竹本 健司 涙香迷宮


前提知識なしに読んでみたら、若干のゲーム性を帯びてはいるものの本格派の推理小説でした。

明治の傑物・黒岩涙香が残した最高難度の暗号に挑むのはIQ208の天才囲碁棋士・牧場智久!いろは四十八文字を一度ずつ、すべて使って作る日本語の技巧と遊戯性を極めた「いろは歌」四十八首が挑戦状。 (「BOOK」データベースより)

冒頭から探偵役の牧場智久やその恋人である武藤類子について何らの説明もなかったので驚いたのですが、ミステリーの世界では既に高名な作者であり、牧場智久を探偵役とする作品も多数出版されていて、私が無知なだけでした。

このブログでも何度か書いたように、私は本格ものが苦手です。トリックやロジックが重視されていて人間ドラマが無いと言ってもいい本格ものは頭が痛くなるばかりです。本書もやはり同様で、何度か途中で止めようかと思ったほどでした。

タイトルにもなっている「涙香」とは黒岩涙香のことであり、本名を黒岩周六という実在の人物です。翻訳家、作家、記者として活動し、「よろず重宝」の意味をかけた『萬朝報(よろずちょうほう)』を創刊した人物として知られています。スキャンダル報道で人気を得て部数を伸ばし、その後幸徳秋水、内村鑑三、堺利彦らといったインテリに参画を求めていったとも言います。

「翻案」家として人気があり、「原書を読んで筋を理解したうえで一から文章を創作していた」そうです。ヴェルヌの『月世界旅行』やデュマの『巌窟王』、そして『鉄火面』の翻案者でもあるということには驚きました。他にもこの本もという作品が多数あります。また「五目並べ」を「連珠」と命名し競技として発展させ、競技かるたのルールを全国で統一した人でもあります(以上ウィキペディア : 参照)。

この人物がこれまた遊戯に関して万能な人らしく、ビリヤードもトップクラスの腕前であり、都々逸もしかりというのですから驚きです。

この黒岩涙香という人物の多才さに目をつけ、この人物がいろは四十八文字を一度ずつ、すべて使って作る「いろは歌」に挑戦し、暗号を残したという設定で書かれている本書ですが、本書に紹介されている「いろは歌」だけでも数十首を越えます。結局、これは作者が自ら考案したものであり、その才こそ驚異です。

実際は読んでもらうしかないとしても、この「いろは歌」に関する仕掛けだけでもすごいのですが、他にも連珠に関した考案など、この道が好きな人にはたまらないだろう、という一冊となっています。

ただ、ミステリーとしては首をひねらざるを得ません。黒岩涙香という人物が残した隠れ家という本格ものにつきものの外界から断絶された状況設定はまあ百歩譲るとしても、冒頭に謎として提示されている殺人事件や、隠れ家で起きた殺人未遂事件は、黒岩涙香の隠れ家にまつわる謎のつけ足しとしか感じられないものでした。

他のレビューを読んでも、ミステリとしての評価はあまり高くないようです。

しかし、繰り返しますが、黒岩涙香に関して書かれている事柄は驚異としか言えず、「いろは歌」に関しては何も言えません。ネット上には自作の「いろは歌」が無数に転がっているとも聞きますが、それはともかく、この作家の「言葉」に限らない、いろいろな遊戯感覚の遊び心は一度はまると抜けられないでしょうね。

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