花村 萬月 弾正星

弾正星弾正星
(2014/07/25)
花村 萬月

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戦国時代を舞台にした小説であれば必ずと言って良いほどに名前が出てくる、悪玉代表とも言えそうな松永弾正久秀を主人公とした小説です。しかし、そこは花村萬月という作者の作品らしく、単なる歴史小説ではなくて、エロスと暴力で彩られています。ただ、まだ数冊しか読んではいないこの作者の作品ですが、他の作品ほどの暴力やエロスはなく、ソフト路線ではあります。

丹野蘭十郎(たんのらんじゅうろう)は三好範長(みよしのりなが)の屋敷で右筆(ゆうひつ)の空きがあると聞き彼の屋敷を訪れる。そこで松永久秀(まつながひさひで)という男に出会い、何故か久秀に気にいられた蘭十郎は久秀の右筆となり、以後の久秀の語り部となるのだった。

全編が蘭十郎の目線で、それも関西弁で語られます。前半は少し冗長かと思いながら読み進めていました。歴史上実在し、その動向もある程度明確な人物を描くとなると、さしもの花村萬月といえども、そのイマジネーションは歴史的事実という枠をはめられるのかとも思っていました。

しかし、次第に「茶の湯とは無価値のものに途轍もない価値を付ける道具商売」だと言い切り、「価値とはもっともらしい嘘」などと言う花村満月の作りだす悪人久秀像に次第に引き込まれていきます。エロスと暴力の世界を良く言われますが、この作者の描く人間はどこかエキセントリックでありながらも、妖しげに魅力を持っていると感じてしまうのです。

語り部たる蘭十郎も次第に久秀の考え方を理解していきます。その間の二人の在りようの描き方が、実にこの作家ならではの、「掛け合い」なのです。極端に言えばこの作品は久秀と蘭十郎との会話で成り立っています。普通の時代小説とは異なり、久秀の出世の状況などはあまり語られません。いや、説明してはるのですが、時代背景説明の中でさらりとふれられているだけなのです。

しかし、後半から終盤に差し掛かり織田信長の名前が見えてくるあたりから物語の動きが大きくなります。特に弾正久秀、蘭十郎と織田信長が対面する場面の緊迫感はさすがです。殆どを弟蘭十郎にしゃべらせる久秀でしたが、信長の「主家を裏切っても臆せず、将軍を弑しても悪びれずに泰然としていられるのは何故か。」との直接の問いに対して「我も人。三好長慶も人。将軍義輝も人。」と一言で答えます。続けて「ではこの信長も」と問う信長に対し、「人」と答える場面は圧巻でした。

そのすぐ後でのこの作者らしくひとしきりの濡れ場の後、蘭十郎とその妻まさ音とで久秀のところへ出かけての場面も同様で、男と女、夫婦、ひとと人との繋がりなど、思わず引き込まれてしまうひと舞台でした。

蛇足ながら、その終盤での久秀と欄十郎との会話。「いつのまにやら死ぬいうことが、他人事ではない歳になってしまいました。ついこないだまでは死ぬいうことがどこか他人事やったんですわ。ところが他人事でも余所事(よそごと)でもおまへん。」というなんでもない言葉が、じっくりと身に沁みる、そうした年齢に自分がいるということを思い知らされ、先に逝ってしまった仲間を想ったりしてしまいました。

帯に直木賞作家の桜木紫乃氏の「とんがって、とんがって、まだ尖り続ける花村満月美学の最先端。悪とエロス、全ての男と女におくる魂の物語。」との言葉がありました。

どこまでが真実でどこからが花村氏の作りだした虚構なのかは良く分かりません。でも、信長でさえも一目置いたと表現される松永久秀という人物が、私の中で、これまでの戦国時代の悪者という扱いからそれなりの人物として認識するようになったのは間違いありません。

花村 萬月 ゲルマニウムの夜

ゲルマニウムの夜―王国記〈1〉ゲルマニウムの夜―王国記〈1〉
(2008/10/04)
花村 萬月

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「武蔵」と言う強烈な個性の本を読んだことから、この作家が芥川賞を受賞したという作品を読んでみました。結果、「武蔵」で主人公の弁之介が内省的である理由はこの作家の本質なのだろうと思わされました。

本書の舞台は修道院兼教護院であり、主人公は殺人を犯し、かつて自分が世話になっていた教護院に戻ってきた朧(ろう)と言う青年です。知能指数がずば抜けているこの青年がここに勤める仲間を暴力で圧倒し、修道女を犯し、告解と称し神父を試すのです。

本書「ゲルマニウムの夜」はエロチックでありグロテスクな小説です。その文章、というよりも日本語の選択は驚愕的とすら感じます。選ばれた言葉は冒頭から作品の持つ雰囲気を決定づけ、嫌いな人はその時点で手放すかもしれないと感じる程です。更に、その言葉で死や性行為、そして暴力を語るのですから、個人の好みがはっきりと分かれるでしょう。

著者自らが書いているようにテーマは「宗教」です。人間の根源を問うことにもなるこのテーマだから、暴力と性は避けては通れないものなのでしょうか。

私が読んだ単行本にあった「あとがき」に、「この本におさめられた三つの小説は、宗教を描く長大な作品のごく一部分として書かれました。」とありました。2013年12月12日現在で「風の條 王国記(8)」まで出ているようです。ただ、それでも第一部の終わりとあるので、まだ続くのでしょう。作品としての好悪はともかく、人間の内面を深く追求するような文学作品を読む体力はないので、個人的にはこのシリーズは多分読み続けないでしょう。

ただ、そこが芥川賞をとるほどの作品なのでしょうが、不思議と気になる本ではあります。

一方、「武蔵」のようなエンターテインメント作品は、例えその本質に同様のテーマを抱えていたとしても読み続けると思います。とすれば、作品の表現の問題にすぎないのでしょうか。

花村 萬月 武蔵(三)

武蔵 三 (文芸書)武蔵 三 (文芸書)
(2013/10/10)
花村 萬月

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道林坊のもとで画を学び17歳となったた弁之助は武者修行に出ようと思い立つ。早速出立しようとする弁之助だったが、然茂之介も同行することになった。まずは北を目指し、日本海に出る二人。そこで、双子の剣術使いと出会い暫く暮らした後、更に西行し九州へと入ることとなった。

本書での弁之介はかなり成長しています。更に強くなった弁之介は、17歳という年齢からも女に対する欲望もまた強く、その思いの強さから人を殺す羽目にも陥っていまいます。更に九州では山賊を相手の立ち回り等活躍するのですが、その後の佐々木小次郎との再会は弁之介に思いもよらない結果をもたらすのです。

何度も書いたように、花村萬月の武蔵はこれまであった色々な武蔵を描いた作品とは全く異なります。端的に、弁之介の成長物語であり、それ以上に痛快時代活劇小説なのです。

でも、本書に至ってくると禅問答のように思えていた道林坊との問答や弁之介自身の思いなども少しづつ明確になり始め、言葉遊び的な感じはあまりしなくなってきました。

変わらずに女を抱きまくる弁之介ですが先の楽しみも増えてきそうです。続刊が楽しみです。

花村 萬月 武蔵(二)

武蔵(二)武蔵(二)
(2011/10/15)
花村萬月

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一巻目で武者修行の路銀稼ぎにと山賊の住処を襲おうと考えた武蔵達だったが、あっけなく叩きのめされ、逆に武蔵の養父の武仁とも知り合いだったその山賊達の仲間になってしまう。

その後里に戻った弁之助は、道林坊という弁之助の母方の伯父の住職のもとへと画を習いに行くことになった。その道林坊と共に気楽に京へ向かうが、その途中弁之助は佐々木小次郎という若者と出会うのだった。

今回も濡れ場が満載です。弁之助は勿論、小次郎も道林坊の京への途次に説教をうけた女と共に居り、その女を抱いてばかりいます。

この作家の基本として、性を通して人間を描くのでしょうか。まだ読んだ作品が少ないので何とも言えないのですが、そのような匂いがあります。

本書は弁之助と道林坊との小旅行がメインで、色々な人に出会います。そして、禅問答のようなやり取りが続くのです。どうかすると言葉遊びではないかとすら思える程です。だからと言って物語の展開が無いわけではなく、佐々木小次郎の登場や、弁之助の初めての人殺しなど、それなりのイベントは起きるのです。

ただ、やはり、少々説教くさい感じはします。武蔵の成長譚(かつて聞いた言葉で言うと「ビルドゥングスロマン」というのでしょうか)なので、ある程度は仕方のないことなのかもしれません。

これまでの武蔵とはまるで異なる宮本武蔵の物語です。今後の展開に期待したいところです。

花村 萬月 武蔵(一)

武蔵(一)武蔵(一)
(2011/09/16)
花村萬月

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内にたぎる力を持て余している11歳の弁之助は、神官の娘美禰との薙刀での稽古で叩き伏せられる。その後、義姉のおぎんにより性の目覚めの導きをうけた弁之助は美禰とも契りを交わす。その後、然茂ノ介という豪族の息子と知り合い、山賊退治へと出かけることとなった。

今までの武蔵像とはまったく異なる物語です。

とにかく前に読んだこの作家の「よろづ情ノ字薬種控」と同じく濡れ場が多いのです。強烈な性の目覚めが繰り返し描かれます。何より、こんなに女にもてて自らの性の衝動に身を任せる武蔵は初めてです。勿論未だ子供なのだけど既に大人顔負けの女たらしです。

命に満ち溢れ、剣の才にもあふれているために、自分自身を持て余しているらしいのです。武蔵の本家とも言うべき吉川英治の「宮本武蔵」とは全く異なります。

漫画ですが「バガボンド」の武蔵もそれまでの武蔵像とは全く異なるものでした。

本書の武蔵も他の武蔵を描いた本と同様にこれから佐々木小次郎などのライバル達との出会いもあることでしょう。まだまだ子供なのだけれどこれからの武蔵がどのような成長を遂げていくのか、今までのストイックな武蔵像に近づいていくのか、それとも更に破天荒な武蔵像が出来上がるのか、今後の展開が楽しみな一冊です。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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