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笹本 稜平 恋する組長

恋する組長 (光文社文庫)恋する組長 (光文社文庫)
(2010/03)
笹本 稜平

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首都圏にあるという、東西の指定広域暴力団の草刈り場となるには狭いが地場の独立系の組が参入しての陣取り合戦は無くならない街、S市を舞台にした、"探偵"と呼ばれる"おれ"の活躍を描く連作短編集です。 おれの得意先は主に暴力団であり、各々の組からちょっと面倒な依頼を受けて動き回っていて、その様が各短編で語られています。

「死人の逆恨み」  おれの事務所で首を吊った男がいて、その後始末と事件の裏側を探る顛末が描かれます。ここで、事務所の電話番である尻軽女の由子や、常におれを誤認逮捕するS署一係の通称ゴリラという門倉権蔵刑事などが顔を見せます。

「犬も歩けば」  山藤組の組長から愛犬の「ベル」を探してほしいとの依頼があります。断るわけにもいかず捜索するのですが、とある事件の裏を探り出してしまうのです。

「幽霊同窓会」  山藤組の若頭が消息不明になった。捜索を開始すると電話番の由子がとある連れ込みホテルで見かけたという。早速そのホテルに行って見ると、問題の部屋には眉間を拳銃で打ち抜かれた死体があった。と、のっけからホラーのような展開で始まりますが、その実・・・。

「ゴリラの春」では、S署のゴリラが恋女房の浮気を疑い、調べてくれと言ってきます。ところが話は妙な風に展開を始めます。

「五月のシンデレラ」  山藤組の若頭が由子のために見合い話を持ってきます。由子の家系が由緒ある家系だというのです。しかし、・・・。

「恋する組長」  橋爪組の組長橋詰大吉が一目惚れをしたと言ってきます。ところがその相手はゴリラの恋女房の愛ちゃんだったことから、"おれ"は橋詰とゴリラの間に挟まれて身動きが取れなくなるのです。

以上のような、コミカルな物語が続きます。当初は今野敏の「任侠シリーズ」のようなヤクザの親分が主人公のコメディタッチの物語と思っていたのですが、そうではなく、名無しの探偵の軽いタッチのハードボイルド(と言って良いのでしょう)でした。

面白いのは面白いのですが、この作家の作品にしては少々中途半端な気がしないでもありません。コメディとも、かといって軽妙なハードボイルドともつかない物語になっています。

登場人物も電話番の由子とゴリラ、そしてS市の暴力団関係者と限定していて、小じんまりとまとまってしまった感じです。登場人物だけでなく、主人公の"おれ"も暴力団の親分の言葉には逆わない使いっぱしり的立ち位置なのですが、それなりに存在感を出したそうでもあり、何となくキャラがはっきりとしない感じです。

この作家の山岳小説を続けて読んでいると、そのスケールの大きさなどが印象的であったためにそう思うのかもしれませんが、もう少しスケールアップして欲しいと思ってしまいました。

笹本 稜平 天空への回廊

天空への回廊 (光文社文庫)天空への回廊 (光文社文庫)
(2004/07/14)
笹本 稜平

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山岳小説+冒険小説という実に贅沢な小説です。山岳小説も冒険小説もこの作家の得意とする分野らしく、評判通りの面白い作品でした。

真木郷司はエベレストの山頂近くで人工衛星の落下の場面に遭遇するが、この事故から引き起こされた雪崩などの災害からは辛くも逃れることが出来た。人工衛星の回収の手助けを頼まれた郷司は、この事故で行方不明になったフランス人の親友マルク・ジャナンの捜索のこともあり、再度エベレストに登ることになった。しかし、この事故の裏には人類の生存のかかった秘密が隠されており、八千メートルを超えるエベレスト山中でのテロリストとの死闘に巻き込まれることになってしまった。

文庫本で650頁を超える大作です。ストーリーは二転三転とし、読者をなかなかに飽きさせません。

難を言えば、主人公の真木郷司があまりにもスーパーマンなところでしょうか。何しろ8千メートルを超える高所で無酸素のまま数日を過ごすのですから。またテロリストの今回の事件を起こす動機が、この事件の結果に見合うだけのものとは言い難いとも感じました。

もう一点。8千メートルを超える高地でのアクションは少々想像しにくいという点があります。山のことは何も知らない、分からない一般人にとってはエベレストの情報など、せいぜいテレビ番組で見る山の映像くらいしかありません。

そうした番組の一つにバラエティ「イッテQ」があり、その中でのイモトの登山姿をは現場の過酷さの一端を示していると思われるのですが、本書での舞台は冬場のエベレスト山頂です。その過酷さはなかなかに分かりにくいいでしょう。

でも、作者の圧倒的な筆力は地球で一番高い場所という未知の環境をも描写しています。この筆力の前には少々の疑問点など大したことでは無いように思えてしまいます。

また、山岳小説としての面白さもさることながら、冒険小説としての面白さも一級です。少々、スケールが広がり過ぎかと思わないでもないのですが、読んでいるといつの間にか物語世界に引き込まれています。評判の高い作品であるのも当然だと思いました。

笹本 稜平 未踏峰

未踏峰 (祥伝社文庫)未踏峰 (祥伝社文庫)
(2012/05/16)
笹本 稜平

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橘裕也は薬への依存から万引き事件を起こした過去を持ち人生を捨てかけていた。戸村サヤカは天才的な料理人としての腕を持ちながら、人とのコミュニケーションをとりにくいアスペルガー症候群という病に罹っていて人生をあきらめかけていた。勝田慎二はイラストを書かせたら一級品だが、軽度の知的障害を持つ身だった。そうした三人が力を合わせ、勝手にビンティ・ヒュッテと名付けたヒマラヤの未踏峰の初登頂に挑戦する物語です。

前に読んだ「還るべき場所」と比べると、少々迫力に欠けるきらいはあります。そういう意味では「春を背負って」との中間に位置する作品でしょうか。

本作品は、「還るべき場所」の手に汗握るサスペンス色はありませんし、「春を背負って」に見られる山小屋での人との出会いからもたらされるほのぼのとした人間ドラマもありませんが、俗世のプレッシャーに押しつぶされ掛けた主人公橘裕也達の再生の物語としてみると、なかなかに捨てがたいものがあります。

実社会での、良好な人間関係の保持、という作業はもしかしたら一番困難な事柄かも知れません。三人ともその点に障害を持つ人間です。しかし、パウロさんというかつての世界的なクライマーのもとで働く三人はお互いに信頼できる仲間となり、互いに助け合い、自らの力で未だ誰も登頂していない名も無い山に登ろうとするのです。

K2のような名のある高峰ではないし、標高こそ7千メートルに満たないけれど、素人だった三人が登るに決して荒唐無稽では無いその設定が良いです。

とはいえ、山は山です。死が隣り合わせでいることには間違いはありません。頂上を目指す三人の姿は、予想外の出来事や気象の変化といったサスペンスの要素も加味され、感動的です。

「ここで逃げたら、死ぬまで人生から逃げ続けることになる・・・」というこの本の帯にも書いてある台詞は読み手の心に迫ります。

勿論、小説としての面白さからすれば、先に書いたように「還るべき場所」の方が数段面白いと思います。それでも、この本もなかなかに捨てがたい物語ではないでしょうか。

笹本 稜平 還るべき場所

還るべき場所 (文春文庫)還るべき場所 (文春文庫)
(2011/06/10)
笹本 稜平

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山岳小説としては勿論、サスペンス小説としても第一級の面白さでした。この手の小説としては久しぶりに面白い物語に出会いました。

矢代翔平は恋人でもあるパートナー栗本聖美を世界第2の高峰、ヒマラヤのK2での事故で失ってしまう。その事故で聖美自らザイルを切断したのではないかという疑惑を払拭できないまま、翔平は山に近づけないでいた。四年後、やはり山仲間の板倉亮太の会社の登山ツアーのガイドとして再びK2に登ることとなった。

文庫本で620頁程の長さがあります。途中までは、若干冗長に感じるところもあったのですが、いざヒマラヤに登る第三章あたりからは本を置くことが難しく感じる程に入り込んでしまいました。

山を舞台にした小説は、一般の小説とは異なり、常に自然からもたらされる「死」を根底に据えて語られるので緊張感があるのでしょう。その緊張感の中で人間ドラマが展開されるのですが、作者の描写力が無ければ緊張感も表現できるものではないし、読者の共感を得られるものではないことは勿論です。

笹本稜平という作家はその緊張感を持続させながらも山という特別な舞台で更に特殊な状況を作り出し、一段と高度にサスペンスフルな物語を仕上げているのです。

加えて、山に登る、そのことについての財界の大物である神津とその秘書竹原との会話等に見られるように、山に登ることについての答えを導き出そうとしています。答えなどないであろう設問なのですが、大いに納得させられるのは、その台詞を吐くにふさわしい人物設定のためなのかもしれません。

「春を背負って」で見せた山小屋を舞台とする山の物語とはまた違った、よりシビアな八千メートル級の山の物語は新たな魅力がありました。この作家の他の山岳小説の「天空の回廊」は高所での諜報戦がらみの冒険小説のようだし、「未踏峰」もエベレストを舞台にした魅力あふれるドラマが展開されるようです。早速読むことにしたいと思います。

笹本 稜平 春を背負って

春を背負って (文春文庫)春を背負って (文春文庫)
(2014/03/07)
笹本 稜平

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山小屋を舞台にした実に感動的な人間ドラマが繰り広げられる連作短編集です。「春を背負って」「花泥棒」「野晒し」「小屋仕舞い」「疑似好天」「荷揚げ日和」の六篇から成ります。

事故で死んだ父が残した山小屋を継ごうと決心した主人公長嶺亨が、父親の後輩である自由人ゴロさんと共にこの山小屋を盛りたてていくお話です。この山小屋に様々の人が訪れ、夫々のドラマを展開していきます。この設定自体はありがちなのですが、作者の筆の力は良質な物語を提供してくれています。

山を舞台にした物語は名作が色々ありますが、どうして感動的なドラマの舞台になりやすいのでしょうか。山を歩くそのこと自体が自然と直接に向かい合う行為で非日常なのですが、その自然が一旦牙をむくと死と直面せざるを得ない状況に陥ります。そうした山という自然と人間とが緊張感を生み、人間ドラマが生まれやすいのでしょうか。

でも、山を知らないと自然と人間とを描写することはできないでしょうから、笹本稜平という作家さんは山を良く知っているのでしょうね。山での人の生活や自然の描写は見事であり、作品の奥行きがとても深く感じられます。

この作家さんには他にも山を舞台にした作品があり、かなり評判が高いようです。早速読んでみたいと思います。

山を舞台にした小説と言えば新田次郎の作品がありますが、直接に人間と山との物語を語る新田次郎に対し、笹本稜平の作品は山を舞台にした人間ドラマが中心だと言えるのではないでしょうか。

ちなみに、先日数巻だけですが「岳物語」というコミックを読みました。「岳物語」も山小屋が舞台になっていて、そこを訪れる人たちとのドラマが展開されるのです。この漫画の人気があるのも納得できる、実に感動的な作品でした。本作品を読んでいて、その漫画を思い出しました。

また、本作品は「劔岳 点の記」を撮った木村大作監督により映画化されるそうです。松山ケンイチが主人公で豊川悦司、蒼井優らが脇を支えるそうです。こちらもまた面白そうで期待したいです。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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