杉本 章子 精姫様一条 お狂言師歌吉うきよ暦

精姫様一条 お狂言師歌吉うきよ暦精姫様一条 お狂言師歌吉うきよ暦
(2011/11/16)
杉本 章子

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このシリーズも三作目となりました。

エンターテインメント性も増しているこのシリーズは、今実に読み応えのある作品です。

三作目ともなると、舞踊の世界の描写も少なめになり、事件性の方が主になってきています。「お狂言師」や、「舞踊」といった特殊な世界についての説明はこれまでで十分になされていますので、この流れは当然でしょう。しかし、物語の基礎には舞踊の世界が横たわっているのですから、話の世界観、雰囲気はそのままです。

本作ではお吉はの活躍は控えめで、焦点は公儀隠密の日向新吾の働きに移っています。将軍家の精姫様の輿入れをめぐり、多額の費用がかかり過ぎるとの理由でこれを回避したい一派と、姫君の受け入れは誉であり受け入れるべきとする一派との暗闘が、お吉の身の回りにも降りかかってきます。そうした中、日向新吾は有馬家の大横目方森崎静馬を見張るうち、森崎静馬を刺客から助けることになるのです。

この二人の男臭い、見方によっては青臭いともとれる行いは、この作家には珍しい描写で、今後の展開が待たれます。

お狂言師という職業を持ってきた作者の思惑は見事だと思いますし、その「お狂言師」を生き生きと描き出しているその筆致にもただただ感心するばかりです。そのうえで、これだけのエンターテインメント性豊かな物語を構築するのですからその筆力は素晴らしいものがあります。

本シリーズは各巻毎に話は独立しており夫々に読んでも面白く読めるでしょうが、やはり、これまでの話を前提にして筋立ても進んでいきますので、順に読んだ方が面白さは増すと思います。

シリーズはまだまだ続くと思われ、「信太郎人情始末帖」のように七作で終わりと言わず、ずっと続けてもらいたいものです。

杉本 章子 春告鳥

春告鳥 女占い十二か月 (文春文庫)春告鳥 女占い十二か月 (文春文庫)
(2013/03/08)
杉本 章子

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「女用知恵鑑宝織」(おんなようちえかがみたからおり)という実際に出版されていた占いの本をネタに、各月の占いになぞり、十二通りの女の喜びを、また悲哀を描いている短編集です。

各月の占いの文言も紹介されていますが、よく意味が分からないというところが正直な感想です。大体前世の行いを挙げてこの世での運命を書いてあり、勿論、物語の中にその意味の解説もあるのですが、何故そのような解釈になるのかが分からないのです。

でも、占いは話の本筋ではないので、その点は深く考える必要も無いのでしょう。何より、よくもまあ考え出すことだと感心するほどに各月の物語は練られていると感じます。勿論、気にいった短編もありますし、そうでない短編もありますが、総じて、品の良い文章で流れるように語られる十二の物語は女性向けかな、と感じました。ドラマチックに話が展開する場面は少なく、殆どの物語は明日への希望を示唆して物語は閉じられます。

エンタテインメント性に富んでいるという訳ではないので、物足りないという人もいるかもしれません。しかし、江戸の町の各月の情景を織り込んで語られる、読みやすい短めの十二の物語も、たまにはゆっくりとした時間を持って良いのではないでしょうか。

杉本 章子 名主の裔

名主の裔 (文春文庫)名主の裔 (文春文庫)
(1992/05)
杉本 章子

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本書は中編「名主の裔」と、短編「男の軌跡」との二作品を収納しています。

「名主の裔」は幕末の黒船来航の頃から明治期に至るまでの、斎藤市佐衛門(月岑)という実在の名主の日常を描いた作品です。

江戸の町の町人地の支配は町奉行の下に三人の町年寄がいて、その下に町名主が居たそうです。その町名主には簡単に言うと、徳川家康の時代からの名主が『草創(くさわけ)名主』と呼ばれ、それ以降に町奉行支配になった町の名主が年代などにより『古町(こちょう)名主』、『平名主』それに『門前名主』と呼ばれています。本編の主人公の斎藤市佐衛門は神田雉子町に住んでいる草創名主二十四家のひとつ斎藤家の九代目です。号を月岑(げっしん)と言い、「江戸名所図絵」「東都歳時記」「武江年表」などの著作を著している、江戸最後の名主です。

当時の江戸の町の様子を斎藤市佐衛門の眼を通して描いた作品だと言えるでしょう。身勝手な幕府の役人の下で振りまわされる名主の姿や、明治期になっても同様に新政府の役人の勝手なお達しに右往左往する名主たちの姿が描かれています。

エンタテインメント性はありません。あくまで斎藤市佐衛門の眼を借りた客観的な名主たちの行動の記録と言えると思います。勿論親子三代で作り上げた「江戸名所図絵」についても語られていますが、主題ではありません。

本書が出版されたのが1989年であり、前に紹介した1988年出版の「東京新大橋雨中図」の次に発表された作品のようで、この両作品は雰囲気もよく似ています。近年の「東京影同心」(2011年)の作風からすると別人のようです。

「男の軌跡」に至っては更に暗い話で、幕末に実在した儒学者、寺門静軒の物語です。仕官を願うもかなわず、結局、「江戸繁昌記」という江戸の風俗を記した本を出版するのです。

著者のデビュー作だそうで、この作品だけを先に読んでいたら、多分以後はこの作家の作品は読まなかったでしょう。面白くないというのではなく、好みではないということです。

杉本 章子 大奥二人道成寺 お狂言師歌吉うきよ暦

大奥二人道成寺 お狂言師歌吉うきよ暦 (講談社文庫)大奥二人道成寺 お狂言師歌吉うきよ暦 (講談社文庫)
(2011/12/15)
杉本 章子

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お狂言師歌吉シリーズの二作目です。

前作で同輩のために顔に傷を負う身になった歌吉ですが、しばらく悩みはしたもの持ち前の明るさから再びお狂言師の道を歩み、隠密の手伝いも無事終えたところから今回のお話が始まります。

とあることから坂東流名取である照代と共に居るところを賊に襲われます。再び自分が襲われたと思った歌吉ですが、実は襲われたのは照代でした。照代が将軍のお手付きであったことから、歌吉もまた大奥の陰謀に巻き込まれることになるのです

前作でもそうだったのですが、全編を通して小粋な雰囲気に仕上がっており、これまでの時代小説とは少し趣が異なります。その上、今回は前作の出版から三年が経っているからなのか、このシリーズに慣れたからなのか、お狂言師というキャラクタが実に生き生きとしているのです。

大奥のしきたり、決まりごとやそれに伴う所作等々、見知らぬ情報がふんだんに盛り込まれています。例えば大奥ではお狂言師とは言わずに、お茶所(おちゃどこ)とかお茶の間子供などと言うらしいなど、さりげなく会話の中に織り込まれています。更にはよく聞く女同士の戦いが描かれているところも見所です。

そうした大奥での照代と歌吉の二人での「道成寺」を踊る場面は圧巻です。日本舞踊のことが分からない私でも十分にその雰囲気を味わうことが出来ました。

更には歌仙や照代の恋、また歌吉を挟んでの前作でも登場していた二人、公儀隠密の日向新吾と材木問屋角善の跡取り息子宗助の振舞いも色を添えています。

物語の終幕には、更にまたひとつ、ほろりとさせられる人情話も付け加えてあり、堪能できる物語でした。

この後、まだ第三作目があるそうなので、早速に読みたいと思っています。

杉本 章子 お狂言師歌吉うきよ暦

お狂言師歌吉うきよ暦 (講談社文庫)お狂言師歌吉うきよ暦 (講談社文庫)
(2008/12/12)
杉本 章子

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本書では「お狂言師」という初めて聞く言葉が出て来ます。作品の中でも説明はしてありますが、ちょっと調べてみると

当時、自由に芝居見物が許されなかった大名の奥方や姫君のために、男子禁制の大奥にあがって、その時々に評判の歌舞伎舞踊をお目にかけるとを本業とする女芸人たちが女狂言師たちでした。

という文章が「日本舞踊 坂東流の紹介」にありました。現在の日本舞踊のそもそもの始まりだそうです。(このサイトの紹介文は時代背景を知る上でも面白いサイトです。リンクについての文章がありませんのでリンクは張っていませんが、同単語で検索すると直ぐに出てきます。)

また、主人公歌吉の師匠である三代目水木歌仙も実在の人物のようで、下記のようにコトバンクに記してありました。

美貌の女形瀬川菊之丞の通称路考にちなみ『路考お粂』と評判された江戸美人。

当然、物語の舞台は日本舞踊の世界です。主人公の歌吉こと赤松屋のお吉は同輩の嫉妬から顔に傷を負わされてしまい、一生をお狂言師として生きて以降を決心するのです。そんな折、公儀お小人目付の侍から隠密の手伝いを頼まれます。

物語は最初「仮名手本忠臣蔵」の「お軽勘平道行」の稽古の場面から始まります。言葉は聞いたことがあっても舞台は見たことがありません。日本舞踊自体ははテレビ等で見たことがある程度なので少々敷居が高い物語かと危ぶみながら読み進みました。でも作者の筆は素人にも優しく、その点は直ぐに何の問題も無くなります。

気になったのは、当初は捕物帖だと思い込んで読んでいたので少々中途半端だと感じてしまったのです。

確かに捕物帖として読めば今一つ乗り切れないのですが、そうではなく、芸事の世界の物語として見ると、この作家さんの特徴である良く調べられている考証に基づいている展開自体は面白く、結局惹き込まれていたのです。

今は直ぐにでも次の作品を読みたいと思っています。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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