知野 みさき しろとましろ 神田職人町縁はじめ





この作者の『上絵師 律の似面絵帖』シリーズがかなり面白く、別の作品も読んでみようと手に取った作品で、全部で三話からなる、連作の人情ものの短編時代小説集です。

この物語の主人公は、縫箔師をしています。

縫箔という言葉を調べると、「縫箔は、縫い(刺しゅう)と箔(摺箔(すりはく))を用いて裂地(きれじ)に模様加工をすること。」とありました。( 『職人尽絵詞』に見る、『江戸時代の職業・風俗』 : 参照 )

そうした咲という名の女性を主人公にする本書では、しろとましろというタイトルにもなっている双子が狂言回しのように登場し、主人公と修次という簪職人との出会いを設定しながら、三篇の話のきっかけをつくっていきます。

この双子、咲がお参りをする小さな稲荷神社の小さな鳥居の脇に鎮座する神狐ではないか、との推測を当初から覗かせながら、なかなかにその正体を明らかにしないままに物語は進みます。そういう点ではある種ファンタジーなのですが、物語の内容は人情物語です。

第一話「飛燕の簪」では明日は姉が奉公に出る日だという一人の男の子との出会いを、第二話「二つの背守」では、一人の老婆をめぐる、生き別れになった姉妹の再会の物語を、第三話「小太郎の恋」では、蕎麦屋で出会った小太郎という大工の恋模様の話という、それぞれに心地よい人情物語が語られます。

しかしながら、何となく感情移入できません。この作者の『上絵師 律の似面絵帖シリーズ』では感じなかった物語の薄さを感じてしまいました。主人公を始め、登場人物象の書き込みが少ないこと、心情の描写があまり無いこと、それに話の流れが少々都合が良すぎることなどが気になったようです。

上絵師 律の似面絵帖シリーズ』の印象が良かったためにハードルを挙げて読んだということもあるのかもしれません。

本作が書かれたのが2015年7月で、その後一年を経てから『上絵師 律の似面絵帖シリーズ』が書かれていますから、作者の技量が挙がったと言えなくもないのかもしれません。勿論、私の読解力の無さということも十分にありうることですが。

ともあれ、今後の読み続けていきたい作家さんであることに違いはありませんでした。

知野 みさき 舞う百日紅: 上絵師 律の似面絵帖




上絵師として身を立てようとする律のひたむきに生きる姿を描く長編の人情小説の「上絵師 律の似面絵帖シリーズ」の第二弾です。

前巻に続き、上絵師として必死に生きようとする律の姿が人情味豊かに描かれており、他の文庫時代劇と同様に四話からなっています。

それぞれの話で、律の似面絵をもとに見つかった迷子の話や、律が描いた似面絵に描かれた女が殺されてしまうなどの出来事が描かれていて、他方、父親が殺されたと信じる律は仕事の合間に父親の残した似面絵に似た男を探しているのですが、この男の探索が本書全体を貫く話となっています。

男を探す律のもとには、犯人らしき男に似た男を知っているとか、その男を見かけた賭場を見つけたなどの情報が集まってくるのでした。

そんな中、幼なじみの涼太が律の父親のものと思われる根付をある質屋で見つけたと知らせてくれました。律は自らその質屋に乗り込み、今度は父親のものと思われる巾着を見つけ、その巾着を購入しようとしている客と会うことになります。

その質屋が隠し事をしているとにらみ、その客という男が怪しいとにらんだ涼太は、今井直之や同心の広瀬保次郎らの助けを借りながら、律の身を守ろうと図ります。そして、律が問題の客と会う日がやってきました。

こうして、一方では父親殺しの犯人を探しながら、他方では各話ごとに巻き起こる出来事の流れを追いつつも、律の本業である上絵師としての仕事の上達ぶりも描かれています。

その上で、律と涼太との仲も、律には基二郎という職人との縁談の話があり、涼太には綾野という娘が片想いをしていたりと、はたで見ている涼太の妹の香には気がせいてなりません。

そうした律と涼太の二人のこれからも大きな見どころとなっているこの物語です。

次第にこの作者の物語世界に引き込まれているようで、次の作品を手に取りたい気になっています。

知野 みさき 落ちぬ椿: 上絵師 律の似面絵帖




本書は、上絵師として身を立てようとしている二十歳すぎの娘である律の、一生懸命に生きている姿を描く長編の人情小説、だと思われます。持ちこまれた事件の似面絵を描くことでその事件の解決に役立つことはあっても、捕物帳ではなく、事件について探索する姿もないので、結局は律の恋心や、上絵師としての成長などが描かれることになるのでしょう。

とはいえ、まだシリーズは始まったばかりで、本シリーズがどのような性質のものであるのかはまだはっきりとはしていません。

律の仕事である上絵師とは、「着物に花や鳥、紋様、家紋など、様々な絵を入れるのが」仕事です。父の伊三郎のもとで手伝いをし、腕を磨いてはいたものの、律の名では仕事を貰うまでには至らず、弟と二人、父親の貯めていた蓄えを食いつぶしながら、何とか細々と暮らしているところです。

律と慶太郎の母親美和は五年前に辻斬りのために命を落とし、父親の伊三郎も今から二月前に川に浮かんでいる姿が見つかりました。残された弟の慶太郎はまだ九歳であり、律が頑張らなければならないのです。

ここで本書の登場人物を見ると、まず律には涼太と香という幼なじみがいます。二人は表店の葉茶屋・青陽堂の兄妹で、律の隣人である今井直之の手習い指南所で一緒に学んだ仲でした。

この律が、今の律たちの親代わりとも言えそうな立場の今井の計らいで、定周り同心である広瀬保次郎に頼まれ似面絵を描くことになるのです。この似面絵の出来栄えが見事で、事件を解決に導くことになり、律もわずかながら生活の糧を得ることができるようになります。

ただ、他の捕物帳のような事件の探索を経て事件が解決するような話ではなく、律と慶太郎姉弟の身の振り方について隣人や、親戚幼なじみらが世話を焼き、それについて律の恋心が絡んだりする姿が描かれる、人情小説の王道を行く物語でもあります。

作者が女性ということで共通するからなのか、高田郁の『みをつくし料理帖シリーズ』の雰囲気にとても似ています。主人公が料理人と上絵師という手に職を持った娘であることも同じです。何よりも、文章の雰囲気も似たものがあります。

特に本書において主人公の律が上絵を考えるときや、亡くなった親を思う時などの描写、律の心象を語る場面の時間の流れ方はゆったりとしています。文章のテンポが悪いということではなく、読みやすさは保ったままでただ刻だけが緩やかに感じられるのです。

これは非常に心地よい経験でした。読んでいてとても楽になる、そういう経験はあまりありませんでした。

多分ですが、新たに読み応えのある時代小説が見つかったと言えるのではないでしょうか。続編を待ちたいものです。
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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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