川口 俊和 この嘘がばれないうちに





本書は、2017年度の本屋大賞でノミネートされ、大ベストセラーとなった『コーヒーが冷めないうちに』の続編です。本書はまた、2018年度の本屋大賞でもノミネートされています。

第1話 『親友』二十二年前に亡くなった親友に会いに行く男の話
第2話 『親子』母親の葬儀に出られなかった息子の話
第3話 『恋人』結婚できなかった恋人に会いに行く男の話
第4話 『夫婦』妻にプレゼントを渡せなかった老刑事の話




本書のそれぞれの物語の要約は、上記目次の通りです。


もし、これからこの作品を読む方であれば、上記目次以上のあらすじは読まずに直接読んだ方がいいと思います。


が、ほんのさわりだけ書くと、本書冒頭のプロローグで、過去に戻るためのルールが掲げられていて、前巻の『コーヒーが冷めないうちに』と同様に、過去に戻れる理由などには全く触れずに、この店の特定の椅子でだけ、当然の前提として過去に戻れるものとして話が始まります。

ただ、前巻と異なるのは、この店にはマスターの時田流の妻、時田計がいません。代わりに流と計との間の子、小学校一年生となるミキという少女がいることです。

本書では、この店の過去に戻れる席にいつもいる幽霊が、要(かなめ)という名前であって誰なのかも明らかになっています。そして、過去へ戻ることができる珈琲を淹れる時田数の物語が全編を通して語られています。



前巻については、ネットなどで見るとかなりの批判がありました。そのほとんどは、内容が薄く、人の「死」を簡単に扱い過ぎる、という点に集約されるように思います。そうした批判にもかかわらず、前巻『コーヒーが冷めないうちに』は六十万部を超える大ベストセラーになっています。

本書も、前巻の続編であり、内容は同じような構成ですから、当たり前ではありますが、前巻を批判的に見ていた人たちからは受け入れ難い作品だと思われ、同様に批判的な書き込みも多く見受けられます。


個人的には前巻で感じたと同じように、簡潔な一場面ものの物語としてそこそこの面白さを持った作品として、それなりに読み終えました。

ただ、同じような作品を二冊も読むと、前巻とは違い、内容の薄さ、という批判が、分からないではない、と思うようになってきたのも事実です。

本書の全編が愛する人の「死」が絡む話であり、状況の説明はあっても、人物の心象についての書き込みがあまり無いためか、どうしても読み手として感情移入しにくいとも感じてしまいました。

場面設定自体は、手を変え品を変えて、登場人物が時間旅行をするだけの理由をうまく説明してあると思います。でも、二巻目ともなり、それも全部の話が愛する人との「死」による別れ、となると、少し距離を置いて視てしまうようになりました。

もし三冊目が出るとするならば、多分読むとは思います。しかし、よほど人物描写をうまく書きこむか、読み手裏切るような新しい物語の展開でなければ、少なくとも私は読まなくなるかもしれません。

そういう、微妙なライン上にある作品だとの感想を持った作品でした。

川口 俊和 コーヒーが冷めないうちに




本書は、著者である川口俊和氏が舞台の脚本として書き、自ら演出も手掛けていた作品をこの小説の担当編集者が見て感動し、即小説化を持ちかけて実現したものだそうです。2017年 本屋大賞ノミネート作品でもあります。


とある町のとある喫茶店のとある席には望んだ通りの時間に移動ができるという都市伝説がありました。ただ、過去に戻るには非常にめんどくさいルールがあったのです。

例えばそれは、この喫茶店を訪れた事のない者には会うことはできない、だとか、過去に戻っても現在を変えることはできない、だとか、過去に戻れるのは注がれたコーヒーが冷めてしまう間だけなど、そのほかにも沢山の細かいルールがありましした。

時間旅行の話は数多く書かれていますが、本書のような切り口がまだあったのだと、あらためて感じ入るしかない物語です。

第一話「恋人」は、結婚を考えていた彼氏と別れた女の話。
第二話「夫婦」は、記憶が消えていく男と看護師の話。
第三話「姉妹」は、家出した姉とよく食べる妹の話。
第四話「家族」は、この喫茶店で働く妊婦の話。


どの話も心あたたまる、しかしせつない物語でしたが、特に第二話では不覚にも涙しそうになりました。

全部の物語が家族の話であり、誰しもが心のどこかに抱いているであろう家族への哀しさに満ちた思いを、情感豊かに、若干の感傷も加え描いてあり涙腺を刺激してくるのです。

全体的に計算され尽くした全四編の物語です。ですからそれぞれの話で描かれている細かな事柄が、後の話の伏線にもなっていて、あらすじを紹介しようとすれば、その紹介文自体がネタバレにもなりかねず、内容については触れないことにしました。

ただ、例えばAmazonのレビューを見ると酷評ばかりです。人物の書き込みがないとか、そのために物語が薄いだとか、話の展開がありきたりだとか散々です。

たしかに、そこで書かれていることも分からないではありません。それらの言葉に反論できないでいる自分がいます。

そうした言葉は的外れではないにしても、それでもなお、私にとっては面白く、心に響く物語でした。物語の「薄さ」とか、ありきたりな展開だという批判は余分なものを削ぎ取った簡潔さと映り、一場面ものの物語としてとても面白く読んだのです。

こうなると、あとは好みの問題としか言えないのでしょうか。本屋大賞のノミネート作品でもあるのですから多くの人に受け入れられている点も事実でしょうし、逆に薄っぺらいと感じた人もまた多いのでしょうから。

ただ、一点だけ、時間旅行ものでお決まりのタイムパラドックスの問題、それも過去の自分に出会った場合どうなるのかの点をあえてなのか無視してあります。ある物語で、隠れていた筈の自分が隠れていない点を何も説明してありません。本書は論理を追及するSFではないので、その点に言及することに何の意味もないのでしょうが、SF好きとしては若干気になりました。

それにしてもこの作品のもととなった舞台を見て見たいものだとも思います。そのうちにドラマ化もされるのではないでしょうか。

ちなみに、続編の『この嘘がばれないうちに』という作品が出ているそうです。早速読みたいと思います。
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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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