佐藤 巖太郎 会津執権の栄誉


本書は著者にとって初の単行本でありながら第157回直木賞の候補作にノミネートされた、六編の短編小説からなる連作の時代小説集です。

本書の構成、及び各話の描かれている人物(視点の主)は下記のとおりです。

「湖の武将」 芦名家の重臣・富田隆実
「報復の仕来り」 芦名家家中・桑原新次郎
「芦名の陣立て」 金上盛備の家臣・白川芳正
「退路の果ての橋」 歴史上名を残すことはない足軽兵・小源太
「会津執権の栄誉」 会津の執権の異名を持つ芦名家家臣筆頭の金上盛備
「政宗の代償」 伊達家当主・伊達政宗

本書を読み始め、第一話の「湖の武将」を読み終えたところでは、新人らしからぬ重厚感ある文章と、でありながらの読みやすさとを感じていたのですが、物語としては少々半端ではないかの思いで読んでいました。

本書の惹句にあるような石田衣良氏の「この力量は本物だ!」との文言は何を言っているのか、との思いしかなかったのです。

しかしながら、本書を読み終えたとき、惹句の意味が良く分かりました。一話を読み終えたところでの印象は、本書が連作の短編集であることも頭にないままでいたところから感じた事柄であって、全部を読み終えた今では、第一話の意味もよく分かります。

例えば第二話で殺された侍の話は既に第一話の中で出てきているし、第一話の裏切りの話自体、本書全体を貫く一大事件であるのです。

四百年近く続いた名門芦名家が、奥州の伊達政宗に滅ぼされるに至る過程を五人の異なる目線で描きあげ、最後にその伊達政宗という人物、そしてその心の内を、秀吉との会見に至る中で描き出すさまは到底新人とは思えない筆致でした。

「摺上原の戦いの前後約4年を描いた」という作者の言葉の通り、すべての物語は芦名家滅亡の元となる「摺上原の戦い」へと収斂していきます。

十八代当主芦名盛隆が殺され、その後を継いだ亀王丸隆氏も三歳で病没し、ここに芦名家嫡流の男系の遺児が絶えてしまう。残された遺児の姫に他家から婿養子を迎えることになる。ここに、日立の佐竹義重の次男義広と伊達政宗の弟という家臣団の対立が生じてしまう。

結局、佐竹義広に決まるが、義広の補佐として乗り込んできた佐竹家の家老たちと芦名の古くからの家老達との軋轢が生じたのだった。

本書を読み終えると、芦名家滅亡という事件が、全体として多面的な俯瞰された事実として読み手の心の中に構築されていることが良く分かります。

その上で、芦名家を滅ぼした奥州の雄である伊達政宗が、更に日本全国をその手中に収めようとしていた豊臣秀吉の軍門に下らざるを得ないという戦国の世の厳然たる事実を、秀吉の北条攻めの折の会見という一事で示しています。

その文章の力を見ても、物語の構成を見ても、とてものこと新人の手になるものとは思えず、更なる作品を読んでみたいと思わせられる小説でした。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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