三上 延 ビブリア古書堂の事件手帖 7 ~栞子さんと果てない舞台~


「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの第七作目です。

プロローグ
第一話 「歓び以外の思いは」
第二話 「わたしはわたしではない」
第三話 「覚悟がすべて」
エピローグ

今回はシェークスピアの作品がテーマとなっています。

各タイトルは、第一章は「ヴェニスの商人」。第二章は『十二夜』や『オセロ』。第三章は、『ハムレット』の名台詞だそうです。

第一章では、老獪な道具商である吉原喜一という男が登場し、栞子さんの弱みに付け込んで、太宰治の『晩年』を八百万円という法外な値段で売りつけます。

この章では、吉原が置いていったシェイクスピアの『人肉質入裁判』、つまりは『ヴェニスの商人』の古書の話が絡み、更に吉原が明かした栞子さんら姉妹の祖父、祖母についての新たな事実などの話が錯綜しています。

その後、第二章では、シェークスピアの戯曲を集めた最初の作品集であるファースト・フォリオの話が展開され、その複製本であるファクシミリの話へと広がります。

そして第三章に至り、赤、白、青の三冊のファクシミリが競りにかけられ、栞子さんと智恵子、それに仕掛け人である吉原との対決の場面が繰り広げられるのです。

次第にシリーズへの関心が薄くなってきたこのシリーズですが、それは、このシリーズをきちんと読みこむためには、提示されている古書に関しての知識を丁寧に消化していかなければ、このシリーズの物語が理解できず、つまりは面白さも分からないことによるものでした。

結局、読み手である私の問題だったようです。

また、古書に関する知識の深さもさることながら、本シリーズの場合、登場人物の多さと、その人物間のつながりもまた複雑だったのです。

本書の冒頭、タイトル頁の次の見開きには「主な登場人物」と「相関図」とが載せられています。この相関図を見てさえ、登場人物相互の関連はすぐには理解できませんでした。加えて、この相関図に出てくる人物以外の登場人物もこの相関図に絡んでくるので話はさらに複雑になってきます。

本当は、第七巻まで読んでやっと大まかな登場人物相互の関係がつかめてきたところですので、これから再度一巻から読みなおせば、一段とこのシリーズの面白さが増していることと思います。

本書の場合は、これまでのシリーズとは異なり、ファクシミリの競りという明確なイベントがありました。この競りにむけて本書での話が展開してきたのであり、また、この競りの様子がかなり読み応えのある、サスペンスに満ちた展開となっています。

予想外と言っては失礼ですが、本書に至り、シリーズの面白さを再認識しました。

母親千恵子という人物についてもう少し書いて欲しかった、などという印象はありますが、そこらは、著者自身のあとがきで「登場人物たちの前日譚や後日譚」を考えているということですので、そちらで書いてくれることを期待したいと思います。

「本(古書)」が好きな人のための物語として、ユニークな地位を占めるシリーズだと思います。トータルとして面白い作品でした。

三上 延 ビブリア古書堂の事件手帖 (6) ~栞子さんと巡るさだめ~


「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの第六作目です。

プロローグ
第一話 『走れメロス』
第二話 『駆込み訴へ』
第三話 『晩年』
エピローグ

このシリーズを読み進むにつれ、次第に関心を失っていく自分が分かります。シリーズ当初に感じた古書に関する多くの豆知識と共に、主人公の栞さんと五浦大輔青年との関係、栞さんの家族、特に母親である篠川智恵子の持つ秘密など、なかなかに惹きつけられて読み進めたものでした。

しかしながら、一つには謎が古書関連に限られていることもあってか、物語の状況設定が似てくることもあり、関心を持続させることが困難になってきました。

また、本書は太宰治のみを取り上げ、太宰関連の書籍にまつわる謎を追いかけています。しかし、私個人が太宰を全くと言っていいほどに読んでいないためもあり、謎の対象に思い入れを持てないという点も関心を持ちにくい大きな理由かとも思いました。

しかし、これまでのシリーズの中でも全く知らない作家の本についての謎もそれなりの面白さを持って読んでいることを考えると、やはり対象作家だけの問題ではなさそうです。

ひとつには、登場人物が多く、人間関係を把握するのが難しい、という点もあると思われます。本書での太宰関連の古書には、栞子さんや五浦大輔の祖父母、そのほかの人物らという多くの登場人物が関わってきており、その関係性を理解するだけでも苦労します。

本来であれば、シリーズ第一巻目で登場し、栞子さんに重傷を負わせた田中敏雄が再び登場し、そこでも問題になった太宰の『晩年』の初版本がまた謎を読んだりと、それなりに興味を持てそうな展開の筈なのです。

でも、今ひとつ物語世界に入れません。

ともあれ、このシリーズも余すところあと一巻のみです。最後まで読みとおすつもりではいます。

三上 延 ビブリア古書堂の事件手帖 5 ~栞子さんと繋がりの時~


「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの第五作目です。

プロローグ リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』(新潮文庫)
第一話  『彷書月刊』(弘隆社・彷徨舎)
断章Ⅰ 小山清『落穂拾い・聖アンデルセン』(新潮文庫)
第二話 手塚治虫『ブラック・ジャック』(秋田書店)
断章Ⅱ 小沼丹『黒いハンカチ』(創元推理文庫)
第三話 寺山修司『われに五月を』(作品社)
断章Ⅲ 木津豊太郎『詩集 普通の鶏』(書肆季節社)
エピローグ リチャード・ブローティガン『愛のゆくえ』(新潮文庫)

本書はこれまでの各巻の構成とは若干異なり、各章建ての間に「断章」を設けてあります。

「断章Ⅰ」の小山清『落穂拾い・聖アンデルセン』とは第一巻で出てきた作品でした。

第一話は『彷書月刊』の逸話を通して見たとある夫婦の物語でしたが、一応の解決を見ました。しかし、真の解決は別にあり、それをここ「断章Ⅰ」で、おなじみの登場人物であるセドリの志田さん目線で示してあります。

第二話では、私もよく知っている手塚治虫の『ブラック・ジャック』がテーマですが、手塚治虫らしい逸話の数々に、やはり引き込まれてしまいました。普通に読んでいた漫画の背景にこんな物語が隠されていたとは驚きです。

そうした逸話がもとになっての第二話ですが、それが家族の物語として組み立てられていることにまた驚かされました。若干、前に出てきた話と似ているという印象もありましたが、そうした点よりも、読み心地の良い物語との印象が強く、面白く読むことができました。

そして「断章Ⅱ」は、今度は滝野蓮杖の妹のリュウによる語りで、栞子さんと母親千恵子との関係性がまた一つ進みます。

第三章の寺山修司も私たちの世代ではよく知られた人物であり、若者に大きな影響を与えた人物です。私はこの人の本は読んだことはなく、演劇も知りません。しかし、名前だけはよく知っています。問題となっている『われに五月を』も勿論読んではいません。

この第三章では、かつて栞子さんに多大な迷惑をかけたという門野澄夫という人物が登場し、、再び栞子さんをトラブルに巻き込みます。とはいえ、若干の感傷が入っている心地はあるのですが、読み終えて不快感も無く、それなりに楽しめる物語でした。

何よりも、千恵子と栞子さんとの関係性がより明確になり、栞子さんと五浦大輔との間の関係もはっきりとしてきます。また、栞子さんに傷を負わせた張本人である田中敏雄が再び登場し、続編を読まなければならない、実に気になる終わり方をしています。作者の思い通りになっている私がいました。

そして、エピローグ。ここにも驚きの仕掛けがありました。プロローグと併せて読者をトリックの罠にきちんと陥れてくれています。実を言えば、エピローグを読んで、変な終わり方だとの印象しかもたなかった私ですが、読後にネットで見ていて初めてここでの仕掛けに気付いた次第です。

私が如何に表面的にしか小説を読んでいないか、と思い知らされた仕掛けでもありました。

ともあれ、このシリーズも後二巻を残すだけとなりました。思いのほかに入りこんでしまった私ですが、書物のトリビアもあり、読みやすい文体も相まってなかなかに掘り出しものではありました。

三上 延 ビブリア古書堂の事件手帖 4 ~栞子さんと二つの顔~


「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの第四作目です。

本書で紹介される書物は以下の通りで、本書はシリーズ初の長編ものとなっています。そして全編を江戸川乱歩の作品群で彩られていて、各章のタイトルも江戸川乱歩の作品名になっています。

プロローグ
第一章  『孤島の鬼』
第二章  『少年探偵団』
第三章  『押絵と旅する男』
エピローグ

シリーズも中盤となり、前作で感じた栞子さんの母親智恵子さんの影、というよりも本人がはっきりと登場してきており、シリーズ全体を通して物語を引っ張る謎の存在として、明確にその存在を主張するようになっています。

私の江戸川乱歩作品の読書歴は、ホームズやルパンを読みふけったあと、日本の探偵ものとして名探偵明智小五郎を読んでいます。その後、「少年探偵団」シリーズを読んで、小林少年や明智小五郎と怪人二十面相との対決を胸躍らせながら読んだ記憶があります。

そのほかに『屋根裏の散歩者』とか『黄金仮面』など、子供が読めるようにした作品があったと思うのですが定かではありません。実際、読んだ本のタイトルはほとんど覚えていないのです。

そうした、幼い頃の読書経験ですから勿論読んだ本の内容までは覚えていません。それでも、提示される書名にかつてを思い出しながら、読ませてもらいました。

江戸川乱歩という名前が、アメリカの作家エドガー・アラン・ポオに由来すると知ったのもかなり早い時期だったと思います。

本書はかつてのビブリア古書堂の顧客であった鹿山明の相続人である来城慶子からの、金庫を開けてくれたら鹿山明から相続した江戸川乱歩のコレクションをビブリア古書堂に売ってくれるというものでした。

来城慶子は鹿山明の愛人であり、本妻とは決して仲が良くないうえに、金庫の鍵や暗証番号などは本妻の家にあるというものでした。

そこで、栞子さんと五浦大輔とは本妻の家に向かうのです。

この金庫を開けるために江戸川乱歩関係の知識をふんだんに駆使し、鍵のありかや暗証番号を類推する様子は、いつもながらこのシリーズの魅力です。

また、栞子さんの母親の千恵子の存在の重要性が明確になってきました。本書の重要な登場人物ごとに千恵子の影が見え隠れし、本書で語られるそれぞれの物語の背後にも千恵子の意思が感じられるのです。

そしてもう一点。五浦大輔の栞子さんに対する恋心をはっきりとさせる時期が来たようです。その上で、栞子さんの母親千恵子と五浦大輔と、そして栞子の三様のあり方を結構面白く読むことができています。

ただ、難を言えば、少々ミステリーとしての興味が薄れているのも事実です。これは全くの読み手の問題であり、我儘ではあるのですが、古書に関する豊富な知識を前提としての物語は、これだけ続くと少々方向性に変化があっても良いのではないか、と思ってしまうのです。

とはいえ、物語として読みやすく面白い作品ではあり、残り三冊を読んでしまおうとは思っています。

三上 延 ビブリア古書堂の事件手帖 3


「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの第三作目です。

鎌倉の片隅にあるビブリア古書堂は、その佇まいに似合わず様々な客が訪れる。すっかり常連の賑やかなあの人や、困惑するような珍客も。人々は懐かしい本に想いを込める。それらは予期せぬ人と人の絆を表出させることも。美しき女店主は頁をめくるように、古書に秘められたその「言葉」を読みとっていく。彼女と無骨な青年店員が、その妙なる絆を目の当たりにしたとき思うのは?絆はとても近いところにもあるのかもしれない―。これは“古書と絆”の物語。

あいも変わらずの書物への愛情を感じさせてくれる一冊です。

本書の簡単な構成は、

プロローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)I
第一話 ロバート・F・ヤング『たんぽぽ娘』(集英社文庫)
第二話 『タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの』
第三話 宮澤賢治『春と修羅』(關根書店)
エピローグ 『王さまのみみはロバのみみ』(ポプラ社)II

となっています。

本書では、特に篠川栞子さんの失踪している母親篠川智恵子さんの隠された秘密が少しづつ明らかにされていきます。というよりも母親に関する謎がより深まったというほうが正確であり、このシリーズを貫いている大きな謎として徹底されている、というべきなのでしょう。

そして、各話で紹介される古書にまつわる知識と、その知識を前提として提示される謎や秘密についつい引き込まれてしまいます。

また、「ヒトリ書房」の井上太一郎や、「滝野ブックス」の滝野蓮杖などという、栞子さんの母親を知る新たな登場人物が現れたりと、一段と物語に引き込まれる仕掛けがうまいこと施されているのです。

第一話の『たんぽぽ娘』は、古本業者の古本交換会に出かけた折の『たんぽぽ娘』という書物の盗難事件で、栞子さんが盗ったと決めつける井上太一郎との話なのですが、この井上太一郎という人物や、この物語に登場する滝野蓮杖という男などが栞子さんの母親をよく知る人物であり、このあとの物語の展開にも深くかかわってくる事実などが彼らからもたらされたりもします。

また、それぞれの短編で取り上げられている古書に関しての挿話も相変わらず小気味よく、それぞれの家族にある家族間の不和をなんとなく解決したりもします。

本の話で言うと、第三話に出てくる宮澤賢治の『春と修羅』だけが聞いたことがある作品でした。この『春と修羅』については、私は「俺は一人の修羅なのだ」という一文を有する、一編の詩のタイトルとしての「春と修羅」と、詩集『春と修羅』と混同しているところがあったようです。でも、よく思い返してみると、妹との別れを詠った「永訣の朝」という作品も『春と修羅』という詩集の中の作品であったのでした。

第一話に出てくる『たんぽぽ娘』は栞子さんの両親の間でも愛読書であったようであり、第二話でも「タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいな」本を探し当てることで、第一巻にも登場した坂口しのぶの家族間の対話が復活したりもするのです。

第三話では、再び篠川智恵子さんの影がちらつく物語です。盗まれた宮沢賢治の『春と修羅』という本を取り戻して欲しいという依頼に対し、二冊購入されていた『春と修羅』の初版本の意味を探り当て、更に盗んだ犯人をも探り当てる栞子さんでした。

シリーズを読み進むにつれ、どんどん面白くなってきています。全部で七巻だそうなので、最後まで読んでみたいと思います。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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