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西條 奈加 善人長屋


個人的には何とも微妙な小説でした。

舞台設定は、裏家業を持つ人たちの住む長屋に、本当の善人である加吉が新しく住まうことになるのですが、善人加吉の持ち込む面倒を伴う人助けに長屋の面々が手助けをする、というそれなりに面白い設定であるのです。全9編の連作短編小説とも言えそうです。

しかし、今ひとつ引き込まれないのは何故でしょう、文章の表現力の問題かと思ったのですが、でも下手な文章とは思えません。とすれば、あとは書き手と読み手の相性としかいえないのかもしれないと思うようになりました。

この作家の以前読んだ『金春屋ゴメス』は、架空の江戸を舞台にした物語でしたが、けっこう面白く読んだ記憶があります。また、その後に読んだ『涅槃の雪』にしても、天保の改革の頃の高安門佑という与力を主人公とした、あの鳥居耀蔵の苛烈な取り締まりのもと、暗くなりがちな市井の暮らしをユーモラスに描いた作品で、これまたそれなりに面白く読みました。ただ、今一つ乗り切れなかった記憶があるのです。

本書も、先に書いたように、舞台設定は面白そうなのです。長屋の差配の儀右衛門の娘である、この物語の主人公であるお縫は、加吉の持ちこむ難題を見ぬ振りができません。その結果、お縫に引きずられて長屋の小悪党たちが加吉を助けることになります。

多分、このお縫の行動がどうも独善的といいますか、身勝手な感じがして、感情移入するギリギリの一歩を踏み出すことができないところに原因がありそうです。結果的に、当たり前のことですが物語としてはそれなりの結末を迎えます。しかし、その結末がすんなりと受け入れられないのが、個人の好みに合わないということでしょう。読み手の身勝手な好みで語られて、作家も大変です。

ただ、最後の2編、加吉を中心とした物語は読みごたえがありました。この2編の内容は私の琴線に触れたと思われます。他の物語とそれほどに変わっている訳ではないのに、ただ、主題が加吉の背景に触れているだけなのに違うのです。

こうした点を見ると、本当に読み手は勝手なものだと思います。でも、これもまた読書の楽しみの一つでしょう。

西條 奈加 涅槃の雪

涅槃の雪涅槃の雪
(2011/09/17)
西條奈加

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江戸時代末期の12代将軍徳川家慶の治世、老中水野忠邦の為したいわゆる天保の改革を、北町奉行の遠山左衛門尉景元の下の高安門佑という吟味方与力の眼を通してみた江戸の町の物語と言って良さそうです。

あることから高安門佑は自分の家でお卯乃という元女郎と同居することになった。天保の改革は江戸の町の活気を奪い、女浄瑠璃のような市民のささやかな喜びでさえも許さないものだった。遠山景元らは改革の手を緩めるように南町奉行矢部定謙らと共に進言するも受け入れられず、かえって南町奉行であった矢部定謙は失脚させられ、その後に妖怪と呼ばれた鳥居耀蔵が就く。この鳥居耀蔵の取り締まりは苛烈なものであり、高安門佑は遠山景元のもと何も手の打ちようが無いことに暗澹とした毎日を送っていたのだが、その救いがお卯乃の存在だった。

こう纏めると天保の改革という暗い時代を生き抜く一与力といった印象になるのですが、主人公は見た目は怖いが心根の優しい一本気の男という設定であり、外回りの時には何時も付き従っている一平の存在もあり、時にはユーモラスに物語は進みます。

とにかく本書は天保の改革それ自体を詳しく述べてあります。遠山景元と水野忠邦、鳥居耀蔵との対立の図式の中、株仲間の解散、寄席の制限、芝居小屋の移転といった数々の施策とそれによる市井の暮らしへの影響を描き、少々変わった物語になっています。

私が読んだ範囲では鳥居耀蔵をこれほど書き込んでいる小説を知りません。主人公との関わりの中、妖怪鳥居耀蔵を人間鳥居耀蔵として描く部分もあり、なかなかに魅力的な物語として仕上がっています。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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