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アン・レッキー 叛逆航路





本書は今まで読んだSFの中ではかなりユニークな小説でした。

「ヒューゴー賞、ネビュラ賞など『ニューロマンサー』を超える英米7冠制覇」という惹句に惹かれて読んだのですが、私の好みからはかなり離れたところにある物語でした。

面白くないと言うつもりはありません。と言うよりも、物語としてはそのアイデアは素晴らしく、圧倒されたというところが正直な気持ちです。

ただ、読みにくい。

ユニークな舞台設定については何の説明も無いままに物語は進みます。物語が進展する中で、主人公は誰(何)なのか、主人公が助けた人物は何者なのか、主人公の目的は何なのか、そしてこの物語の世界はどういう世界なのか、などが少しずつ明らかになっていきます。

ですから、冒頭はまったく物語についていけません。読者は置き去りにされたまま話だけが進みむので、若干嫌気がさします。本書の世界がユニークである分、その気もちも大きいのです。



物語についていけないのは部隊の背景説明がないという理由だけではありません。この物語では、正確には本書の舞台となるラドチという社会では“性”という概念が全く異なります。と言うよりも性差が無いのです。ですから(と言っていいものか)、第三者のことは常に“彼女”と表記してあります。

また、外国の文学ではしばしば目にしますが、文章が冗長に感じられる個所が随所にあるのです。翻訳という作業を介するので一概には言えないのですが、もう少し簡潔に表現できないものかと思います。

また、会話の流れについていけない個所も散見されます。少々高尚に過ぎると言うか、意味が汲み取れない個所があります。ただ、これは読み手たる私の問題であり、作者に文句を言うことではないかもしれません。



以上、不満だけ述べてきましたが、この物語はそれ以上にアイデアの宝庫であり、SFの自由度をフルに使っている物語と言えそうです。そのユニークさは類を見ないのです。

即ち、主人公ブレクは人間ではありません。宇宙戦艦に搭載されていた、と言うよりも宇宙船としての自意識を持ったAIと言ったほうが正解かもしれません。

更に、属躰(アンシラリー)という概念が登場します。属躰とは、捕虜となった人間の脳に「軍艦のAI人格を強制上書きし」た「強力な生体兵器」であり、「艦船と属躰とは全体で一つの存在となる」のです。艦船はこの属躰を同時に二十体持つことができます。

この属躰は艦船だけではなく、宇宙空間に建造された人工居住施設であるステーションも、また皇帝であるアナーンダ・ミアナーイも持つことができるのです。

つまりは同一人格の存在が同時に複数個所に存在することができ、複数個所での出来事を同時に認識することができることになります。ブレクは二十体の属躰を持つことができますが、アナーンダ・ミアナーイは「何千体ものからだをもち、同時に何百か所にも存在する」ことができるのです。


こうした設定は、SFが好きな人以外は全く読み進めることができないでしょう。それほどにユニークな舞台設定であり、アイデア満載のSF小説です。


本書の主人公ブレクはこの属躰でありますが、艦船本体も他の十九体の属躰も今はおらず、単独の存在となっています。

この属躰であるブレクがとある星で出会ったセイヴァーデンを助けるところからこの物語は始まり、助けられたセイヴァーデン自身も、読者同様に何も分からないままに主人公について行くことになるのです。

先にも述べたように、主人公の旅の目的は読み進めるうちに明らかになります。

そして、主人公の一応の目的が達せられたとき、私はこの物語にはまだ続編があることに気がついたのでした。本書は本書として一応の結末を見ることはできます。しかし、本書は全三部作の第一部でしかありませんでした。
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(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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