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小川 糸 キラキラ共和国





先週一週間、緑内障の手術で入院。経過良好で早めの退院ではありましたが、一週間のベッド生活はどうしても生活のリズムが崩れます。

その間の豪雨も全く感じることなく、ただテレビのニュースで各地の災害の状況を見るばかりでした。殆ど二年前に地震に遭い、ライフライン欠如の生活を経験した身としては、私どころではない災害に遭われた方々を心配するばかりです。


さて本書、2017年本屋大賞で第4位となった小川糸の『ツバキ文具店』の続編で、2018年本屋大賞の第10位となった作品です。

『ツバキ文具店』は、代書という仕事を通して依頼人の人生にそっと寄り添いながら、主人公自分自身の生き方を見直す日々を描き、特に祖母との確執のあったかつての自分との関係をあらためて取り戻していく過程が心に沁みる物語でした。



本書の主人公の鳩子は、前巻に登場したQPちゃんという五歳の女の子と、その父親の鎌倉でカフェを営むモリカゲさんと入籍しているところから始まります。

今はもうミツローさんと呼んでいるモリカゲさんとはまだ別居生活中の鳩子ですが、鳩子の家の近くにいい物件があり、近く店を移し、三人でともに鳩子の家で暮らすことになっているのです。



しかし、『ツバキ文具店』と比べると、今ひとつ心に迫りません。

鳩子が手紙の代書という人さまの人生に関わりながらその人の心情を手紙に託す、という仕事をしている点は変わりはありません。それなのに、何故印象が異なるのでしょうか。

それは、一つには前巻を読み終えていることで、読み手である私が、鳩子の生き方や代書屋という特殊な仕事についての前提知識をすでに持っていることが挙げられると思います。

鳩子の人柄や、代書屋についての新鮮な驚きは今回は無いのです。


そして、印象が異なる一番の原因は、先代である祖母についての描写が殆ど無いことにあると思えます。前巻『ツバキ文具店』では、先代の心の奥を知ることで先代の鳩子に対する想いをしっかりと受け止める鳩子のありようが、私の心を捕まえた一番のポイントだったような感じがするのです。

代書屋という職業や、鳩子の廻りの登場人物との関わりなど、それなりに印象的であり、感動的ではあったのですが、やはり鳩子の先代に対する心の繋がりの回復は胸を打つものがありました。


本書『キラキラ共和国』では、鳩子の母親と思しき女性も登場します。しかしながら、その点についての言及は二~三個所で少しだけ触れられるだけであり、結局消化不良だった気がします。

本書のテーマは、ミツローさんとQPちゃんとの生活、新たな親子関係の構築を楽しく、喜びのうちに行っている鳩子の姿にあるのでしょうか。その延長線上にはミツローさんの故郷である高知にいる家族との新たな家族の一員となる喜びもあると思われます。

そのことは、男爵とパンティーとの結婚、妊娠という事柄にも関わってくるようです。鳩子の母親と思しき女性を描いてあるのもその延長線上に捉えていいものでしょうか。それにしてはあまり書き込みはありません。



本書は本書で、ほとんど目の見えないタカヒコ君のお母さんに対する感謝の手紙の代書作業や、自分のことしか考えない夫でありながら交通事故で逝ってしまった夫からの謝罪の手紙が欲しいという葉子と名乗る女性の依頼、離婚したい妻と別れたくない夫との間での双方の代書など、挿話的にお客の人生が挟まれ、それはそれで惹かれます。

でも、どうしてもシリーズものの第一作を超える作品は無いとよく言われることが本書でも当たっているようです。本書は本書として読みごたえはあるのですが、前巻『ツバキ文具店』ほどではなかったのです。

とはいえ、悪人が全く出てこない善人ばかりの、普通の人の普通の日常の中にある幸せを描く作品として、小説としては私の好みの範疇からは一歩外にある作品ですが、たまには心あたたまるこうした作品もいいものです。

小川 糸 ツバキ文具店


何とも、私が普段読む小説とは雰囲気が異なる物語の長編小説でした。2017年本屋大賞で第4位になっている作品です。

ラブレター、絶縁状、天国からの手紙…。鎌倉で代書屋を営む鳩子の元には、今日も風変わりな依頼が舞い込む。伝えられなかった大切な人への想い。あなたに代わって、お届けします。(「BOOK」データベースより)

代書屋さんという非常に特殊な職業の雨宮鳩子という二十代後半の女性の日常を、彼女の周りの人物を織り込みつつ、その職業の紹介を兼ねて彼女が先代と呼ぶ祖母とのかつての生活なども交えながら描き出している物語です。

雨宮鳩子という女性の一人称で描かれいてるこの物語は、鎌倉を舞台にしています。鶴岡八幡宮を左に見ながら、鎌倉宮の方に二階堂川沿いに登っていくと彼女の家「椿文具店」があります。

本書の冒頭、ポッポちゃんと呼ばれている雨宮鳩子なる女性の一日の始まりが描かれています。

「着替えをして顔を洗ったら、まずはヤカンに水を入れてお湯を沸かすのが朝の日課だ。その間に床を箒で掃いて、水拭きする。台所、縁側、お茶の間、階段と、順々に清める。 この時、必ず途中でお湯が沸くので、そこでいったん掃除の手を休め、お茶っ葉を入れたティーポットにたっぷりお湯を注ぐ。お茶を淹れている間、再び雑巾を手に床を磨く。」

こんな、なんでもない普通の光景から始まり、左隣に住むバーバラ婦人から「ポッポちゃーん、おはよう」と声がかかって朝のご挨拶が始まります。

この何とも言えない、のほほんとした光景で始まり、この雰囲気が本書全編を覆っているのです。

読み進むにつれ、代書屋さんという仕事の大変さが次第に分かってきます。

まず、代書屋という仕事が依頼の仕事の文案から考えるものだとは知りませんでした。その上で、依頼者の気持ちになりきり、更には書体まで変えて書面を書くのです。その際、筆記用具もこだわりがあり、毛筆の場合は墨の選択から、墨の色のの濃さを考え、万年筆であれば万年筆そのものの選択からインクの色にまでこだわり、紙質、封筒、切手と、細部にわたって決めていきます。

その上で、依頼者の希望に沿った、知人のペットの猿が死んだ際のお悔み状や離婚の報告書であったり、かつての恋人に自分が生きていることだけを伝える手紙、借金の断り状と、さまざまな依頼に応じて書きわけます。勿論、手紙を書く上での作法もきちんとしていなければならず、そうした点もおこたりありません。

これらの代書の仕事ごとに、それぞれのドラマがあり、鳩子はそのドラマを壊さないように、依頼者になり変わってこころをこめて手紙を書くのです。

雨宮鳩子は祖母に厳しく育てられました。幼いころから毎日まいにち、友達が遊んでいる間も時の練習に明け暮れていたのです。彼女が先代と呼ぶこの祖母との確執を抱え、祖母の死に目にも会えないまま現在に至っているのですが、代書屋としての仕事をこなしていくうちに、少しずつ祖母の心のうちを理解できる鳩子でした。

第三章にあたる「冬」の章の終り近く、思いもかけず祖母の鳩子に対する思いを知る出来事があります。ちょっとした心あたたまる感動的な挿話なのですが、一人称の語りであるにしては、そうした話も決して感情過多になることなく、ある種俯瞰的に客観的な描き方をしてるところはかえって心にしみる描き方でした。

鳩子の周りの登場人物もユニークで、バーバラ婦人とよばれている隣人や、パンティーという通称で呼ばれている小学校教師の楠帆子、それに着物姿が粋な男爵などが物語に花をそえています。

本書はNHKでドラマ化もされていました。たまには人が殺されず、人間は心をゆるすに値する存在なのだ、と思わせてくれる本書のような作品も、心を豊かにしてくれていいものだと心から思わせてくれる作品でした。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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