石田 衣良 憎悪のパレード 池袋ウエストゲートパークXI


池袋ウエストゲートパークシリーズの第十一弾の連作短編小説集です。

「北口スモークタワー」
池袋のJR北口近くにあると言うスモークタワーというペンシルビルを舞台にした、脱法ドラッグにまつわる物語。ある日の夕方、池袋の王さま安藤崇が一人の女の子を連れてきた。スモークタワーの裏で段ボールに火をつけようとしていたという。
「ギャンブラーズ・ゴールド」
今回は、池袋のとあるパチンコ店からの、イカサマされているようだが分からないので調べて欲しい、との依頼を受けたGボーイズの手伝いだ。
「西池袋ノマドトラップ」
ノマドワーカーのためのフリースペースの「ザ・ストリーム」で紹介されたのはレオンというワーカーで、そのとき、目白のコワーキング・スペースでいやがらせがあったと聞いた。翌日、今度はタカシが「ザ・ストリーム」が襲撃され、オーナーから相談を受けたと言ってきた。
「憎悪のパレード」
「中国人は池袋から出ていけ!」との憎しみの言葉が聞こえてきた。叫んでいるのは略称「中排会」という団体。今回のGボーイズの仕事の依頼主は、平和主義で反ヘイト団体の「ヘ民会」であり、そこからの分派である武闘派「レッドネックス」の襲撃から「中排会」を守るというのが仕事だった。

「池袋のマジマ・マコトも、もう二十代後半になった。あとからやってくる世代はいつだって謎である。」として、これまでの若者の一員だったマジママコトから、少々年代を経た、「おじさん」に手の届きかけたマコトの視点になった、新しい池袋ウエストゲートパークの物語です。

でもこのシリーズの構成は今までと変わっていません。池袋で起きる、その時代のトピカルな出来事をマコトが、そして池袋のキングであるタカシが解決していきます。

本書では一話から三話において語られる脱法ドラッグや、パチンコ依存症、そしてノマドワーカーの問題もさることながら、やはり第四話目の「ヘイト・スピーチ」の問題がインパクトが強いですね。

この点について著者自らが言っている、「日本人がもつ“正義のスイッチ”って恐ろし」さ、その人が正義と思う事柄の押しつけ( 週プレNEWS : 参照 )については全く同感で、個人の客観的な視点の大切さを見失わないようにしなければと思います。

また、個人的には、作者について本書の書評「本の話WEB」に書いてあったことが印象的でした。それは、

テーマだけを見ると、最近話題になったニュースが多いなと思われるかもしれませんが、実は雑誌連載中は事件化しておらず、後に大きな話題になったものがほとんどです。

ということです。つまりは、作者の「時代の先を見透す目」が素晴らしいということでしょう。単に同時代性ということではないんですね。

本書は、描かれているテーマの時代性もさることながら、単にエンターテインメントとして見ても、軽めのハードボイルドとして非常に読みやすく面白い作品です。再開したこのシリーズをまたゆっくりと楽しみたいいと思います。

石田 衣良 キング誕生 池袋ウエストゲートパーク青春篇


今をときめく宮藤官九郎の脚本で、TOKIOの長瀬智也を主人公としてテレビドラマ化されて人気を得た「池袋ウエストゲートパーク(IWGP)」シリーズの番外編です。池袋のキングこと安藤崇(通称タカシ)の誕生秘話が、いつもの通り主人公である真島誠(通称マコト)の語りで記されます。

高校生であるマコトとタカシは、ハシヅメという男がリーダーの「オレオレ詐欺」の一員に誘われるが一日だけ通って辞めてしまう。そのことがタカシの兄貴で池袋のボスと言われているタケルの怪我の原因となり、その結果、池袋を狙っていた埼玉のギャングたちに付け入る隙を与えることになってしまう。

このシリーズは、どの作品もその時代の社会問題をタイムリーに拾い出し、上手く物語の中に組み込んで物語として仕上げてあるのですが、本書の場合、いつものパターンとは外れ、本編で強烈な印象を残しているGボーイズのキングであるタカシがいかにしてキングになったのかが描かれています。と同時に、マコトとタカシの青春記にもなっているのです。

生徒の三分の一が学校をドロップアウトするという不良の名門校である都立豊島工業高校に通う十七歳。ただ、ボクシング部は強くて、インターハイ準優勝を誇っています。タカシの兄貴はそのボクシング部の主将であり、ライト級で高校総体二位という実力を誇っていて、数十もあった池袋のチーマーどもを一つにまとめようとしていたのです。

そういう兄貴を横目に、群れを為すのが嫌いなタカシはマコトとつるんで日々を送っていたのですが、ある日高校の同級生に誘われてオレオレ詐欺のグループに興味本位で近づいてしまいます。そのグループをまとめていたのがハシヅメと名乗る男であり、一日だけ顔を出し辞めてしまった二人の落とし前を兄貴のタケルに取らせようとし、そのためにタケルは足首に怪我をしてしまいます。その後、埼玉のチーマーのグループが新宿を制覇し、池袋にやってこようとし、タケルと衝突をするのです。

コミックで言うと、クローズのような不良ものと言えます。いや、より近いのは渋谷のチーマーたちの争いを描いた山本隆一郎の『サムライソルジャー』に近いかもしれません。もっとも、シリーズの本編はチーマーの物語ではなく、タカシを主人公とした社会性を持ったプチハードボイルド仕様と言える物語なのですが、本書は、池袋のキングの物語ですので、より漫画チックと言えます。

ですから、本書に登場するチーマーたちの行いについての社会の制裁は無きにひとしく、マコトやタカシの親らを除いて大人たちはほとんど登場しません。単純に本編の物語から社会性を抜き去り、それでいて若干の感傷と郷愁すら感じさせる青春記として仕上げられた作品です。

本編も読みやすく、かなりの面白さを持ったシリーズですが、番外編としての本作品も単純に楽しめる作品として仕上がっていると感じました。やはりこの作家は職人的な上手さがあります。作品によって物語としての面白さ、小説としての深さを慈愛にしている印象があります。そして、本作品は軽く、少しの感傷とで成り立っている物語でした。

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(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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