春日 太一 仁義なき日本沈没―東宝VS.東映の戦後サバイバル


春日太一の作品では以前『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』を読み、描かれた内容の持つ熱気と情熱とが、作者の映画に対する愛情を感じさせる作品だったので、本書を読む気になったものです。

しかし、残念ながら本書に関しては『あかんやつら』ほどの情熱は感じられませんでしたし、それに伴って読み物としての面白さも感じにくいものでした。

その差がどこにあるのか良く分かりませんが、本書は映画産業全体を俯瞰した描き方であることからくるのではないかと思います。つまり『あかんやつら』はミーハー的な見方をしていた私の読み方に応えてくれていたのに対し、本書はそうではなかった、と言うことではないでしょうか。

『あかんやつら』は子供のころ見た映画スターの実像であったり、映画そのものの制作過程での裏話などが、それなりに細かく描かれていました。それに対し、本書はより大きく、映画産業史に近い描き方であったというところでしょう。

ですから、本当に映画史をしっかりと知りたい人にとっては読みやすいのかもしれません。ただ、現実に映画産業に携わっていた人たちからの若干の批判めいたレビューがあったのも事実です。こうしたレビューはネットを探すまでもなく、Amazonでのレビューに見られるところです。

蛇足ながら、この本を読んで数日後にテレビで映画『待ち伏せ』が放映されました。この本には、この映画が作られた時代にあってはスターシステムで作られたこの映画も、その神通力はもはやない、と書いてありました。

しかし、今回初めてこの映画を見て感じたのは、そもそもこの映画はストーリー自体に魅力を感じなかったのではないか、ということです。つまりはスターシステムや役者の演技を言う前に、脚本そのものの魅力を感じなかったのでしょう。中村錦之助や石原勇次郎には存在感は無く、三船敏郎も用心棒のイメージを引きずっているだけでした。ただ、勝新太郎だけが存在感があったように思います。それと浅丘ルリ子の演技はさすがでした。

戸部田 誠 1989年のテレビっ子


それは『オレたちひょうきん族』が終わり、『ガキの使いやあらへんで!!』が始まった年。
それは『ザ・ベストテン』が、裏番組の『みなさんのおかげです』に追い落とされた年。
ダウンタウンがウッチャンナンチャンが『笑っていいとも! 』のレギュラーになった年。
テレビが変わった年「1989年」を機軸に、BIG3やお笑い第三世代ほか、多くの芸人とテレビマン、
そして、いわき市の「僕」のそれぞれの青春時代を活写した群像劇にして、圧倒的なテレビ賛歌。(「AMAZON内容紹介」より)

2014年3月31日に放送された「笑っていいとも!」の終わり、グランドフィナーレの場面の紹介から本書は始まります。タモリの元に「テレビ界のトップに君臨するスターたちが集まった」場面を青春時代の終焉と感じた著者にとって大切な場面だったのでしょう。

「テレビが趣味」ということに気恥ずかしさを持っていた「テレビっ子」である著者。テレビを見なくなったと言われて久しい現代においてなお「テレビっ子」を名乗る著者。この本は、テレビの中で笑いを提供してきた人たちの青春記であるとともに、今あえて「テレビっ子」を名乗る著者のこれまた青春記でもあります。

「笑っていいとも!」の終焉は、本書のタイトルにもなっている1989年にその基礎が完成した「平成バラエティ」の終焉だと著者は考えています。その「平成バラエティ」の全貌を描き出したのが本書なのです。

私もお笑いが好きで、今でも見るテレビ番組はほとんどバラエティです。テレビによってもたらされる「笑い」が大好きです。幼い頃から浅草の「デン助劇場」や大阪の「吉本新喜劇」などをよく見ていました。そんな私にとって「ドリフの全員集合」から「俺たちひょうきん族」などを見ないわけがなく、そうした私にとってもこの本はやはり一つの青春記でした。

本書のあとがきを見ると、本書は著者によるスターたちへのインタビューは全くしていないそうです。現実のスターたちの今の言葉ではなく、当時の実際放映されたビデオや残されている活字から起こされている記録だそうです。ですから、もしかしたらこの本の中に書かれていることは事実とは異なるのかもしれない、と著者は書いています。でも、それこそが「テレビ的」なノンフィクションだとも言っています。既に視聴者に提示されている膨大な情報を再構成している本書はまさに「テレビが映した真実の断片」から再構成されたテレビ的真実なのです。

例示として本書での描写を一つだけ。現在でもテレビで毒舌のコメンテーターとしても活躍されているテリー伊東さんは、ビートたけしという天才について、彼は「誰よりも男の哀愁がある」と言ったそうです。しかし「オレだけは、たけしさんの哀愁以外だけを演出したい」と言ったとか。「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」ほかのバラエティーを数多く演出を手掛けてきたというテリー伊東さんについてもまた伝説が多いのですが、こうした感性で時代の先端を走ってきたのでしょうね。

テレビは、例え「それが虚構であったとしても、テレビは”日常”という希望だった。」と結論付ける著者の見方は、やはりテレビっ子でもあった私にとっても大いに納得できるものでした。

春日 太一 あかんやつら 東映京都撮影所血風録


半年近くも前に友人から読めと言われて貰った本。やっと読了しました。いやぁ~、何故今まで読まなかったと後悔することしきりです。ノンフィクションですが、対象が映画なので興味は尽きません。

もしかしたらルポルタージュとしてのノンフィクションを読むのは、若い頃に読んだ沢木耕太郎の『一瞬の夏』以来かもしれません。本の詳しい内容はもう覚えていませんが、カシアス内藤が再度プロボクシングのリングに戻り闘う姿を描いた作品でした。

あの本も著者の熱意も含めて面白かったのですが、本書は何と言っても私の好きな映画の世界が舞台ですから、対象をリアルに頭の中に描くことができます。感情移入どころか、その世界の中に入っている気持ちです。

東映の成り立ちには長門裕之、津川雅彦兄弟の叔父さんにあたるマキノ光雄という人が大きく関わり、五島慶太を総帥とする東急グループの小会社である東横映画株式会社がその前身である、などの話から始まります。「マキノ」という名前は、映画好きの人は知らない人はいないくらいに偉大な名前ですね。

東宝や大映といった大手の映画会社の後発である東映は、片岡千恵蔵、市川歌右衛門らのスターシステムを確立し、そのシステムから次世代のスターである中村錦之介、大川橋蔵らが輩出します。その後、スターシステムも下火となると任侠路線が生まれ、鶴田浩二、高倉健、藤純子らの時代になります。次いで来たのが実録路線であり、菅原文太らが大活躍するのです。

こうした名前は、私が小学校の頃から社会人になる間に見ていたスクリーンの中にいた人たちであり、私の世代の人の映画の歴史はこれらのスターたちと共に育ってきたのです。

本書はこうしたスターたちのエピソードも満載でそれだけでも読み応えがあります。しかし、本書の面白さはそれだけにとどまりません。これらのスターを生み出す東映という会社のシステムそのものから描き出しています。トップである社長の個性が東映の路線に大きく影響するのは勿論、名物プロデューサーらが張り切る姿が生き生きと描写されているのです。

任侠路線、実録ものともなるとその世界の人達との関わりも出てくるし、映画製作のスタッフ自身がその世界そのもののようになっていたなど、裏話には事欠きません。有名な話としては、『山口組三代目』という高倉健主演の映画を作るにあたり、本人の協力もあったらしく、当然のことながら警察と衝突し、このシリーズは二作で終わってしまいます。その代わりに東映が作ったのが『県警対組織暴力』という、警察とヤクザとの癒着が描かれた作品です。

でも、言えるのはそうして徹夜続きでも映画を作り続けてきたスタッフらは、大スターも会社の役員も、現場の使い走りに至るまで本当に映画が好きだということです。その現場の情熱が溢れんばかりに描かれているこの本の著者もまた映画が好きだということが伝わってきます。

この作者のルポに限らず、他の人の映画の本も読んでみたいと思わされた一冊でした。

本多 正識 吉本芸人に学ぶ生き残る力


本書は、漫才作家であり、天下の吉本興業の吉本総合芸能学院(NSC - New Star Creation)の講師でもある、本多正識(ほんだまさのり)氏が「生き残る力」について書かれた本です。

私は子供の頃からお笑いが好きで、でんすけ劇場や花月劇場(吉本新喜劇)はよく見ていました。二十歳過ぎ(多分)てから見たやすきよの漫才の面白さは今でも覚えています。

落語も好きで、噺家を主人公とした小説も読みました。30年以上も前のことなので書名も覚えてはいませんが、それでも結城昌治の『志ん生一代』や安藤鶴夫の『三木助歳時記』だったかは覚えています。噺家としては三木助や文楽が好きでよく聞いたものですが、今では全く聞かなくなりました。

本書はそんな第一線の噺家、漫才師について書かれたものではなく、今のテレビで活躍する人気芸人との対談を挟みながら、著者の見聞きした逸話をもとに語る人生論です。

対談で出てくる芸人は、岡村隆史(ナインティナイン)、西野亮廣(キングコング)、山里亮太(南海キャンディーズ)、村本大輔(ウーマンラッシュアワー)であり、最後に現在の吉本興業社長の大﨑洋氏が登場します。

  • 第一章 人は誰かに生かされている
  • 第二章 人づきあいにも一手間かけて
  • 第三章 とにかくやってみる
  • 第四章 芸人の生きざまに学ぶ

という構成ですが、残念ながら読み応えは今一つというところでしょうか。

私は普段から色々な媒体でお笑いの人の言葉を見聞きしていたので、ナインティナインが著者の言葉でボケとツッコミを交代したとか、お笑いを目指すならばニュースを見るべき、など紹介されているエピソードの多くは、すでに聞いたことがある話だったのです。芸人の世界の裏話に対するミーハー的な興味もあり、もう少し目新しいことを期待していたので残念でした。また、主題の「生き残る力」にしても、少々抽象論に過ぎるかなという印象です。

それでも、各対談は面白かったし、画面の中では面白おかしく、何の苦労も見せていない芸人さんの、実際の苦労の一端を垣間見れたことは収穫だったでしょうか。

とはいえ、伝説と言われる講師の言葉ですから、その言葉にはやはり重みがあり、染み入ってくるものも十分にあります。私のような中途半端に笑いの世界の小ネタを知っている人間は、このネタも聞いたことがある、などと主題ではないところで関心を失ってしまい、素直ではありません。そうではなく、真っ白な気持ちで読む人には書の良さがより判るかもしれません。

コロッケ マネる技術

マネる技術 (講談社+α新書)マネる技術 (講談社+α新書)
(2014/06/20)
コロッケ

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コロッケという芸人さんは改めて言うまでも無い「ものまね」の達人です。その芸はかならず私たちを笑わせてくれます。驚くのは大体において見るたびにネタが異なることでしょうか。例え同じネタであっても確実に笑わせてくれるのですが、全く同じネタということは無いのではないでしょうか。どこかしら進化していますね。100%の面白さをもたらしてくれる芸人さんだと思っています。大ファンです。

そんなコロッケが本を書いたというのですから、これは読まないわけにはいきません。でも、残念ながら個人的には若干の期待外れの本ではありました。

誤解を恐れずに言えば、書いてあることが聞いたことがあるような印象を受けるのです。ものまねの対象となる方には愛情を持って接することや、ものまねという芸には終わりはなく、常に進化し続けるものだとか、常日頃コロッケがテレビの画面の中で語っている事柄です。そのことが少々の味付けを変えて語ってある、そういう印象です。

決して読む価値が無い本だと言っているのではありません。あくまで個人的に、コロッケがテレビで言っていた諸々の事柄以上に目新しいことが少なく感じたということです。結局、私がコロッケという芸人が好きで、この人の出るトーク番組等はよく見ていたのでそう思うのでしょう。ですから、これまであまりコロッケという人を知らない人や、ネタを見るだけだった人には面白い本ではないでしょうか。

例えば第一章は、「第一印象」はいらない、というタイトルです。第一印象にとらわれるべきではなく、対象を楽な目で見て柔軟に発想したほうがいい、という意味のことが書かれています。素人考えでは第一印象にその人のイメージが現れているように思え、少々違和感を覚える言葉ではあります。でも、その意味は、一つの印象に捉われてしまうと本質を見失う恐れがありますよ、ということを具体例を交えながら読みやすい文章で語っています。

第二章の「好奇心が現実を変える」もそうです。柔軟な観察の先には洞察力を持って、本質を見抜く力を養いましょう、と言っていて、ものまねの第一人者であるコロッケの芸に対する姿勢や考え方を知るには最適の本といえます。

コロッケがデビューした番組である「お笑いスター誕生!」は私も見ていました。形態模写で大爆笑を取っていました。その後、コロッケがいつの間にか声帯模写まで見事にこなしているのを見て驚いたものです。

この人は私の住まう熊本市の出身ということは知っていたのですが、彼が当時私が飲みに行ってたそのビルの別の店でものまねをやっていたと聞いたのはずっと後のことです。

この人の芸の進化については改めて言うまでも無いことで皆知っています。それまでの「色もの」と言われていたものまねという芸を、超一流のエンターテインメントとして昇華させた人と言えるでしょう。

とても軽く読める本でもありますし、未だコロッケのことをよく知らない人がそのコロッケの一端を知るためには良い本かもしれません。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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