道尾 秀介 風神の手




複数の物語が一個の話として収斂していく様が見事な長編のミステリー小説です。

第一章
ひと組の母と娘が遺影専門の写真館である鏡影館に訪れます。そこで見た一枚の写真は母親である奈津美に昔を思いだせます。二十七年前の火振り漁の夜の母親の回想へと場面は移り、奈津美は火振り漁の漁師に恋をします。

第二章
一人の男が鏡影館の経営者を訪ねてきて、留守の間待たせてくれと頼みます。そこから、話は一気に過去へ飛び、一人の少年“まめ”が鏡影館の商品棚の前にいる場面へと移ります。

第三章
崎村源哉は鏡影館で藤下歩という女性と知り合います。歩は、源哉が小学五年生くらいの頃に家を訪ねてきた親子連れの娘の方でした。そこで二人はノカタという老夫人とすれ違うのでした。



物語の中心には鏡影館という遺影専門の写真館があります。またもう一つの芯として、この町を流れる西取川の護岸工事があり、その工事を行っていた中江間建設の河川汚染事故があります。中江間建設はこの事故により倒産することになり、家族らと共にこの町を出ていくことになるのです。

第一章の奈津美の父が中江間建設の社長であり、第二章のでっかちの父親は中江間建設によるこの護岸工事の現場で働いていました。そして、第三章に出てくる藤下歩は第一章の中江間奈津美の娘であり、崎村源哉は奈津美の恋人である崎村の息子だったのです。

道尾秀介という作者の作品は本書で四作目であり、あまり多くは読んでいません。これまで読んだ作品も決して私の好みに合致した作品ということはできず、しばらく遠ざかっていたのですが、数年前にテレビで放映された映画『カラスの親指』という作品が、その終盤のどんでん返しの意外性もあって気になる作家の一人として頭の隅に残っていたのです。

それが本作品の惹句「隠された“因果律”の鍵を握るのは、一体誰なのか―章を追うごとに出来事の“意味”が反転しながら結ばれていく。」を見て読んでみる気になりました。

結果としてわたしの好みに合致した作品であり、これまでのホラーチックなこの作者の印象とは異なる作品でした。一番最初に読んだ『シャドウ』などから比べると実に健康的なのです。

各章で、意外性を伴った謎とき、というかその章で起きた事柄の本当の意味を解き明かしながら、全体として各章で起きた事柄が相互に関連していく、その様は小気味よく快適です。

各章での出来事は、他の章では別な意味を持ってくる出来事であり、単なる貼られた伏線の回収、以上の意味を持たせてあるのです。

そうした構造は、この物語の簡単なあらずじさえもネタバレになりかねず、ここで書くわけにはいきません。上記の簡単な紹介すら書いてはいけないのではないか、とも思ってしまう程です。でも、上記の点くらいはすぐに判明するすることなのでよしとしましょう。

「写真」や「くらげパチンコ」などの遊びを共通のイメージとして持ちながら、複数の視点から同じ出来事を見つめなおす、その構造が上手くはまると心地よい、そういう物語でした。

道尾 秀介 花と流れ星

花と流れ星 (幻冬舎文庫)花と流れ星 (幻冬舎文庫)
(2012/04/12)
道尾 秀介

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ちょっとした仕掛が施された五編が格納された短編集です。「流れ星の作り方」「モルグ街の奇術」「オディ&デコ」「箱の中の隼」「花と氷」の五編が収納されています。

個人的には一番最初の「流れ星の作り方」が、作品としては一番好きでした。内容はそうでもないのですが、どことなく詩情(と言えるかどうか)が漂う雰囲気がある描写であることと、物語の構成が泡坂妻夫の作品を思いだすようなタッチで面白かったのです。それと、最後の最後のオチが小気味良かったですね。

そういう意味では「モルグ街の奇術」の作り方も好きでした。テーマが「モルグ街の殺人」だからでしょう、少々ポーの作品めいて怪奇趣味を持った小品で、それでいてひねりが効いていて面白い作品でした。

「オディ&デコ」は風邪をひいていた真備が発した「鬼の」という言葉が「オディド」と聞こえたところからきていると思えるのですが、少女たちの子猫を思う気持ちと子供達同士のちょっとしたした行き違い、の物語です。個人的には今一つでした。

「箱の中の隼」は新興宗教の、「花と氷」は真備と真備の助手である凛の過去にまつわる物語で、前半のインパクトが強かっただけに、少々失速した感じでした。

個人的には後半の作品が当初の二作品ほどのインパクトは無いと感じたものの、全体としてはそれでも面白い物語集でした。

本作品の主人公である真備庄介の物語は他に長編があるそうです。ホラー作家の道尾秀介をワトスン役に配したこのシリーズもなかなかに面白そうで、近いうちに読んでみたいものです。

道尾 秀介 笑うハーレキン

笑うハーレキン笑うハーレキン
(2013/01/09)
道尾 秀介

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ホームレス家具屋東口。その男のもとにある日突然弟子志願の若い女が現れ、ホームレスたちとの奇妙な共同生活が始まる。文字どおりの"疫病神"に付きまとわれている東口は、ある日奇妙な本棚修復の依頼を受ける。仕事、仕事で結局は会社を失い、更には子供まで死なせてしまった男、東口の回生の物語。

この作家はまだ2冊しか読んでいないのではっきりとは言えないのだけれど、作風は決して明るくはない感じがします。

一応本書も未来志向と言っても間違いではないのだけれど、どうもその未来がバラ色を感じさせないのです。

物語としては、巧妙に張られている伏線が終盤生きてきて話の展開が良く練られている印象がして、面白いです。ただ、派手なアクションといった展開とは無縁のお話なので、その手の物語を期待している人には向きませんね。

でも、主人公の回生の物語として楽しめば十分に楽しめると思います。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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