今野 敏 マル暴総監


マル暴甘糟』を第一作とする、マル暴甘糟シリーズの第二作目となる長編の警察小説です。

甘糟の相棒である傍若無人な先輩郡原から言われて、チンピラのにらみ合いの現場に行ってみると、多嘉原連合組員である唐津晃と、阿岐本組代貸の日村誠司が見物していた。二人組のほうが多嘉原連合の準構成員だという。そこに白いスーツの男が現れ、この喧嘩を買うと言い始めた。甘糟が乗り出すと、メンツだけでにらみ合っていたチンピラ達は皆消えてしまう。
 その後にらみ合っていたチンピラの一人が殺されるという事件が起き、容疑者として浮かんできたのが白いスーツの男だった。

今野敏の『任侠シリーズ』から派生したと言われる『マル暴甘糟』ですが、その続編が出ました。

今回は新しい、そして強烈なキャラクターが登場します。それが警視総監であり、暴れん坊将軍を気取って巷でチンピラ達を懲らしめて悦に入っているという、このシリーズらしいキャラクターです。

その暴れん坊将軍気取りの警視総監、略してマル暴総監が、甘糟も参加する捜査本部にことあるごとに顔を見せるという珍しい事態が起きます。

本来マル暴である甘糟は捜査本部には加わりませんが、殺されたのが甘糟も知っているチンピラだということで駆り出されたのですが、そこにあらわれた警視総監こそがチンピラのにらみ合いの現場に来て捜査本部でも重要参考人と目されている白スーツの男だったのです。

警視総監こそが白スーツの男だということを知っているのは甘糟だけであり、そのことを口止めされた甘糟は困り果てます。

その甘糟は、多嘉原連合や阿岐本組の組事務所に足繁く通い情報を仕入れ、パチンコ三昧の郡原に報告します。報告を聞いた郡原はさすがにその情報を生かす力は伊達ではなく、甘糟に新たな指示を出すのです。

そうした中、捜査本部はさらに白いスーツの男の探索を推し進め、甘糟を更に困惑させるのです。

ミステリーとしての出来は多分それほど評価を受けるものではないのでしょうが、クライマックスに近づくにつれて郡原の意外な側面を見せてくるなど、さすがに今野敏と思わせてくれる楽しめる物語としての仕上がりでした。

本書は、今野敏一流のユーモアミステリーであり、あの『任侠シリーズ』から派生したシリーズです。ということで、本書には『任侠シリーズ』の「阿岐本組」も登場します。話の本筋にはそれほど絡んでは来ないのですが代貸の日村誠司も存在感を表しています。

本書は主人公の甘糟というキャラクターの面白さに加え、郡原というマル暴らしい刑事の存在感が良いのですが、本書ではそれに加え更にマル暴総監と呼ばれる栄田警視総監まで加わることになりました。今後の展開が楽しみです。

今野 敏 マインド


警視庁捜査一課に属する碓氷警部補を主人公とする長編警察小説で、碓氷弘一シリーズの六冊目です。

同日の同一時刻に二件の殺人と二件の自殺という事件が起きる。だが、「刑事は偶然という言葉を嫌う」のだ。警視庁の田端捜査一課長もそうで、「同じ時刻に、四人の人間が死んだってことに、俺はどうもひっかかるんだ」という田端捜査一課長の言葉に、碓氷警部補の属する捜査第五係が捜査を開始することになった。

警察官であれば誰しも気になる「偶然」という言葉。同一時刻に四件の人死にが起きることの不自然さに、念のために捜査を開始する第五係です。

二件の殺人事件の被疑者に直接会ってみると殺したことを覚えていないと言い、どうも嘘をついているようには思えません。そこに藤森紗英もこの事件に関心があるとの話がもたらされます。同じ時刻に強姦未遂が二件、盗撮事件が一件起きているというのです。

この藤森の捜査への参加で話は一気に心理学の分野へと移行します。つまりは、藤森の心理学的見地からの意見が重要性を帯びてきて通常の警察小説とはその趣を異にすることになるのです。

本書を読んでいて、近頃の今野敏の小説にたまに見られることですが、会話文が多くなり、加えて情景描写があまり無いためか、何となく一場面ものの舞台上での役者の演技を見ているような印象を覚えることがあります。刑事達の多くの場面での聞き込みなど、場面の切り替わりの印象が薄くなり、登場人物たちの静的な印象だけが強くなるのです。

本書などまさにそうで、藤森の心理学的な説明に碓井を始めとする捜査員たちが聞き入り、人の動きを感じにくくなるのです。つまりは舞台上での会話劇さながらの印象を受けることになります。

勿論、今野作品の面白さはそれなりに持っているので面白くないなどと言うつもりはないのですが、『隠蔽捜査』などのような、警察官の動きと、心情とを緻密に読ませる作品とは微妙に印象が異なってくるのです。

四件の事案に何の関連性も見つからないなか、あるクリニックとの関連性が浮かび上がり、事件は一気に動き始めます。そこらあたりからは捜査員の動きも感じられるようにはなってきます。しかし、やはり藤森中心で動くことに変わりはなく、碓氷警部補の存在感も今ひとつです。そういう意味では、主人公の碓井警部補が一歩引いた物語だと言えるかもしれません。

ちなみに、警察庁の心理捜査官、藤森紗英は、シリーズ4冊目『エチュード』で登場している人物でもあり、その時も碓井警部補と組んでいます。

今野 敏 プロフェッション


「ST 警視庁科学特捜班」今野敏|講談社文庫|講談社BOOK倶楽部』によると、多分「ST 警視庁科学特捜班」シリーズとしては13作目になるのでしょう。

立て続けに発生した連続誘拐事件。解放された被害者たちは、皆「呪い」をかけられていた―。警視庁きっての特能集団、ここに始動!科捜研から招集された異能の5人(+1)その素顔は、警察内でも厄介視される変人集団!(「BOOK」データベースより)

今野敏の各種シリーズの中では最も気軽に読めるシリーズだと思います。ある種の超能力と言ってもいい能力を持つ五人と、彼らをまとめる役を任されているキャリアの百合根友久警部、それに彼らをサポートする役割の捜査一課の菊川吾郎警部補というチームが、普通ではない事件が起きると動き出します。

今回は、翌日には被害者が解放される、という奇妙な誘拐事件が発生します。その被害者たちは皆「呪い」を掛けられたと言い、その後ひどい頭痛で入院が必要になっています。ここで「呪い」という普通ではない言葉がでてくると、この変人集団に呼び出しがかかるのです。

今回もと言っていいものか、どうもこのシリーズにはなんとなく馴染めません。それは、このシリーズが、他のシリーズであれば関係者の証言の真偽を確かめるために更なる捜査をするところが、結城翠や黒崎勇治といった人間嘘発見器にかかればたちどころにその成否が分かるなどの設定そのものを味気なく感じる私に原因があるようです。もっと端的に言うと、この物語の構造が、青山翔という美青年のプロファイリングの独壇場になっているからでしょうか。

それはつまり、少しずつ分かってくる事実によりプロファイリングの精度が上がり最終的に犯人を見つけ出す、というこの構造に、名探偵が皆を集めて謎解きをするという探偵ものの構造と似たものを感じるからです。

そして私はロジックの面白さを優先し、人間自体を描くことの少ない「探偵もの」をあまり好まないのですから、どうしようもありません。確かに今野敏の小説ですから、そこはそれなりの面白さを持っていることは否定できないのですが、こればかりは好みの問題で仕方ありません。

付け加えれば、このシリーズはとくに会話文が多く、また単行本で290頁という短さでもあり簡単に読めてしまいます。つまりは作者もそれほど力を入れているとは思えない軽さです。そうした点も私の好みに影響しているのかもしれません。

今野 敏 隠蔽捜査6


今野敏の大ベストセラーである隠蔽捜査シリーズの第六弾の長編警察小説です。いつものことですが、結局読み始めたら途中で止めることができずに一気に読み終えてしまいました。

大森署管内で女性の連れ去り事件、さらに殺人が勃発。ストーカーによる犯行が濃厚になる中、捜査の過程で署長・竜崎は新任の上役と対立する。家庭でも娘にストーカー騒動が発生。予想不能の事態が公私に続発して…不穏な緊張感漂う最新長篇!(「BOOK」データベースより)

今回は大森署管内で略取・誘拐事案が発生します。その誘拐事案は、近頃何かと社会で話題になっているストーカー事件の可能性がありました。それも、被害者は大森署のストーカー相談窓口に相談に来ていたというのですから、署長である竜崎に大いにかかわりのある事案だったのです。ちょうど大森署では、何かと問題の戸高刑事もメンバーとする「ストーカー対策チーム」を立ち上げたところで、このチームも捜査に送り込むことにするのです。

合理性を貫いて、一般常識の壁を簡単に越えてゆく。ここで言う一般常識とは世間のしがらみでもあり、より細かくは組織の上下関係などの硬直性でもあります。竜崎は、これらの不合理だとは誰でもが思っているのだけれど、自らの出世や世渡りを考えるとその不合理を除去することにためらいを感じる事柄を何なく越えていきます。そしてそれなりの結果を残していくのです。

ここに読者は、生きていくうえでの種々のしがらみを乗り越えることのできない自分を心の片隅に追いやり、竜崎に自らを重ね、爽快感を感じるのでしょう。

一例としては、この署長さんは必要があると思えば自ら現場へ出かけます。その上で現場の指揮官の指揮を邪魔することなく、それどころか現場の指揮官の指揮に従い動くのです。勿論それは階級社会である警察の内部では異常なことです。しかし、現場のことは現場の人間に任せるのが合理的だと思料するのが当然であり、当然のことを為しているにすぎない竜崎所長なのです。

目的に向かって最適な方法を選ぶという合理性、そしてその合理性を貫いたあとの事件解決という結果があります。それも竜崎という個人が活躍するのではなく、大森署の部下たちが力を合わせながら事件を解決に導くという、二重の喜び、カタルシスがあると思います。だから読んでいてとても気持ちが良い。今野敏の小説がどれも陰惨でないからかもしれないのですが、物語の根底にはやはり人情物語があって、読んでいて心地よいのです。

勿論本書もその例にもれず、というよりも以上の事柄は本書にもそのままに当てはまり、だからこそ読み始めてそのまま本を置くことができなかったのだと思います。

もう一点理由を上げるとすれば、それは文章がとても読みやすいということでしょう。部下たちが集めてきた情報を署長である竜崎が分析し、ときには現場へも出かけますが、整理して事件解決に結びつける、その過程が会話文として示され、実に読みやすく、分かりやすいのです。だからこそ、一気読みもできるのでしょう。

ただ、続編が期待されるだけです。

今野 敏 潮流―東京湾臨海署安積班


東京湾臨海署安積班シリーズ第15作目の長編警察小説です。

8月の穏やかな月曜日、東京湾臨海署管内の複合商業施設内で急病人が出て、救急車の要請があった。同じ症状で救急搬送される知らせが立て続けに入り、同じ毒物で三人とも死亡した。彼らにつながりはなく、共通点も見つからない。テロの可能性も疑う安積。そこに、犯人らしい人物から臨海署宛てに、犯行を重ねることを示唆するメールが届く――。捜査を続けていくなか、安積は過去に臨海署で扱った事件を調べることになり、四年半前に起きた宮間事件に注目する。拘留中の宮間は、いまだ無罪を主張しているという。安積は再捜査を始めようとするが……。(出版社・メーカーからのコメント)

いつものように小気味いいテンポで話は進みます。何度も書いていると思いますが、本シリーズは安積班の個性的なメンバーがそれぞれに等しく活躍し、メンバー全員が力を合わせることによって時間を解決していく、そこが一番の魅力でしょう。

そもそも安積警部補が本事件にテロの可能性を感じたのは、搬送された三人の死亡は「リシン」という毒物によるものだと判明した時、安積班のメンバーである須田が海外で起きたリシンがらみの事件を思い出したことから始まります。小さな鉄球を打ち込むというその手口は今回の事件と一致するのです。その後、犯人しか知りえない情報が記載されたメールが臨海署に届き、ここから安積は臨海署で扱った過去の事件にからむ可能性を疑い、その線を追及するのです。

今野敏の小説は、ミステリー仕立てではありますが、謎解きそのものを楽しむ、と言うよりは、謎を解明する人間のありよう、人間模様こそが面白いと感じます。その点で本書はシリーズの中でも上位に位置する面白さを持っていると思われるのです。

それは、安積班のメンバーの動向は勿論ですが、交通機動隊の速水の存在も大きなものがあります。安積と速水との掛け合いはこのシリーズの名物とも言えるでしょうが、本書でも速水の活躍は光ります。どことなく、パーカーシリーズのホークとの掛け合いを思い出していました。

加えて本書の場合、警視庁本部からやってきた池谷管理官、及びなにかと安積と対立する佐治基彦係長率いる殺人犯捜査第五係の存在が大きいのでしょう。この本部組が敵役となって臨海署組に照明が当たる仕掛けが当てはまり、臨海署のまとまりが小気味良さを見せているのです。

その意味で臨海署署長や刑事総務係長の岩城など臨海署の仲間の、本庁の人間たちの鼻を明かそうとして安積らの動きを支える動きも魅力的です。ここらの「意気に感ず」式の人間描写は、ベタではありますが万人に受け入れられる話ではあり、この作者はベタな設定をも上手く描いて物語の魅力を増しています。

加えて言えば、警察とマスコミとの関係もあります。なにかと安積とかかわりのある東報新聞の山口友紀子をその代表とし、マスコミ側の対立存在として東邦新聞の遊軍である社会部の由良清一という存在があります。正統派の山口と由良という対立存在でマスコミの両側面を表しているようで、この点も上手いと思うところです。

結局、安積班に光をあてる仕組みそれぞれがうまくいっており、この物語がエンターテインメント小説として成功しているとこではないでしょうか。

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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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