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麻生 幾 外事警察





日本国内のテロ防止に奔走する外事課員の姿を描く、長編のサスペンス小説です。

本書も作者麻生幾のほかの作品、例えば『ZERO』や『ケース・オフィサー』と同様に、物語の筋が追いにくい小説です。

読了後、しばらくして本書のストーリーを思い出そうとしてもおおざっぱな流れ、もしくは細かな場面しか思い出せません。全体的に本書の紹介をしようにも、要約することができないのです。



住本健司警部補を班長とする警視庁外事第三課作業班班のメンバーが、日本国内に潜入したと目されるテロリストらを逮捕するために奔走する姿が描かれているのですが、その過程が複雑です。

また、登場人物も多人数であり、さらには彼らの属する団体同士の関係もわかりにくく、あらすじを追うことを一段と困難にしています。

例えば、警視庁SATと住本の所属する警視庁外事課との関係や、そこに警察庁警備局が絡んで祖語の指揮関係などはどうなるのか不明のままに読み進めました。

さらには村松久美という内閣官房長官の政治的な野心や、政界のフィクサーが登場していろいろ暗躍します。

その行政からの警視庁や警察庁への命令、その命令の無視、警察関係内部での裏切りと物語はどんどん混乱してきます。さらには、テロリストの側でも良心の呵責に苦しむものなどが登場し、一本調子ではありません。



緻密なインテリジェンスの世界が描かれる一方で、日本の街なかで爆破事件や発砲事件が起きたりと荒唐無稽なスパイ小説のようなストーリー展開が繰り広げられます。

そうした混とんとした状態で文庫本で553頁という長い物語を読み通すことになるのですが、最後に小さな逆転劇があったりとなかなかに楽には読めない物語です。


とはいえ、この作家の作品のどこかで書いたことですが、小説として決して読みやすくはない作品でありながら、それでもなおこの作者の作品を読みたいと思うのです。

それはこの作者の描く世界が自分が知らない世界を緻密に描写してることや、単にそれだけにとどまらずにある種のアクション小説のような小気味よさを持っている処に魅力を感じているのかもしれません。

ともあれ、本作品の続編として『外事警察 ジャスミン』という作品がありますので、そちらも間をあけずに読みたいと思います。

麻生 幾 ケースオフィサー








以前読んだ『ZERO』などの作品でもそうだったのですが、この作者の作品群では組織概要なども含め事柄の描写が緻密に過ぎ、情報量が多すぎて読み手が消化できずに終わる危険性が多分にあります。

本書ももちろんそうで、その上にアメリカ同時多発テロ事件のあった2001年と、名村が再度国際舞台へと戻る1983年以降の物語との二つの時系列の物語があり、その時系列の混在がさらに混乱に拍車をかけています。

また、私に限ってかもしれませんが、2001年の話の中に二十三年前の出来事が回想として挿入されている箇所があり、また混乱してしまいました。

つまり、本書での話の流れには1980年代の名村を中心とした話、2001年の流れの中に、名村、若宮、北村警部補それぞれの視点があり、そしてパンデミックを語る流れでの視点の変化と大きく分けただけでこれだけの視点の変化があり、さらに細かく時系列が入り組みますので、非常に読みにくい話になっているのです。

文庫本で上下二巻、800頁足らずの分量がありますから、一読しただけでは物語の全体像を見失ってしまいそうです。



さらに苦言を呈するならば、主要人物、例えば若宮賢治や松村一郎などの重要な役目を担っている脇役の描き方が中途半端に感じてしまいました。

本書で登場する官僚は殆どみんな自分の出世のため、という判断基準で動いている点はまだ小説として許せるかもしれませんが、例えば若宮賢治の人間像が出世欲のほかに今一つ見えてこないのです。

資料を読み込んで情景や組織構造などを緻密に描写するのであれば、その分、もう少し人間を描いてもらえればと思います。名村の奥さんなど一行、二行で処理されています。



しかしながら、やはりエンターテインメント小説として非常に面白いというのもまた事実です。

本書が実に真実味を持った物語になっているかは一読されてみればすぐにわかるかと思います。その真実性の上に構築されている虚構部分もまたリアリティを帯びていて、やはり惹き込まれてしまうのです。

国際社会での情報官らのやり取りにしても、どこまで事実に即しているのかは判断のしようはありませんが、所詮小説上での出来事であり、あり得ない事柄だと切り捨ててしまっていいものか迷ってしまいます。

文句はつけつつも、ほかの作品も手に取ることでしょう。それだけ面白い小説だと思います。

麻生 幾 ZERO











本書『ZERO』は公安警察の実態を描く警察小説、というよりも冒険小説と言い切ったほうがいいかもしれません。やっと読み終えたというのが実感です。


本書『ZERO』のあらすじは「BOOK」データベースの文章をもって代えます。原稿用紙で二千百四十二枚にもなるボリュームであり、登場人物も膨大な量で、ストーリーもわかりにくく、私の力量ではまとめることができないのです。

一九四七年の誕生以来、存在自体が国家機密という厚いベールに包まれた全国公安警察の頂点“ZERO”。だがその極秘組織もその巨大さゆえ時代に適合できなくなっていた。そんな時、警視庁公安部外事二課で中国を監視してきたウラの捜査官・峰岸智之は中国大使館による大掛かりな諜報活動事件の端緒を掴むが…。日本スパイ小説の大収穫。( 上巻 : 「BOOK」データベースより)

47年の封印が解かれ、日本を震撼させる陰謀の幕が開く。立ち向かう、一人の警察官・峰岸。彼は元警視庁長官・鹿取が運営してきた大物スパイを巡り、すべてのウラ情報を握ろうとする“ZERO”と激突する。執拗な妨害を受けながらも捜査を強行する峰岸を苛酷な運命が待ち受けていた…。極秘情報をちりばめ警察小説の新境地を拓く衝撃作。( 中巻 : 「BOOK」データベースより)

峰岸を呑み込む欺瞞と敵意に満ちた世界。様様な罠、裏切りの連続。孤立無援の公安警察官と中国諜報責任者との激闘。日本の機密漏洩者と中国側ディープスロートの正体とは?水面下の戦争が国家に大いなる決断を求める時、男は誇りのため、女は愛のため命を賭ける。逆転に次ぐ逆転、驚異の大どんでん返し。エンターテインメント小説の最高峰。( 下巻 : 「BOOK」データベースより)


本書はその世界観にはまり、一気に読み通してしまう人と、冒頭からつまづいてしまい、上巻すら読み通せない人とに分かれるのではないでしょうか。それほどにストーリーが追いにくい小説です。

なにせ描写が緻密です。本書は公安警察の物語ですが、冒頭から公安警察の対象者への行動確認作業の様子が詳細に語られます。その様子は偏執的といっても過言ではありません。

その上、なぜその行動確認作業が行われているのかは何の説明もありません。こうした説明無しにまずは状況の描写から始めるという手法は珍しくはないにしても、本書の場合かなりの間その説明はありません。そのうちに話の筋道を見失ってしまいそうになります。

この時点で投げ出して染む人もかなりいるのではないかと思います。



しかし、結論から言うと、私は本書にのめりこんでしまいました。

本書の主人公は警視庁公安部外事第二課アジア第一担当部門第二係に所属する峰岸智之警部補です。本書は、その『ZERO』というタイトルにもかかわらず、ZEROは脇役です。主人公は警察庁ではなく警視庁の公安部所属お警察官なのです。

その警察官が、本来見方であるはずの『ZERO』からも、そして中国の諜報組織からも追われる物語です。最終的に話しがまとまらず、尻切れトンボになっているエピソードなど散見されます。特にクライマックスの処理の仕方には異論もあるところです。

それでもなお、本書で描かれる公安警察の実体のリアリズムはこれまで読んだ小説の中ではトップクラスです。加えて、冒険小説としてのストーリーの面白さもまた群を抜いています。



確かに、緻密すぎる描写は冗長に過ぎ、もう少し簡潔に書いてほしいという気持ちもあります。しかし、著者の卓抜な取材力から描き出される対象物の綿密な描写は、現実感の醸成という点ではそのマイナス面を補って余りがあると感じるようになりました。

日本の諜報組織に描き方もそうなのですが、特にそのことを感じたのは後半に描き出される潜水艦内の模様が描き出される場面です。敵対する艦船に対し息をひそめるしかない潜水艦の乗組員の描写の、客観的に描き出されることからくる緊迫感は迫力に満ちています。

ここの描写だけをとればまさに軍事スリラー小説のそれであり、読み手にとっては手に汗握る最も面白い場面としてあります。しかし、本書においては、主人公の逃避行の一場面にすぎないのです。



本書『ZERO』を全体としてみれば、典型的な冒険小説であり、主人公の荒唐無稽としか言いようのない冒険物語を描いてある作品だとしか言えません。


しかしながら、別な側面から見れば本書は警察小説の変形であり、諜報組織を描き出したスパイ小説です。

個人的には、本書で描き出されている世界に身を置いていた人物を知人に持つ身としては簡単に絵空事として片づけられない話でもあります。

麻生 幾 アンダーカバー 秘録・公安調査庁




インテリジェンスの世界を舞台にした、非常にリアルな長編のミステリー小説です。

公安調査庁の分析官・芳野綾は、現場調査官である沼田から、武装した大量の中国漁船が尖閣諸島に向けて4日後に一斉出航、6日後の早朝には上陸して実効支配するという報告を受ける。しかし関連省庁はいずれもその情報を否定し、沼田に情報提供した協力者にしてもダブル(二重スパイ)の疑惑が掛けられる。そして綾の必死の分析を嘲笑うかのように、巧みに仕掛けられた壮大な陰謀がカウントダウンを始めた!『ZERO』の麻生幾が放つ、ノンストップ諜報小説!書き下ろし。(「BOOK」データベースより)



公安調査庁は、昭和二十七年、日本がアメリカの占領下から解放された翌年、かつての特高、特別高等警察出身者や陸軍の特務機関間員らによって設置されました。同時に制定された破壊活動防止法で任務が規定され、当初は破壊活動や危険な扇動を行う集団、団体や個人の情報を収集するための中央官庁としてあり、調査第一部という国内担当部門が活動していたそうです。

調査第二部の任務は公にされることはなかったそうで、後に国際情勢の変化に伴い、国家の政策を決めるための「情報サービス機関」および官邸からのオーダーを実現させる「オペレーション機関」へと変貌していきました。

日本の公安警察の「ZERO」という機関は、その任務はあくまで容疑者を逮捕、送検することにあり、それがゴールです。一方、公安調査庁の任務のゴールは政治決断者に情報をサービスすることです。



本書のあらすじはあまり必要がない気がします。ざっとした筋を知りたいという人は、「BOOK」データベースの文章で十分ではないでしょうか。

つまり、本書の主人公は公安調査庁の分析官・芳野綾という女性ですが、本当の主人公は「情報そのもの」ではないかと思えるほどに、集められた情報処理の過程こそが本書の見どころなのです。



物語は、尖閣諸島の実効支配に向けて船団が出発するという情報に接した主人公が、その裏を取りつつも、その信ぴょう性を疑う上司を説き伏せ、日本国の危険を回避する努力を描いてあります。

その過程で、自衛隊、特に本書では海上自衛隊の一線の将校の姿も描かれ、尖閣諸島という現実に紛争の発火点ともなりうる場所をめぐる諜報戦は、サスペンスに満ちた物語として出来上がっています。



これまで色々なインテリジェンス関連の小説を読んできましたが、本書が一番リアリティに富んでいる印象を受けました。

勿論、あくまで小説であり、かなりな誇張、デフォルメがされていいるとは思います。それでも我々が平和な日常を送っているその裏では、本書のような活動があっていることもまた事実ではあります。

本書の話は、個人的にそうした世界に身を置いていた人物を知っていたこともあって、単純にフィクションとして片付けられない話なのです。



ただ、意外な展開を見せる結末は個人的には不要ではないかと思いました。それまで感じてきたその真実性が、かなり差し引かれることになったからです。

いずれにしろ、公安調査室を舞台にした小説は珍しく、ましてや情報分析という作業を誇張があるとは言え目の当たりにできることは、かなり惹きこまれて読んだ作品でした。
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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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