百田 尚樹 永遠の0(ゼロ)


今朝方五時過ぎ、小さくぐらりときた余震で目が覚めました。でも、Yahooの地震情報をみるとその頃には余震の記録はありません。しかし、決して車が通ったために家が揺れたのではありませんでした。筈です。と思います。

1、読むきっかけ

この作品が世間の高評価を得ていた頃、同時に作者本人の過激な政治的な発言を耳する機会も増えていきました。単におしゃべりな人という印象が、物事への決めつけが激しい高圧的な人との印象へと変化していったのです。と同時に、あまりにさまざまな評価を受けることになった本書も、この作家の作品への期待の喪失もあり、読まなくなりました。つまりは、作者の言動への批判的意味合いがあったのかもしれません。

しかしながら、映画を見、一番耳にしていた特攻礼賛、戦争賛美という印象を受けなかったので、原作もそうなのか確認しなければならないと思うようになった次第です。

2、読みながら感じたこと

まず、浅田次郎の『壬生義士伝』との類似を感じました。このことは私自信が作者本人が『壬生義士伝』を参考にしたと言っているのをテレビで見ましたので間違いのないところです。

勿論、先人の著作を参考にすることが悪い筈も無く、それどころか芸術は模倣から始まるということは多々言われているところです。ただ、本書に関しては、単なる物語の構成や運び方だけではなく、主人公の設定や読み手の感情の誘導までをも計算で無されているように感じられたのは残念でした。

3、小説としての評価

次に、小説としての本書を見た場合、インタビューの相手は八十歳を越えた人たちでありながら、かつての出来事を具体的な数値まで挙げて如実に語ることの不自然さがあります。戦記ものとしてこういう作法があるのかは知りませんが、小説としては決して出来が良いとは言えないのではないでしょうか。

読了後、Amazonのレビューを読むと、本作はコピペにすぎないとの文言さえありました。もしそれが本当であるのならば、小説として上梓する以上は、既存の文章のコピーであること、少なくとも複数の人間がそのように感じるということは如何なものでしょう。

4、作者個人に対する感情の影響

とはいえ、小説としての面白さが無いかと言えばそれはまた別の話で、それなりにこの物語に引き込まれたのも事実です。主人公の行動についての謎で引っ張る点などは、それが成功しているかは別として上手さはあると思います。ただ、本書の一番の魅力が、コピペとの指摘がある、現実に戦争を経験した方々の文章にある、とは言えると思います。

5、特攻讃美との批判について

「まさに全方向から集中砲火」と著者本人が言うように、さまざまな批判を受けている本書です。なかでも戦争礼賛、特攻讃美という批判がありますが、決してそのようには読めませんでした。それどころか、作者自身が言っているように、特攻の否定としか読みとれませんでした。

反面、幕僚たちの非人間性を強調し過ぎるきらいはあり、図らずも作者のものの見方についての一面性を現しているようでもあり、読者の涙を誘うとの計算が見え隠れしている感じはあります。この点は作者の処女小説ということなので、ある程度は仕方がないのかもしれないとは思うところです。

6、全体として

先にも書いたように、物語としての面白さは否定しきれないところはあります。そして、この本のあとに書かれた多数の本が一般読者の支持を得、本屋大賞まで受賞することを考えると、作者の物語の紡ぎ方のうまさは否定できないところではないでしょうか。

ただ、いかんせん口が悪い。単に歯にきぬを着せないだけではなく、その言葉は暴力的ですらあります。作者本人とその作品とは別物との考え方もあるでしょうが、どうしてもこの作者の作品というフィルターが掛かってしまうことは否定できません。

その上で、私が検証していない他の作品からのコピーが多用されているとの批判は抜きにしても、やはり流される涙を計算したあざとさを感じる、というのが正直な感想ではあります。

百田 尚樹 影法師

影法師 (講談社文庫)影法師 (講談社文庫)
(2012/06/15)
百田 尚樹

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しばらく前に読了しており、レビューの下書きも済んではいたのですがUPするのを忘れていました。

茅島藩八万石の筆頭国家老である名倉彰蔵は旧友の磯貝彦四郎が既に二年前の冬に死んでいたことを知らされる。磯貝彦四郎は名倉彰蔵の竹馬の友でありながら、しかし、とある不始末で藩を逐電した男でもあった。若い頃は文武に優れていた彦四郎が何故に今頃になって戻ってきたのか、何故に彦四郎は胸を病み、貧しさの中に死ななければならなかったのか。

身分制度のはっきりとした地方の小藩の下士の家に生まれ、彰蔵がまだ名倉彰蔵ではなく戸田勘一と名乗っていたころ、父千兵衛は勘一の短気が元で上士に切り付け、逆に殺されてしまう。その騒ぎの折、泣きじゃくる勘一に「まことの侍の子なら泣くな」と言ったのが磯貝彦四郎であった。彰蔵は当時はまだ戸田勘一という名であった自分が、彦四郎と初めて会った、生涯忘れることのできないその日のことを思い出していた。

百田尚樹といえば大ベストセラーとなりった『永遠のゼロ』の作者であり、第10回本屋大賞受賞作の『海賊とよばれた男』を著した人でもあります。その人が書いた初の時代小説なのです。期待は膨らむばかりでした。そして、その期待はそれなりに裏切られることはなかった、と言えると思います。さすがに上手い作者だ、というのが最初の感想でした。どこか浅田次郎の小説に似ているのです。特に『壬生義士伝』がそうでしょうか。

ただ、「上手い」という印象は、「感動した」というのとは異なります。浅田次郎の『壬生義士伝』の時も上手い作家だと感心し、更に心の隅に暫くは感動と言ってもいい余韻が残っていたものです。残念ながら本作の場合はその余韻があまり残りませんでした。

私が読んだ文庫版の裏表紙に「確かな腕を持つ彼(彦四郎)が卑怯傷を負った理由とは。その真相が男の生き様を映し出す。」とありました。あまり詳しくは書けないのですが、この卑怯傷こそが浅田次郎程に本書にのめり込めない理由だと思います。

また文庫本の帯には「男の友情、そして絆」とありました。作者は男の在り方らしきものを書きたかったのではないかと思うのですが、しかしながらあまりに現実感が無いのです。学問に優れ、剣にも秀でていた彦四郎の生き方としては少々、いやかなり無理な設定だと感じたのです。

また、彦四郎の人となりについてある時期からは全く描いてありません。それこそが作者の意図だったかとは思うのですが、個人的にはそのことが逆に現実感を無くす理由の一つになっている気もします。

更に言えば、単行本では未収録で文庫本だけに収録された部分が袋とじになっていました。本書終盤で彦四郎の裏の思惑とでも言うべきものが垣間見えるのですが、そのことが書かれているのです。人によっては意外性を好む人もいるかもしれませんが、個人的にはこの部分は無い方が良かった気がします。同じ感想を持つ人もかなり居るのではないでしょうか。

とはいえ、そうした批判的印象を持ちながらも面白い小説だと思うのですから、やはりこの作者は上手いです。

百田 尚樹 海賊とよばれた男

海賊とよばれた男 上海賊とよばれた男 上
(2012/07/12)
百田 尚樹

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海賊とよばれた男 下海賊とよばれた男 下
(2012/07/12)
百田 尚樹

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出光興産の出光佐三をモデルとしたこの小説はまさにドラマであり、一人の男の一代記です。

いわゆるメジャーと言われる国際的な石油資本に対し、それに属しない独立系の会社という意味での民族派の石油資本である出光興産。

この本の中にもありますが、私の地元の小学生(?)の代表が出光丸の見学に上京した記憶があります。また、私が多分中学校の時の修学旅行の行き先の一つに徳山の石油化学工場がありました。

国岡鐵造が日田重太郎から資本提供をうけ、個人商店から会社組織へ、その会社はやがて満州鉄道へ食い込み、戦後の挫折を乗り越えて日章丸事件等の山を乗り越えて、メジャーのくびきから解放されるまでの苦難の道のりが描かれるのです。

特に下巻の日章丸事件のくだりなどは手に汗握る男の物語であり、実話だとはとても思えないほどです。そうした男達の努力の上に今の私たちの生活があるということを忘れてはならないでしょう。

ただ、主人公と対立するメジャーの傀儡として描かれている旧来の石油業界が、あまりに一方的に悪とされている点が若干気になりました。もう少し旧勢力の側の事情を加味した描き方であれば更にのめりこめたのに、と思わざるを得なかったのです。とはいえ、旧勢力がメジャーの息がかかっていたことは事実でしょうから個人的な好みの問題になるのかもしれませんが。

2013年の「本屋大賞」受賞作品です。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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