FC2ブログ

奥田 英朗 イン・ザ・プール


何とも形容のしようのない一冊で、ある精神科医を軸に、様々な神経症の患者を主人公にした短編集です。

全部で五編の物語からなります。 「イン・ザ・プール」は大森和雄という出版社勤務のサラリーマンが主人公で、プール依存症。 「勃ちっぱなし」も田口哲也というサラリーマンをメインに、なんと陰茎強直症。 「コンパニオン」は安川広美という自意識過剰なイベントコンパニオンが主人公で、妄想癖。 「フレンズ」は津田雄太という高校2年生が主人公で、携帯電話依存症。 「いてもたっても」は、岩村義雄というルポライターが主人公で、強迫神経症。

以上のように、それぞれに強度の神経症を病んだ人物が、ある神経科医を訪れ、その医者に振り回されつつも、何故か問題の神経症は治癒していく物語です。この神経科医が問題で、この医者の方が精神的に病んでいるのではないかと思うほどの人物です。

そしてもう一人、この医者のもとにはマユミちゃんという名の妙に色気のある美人看護婦がおり、この看護婦(いまなら看護師でしょうか)についての説明は全くありません。

「伊良部総合病院」の地下一階にある神経科では、いつも「いらっしゃーい。」という甲高い声で患者を迎える伊良部医師とこの看護婦とが患者を迎え、そして決まって注射をするのです。

そもそもこの作品はどのように読めばいいのか、そういうことすら考えさせられてしまう、今までには無い「妙な」という印象が一番合う、そんな作品でした。深読みしようと思えばどこまでも深読みできます。

一番目の物語の「イン・ザ・プール」は、そもそも患者が不定愁訴というストレス性の体調不良からこの神経科を訪れたのです。その上でストレス解消にと泳ぎ始めたところ、そのあまりの心地よさに水泳という行為から抜けることが出来なくなるどころか、次第にエスカレートしていくというお話です。現代のストレス社会における心の持ちようを面白おかしく描き出している、とも読めます。

深読みと言えば、四作目の「フレンズ」などは現代の携帯電話全盛の時代に一番フィットする物語です。人とのつながりをメールを介した言葉でしか確認できない高校生の日常を、面白おかしく、それでいて哀しみすら漂わせ描き出しています。

他の短編にしても、中心となる人物が社会の中で神経を病んでいく、若しくは病んでいる物語です。当然社会との関連の中で評価することになりますし、そもそも社会の中での病める人間を描いているのですから問題は社会との絡みになっていくでしょう。

しかし、個人的にはそういう理屈ではなく、単に変な医師の変な行動に振り回される人間の面白さを楽しめばいいのではないかと思っています。そして、その裏に隠されているであろう社会との関わり方を、何となくでも感じ取っていければ十分なのではないでしょうか。

プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR