ダニエル・キイス アルジャーノンに花束を

アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)
(1999/10)
ダニエル キイス

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古典SFの中でも名作と言われる作品です。

いつかは読むべき本だとは思っていながら、内容がどちらかと言えば重い作品だと聞いていたので、何となく忌避していたのかもしれません。でも図書館で目の前にあったので、すぐに借りて読み終えました。そして、名作と言われるその意味が分かりました。

32歳になる知的障害を持つ青年チャーリー・ゴードンはIQを向上させという手術を受ける。アルジャーノンと名付けられた実験動物のねずみはこの手術を受け劇的な知能の向上を示していた。そして、手術を受けたチャーリーもまた高い知能を得る。しかし、高い知能を得た代わりに失ったものもあった。

チャーリー自身の手による、経過報告という手記の体裁で物語は進みます。翻訳者の小尾美佐氏は、当初のIQが低い状態の報告は句読点もないひらがなの文章として表現しています。その文章が、句読点や、より高度な単語を覚えていくにつれ、達者な文章として綴られていくのですが、その過程が見事です。作品の内容もさることながら小尾氏の訳もまた名訳と言われているのも納得します。

高度な知能を獲得したチャーリーは、過去の記憶まで明瞭に取り戻し、父や母、そして妹とのやり取りをも思いだします。息子の知的障害を認めたがらず、厳しい躾により色々なことを覚えさせようとするヒステリックな母、その母親を抑えることのできない父親、知的障害の兄を疎ましく思う妹などの蘇った記憶はチャーリーの心を深く傷つけます。

また、チャーリーが働いていたベーカリーでの仲間の仕打ち、自分に手術を施した教授、更には自分に読み書きを教えてくれていたキニアン先生への性的な欲望など、思いもよらない心の葛藤がチャーリーの心を苦しめるのです。

知的障害を持つ人たちへの健常者と言われる人たちの視線、感情等がむき出しにされていき、経過報告を読んでいる読者は常に自らの行いを見つめ直させられます。人間の持つ弱者に対する優しさと傲慢さとが差別を受ける人間の目線で語られていくのですが、それは知的障害を持たない我々への警鐘にもなっているのです。

そしてクライマックスを迎える過程でチャーリーの人間としての存在が、誇りが読者の前に突きつけられ、経過報告のしめくくりに至るのですが、この最後2行には心を打たれ、いつまでも心から消えません。

爽やかな読後感とは行きませんが、どこまでもやさしいチャーリーの言葉に救いを見つけたいと思います。

私が読んだ新刊書には谷口高夫氏の解説が付属していたのですが、この解説がまた素晴らしかった。主人公の内心の葛藤についての解説は勿論のこと、SFというジャンルが「架空世界から現実世界へと向かうベクトルが働いていた」時代に、「限りなく地表に向かって近付いて行って成立した」のがこの作品だという話には、大いに納得させられました。

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本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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