志水 辰夫 疾(はし)れ、新蔵


三年前に『飢えて狼』を三十年ぶりに再読して以来の志水辰夫作品でした。

新蔵は越後岩船藩の江戸中屋敷に向かった。姫を国許に連れ戻す手はずであった。街道筋には見張りがいる。巡礼の親子に扮し、旅が始まった。手に汗握る逃走劇の背後には、江戸表と国許の確執、弱小藩生き残りをかけた幕府用人へのあがきがあった。そして、天領だった元銀山の村の秘密、父子二代に亘る任務のゆくえも絡み一筋縄ではいかないシミタツの魅力満載!山火事が迫る中、強敵と対決する!姫を伴った新蔵の旅は成就するのか? (「BOOK」データベースより)

当初は「蓬莱屋帳外控」シリーズと勝手に思い込んで読み始めたのですが、違いました。でも、一人の男が江戸から越後の国元まで十歳の志保姫を連れ戻す、それだけの物語ではありながら、と言いますか、それだけの物語だからこそ、と言うべきなのか、「蓬莱屋帳外控」シリーズと同様に時代小説ではありながらかなり現代のハードボイルドの色を濃く残した物語になっています。

つまり、細谷正充氏がその書評の中で述べられているように、「逃走と追跡のドラマは、冒険小説の十八番」であり、本書はその醍醐味を十分に味あわせてくれます。そこは志水辰夫の小説だったのです。

冒頭からしばらくは、読者は主人公である新蔵の幼い姫を連れての行動の理由が全く分からないまま、ただ、彼らの逃避行を眺めているだけです。追跡者らの追跡の詳しい理由すらも分かりません。逃避行それ自体はそれほどに取り上げて言うべきものは無い、などと思いながら読み進めていました。いつものシミタツ節が見られないなどと思っていたものです。

それでも物語自体は、途中で拾った駕籠かきの政吉と銀治やわけありのおふさ、敵役の藤堂兄弟などの登場人物が色を添え、アクションも交え、それなりの展開を見せてはくれています。

ところが、物語も終盤に近くなってこの物語の隠された事実が次第に見え始め、それぞれの思惑が明らかにされてくると、俄然、志水辰夫の物語になります。特に、物語の終わり近く、藤堂兄弟との決着がついた後の新蔵がとある女性を掻き抱いてからの心情の吐露はシミタツ節健在でした。

志水辰夫という作家も1936年生まれだそうなので、もう80歳になるそうです。それでいて本書のようなバイタリティあふれる作品を書かれるのですから大したものです。

私たちを楽しませてくれる作品を書いて欲しいとは思いますが、かといって無理はして欲しくもなく、難しいところですね。 いずれにしろ、志水辰夫の物語が変わらずに面白いというのは嬉しい、と思わせられる作品でした。

志水 辰夫 飢えて狼

飢えて狼 (新潮文庫)飢えて狼 (新潮文庫)
(2004/05/28)
志水 辰夫

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家の者が借りてきたので再読してみる気になりました。

前に読んでからもう30年以上もたっているでしょうか。

今は三浦半島で小さなボート屋を営んでいる、かつての日本有数の登山家だった主人公は、ある日突然店を焼かれ従業員も殺されてしまう。その後、真相解明のために調べ始めるとCIAやKGBといった国家間の諜報戦の様相が見えて来て、その戦いに巻き込まれていくのだった。

やはり読み始めたら一気に読んでしまいました。文庫本で430頁余の本を4時間弱で読んだことになります。読む速度が速いのかそれと遅いのかは分かりませんが、やはり引き込まれてしまいました。

勿論本書の時代背景は古く、1976年9月に起きたベレンコ中尉亡命事件をモチーフに、北方領土問題を絡ませた物語なので、昔を知らない人たちにはピンと来ないかもしれません。しかし、そうした時代背景は知らなくても、今でも一級の冒険小説としての面白さをもっている本だと、今更ながらに実感しました。

途中で国後島での逃避行の描写がありますが、著者の手元にあった資料だけで書いたなどとは思えない迫力です。解説にも書いてありましたが、作家という人種は「見てきたような嘘」をつくのです。

また、志水辰夫氏本人の言として、北方領土問題をスローガンとして終わらせるのでは無く、「いまのうちに、かつての記録を、商業ベースに乗る本にして残しておきたいと思ったのだ。」そうです。そして、この資料が先にあって、「日本領土でありながら日本支配の及んでいない望郷の島、ここに日本人を潜入させ、高さ四、五百メートルもある絶壁を攀じ登らせたらどうだろう。」ということで本書の主人公の渋谷が生まれたのでそうです。でも、その発想でこれだけの本が書けるのですから、その才能がすごいとしか言いようがありません。

やはりこの作家は面白いと再認識させられました。

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(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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