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梶尾 真治 さすらいエマノン


エマノンシリーズの二作目です。本巻では前作よりもちょっとだけ少なめの五作の短編が収められています。とは言っても、本書一話目の短編作品「さすらいビヒモス」が1984年11月号、最後の「いくたびザナハラード」が1992年1月号の「SFアドベンチャー」掲載の作品であり、前巻の『おもいでエマノン』とそれほど傾向、雰囲気が変わっているわけではありません。

本書では特に人間ドラマを描いているというよりは、自然の摂理を越えたところで起きている異常現象にエマノンが絡んでいく、そうした物語が殆どです。

「さすらいビヒモス」では、過去の記憶をもった象が町中で暴れまわるその理由とは。「まじろぎクリィチャー」では、アメリカはメイン州に設けられた禁忌区に出現する怪物。「あやかしホルネリア」では、意思をもった赤潮。「まほろばジュルバリ」では、アマゾンの乱開発を原因として封印が解けそうな悪い精霊。「いくたびザナハラード」では、人間を滅ぼそうとする超意識が。

どの物語も、自然と対立する人間の行いに対する自然または超自然の反撃に、エマノンが手助けをすることで事なきを得る、という構造です。

これらのアイデアと、それを物語として仕上げる梶尾真治と言う作者の手腕が楽しめる作品集になっています。

梶尾 真治 おもいでエマノン


「エマノン」という名前は、No Nameを逆から読んだに過ぎないのですが、なかなかかわいい名前ではあります。

タイトルからすると少女漫画的な、メルヘンチックな物語のような印象を受けますが、違います。そういう物語も無いとは言いませんが、SFらしいアイデアに満ちていて、梶尾真治という作家の本質はここにあるのではないかと思うほどに、この作者の本質に近いと思える作品です。

私が梶尾真治に出会ったのはデビュー作である『美亜へ贈る真珠』という短編でした。それは、著者お得意のタイトラベルものの走りともいうべき作品で、大いなるロマンティシズムと若干の感傷とに彩られた小説だったと思います。細かな設定はもう覚えてはいないのですが、時間の流れが極端に遅くなる機械の中にいる青年と機械の外にいる娘の恋物語でした。

本書の主人公は地球が誕生した時から現在までのすべての記憶を受け継いでいる娘です。それこそ原初の海のアメーバの頃からの記憶を持っているのです。先の『美亜へ贈る真珠』も本書『おもいでエマノン』もタイムトラベルものの変形と言える作品です。

本書の場合での変形の意味は、主人公の長寿ではなく、記憶の継承です。新しく生まれてくる子供が親の記憶を受け継いでいるのです。そしてその親はそれまでの記憶を失います。過去に会った少女が、自分が年老いてから若い姿で現れる、それは一種の時間旅行にほかなりません。

気になるのは、エマノンが自分が過去の記憶を持っているということを簡単に他人に告げていることです。この能力は誰しも目をつけるものでしょうし、記憶内容を欲しがることでしょう。が、そのことについては何も触れられてはいません。でも、まだ最初の一冊なので他の物語で語られるだろうことを期待しています。

本作品集に収納されている短編作品には、感傷過多と思われる作品もあります。でも、本書は少女趣味とも受けとられかねないそのタイトルにもかかわらず、SFの醍醐味を味わえる作品集になっています。感傷過剰と言われるかもしれない作品であっても、それは基本的にこのシリーズの根っこが空想や夢物語という意味でのロマンにあることからくる、アイディアを生かすための方途であると思うのです。

本シリーズは現時点で五冊が出ています。そして、本書『おもいでエマノン』には八作の短編が収納されています。

簡単にその一端を紹介すると、一番最初の「おもいでエマノン」はフェリーの中で知り合ったエマノンと名乗る少女との出会いと別れ、そして十三年後に会ったエマノンの過去の記憶を持った八歳ほどの少女との出会いが語られます。その少女は、好きだったという思い出は数時間も数十年も同じく刹那であって同じ、だと言うのです。

次の「さかしまエングラム」は、エマノンの血を輸血されたことで膨大な過去の記憶を引き継ぎ、その記憶に押しつぶされそうになっていた都渡晶一少年が、治療のために催眠術療法を施され、逆進化を始める物語です。

このように、基本のアイディアが秀逸であることはもちろんなのですが、各短編もよくぞこれだけのアイディアが出てくるとただ感心するばかりです。でも、SF的設定を受け付けない人、受け付けてもハードなSFが好みの人には受け入れられないかもしれません。

梶尾 真治 壱里島奇譚


さすが梶尾真治というしかない癒し系のファンタジー小説です。

生活に倦んでいた宮口翔一は「おもしろたわし」の調査を命じられて、熊本の天草に飛んだ。飛んだ先の壱里島は風光明美な島で、信柄浦岳を中心として何かと不可思議なことが起きていた。同じ時に壱里島に来ていたヒーリングスポットライターの機敷埜風天と共にそのパワーの源を目指す宮口だった。

わが郷土の熊本の、天草のとある小島を舞台にした、梶尾真治お得意の物語です。ただ、今回は梶尾真治が一番の得意分野であるタイムワープものではありません。まあ、まったく無関係ではありませんが。

主人公は会社を辞めることをも考えている宮口翔一というサラリーマンです。彼が上司に命じられて、郷土熊本の天草へと向かうところから話は始まります。

調査の元となったのは、不思議商品の「おもしろたわし」。その商品調査が目的だったのですが、訪ねて行った先では次々と不思議な現象に出会います。そのうちに、「おもしろたわし」の調査は二の次になり、この島の魅力に取りつかれている自分に気づくのです。

梶尾真治作品特徴でもあるのですが、悪人は出てきません。取り除くべき障害はあります。でも、具体的な人間像としての悪人は出ずに、障害の陰に隠されています。描くべきは障害に立ち向かう主人公であり、その仲間たちであって、その絆であるようです。

梶尾真治作品の人気の秘密の一つは、最後に待っている意外性にあると思います。一通り進んできた物語がそのまま終わってもよさそうなのですが、最後にひとひねりがあり、読者はそのひねりに胸を打たれるのです。

そして、梶尾真治作品のもうひとつの特徴と言ってもよさそうなのがロマンティシズムだと思うのですが、その色合いも本作では前面には出ていません。代わりに本作品では人の思いを、恋人や家族、そして故郷に対する思いを謳いあげています。

決して派手ではないけれど、作者の温かな気持ちが伝わり、読み終えてから爽やかな心地よさが残る作品でした。

梶尾 真治 アラミタマ奇譚

アラミタマ奇譚アラミタマ奇譚
(2012/07/24)
梶尾 真治

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主人公大山知彦は許嫁の苫辺千穂と共に熊本に向かうが、阿蘇くまもと空港に着く直前の阿蘇山上空で墜落してしまう。不思議なことに、知彦ひとりが生き残り他の搭乗者が全て行方不明だという。しかし、「自分を探して」という千穂の声が聞こえる知彦は、千穂の家族の力を得て、千穂を探し始める。

今まで読んだカジシンの作品の中では、決して出来が良いとは言えず、私の好みの作品ではありませんでした。

梶尾真治独特の主人公の行動を束縛する魅力的な舞台設定やそれに対する主人公の知恵を絞った行動が見えないのが残念です。更に言えば、本書においては、カジシン節と言っても良い詩的なロマンティシズムは全くと言って良いほどに顔を見せていません。主人公の大山知彦は自ら動くことは無く、連れまわされているだけで、千穂の面影を偲んでいるだけなのです。

阿蘇という我が郷土の名勝を舞台にしていて、熊本の人間ならば見知ったパワースポットなどには親しみを感じるのですが、似た舞台設定の「黄泉がえり」ではあれほどに詩情豊かに描きだされた人間が、本書では類型的になっている感じが否めません。

筋立てにしても同じです。異世界の負の力の描写も決してドラマを引きたてる敵役としての魅力あるものとしての存在ではないでしょう。

マイナスの感想ばかり書いている、そのことが残念です。

とにかく、私の好きな、あの梶尾真治作品を期待するだけです。

梶尾 真治 ダブルトーン

ダブルトーンダブルトーン
(2012/05/25)
梶尾 真治

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眼が覚めたとき、今日の自分は誰なのか、一瞬考える。税理士事務所に勤める田村裕美なのか、企画事務所に勤める中野由巳なのか、二人はそうやって朝を迎えていた。日常の生活に入れば他人の記憶は薄れてしまうのだが、日が経つにつれもう一人の記憶が明確な記憶として残るようになってきた。そして、中野由巳の前に一人の男が現れた。

相変わらず梶尾真治タッチは健在です。熊本市の繁華街が舞台なので更に親しみがわきます。ただ、これまでとは少々趣の異なりサスペンス色が濃い物語でした。タイムトラベルものではあるのですが、記憶を共有する二人のユミのこの現象に対する謎解き、と言って良いのかは分かりませんが、がメインなのです。結果、いつものように時間軸を飛び越えてしまい、過去の改変に至ります。

そして、いつものように、異変の原因それ自体は物語の前提ですので、その前提にのっとった上での危険からの回避行動が物語を盛り上げます。

ただ、何となく物足りなさがありました。いつもの、梶尾真治作品の底流にある人間賛歌とでも言うべき人間への温かい思いが薄いせいかもしれません。本作品では主人公達の「行動」が主体で主人公の恋人や配偶者に対する「想い」が今一つ描き切れていないように思えたのです。

でも、梶尾真治の物語ですから、ロマンチックな香りも勿論ありつつのサスペンス色の濃い物語です。これまでの、例えば消失刑などと比べれば若干の物足りなさは残りますが、それでも軽く読めて面白い物語でした。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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