今野 敏 変幻




『同期』、『欠落』と続いた「同期」シリーズの第三巻であり、完結編だそうです。



大石陽子からの連絡があり、宇田川亮太が植松義彦警部補、土岐達郎との四人でいつもの赤坂のスペイン料理レストランで集まった翌週から、大石の姿を見かけなるのでした。

その後港区で殺人事件起き、宇田川らは臨海署内に設けられた捜査本部に詰めることになります。

現場で目撃された車の所有者が割れ、堂島満という男だと判明。調べると、堂島は伊知原組のフロント企業である「麻布台商事」という商社の役員だということが分かり、話を聞くと伊知原組みの兵藤孝という男に貸したと言うのです。

また、麻布台商事は、かねてから通称麻取と呼ばれる厚生労働省地方厚生局麻薬取締部や警視庁本部の組織犯罪対策部がマークしているというのです。そこに、Nシステムの分析から、麻布台商事の倉庫があるとの知らせが入ります。

その倉庫の出入り口付近にあった防犯カメラを調べると、驚くことに、そこに映っていたのは大石陽子でした。何故に大石が運転手として写っていたのか。しばらく会えなくなると言っていたのは、潜入捜査のことだったのか、謎は深まるばかりです。そこに、蘇我から連絡が入り、大石の救済措置が働くなったため、力を貸してほしいと言うのでした。



残念なことに、「同期シリーズ」は本書を持って完結することになるそうです。本書を読む限りではシリーズが終わるようなことは何も書いてないと思うのだけれど、奥付きの著者プロフィールの項目に、完結編との文言がありました。

このシリーズ自体は宇田川という新人が成長していく過程の面白さもありますが、任官してすぐに懲戒免職となり、多分公安として動いているだろう同期の蘇我と、キレ者である大石という同期の女性警察官大石陽子という宇田川と同期の二人との関係性が一番の魅力であろうと思います。

また、宇田川の正義感に燃えた後先を考えない言動もいいのですが、警察仲間の個々人の持つ魅力があり、更には正体不明の蘇我という男の持つ妙な魅力があります。この蘇我という男の現状については暗示されているだけで、何の説明もないままに終わってしまうことになり、その点も残念です。


刑事部の警察官である宇田川や大石と、多分公安警察官として動いている蘇我との間の「同期」としての友情、そして信頼の物語としての面白さも持っているし、当然ではありますが、警察小説としての面白さも持っている小説です。

更には、本書においては臨海署を舞台にした『安積班シリーズ』で安積警部補に対抗心を燃やしている臨海署強行班第二係係長の相楽警部補が登場し、その独特ななキャラクターを生かしているのもまた楽しみです。

そうした個性を持った小説であるのに、何故に終わるのか、残念でなりません。

今野 敏 棲月: 隠蔽捜査7




今野敏の隠蔽捜査シリーズの第七弾の長編警察小説です。


ある日電車の運行が止まり、その原因がシステムがダウンしたことによると聞いた竜崎は、皆が調査対象場所が管轄外であることやこの程度のことでと二の足を踏む中、その原因の調査を命じます。

そのうちに今度は銀行でのシステムダウンが起きます。都市銀行のシステム障害だということであり、そこにも捜査員を送るように命じる竜崎でした。

当然のことのように第二方面本部の弓削方面本部長からの管轄違いとのクレームが入りますがまったく意に介さずにいたところ、今度は警察本部の前園生活安全部部長から捜査員を引きあげろとの連絡が入ります。しかし、これも無視する竜崎でした。

家庭では息子の邦彦がポーランドへ留学したいと言いだしており、その相談に乗ろうとしていた竜崎ですが、自分の身にも異動の内示が出そうだとの噂が耳に入り、動揺している自分に驚くのでした。

翌日早朝殺人事件が起き、大森署に捜査本部が置かれることになります。被害者が少年、それも以前から目をつけられていた非行少年ということもあり、仲間と思しき少年らに話を聞いてもなかなかこれという話を聞くことはできないでいました。

なかなか犯人に結び付く手掛かりが見えないまま、システムダウンした電車や銀行へ捜査員を派遣したことへの各方面からの反発をさばきながら、捜査本部とシステムダウン事件の両面に対処する竜崎でした。




いつもの通り、一旦読み始めるとやめられませんでした。といっても、新刊書で333頁という分量でありながらもそれほど時間はかかりません。会話文と改行が多いために頁数からくる見た目の厚さほどには時間はかからないと思います。

とは言え、物語の内容が無いわけではなく、読後は十分な読み応えがあるのもいつもの通りです。

ネット社会での情報操作の怖さと少年犯罪の特殊性を考慮しつつ、竜崎には理解しがたい人間関係のしがらみを原理原則論で貫き、伊丹俊太郎刑事部長の同意を得ながらも思う通りの捜査方針を貫く竜崎の姿は、痛快であり、爽快感すら感じます。

いつもの通り合理的と信じる途を歩んでいる竜崎の姿が描かれている本書ですが、かつてとは微妙に異なる思考、感情を抱く自らを疑問に思う様子などもあって、大森署に赴任してからの竜崎を思い起こすかのような流れとなっています。

それは、本書では序盤から竜崎の異動の噂の話が伊丹からもたらされ、いつもと異なる竜崎がいることも影響しているようです。竜崎自身が、その移動の噂に予想以上に動揺する自分や、大森署を去りたくない自身の心に気付き、改めて驚いたりという姿があるのです。

その姿は、竜崎自身の家庭での、妻冴子との会話にも表れています。「大森署があなたを人間として成長させた」という冴子の姿は、いつもの竜崎家の姿とはかなり異なり、警察官竜崎と、それを支える妻冴子の関係がよくあらわされています。

しかしながら、その冴子も、竜崎に対する態度とは異なり、息子のポーランドへの留学の問題で、いざ息子が自分のもとからいなくなる話になると、途端に母親としての姿が表面に出てくる様子などには、感心すると同時に温かく思え、物語の厚みを感じます。

次巻からは大森署赴任当初のような、竜崎のことを理解する人間が誰もいない状況を最初から繰り返すことになると思いますが、シリーズのマンネリ化も防ぎ、新しい風を入れる手法として、このシリーズのファンとしては今回の異動の話は大歓迎というところでしょう。

次巻が発売されるのがかなり待ち遠しいと思わせられる一冊でした。

今野 敏 マル暴総監


マル暴甘糟』を第一作とする、マル暴甘糟シリーズの第二作目となる長編の警察小説です。

甘糟の相棒である傍若無人な先輩郡原から言われて、チンピラのにらみ合いの現場に行ってみると、多嘉原連合組員である唐津晃と、阿岐本組代貸の日村誠司が見物していた。二人組のほうが多嘉原連合の準構成員だという。そこに白いスーツの男が現れ、この喧嘩を買うと言い始めた。甘糟が乗り出すと、メンツだけでにらみ合っていたチンピラ達は皆消えてしまう。
 その後にらみ合っていたチンピラの一人が殺されるという事件が起き、容疑者として浮かんできたのが白いスーツの男だった。

今野敏の『任侠シリーズ』から派生したと言われる『マル暴甘糟』ですが、その続編が出ました。

今回は新しい、そして強烈なキャラクターが登場します。それが警視総監であり、暴れん坊将軍を気取って巷でチンピラ達を懲らしめて悦に入っているという、このシリーズらしいキャラクターです。

その暴れん坊将軍気取りの警視総監、略してマル暴総監が、甘糟も参加する捜査本部にことあるごとに顔を見せるという珍しい事態が起きます。

本来マル暴である甘糟は捜査本部には加わりませんが、殺されたのが甘糟も知っているチンピラだということで駆り出されたのですが、そこにあらわれた警視総監こそがチンピラのにらみ合いの現場に来て捜査本部でも重要参考人と目されている白スーツの男だったのです。

警視総監こそが白スーツの男だということを知っているのは甘糟だけであり、そのことを口止めされた甘糟は困り果てます。

その甘糟は、多嘉原連合や阿岐本組の組事務所に足繁く通い情報を仕入れ、パチンコ三昧の郡原に報告します。報告を聞いた郡原はさすがにその情報を生かす力は伊達ではなく、甘糟に新たな指示を出すのです。

そうした中、捜査本部はさらに白いスーツの男の探索を推し進め、甘糟を更に困惑させるのです。

ミステリーとしての出来は多分それほど評価を受けるものではないのでしょうが、クライマックスに近づくにつれて郡原の意外な側面を見せてくるなど、さすがに今野敏と思わせてくれる楽しめる物語としての仕上がりでした。

本書は、今野敏一流のユーモアミステリーであり、あの『任侠シリーズ』から派生したシリーズです。ということで、本書には『任侠シリーズ』の「阿岐本組」も登場します。話の本筋にはそれほど絡んでは来ないのですが代貸の日村誠司も存在感を表しています。

本書は主人公の甘糟というキャラクターの面白さに加え、郡原というマル暴らしい刑事の存在感が良いのですが、本書ではそれに加え更にマル暴総監と呼ばれる栄田警視総監まで加わることになりました。今後の展開が楽しみです。

今野 敏 マインド


警視庁捜査一課に属する碓氷警部補を主人公とする長編警察小説で、碓氷弘一シリーズの六冊目です。

同日の同一時刻に二件の殺人と二件の自殺という事件が起きる。だが、「刑事は偶然という言葉を嫌う」のだ。警視庁の田端捜査一課長もそうで、「同じ時刻に、四人の人間が死んだってことに、俺はどうもひっかかるんだ」という田端捜査一課長の言葉に、碓氷警部補の属する捜査第五係が捜査を開始することになった。

警察官であれば誰しも気になる「偶然」という言葉。同一時刻に四件の人死にが起きることの不自然さに、念のために捜査を開始する第五係です。

二件の殺人事件の被疑者に直接会ってみると殺したことを覚えていないと言い、どうも嘘をついているようには思えません。そこに藤森紗英もこの事件に関心があるとの話がもたらされます。同じ時刻に強姦未遂が二件、盗撮事件が一件起きているというのです。

この藤森の捜査への参加で話は一気に心理学の分野へと移行します。つまりは、藤森の心理学的見地からの意見が重要性を帯びてきて通常の警察小説とはその趣を異にすることになるのです。

本書を読んでいて、近頃の今野敏の小説にたまに見られることですが、会話文が多くなり、加えて情景描写があまり無いためか、何となく一場面ものの舞台上での役者の演技を見ているような印象を覚えることがあります。刑事達の多くの場面での聞き込みなど、場面の切り替わりの印象が薄くなり、登場人物たちの静的な印象だけが強くなるのです。

本書などまさにそうで、藤森の心理学的な説明に碓井を始めとする捜査員たちが聞き入り、人の動きを感じにくくなるのです。つまりは舞台上での会話劇さながらの印象を受けることになります。

勿論、今野作品の面白さはそれなりに持っているので面白くないなどと言うつもりはないのですが、『隠蔽捜査』などのような、警察官の動きと、心情とを緻密に読ませる作品とは微妙に印象が異なってくるのです。

四件の事案に何の関連性も見つからないなか、あるクリニックとの関連性が浮かび上がり、事件は一気に動き始めます。そこらあたりからは捜査員の動きも感じられるようにはなってきます。しかし、やはり藤森中心で動くことに変わりはなく、碓氷警部補の存在感も今ひとつです。そういう意味では、主人公の碓井警部補が一歩引いた物語だと言えるかもしれません。

ちなみに、警察庁の心理捜査官、藤森紗英は、シリーズ4冊目『エチュード』で登場している人物でもあり、その時も碓井警部補と組んでいます。

今野 敏 プロフェッション


「ST 警視庁科学特捜班」今野敏|講談社文庫|講談社BOOK倶楽部』によると、多分「ST 警視庁科学特捜班」シリーズとしては13作目になるのでしょう。

立て続けに発生した連続誘拐事件。解放された被害者たちは、皆「呪い」をかけられていた―。警視庁きっての特能集団、ここに始動!科捜研から招集された異能の5人(+1)その素顔は、警察内でも厄介視される変人集団!(「BOOK」データベースより)

今野敏の各種シリーズの中では最も気軽に読めるシリーズだと思います。ある種の超能力と言ってもいい能力を持つ五人と、彼らをまとめる役を任されているキャリアの百合根友久警部、それに彼らをサポートする役割の捜査一課の菊川吾郎警部補というチームが、普通ではない事件が起きると動き出します。

今回は、翌日には被害者が解放される、という奇妙な誘拐事件が発生します。その被害者たちは皆「呪い」を掛けられたと言い、その後ひどい頭痛で入院が必要になっています。ここで「呪い」という普通ではない言葉がでてくると、この変人集団に呼び出しがかかるのです。

今回もと言っていいものか、どうもこのシリーズにはなんとなく馴染めません。それは、このシリーズが、他のシリーズであれば関係者の証言の真偽を確かめるために更なる捜査をするところが、結城翠や黒崎勇治といった人間嘘発見器にかかればたちどころにその成否が分かるなどの設定そのものを味気なく感じる私に原因があるようです。もっと端的に言うと、この物語の構造が、青山翔という美青年のプロファイリングの独壇場になっているからでしょうか。

それはつまり、少しずつ分かってくる事実によりプロファイリングの精度が上がり最終的に犯人を見つけ出す、というこの構造に、名探偵が皆を集めて謎解きをするという探偵ものの構造と似たものを感じるからです。

そして私はロジックの面白さを優先し、人間自体を描くことの少ない「探偵もの」をあまり好まないのですから、どうしようもありません。確かに今野敏の小説ですから、そこはそれなりの面白さを持っていることは否定できないのですが、こればかりは好みの問題で仕方ありません。

付け加えれば、このシリーズはとくに会話文が多く、また単行本で290頁という短さでもあり簡単に読めてしまいます。つまりは作者もそれほど力を入れているとは思えない軽さです。そうした点も私の好みに影響しているのかもしれません。

プロフィール

siro

Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR