西 加奈子 i(アイ)


2017年本屋大賞ノミネート作品になっている長編小説です。

「この世界にアイは存在しません。」入学式の翌日、数学教師は言った。ひとりだけ、え、と声を出した。ワイルド曽田アイ。その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる。ある「奇跡」が起こるまでは―。「想うこと」で生まれる圧倒的な強さと優しさ―直木賞作家・西加奈子の渾身の「叫び」に心揺さぶられる傑作長編!(「BOOK」データベースより)

ただひたすらに主人公の心象を追いかけるこの物語は、個人的には好みではありませんでした。全編主人公のアイの視点で、なお且つアイの心象のみで構成されていると言ってもいいほどなのです。

主人公が、自分自身という存在について常に考察し続けている、ということは分かりますが、それは思春期に多くの人が通る事柄であり、その事柄を思春期という時期を過ぎても持ち続けてること自体に若干の違和感を持ちました。

勿論、そうした人の存在を否定するものではなく、そのような考えそのものを否定するわけでもありません。ことに、本書の主人公のように、シリアからの「養子」であり、更に親はアメリカ人の父親と日本人の母親という複雑さを持つ人物であればなおさら自分自身の存在について考えるでしょう。

特に青春の一時期、自分を見つめる時期においてはそうだと思います。一つの存在自体が他者に影響を及ぼすとき、その存在は他者への負の影響を負わねばならないのか、思春期の頃からの答えのない問題です。

しかしながら、物語の全編をその考察で占めるというのは、読んでいて疲れます。

また、アイには親友の権田美奈(通称ミナ)がいて、お互いに助け合っています。こうした存在自体はまさに得難いもので、そのような友を持つこと自体幸せだと思います。しかしながら、本書のような二人の設定は、どうも受け入れがたい自分がいて困ります。

ファンタジーやSF小説などは、どんなに荒唐無稽な物語でも違和感なく受け入れることのできる私ですが、人間存在についての真摯な考察という設定は、テーマがテーマであるからなのか、自分の環境に照らして異和感のあるものは受け付けないようです。

その意味では、先の自分自身の存在意義についての考察を持ち続けることと併せ、本書の主人公アイの生き方、考え方は違和感を感じるばかりでした。

ただ、本書の持つメッセージ性を否定するものではありません。こうした考察が非常に大切なことであることまでも否定するものではないのです。

本屋大賞ノミネート作品の候補作にもなっているこの物語ですので、わたしのような印象は特別なものだと思います。一般には、自分の生き方を真摯に見つめる主人公の、その心象を見事に描き出した小説、という評価になるのでしょう。

でも、個人的には、読んでいて楽しい、また幸せになるような、エンターテインメント小説をこそ探している身としては、本書のような物語は今ひとつ受け入れがたいのです。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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