ロバート・A. ハインライン 夏への扉


SF界の巨匠ハインラインによる名作中の名作と言われる、時間旅行をテーマにした長編小説です。

ぼくの飼っている猫のピートは、冬になるときまって夏への扉を探しはじめる。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。1970年12月3日、かくいうぼくも、夏への扉を探していた。最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明までだましとられたぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ。そんな時、「冷凍睡眠保険」のネオンサインにひきよせられて…永遠の名作。(「BOOK」データベースより)

この作品を読んだのはいつのことだったのか、もう覚えてもいないほどの昔です。高校時代だったのか、それとも大学、その後、遅くとも二十歳代だったとは思うのですが。

先日、畑野智美の『ふたつの星とタイムマシン』『タイムマシンでは、行けない明日』を読んで本書を思い出し、読み返したものです。久しぶりに読んだこの作品は、やはり今でも面白いものでした。

主人公のダンは天才的な技術者であり、家庭内の煩瑣な労務から主婦を開放してくれる、今で言うならば家事ロボットにあたる「文化女中器」などの機械を作り出します。しかし商売に無知なダンは、親友のマイルズ・ジェントリィと共に会社を興すのです。

「文化女中器」は大ヒットし、新たに雇ったのがベル・ダーキンという女性でした。美人で頭の切れる彼女にのぼせあがったダンでしたが、この二人の裏切りにあい、絶望の果てに冷凍睡眠という手段を選ぶのでした。

本書が書かれたのが西暦1956年です。そして現在が2017年。本書での舞台となっている年代は1970年で、主人公のダンが冷凍睡眠により目覚めたのが2000年です。

本書ではバラ色の未来である西暦2000年では、目覚めたダンが最初に会った医者が、まず空中で振るだけで火がついたタバコを吸うところから始まります。また、ダンの世話をするのは人型のロボットであったり、服を着ようとするとジッパーが無かったりと、少々首をひねる描写が続きます。

こんな2000年の描写も見どころの一つではありますが、それよりなによりストーリー自体が面白いのです。

ただ、さすがに2000年の描写や、翻訳の点でも「文化女中器」などの言葉でも分かるように少々の古さを感じるところもあるのですが、そうしたことは何の障害にもなりません。

未来への冷凍睡眠と過去への時間旅行を組み合わせて組み立てられたストーリーは、こまかな内容をほとんど覚えていなかったこともあり、一気に引き込まれてしまいました。

ハインラインというと多くの作品がありますが、本書と同じ頃に書かれた作品で言うと『異星の客』や『宇宙の戦士』などの名作もあります。どちらかというと本書のほうが異質だということもできるかもしれません。

何せ本書の場合、主人公のダンのタイムマシンとの出会いは少々雑としか思えませんし、時間旅行ではつきもののタイムパラドックスの問題も、神の摂理としてあり得ない、の一言で片づけてあるのです。物語の流れが少々ご都合主義にすぎないか、とも思えるのですが、それでも面白いのです。

この物語が魅力的であるのは、タイムパラドックスの問題にしても無視するのではなく、本書では問題にしないという理屈(?)をそれなりにつけてあるように、読者が抱くであろう疑問について一応の答えを準備してあるというところも含めたストーリーの面白さであると同時に、冒頭で猫のピートの紹介を兼ねて書いてある、ダンとピートは「夏への扉」を探しているという観点でしょうか。

つまりは、このロマンチシズムこそがこの物語が日本で愛されている理由なのでしょう。本書のような楽観主義と併せてハインラインという作家の本質に根ざすものなのかもしれません。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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