村山 早紀 百貨の魔法




『桜風堂ものがたり』で2017年本屋大賞にノミネートされた村山早紀による、また2018年本屋大賞にノミネートされたファンタジー小説です。

第一幕「空を泳ぐ鯨」
第二幕「シンデレラの階段」
第三幕「夏の木馬」
第四幕「精霊の鏡」
幕 間
終幕「百貨の魔法」


本作の舞台は『桜風堂ものがたり』で主人公が勤務していた銀河堂書店が入っている百貨店で、その名を星野百貨店といいます。本書の著者自身によるあとがきにも、本書は『桜風堂ものがたり』の姉妹作だと書いてあるように舞台が共通しているのです。

ただ、舞台が共通しているというだけで、本書はよりファンタジー色が強い作品です。本書は、星野百貨店で繰り広げられる、魔法の猫のもたらす奇蹟の話であり、こうした物語を好む人たちにはとても心あたたまる物語なのだろうと思える作品です。

一言で言えば、パステルカラーで彩られたファンタジーであり、とにかく善い人しか出てきません。エロスも暴力も、もちろん怒声すらもかけらも無く、ひたすら人の善意に満ち溢れ、その末の奇蹟のオンパレードです。

言うまでもなく好みの問題ではあるのですが、さすがにここまでくると少々辟易したのも事実です。

同じファンタジーでも、『桜風堂ものがたり』のときは主人公と目される月原一整の夢の実現に向けての努力があり、まわりの人の支えが描かれていて、それはそれなりに感動的な物語として受け入れることができました。

しかしながら本作品の場合、単純に奇蹟の物語です。登場人物の現在に至るまでの涙や苦労などが説明として描かれてはいるものの、物語としての背景説明でしかありません。

本書がファンタジーとして書かれており、作者の百貨店に対する考えが一定の意図のもとに構築されている物語なので、それはそれとして別に否定するつもりもないのですが、私の好みとは違うというだけのことですね。

これまでも他に本書同様の夢物語の話も読んでは来ているのですが、それらはある程度の現実感の上に立ったファンタジーでした。現実とは乖離している内容であったにしても、それはその世界観内での現実の上に成立していた物語でした。本書とは、よって立つ基本がちがうように思えます。物語の基礎が地についているか否かの差のような気がするのです。

第一幕「空を泳ぐ鯨」のエレベーターガールの松浦いさなと、第三幕「夏の木馬」の別館宝飾品フロアの佐藤健吾は、父や母に捨てられた過去があり、第二幕「シンデレラの階段」の地下一階にある百田靴店の咲子と、この物語全体の中心となるコンシェルジェの芹沢結子は、かなえられなかった夢があります。

その他の登場人物もそれぞれに今を生きており、秘めた思い、願いを持っていて暮らしていますが、その暮らしの中で有する小さな夢の実現を星野百貨店の猫に託した物語であり、それだけの物語でした。

村山 早紀 桜風堂ものがたり


本書は、本が好きな人のために書かれたような、書店員が主人公の長編小説で、2017年の本屋大賞ノミネート作品です。

万引き事件がきっかけで、長年勤めた書店を辞めることになった青年。しかしある町で訪れた書店で、彼に思いがけない出会いが…。田舎町の書店の心温まる奇跡。(「BOOK」データベースより)

読み始めてすぐに、夏川草介の『神様のカルテ』を思い出してしまいました。それほどに文章のタッチが似ているのです。主人公は、特別漱石にかぶれているわけでも、古風な口調でもありません。しかし、その描写される優しげな人柄なのか(もしかしたらそのネーミングのせいか)、私のイメージはすぐに栗原一止に結びつきました。

本書の主人公月原一整は、人付き合いの下手な、しかし本が好きで「新刊はもとより、既刊からも売れる本を見つけ出」す名人であり、店長の柳田からは「宝探しの月原」と呼ばれるほどの人です。

この一整が、彼の勤務する銀河堂書店での万引き事件に絡み、ネットを中心とする心ない中傷などのために銀河堂書店をやめざるを得なくなってしまいます。その時に救いの手を差し伸べてくれたのが、一整がかねてからブログを中心に交流のあった桜野町の桜風堂という書店の店主だったのです。

こうして一整の新たな生活が始まるのですが、この物語には一整が勤めることになる桜風堂書店の物語とは別に、「4月の魚」という本の話が語られています。一整が銀河堂書店をやめる前に出会い、この本は売れる、売らなければならないと感じた本。この本が書店員たちの努力によって、世の中に知られていくようになる話です。

本がどのように売られているのかの仕組みについて、書店員の書棚の整理や手作りのPOP(ポップ:購買意欲を高めるための広告手段)の作成などを通じてお客の目にどのように情報を届けるのかなどの情報も語られています。

本書で一整が書店をやめざるを得なくなった原因でもある、書店での「万引き」事件については、これまでもいろいろな場所で見聞きしてきました。基本的に薄利である書店の本を盗む行為がどのような意味を持っているのか、物語としては、有川浩氏の『三匹のおっさん』の中でも触れられていました。そこでは被害書店の店主の言葉を借りて、具体的な数値を挙げた被害状況の説明があり、それは説得力のあるものでした。

本書での万引きについての文章も、それに劣らないものがあります。万引きという行為の、単なる卑劣な行為というにとどまらない実態を知らしめてくれるものだと思います。

この「万引き」についての描写もそうですが、なによりも、本書は、本が好きだというその心が読者に響くものでした。

勿論、物語の流れの中で「偶然」による人物のつながりが見えるところなど、不満点ももちろんあります。しかし、この小説の持つ物語の暖かさは、そうした私の不満をも軽く越えてしまっていました。

その点でも本書はある種のファンタジーとも言える物語です。それは著者も言うように、現実にはあり得ない物語、という意味でもそうですが、個人的には、「本」が好きな人のその思いが如実に表れた物語という意味でそうなのです。

プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR