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恩田 陸 蜜蜂と遠雷


実在する「浜松国際ピアノコンクール」をモデルとする「芳ヶ江国際ピアノコンクール」という架空のピアノコンテストを舞台に、おもに四人のコンテスタント、つまりコンテスト出場者の横顔を描き出した青春群像小説で、第156回直木三十五賞および2017年本屋大賞を受賞した作品です。

とにかく、「芳ヶ江国際ピアノコンクール」での三次にわたる予選、そして本選においての、コンテスタントそれぞれの演奏の文章表現の見事さに圧倒されました。

それも、都合四回にわたるコンテストのそれぞれにおける多くのコンテスタントの楽曲ごとに、異なる表現で読者のイメージを喚起しつつ、演奏者の心象をも併せて表現しているのです。

その上で、二段組みで五百頁を超える分量である本書の最後に至るまで読者の関心を惹きつけるのですから、その筆力は推して知るべしというところでしょうか。

この作者の作品はこれまでに何冊か読んでいるのですが、その作風の多様さに葉驚かされます。青春小説があり、ファンタジーがあり、ホラーまでもあるのです。そして本書はまた異なります。ある種青春小説と言えるかもしれませんが、クラシックという音楽、それもピアノという楽器にその身をささげたピアニストらの物語であって、クラシック音楽に対する愛情があふれた物語なのです。

そして、本書は色々なクラシック音楽の紹介をしつつ、出場者であるピアニストの心象もまた深く描写してあります。それも、各予選段階と本選においての心象をもまたそれぞれに異なる筆致で表現してあるのです。

音楽の描写が為されている作品に出会うと常に思うことがあります。現実のピアニスト、音楽家というものは、曲のイメージをこのように理解、解釈するものなのかということです。

例えば、本書の高島明石がテーマ曲「春と修羅」のカデンツァ(自由に即興的な演奏をする部分)を演奏するときの表現などその典型だと思うのですが、宮沢賢治の代表的な詩をモチーフとした曲の解釈が光る場面です。実際にこうした視覚的な印象を持つものなのか、是非聞いてみたいものです。

この「春と修羅」のカデンツァに関しては、このあとに塵や亜夜のカデンツァの描写があります。120頁以上にわたり展開される第二次予選での注目点でもある三人の「春と修羅」の描写は読み応えがありました。

一方で、読者も音楽を理解する能力が要求されるのではないかと考えてしまいます。このブログでも数か所で記してきた疑問ではありますが、本書でもまたこうした疑問を持ちながらの読書になってしまいました。

このように文章の力を考えていると、結局は音楽、絵画等の芸術の分野に限るものではなく、音楽にしろスポーツにしろ、その時の人物の感覚を文字として表現している点では同じではないか、と思えてきました。作家の筆の力ということでしょう。

そして、本書については、作者の力量に対する称賛に尽きるといっても過言ではないと思える作品でした。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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