で、栞との会話が実に微笑ましいのです。

矢能政男は自身の渡世上の親である笹川健三の兄弟分で、日本最大のやくざ組織菱口組の実力者でもあり唯一都内に本部事務所を構える二木善治郎から呼び出しを受けた。二次団体である燦宮会の理事長になる筈だった佐村組組長が行方不明だという。極秘の調査を進める必要があるものの、理事長の座をめぐる内部のごたごたのため内部の者では調査できず、かと言って外部にも漏らせない。そこで矢能のもとに依頼が来たのだった。

悪漢が主人公の小説と言えば大藪春彦や馳星周、楡周平らが思い浮かびます。それらの作品と比べると、本書やこの本の後に読んでいる黒川博行の『疫病神』などをそれらの作品と同様に考えて良いものか若干の疑問が残ります。というのも、本書の主人公は元ヤクザであり主人公が悪(ワル)ではあるのだけれど、その内実は栞という存在を出すまでも無くキャラクターの面白さが勝ったエンタメ小説だと思うからです。

馳星周らの小説は悪と定義される主人公の活躍を通してある種今の社会への抵抗とでも言って良いような主張を感じるのですが、本書はそこまでの背景は感じられません。どちらかと言えば浅田次郎の『きんぴかシリーズ』にも似て、エンタメに徹していると言えそうです。勿論馳星周らの作品もエンターテインメント小説であることには違いはないのですが、読後の印象が異なります。

本書は実に軽く読めます。徹底した強面ではありながら、内面の優しさが表に現れることを潔しとしない矢能の振舞いは読んでいて微笑ましいと感じます。人によってはこの点こそが疵だという人もいるかもしれませんが、私はこのような描写こそが心を掴まれるのです。

この作家は『喧嘩猿』という森の石松らが活躍する侠客ものとも言える面白い作品があります。続編が出ないものか、期待しているのです。

木内 一裕 水の中の犬

水の中の犬 (講談社文庫)水の中の犬 (講談社文庫)
(2010/08/12)
木内 一裕

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漫画「ビーバップハイスクール」のきうちかずひろ氏です。三年程前に一度読んだのですが、気になり、再度読み返してみました。

あの漫画と違い本作は実に暗いハードボイルドです。

主人公は探偵。その探偵のもとに恋人の弟にレイプされ、自分の女になれと脅されているという女性依頼者がやってきた。依頼の内容は本人も良く分かっていないようで、その弟から逃げ且つ恋人にも知られたくないと言うのだ。答えようのない質問に、探偵は解決策を考えてみようと、その依頼を受ける。他では引受けないような依頼を受けてくれるその探偵には、実は隠された過去があった。

第一話「取るに足らない事件」はこのように始まり、第二話「死ぬ迄にやっておくべき二つの事」、第三話「ヨハネスからの手紙」という関連する三つの短編で構成されています。が、一つの物語といった方が良いかもしれません。

勿論ハードボイルドと言って良いのでしょう。主人公はただひたすらに依頼者のために行動します。そして、立ち上がれない程叩きのめされるのですが、かつて刑事時代の後輩や情報屋という仲間らしき人間の助けで動き回るのです。

もう一人、矢能というやくざがいます。妙に心を通わせる重要なキャラクターです。

三篇とも人探しそのものは前述の後輩と情報屋からもたらされる情報で時間をかけずに見つかります。救いのない物語はそこから展開するのです。

漫画的といえばそうかも知れませんが、かなり面白く読むことができました。

続編として、矢能を主人公とした物語「アウト&アウト」が出ています。

木内 一裕 喧嘩猿

喧嘩猿喧嘩猿
(2013/07/27)
木内 一裕

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皆が知っている、いや、今は知らない人も多いかもしれない「森の石松」の、この作者なりの物語。

活字が古い漢字を使ってあり、それに丁寧にルビを振ってある。当初はそれが少々わずらわしく感じた。しかし、読み進むにつれ、邪魔な感じは無くなり、講談調を目論んだであろう著者の狙いにはまった気がする。

これまで見聞きした森の石松、黒駒の勝蔵、武居の吃安といった連中が漢(おとこ)として生き生きと活躍しているではないか。石松もまだまだ通り一遍のワルガキでしか無く、一巻で終わってしまうには惜しく、もう少し木内版石松を読んでみたい気がした。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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