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誉田 哲也 あの夏、二人のルカ




誉田哲也の久しぶりの長編の青春小説です。



一人の女性が離婚し、仕事も辞め、生まれ育った谷中にある親の残したビルのオーナーとして帰ってきました。そこに新しくできていたのは乾滉一というギターのリペアマン(修理の専門家)がオーナーの「ルーカス・ギタークラフト」というギター及び日用品の修理の店でした。

いっぽう、家は貸しスタジオを経営していて無料でスタジオも、また貸楽器も使え、自身はドラムをやっている女子高生の佐藤久美子は、クラスで見かけた一本のアコースティックギターの持主を探し出し、蓮見翔子と谷川実悠とを誘ってガールズバンドを作ろうと目論見ます。

そこにバンドの話を聞きつけた真嶋瑠香、それに歌がうまいということで森久遥という二人が参加してきて、ここにガールズバンド「ルーカス」が誕生したのです。



誉田哲也という人は若い頃はプロのミュージシャンを目指していたというだけあって、音楽をテーマにした小説も何作か書かれています。本書もその仲の一冊であり、女子高校生によるガールズバンドの物語です。

本書の特徴としは、一つは女子高校生のバンド活動の様子が、一つは離婚し、仕事も辞めて生まれ育ってきた街に戻ってきた一人の女性の姿が描かれているという、二本の時系列があることでしょう。

そして、より特徴的だと思うのは、女子高校生らのバンド活動の描き方として、自身はバンド活動はせずに、手伝いや助言などはするものの、バンドを見ているだけの真嶋瑠香という子を参加させていることでしょうか。本当はバンド活動が先にありきの話なのですが、逆に女子高生の仲間が先にあって、その延長線上にバンドがある雰囲気なのです。

しかし、この真嶋瑠香という女の子が物語上重要な役割を担っているのです。こうした構成も誉田哲也のうまいところだと思います。


女子高生が新しくバンドを組み、活動を始める物語ですので、まずはレンタルスタジオの構造やエレキギターやベースをアンプにつなぐところから説明してあり、更にギターの奏法などについても物語の随所に挟みこんであります。バンド活動にのめり込んだ経験を持つ作者ならではかもしれません。

誉田哲也の小説らしいと思うのは、青春小説でありながら、時間軸を違えた二つの物語をかたりつつ、現在の時間軸の語り手が、かつての女子高校生のうちの誰なのかを小さな謎として残し、それを少しずつ分からせていく描き方にあります。

また、過去は佐藤久美子、現代は沢口遥と乾滉一の三人という異なる視点で描かれていきますが、こうした手法は誉田哲也という作者の得意とする手法のようで、よく使われています。勿論、その手法が効果的であるのもまたこの作者ならではなのでしょう。

本書もさすが誉田哲也と思わせられる作品でした。このところこの作者の作品にはずれはないと思えます。また、次作を期待したいものです。

誉田 哲也 ノーマンズ・ランド




姫川玲子シリーズの第九弾となる、長編推理小説です。

時系列的に三つの流れがあり、それが交互に語られ、最後にそのすべてが一つにまとまります。



一つは三十年前のから始まる、江川利嗣と庄野初海という二人の高校生の純愛の物語です。しかし、その付き合いはある日突然に失われてしまいます。その後は江川利嗣の視点で語られます。

もう一つは姫川玲子を追いかけるこの物語の本筋の流れです。葛飾署管内で起きた若い女性の殺人事件のため、姫川は葛飾署におかれた捜査本部に入ることになります。ところが、犯人と目される男は既に別件で本所署において逮捕されていました。しかし、本所署の様子がおかしく、姫川は何とか本所署の事件の内情を探り出しますが、そこでは思いもかけない裏の事情がありました。

そしてもう一つ、ガンテツこと勝俣健作警部補の動きを追いかける流れがあります。勝俣刑事は民自党本部の広報本部長の鴨志田に呼び出され、あるビデオを見せられて、その後始末をするようにと言われます。



誉田哲也という作家の特に警察小説での小説手法として、時系列を違え、視点の主体をその場面の中心人物に据えた書き方をされることが多いように思います。そして、ほとんどの場合においてその手法が実に効果的だと感じられるのです。

というのも、視点の主の主観、内心に深く分け入り表現することで、読者もその場面に感情移入しやすくなると思われるのです。

これまでのこのシリーズも当然面白く読んだのですが、本書では特にエンターテインメント小説としての魅力が増しているようです。それは、前作である『硝子の太陽R』あたりから特に思ったのかもしれません。

もともと、姫川玲子シリーズでは特に姫川班のメンバー個々のキャラクターの設定が面白く、その個性がチームとしてうまく機能していました。それが、巻数を重ねるにつれ、物語世界の構築も重ねられたためなのか、とくに姫川と勝俣刑事のキャラクター描写が面白いと感じるようになってきました。

その個性の表現の方法として、これまでのシリーズの中でも同様だったのかは覚えていませんが、会話の流れの中での地の文で書かれる内心の声が強烈です。

例えば、目撃者に参考人の写真を見せたときの「こんな不細工じゃありません」との目撃者の言葉に対し、“それ、そこまでハッキリいわなくてもよくないか。”とあったり、武見諒太検事との会話の中で、茶化そうとする武見に対し、“黙って聞け。”との一言があったりします。声に出してではなく、あくまで内心の声であって、実に効果的です。


その流れで言うと、シリーズの主人公である姫川玲子というキャラクターが、シリーズの中心に強烈に据えられているのもまた、魅力の大きな要因だと思います。シリーズものの中でも特に芯が強固に設けられているのです。

また、姫川のように強烈な個性を持ってシリーズの毒の側面を担当する勝俣健作警部補の存在も大きいのですが、その勝俣の来歴の一端が語られているのも魅力の一部でしょう。


勿論、ストーリー自体もよく考えられています。今回は特に自分の属する捜査本部の事件ではなく、他の署の事件の内容が自分の事件に絡むというその一事で、他の署の事件の裏側を暴きだすという構造であり、ちょっと気を抜くと全体象が見えなくなりそうな感じもあります。


常に、今後の展開を早く読みたいと期待させてくれるのです。

誉田 哲也 Qrosの女





この物語は、「芸能界」と「週刊誌」を舞台とするサスペンスの要素も詰まった長編小説です。

世間を騒がす謎のCM美女「Qrosの女」の素性を暴くべく奮闘する「週刊キンダイ」芸能記者の矢口慶太。CMで彼女と共演した人気俳優・藤井涼介の自宅を、先輩記者・栗山と一緒に張り込むとそこに当人が!?藤井との熱愛スクープ・ゲット!それともリーク?錯綜するネット情報と悪意。怒涛のエンタメ誕生!! (「BOOK」データベースより)


誉田哲也の小説といえば、エンターテインメント性の高い物語で人気ですが、中でも描写のグロテスクさが一つの特徴として挙げられます。本書はそうした指摘に対し、「不幸な真実の物語」とは反対の、全くグロさを封印した「幸せな嘘の物語」を描いたのだそうです。( Qrosの女 誉田哲也 : 参照 )

生粋の芸能記者である栗山孝治は、過去に一度だけ仕事上でミスを犯し、「贖罪」としての思いを持ちつつ並行取材ネタの一つとして「Qrosの女」を追いかけていました。ある取材先で突然に自分は「Qrosの女」に会ったことがあることに気づき、その女の追跡調査を続けます。そこに、園田芳美という芸能ゴロ記者が関わってくるのでした。

その後栗山記者は「Qrosの女」こと市瀬真澄と出会い、彼女のために一肌脱ぐことになります。

この市瀬真澄という存在をめぐり、栗山孝治、栗山の後輩記者である矢口慶太、芸能ゴロの園田芳美、そして市瀬真澄の視点で「Qrosの女」の登場から、現在までを立体的に描き出しています。

つまり本書は、同じ時間軸を、異なる視点で描き出すという手法で描き出したエンターテインメント小説です。ひとつの時間軸の流れ中で、リレー方式で視点を分担して描写するのではなく、同じ時間軸を複数の視点で重畳的に描き出しているのです。

本書は舞台が「芸能界」と「週刊誌」ですので、やはり芸能ニュースではあっても報道と人権の問題も少しですが描いてあります。本来であれば、この視点は無視してもいいのかもしれませんが、やはり取材活動を描く以上は、人権の問題を抜きにしては逆に真実味に欠けると思われたのでしょう。

そして本書の見どころとしては、やはり芸能界の裏側の描写でしょうか。大手プロダクションの大物が芸能界で実質的な力を握っており、このボスには誰も逆らえないこと、人気スターの裏の顔など、普段ゴシップとして囁かれている事柄がどんどん出てきます。

こうしたこともどこまで本当のことなのかは分かりませんが、そうした噂話を格好の話題とする私たち一般人の後ろめたい部分をくすぐってもくるのです。

そして、本書で忘れてならない点がネット社会の恐ろしさです。話題になった人物をどこまでも追いかけてネット上にさらすというのは、絵空事ではなく現実の話です。そして、そうした行動を取っているのがマスコミではなく一般人だという現実。こうしたネット社会の恐ろしさを本書は暴き出しています。

グロさがない、誉田哲也のエンターテインメント小説です。やはりこの作家の作品は面白い、そう思い知った作品でもありました。

誉田哲也というエンターテインメント作家の上手さを改めて認識させられた作品でした。

誉田 哲也 硝子の太陽Noir


沖縄での活動家死亡事故を機に「反米軍基地」デモが全国で激化した二月、新宿署の東弘樹警部補は「左翼の親玉」を取り調べることに。その直後、異様な覆面集団による滅多刺し事件が起こる。被害者は歌舞伎町セブンにとってかけがえのない男。社会に蔓延る悪意の連鎖を断ち切るべく、東とセブンの共闘が始まる! (「BOOK」データベースより)

硝子の太陽Rouge』を読んでからもう三カ月以上が経ち、やっと私の順番が回ってきました。丁度読んでいた冲方丁の大部の著作を読み終えるとすぐに借りに行ってきました。そして、一日をかけずして読了。というよりも、読み始めたらもうやめることが出来なくなったのです。

それほどに面白い。残念なのは『硝子の太陽Rouge』の記憶が薄れていたことです。もしこれから読む人がいたら、是非二冊同時に読んでもらいたい。そうすれば、本書二冊の面白さは三倍以上になるでしょう。

祖師谷一家殺人事件が描かれていた『硝子の太陽Rouge』に対し、本書の場合はフリーライターの上岡慎介の殺害事件が中心です。勿論、「歌舞伎町セブン」の仲間が活躍し、特に東弘樹警部補の動向が描かれています。「歌舞伎町セブン」の一員である上岡慎介の弔い合戦的意味合いも持っているのです。

上岡慎介が殺されなければならなかった理由は沖縄の基地問題にまで遡り、表面的には、上岡慎介が沖縄の基地闘争の盛り上がりの原因ともなった一枚の写真の偽造に気付いたことにあります。実際は、日米安全保障条約に伴う日米地位協定の破棄を目指す、跳ね返り運動家の動きがその裏にあったのです。

実はそのもう一つ先に、「ジウシリーズ」の「新世界秩序」の暗躍があるのですが、それはまだ先の話です。

何故か上岡慎介殺害事件の捜査本部には呼ばれなかった東警部補ですが、「左翼の親玉」とも呼ばれる矢吹近江の取り調べを担当することになります。

その捜査本部には姫川シリーズでおなじみのガンテツこと勝俣健作も入っていたのですが、「欠伸のリュウ」こと陣内陽一の店「エポ」でのガンテツと東警部補の邂逅の様子は見ものです。ちなみに、『硝子の太陽Rouge』で勝俣がくすねた上岡のUSBメモリーもここの場面で使われるのです。

見ものという点では、「祖師谷一家殺人事件」を担当している姫川玲子が東警部補を訪ねてきての腹を探り合いながらの会談の様子もそうで、『硝子の太陽Rouge』との共通の場面も当然のことながら出てきます。

このそれぞれの話し合いの場面など、実にキャラクターの違いが明確に描かれていて、物語に引き込まれずにはおれません。『硝子の太陽Rouge』と本書とを合わせ読むと、物語の世界が一気に立体感を帯びてきます。まるで三次元の図形のように、本書の物語の世界の上下左右への奥行きが一段と広がるのです。

ただこの物語が満点というわけではなく、物語の中でも語られていることですが、本書の敵役となる上岡の殺害犯人らの行動の意図、動機があまりに安易にすぎないか、という疑問はあります。

しかし、そういう点を差し引いても物語の面白さは少しも損なわれはしない、それほどの迫力を持っている小説だと思います。

硝子の太陽Rouge』のときにも書いたのですが、これまでのシリーズを新たな観点を持って再読したい気になりました。今エンターテインメント小説としての面白さを一番持っている、私の好みにも合致している、そう思える小説です。

誉田 哲也 ケモノの城


誉田哲也の小説にはありがちな、とてもグロテスクな描写を含む、でありながらも面白さを持って迫ってくるミステリーでした。

ある街で起きた監禁事件。保護された少女の証言に翻弄される警察。そんな中、少女が監禁されていたマンションの浴室から何人もの血痕が見つかった―。あまりにも深い闇に、果たして出口はあるのか?小説でしか描けない“現実”がここにある―。圧倒的な描写力で迫る衝撃のミステリー。 (「BOOK」データベースより)

一人の少女が保護されたことをきっかけとして、彼女の言葉の通りにマンションを調べると数人分の血痕が見つかり、あまりにも凄惨な現状が浮かび上がってきます。

しかし、その少女も、またその部屋にいたもう一人の女も、なかなかこの状況について語ろうとはしません。それでも、根気よく続けた尋問の先に少しづつその実態が明らかになっていくのでした。

他にもグロテスクな描写の小説は読んだことはあるのですが、本書の場合ほどに読んでいてここまでグロテスクに描く必要があるのかと、何度も問いかけざるを得ない作品は無かったように思います。

本書の場合、人間が他者に対して行う非人間的行為の最たるものを見せつけられているようで、不快な感情すら湧いてきたものです。実に猟奇的な情景描写に辟易しながら読み進める作品でした。

そうした不快感こそ作者の計算としか思えないのですが、その読み手にわいてくる感情について、読者のミスリードを誘う「叙述トリック」の手法と考えてもいいものなのか、また、ここまでの猟奇性が必要なのか、読んでいる途中はもちろん、読み終えてからまでも考えてしまいました。

それほどに衝撃的です。この作者のこれまでの作品、特に姫川玲子シリーズの『ブルーマーダー』や『硝子の太陽Rouge』などで見られる人間の解体の場面を軽く超えた描写が続きます。

この手の小説が苦手な人には決してお勧めできない作品です。

困るのは、そういう作品でありながら、ミステリーとして面白いことです。刑事の取り調べの場面。その合間に挿入される一人の青年とその同棲相手、それに同棲相手の父親との間のドラマが実に効果的です。

この青年のドラマが、刑事達の捜査の進行にどのように絡んでくるのかという読者の関心を上手いこと引っ張りながら、クライマックスヘとなだれ込んでいき、最後に意外な結末が待ちかまえているのです。

矛盾するようですが、辟易するほどに人間の負の側面を見せつけられる作品ではあるのですが、それでもなお誉田哲也作品の面白さを更に認識させてくれる小説でもありました。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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