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今野 敏 任侠浴場




『任侠書房』『任侠学園』『任侠病院』と続いてきた、今野敏の大人気任侠シリーズ第四弾です。

今さら言うまでもないのですが、ヤクザが色々なつぶれかかった事業に手を貸し、これを再生してきたこのシリーズですが、今回は文字通り銭湯を舞台にした物語になっています。

端的に言うと、これまでのシリーズの中では一番面白くありませんでした。


話はいつもの通り、持ち込まれた銭湯経営の話に興味を示した阿岐本雄蔵が、代貸日村らを使い潰れかかっていた銭湯経営を立て直すというものです。

本書が他の作品と異なる点といえば、他の三作品に比べ、組長の阿岐本雄蔵自身が乗り出す場面が多いというところでしょう。阿岐本組長の人脈の広さ、知識の深さをフルに活用し、銭湯経営の障害となる事柄をひとつずつ排除していくのです。


それはこのシリーズの特徴でもある心地よさにも繋がるのですが、一方ではあまりに都合がよすぎるという側面も有しています。

ひとつだけ例を挙げると、銭湯経営者の家族の問題が銭湯経営の大きな障害となっていると見抜いた阿岐本組長の指示で、阿岐本組の地元の女子高生を手伝いに呼び寄せ、その子に関心を示した経営者の息子の力を借りることに成功しますが、これなどうまくいきすぎる話の典型でしょう。

年頃の男子高校生が可愛い女子高生に関心を示すことは確かに大いにあることでしょうが、だからと言ってそれまで全く手伝いもしていなかった銭湯の掃除などをやり始めるなど、出来すぎです。


このような疑問点は他にも少なからずありますが、それでもなお、阿岐本組長の話はどこか心に沁みる点があるのも事実です。だからと言っていいものか、話の都合のよささえもユーモア小説の常として無視して読み続けることにそれほどの違和感を感じなくなります。


ただ、本書が一番面白くなかった、という理由は他にあります。それは、銭湯経営の立て直しの方法がこれまでの作品に比してかなり安易に感じられる、という点です。

詳しくは読んでもらうしかないのですが、阿岐本組長の指示通りにすべて展開したとしても、銭湯経営を立て直すことが本当にできるのかという根本的な疑問が残るのです。


とはえいえ、それでもなお、本書は面白い作品ではあります。面白くないというのは他の三作品に比してという話であり、今野敏のユーモア小説としてやはり面白い作品であることに違いはないのです。

今野 敏 道標 東京湾臨海署安積班




東京湾臨海署安積班シリーズ第十六作目の短編の警察小説です。

本書では、この物語の中心人物である安積剛志警部補と交機隊の速水との初任科での姿や、安積警部補と石倉鑑識官との出会いなど、安積班シリーズの隙間を埋める短編集であり、ファンにとってはたまらない作品です。

目次
初任教養 / 捕り物 / 熾火 / 最優先 / 視野 / 消失 / みぎわ / 不屈 / 係長代理 / 家族


『安積班シリーズ』は、臨海署の安積剛志警部補を中心とする捜査班が、個々人の個性を活かしながら、チームワークの力で担当する事件を解決していく姿が魅力となっているミステリーです。

このチームワークは安積班のメンバーだけでなく、鑑識の石倉係長や、交機隊の速水らも加わってのものであり、場合によっては、臨海署全体を一つのチームとして捉えることすらあります。

こうした仲間意識こそがこのシリーズの魅力であるとするならば、彼らの来歴もまた物語の一環としての関心事であることは当然であり、本書はそうした観点から描かれていると考えられます。


また、本書『道標 東京湾臨海署安積班』では、物語の視点を少々変えたり、同じ事柄を別で視点で描きなおしたりと、小説手法としてもいろいろと工夫されていることも見どころの一つと言えるのではないでしょうか。

例えば第一話「初任教養」では、初任科での安積と速水らの姿が描かれていますが、この物語の視点の持ち主「私」は同じ初任科の五人からなる仲間の一人で、名前すら明確ではありません。

この全くの第三者の視点で、安積と速水という人物を客観的に描き出してあり、現在の安積と速水それぞれの正義感、行動力の原点をうまく描写してあります。

また、例えば第四話「最優先」と第五話「視野」では、新任の安積係長のもとで起きた強盗事件を、東京湾臨海署刑事課鑑識係の係長となっている石倉と、村雨秋彦巡査部長のもとで鍛えられている大橋武夫巡査という異なる視点で描き出してあり、短編ではあるものの事件解決の過程の異なる側面を見せると同時に、安積剛志という人物像を立体的に描写してあります。

さらには、このシリーズではまだ新しい水野真帆巡査部長の横顔や、警察ではない東報新聞の山口という記者までも登場させ、多様な視点からの安積剛志を浮かび上がらせてあるのです。

このように、話の登場人物や時代背景、そして物語の視点を変えながら安積警部補という人物像を多面的に見つめなおすと同時に、チーム全体にも光を当てた読み応えのある一冊になっています。

今野 敏 寮生 ─一九七一年、函館。




先日、今野敏の珍しい小説『精鋭』を読んだばかりだったのですが、本書『寮生』も、今野敏の小説としては珍しい小説です。

『精鋭』は警察組織の紹介を兼ねた、機動隊員として成長していく若者の話でしたが、本書は、多分今野敏の青春時代を反映させている、青春小説です。

舞台は一九七一年の函館ですから、私が大学に入った年になります。ですから、時代の雰囲気は同じはずです。


入寮してすぐに上級生が新入生である一年生をおどかす入魂会という儀式が行われます。ところが、古葉という一年生の仲間が、入魂会をやろうと言いだした連中のうちだれかが死ぬ、という噂を聞きこんできた二日後に、二年生が死んでしまうのです。

ここから、主人公たちは死んだ二年生について、本当に自殺なのかを調べ始めるます。

読み始めは今野敏のいつもの小説のタッチとは違います。主人公が高校生ということもあるのでしょうが、何よりも物語の進め方にリアリティが感じられず、かなり強引な進行です。

主人公である「僕」は仲間の言うままに上級生の死の真相を探るために上級生らに聞き込みを始めます。しかし、この「僕」が何とも主体性が無く、読んでいて感情移入できません。

青春小説というわりには寮内の様子しか描いてありません。これは実在する高校のようですが、遺愛女子高等学校の女のことのデート場面がほんの少しあり、その際に五稜郭公園などの名前が出てくることがあるだけです。

もちろん、描写が寮内の様子だけだからといって青春小説ではない、などということはできないと思いますが、単に場所が限定されているだけではなく、青春期の若者らしい心象や行いなどの描写も無いのです。

ミステリーとしても決して良い評価もできず、青春小説としても同様であり、今野敏の作品としては珍しく消してお勧めできない小説と言わざるを得ないようです。

今野 敏 精鋭





またユニークな警察小説がありました。

確かに警察小説です。しかし、ミステリーではありません。言ってみれば、警察という組織の紹介を兼ねた、一人の青年の成長譚でもある長編小説です。



柿田亮は警察官として任官し、まずは地域課へと配属され、その二ヶ月後には刑事課へと移されます。初任教養の後の配属、いわゆる「卒配」は研修の一環だそうで、いろいろな現場を体験させるそうなのです。

その後、いろいろな現場での研修を終え、一旦警察学校へ戻って二ヶ月間の初任総合教養を受けます。その後、卒配されていた所轄署の地域課へと配属されことになるのです。

そして、正式に所轄の警察署に配属された後、先輩から、警察の権力の防衛装置としての本質についての考えなどを教えられます。つまりは、外敵から国を守るのが軍隊であり、国内の強盗や窃盗、詐欺などの犯罪から国民を守るのが警察だというのです。

また、国の内部でのテロなどの不安定要素に対する警備部があって、その中に公安があり、身体を張って国を守る機動隊があるということを知るのでした。



以上のようにして、本書は警察の組織を紹介する小説ともなっているのです。

また、それぞれの配属先で突き当たる現実と、警察というものの在り方との間で悩み、何故そうした悩みを抱くか、の検討の過程で、その職場の職種とそれに対する警察官の心得を明らかにしてあります。

その結果、作者なりの一応の結論を導いたうえで、主人公を身体を動かすことを主にできる職場へと転身させています。その結果、警備という職分の中での機動隊という、普通の警察小説ではまず舞台になることはない分野が舞台となっていきます。

勿論、その場所ではその場に応じた新たな疑問が噴出し、それに応じた悩みに直面します。しかし、もともと学生時代の部活動としてラグビーをやっていた柿田はただひたすらに身体を動かすのです。


自分の現在、環境について悩む主人公の姿を追いかけるこの小説は、めずらしい青春小説としても捉えることが出来そうです。

それは中学生や高校生が主人公の青春物語とはまた異なる、現在進行形で社会で鍛えられている青年の成長物語という意味でのそれです。


ミステリーの要素は全く有りません。その代わりと言っては語弊がありますが、改めて日本という国のありようを考えるきっかけともなりうる物語でもあります。

警察組織の中で生きていく主人公は、警察とは何かを考えていくのですが、それは読者に対しての問いかけでもあるようです。警察組織は時の権力者の擁護組織として進化してきたのであり、そうした組織の中で、作者は、一人の警察官に、警察官は権力者を守るのではなく、市民を守る組織だと認識していると言わせています。

その考えは、後になって自衛隊の存在に関わる問いとなって、再度問いかけられます。

様々な読み方が出来る小説です。今野敏という自ら格闘技をマスターし、警察小説を数多く書いている作者だからこそ書ける小説だと思えます。

今野 敏 防諜捜査




倉島警部補シリーズの第五弾です。

当初は、公安警察という珍しい分野の小説で、それもどちらかと言うとアクション小説に近い構成の物語でした。それが、前作の『アクティブメジャーズ』では倉島がゼロで研修を受けつことになって公安警察としての物語になり、本作に至っては、倉島が公安捜査員として独り立ちするエースと呼ばれる立場になっています。

小説の主人公として物語の中心にいるのは変わりないのですが、本書の倉島は誰かに頼るのではなく、自ら判断しメンバーに指示を出し、事件を解決するのです。



マリア・ソロキナというロシアの美人ホステス轢死事件に、倉島と同じ第五係の同僚である白崎敬が目をつけてきました。倉島はロシア大使館の三等書記官のアレキサンドル・セルゲイヴィッチ・コソラポフと会い、情報を収集することにします。

調べていくと、どうも事故や自殺としては不審な点が出てきます。そこに仲間の一人である伊藤から、都内の中学校教師がロシア人に命を狙われているとの届け出があり、マリア・ソロキナの事件もロシア人の殺し屋がやったとも言っているらしいのです。

倉島はかつての仲間でもある公安機動捜査隊の片桐秀一をも借り出し、マリアの事件を本格的に調べることとするのでした。



このシリーズの前作『アクティブメジャーズ』を読んだのが2013年10月ですから、随分と間が経ってしまいました。

前作あたりから公安警察の物語として展開しつつあったこのシリーズも本作にいたって、公安警察の物語として確立したように思えながらも、従来の刑事警察ものとの差異が物足りないとも感じます。実際のところ、前作『アクティブメジャーズ』に関しての本ブログを見ると、本作と同様の印象を抱いているようです。

というのも、事件の端緒が殺人事件と思料される事件であり、捜査の経過もロシア人女性の事故を偽装した殺人という形式で展開しますので、通常の刑事警察の小説とそれほど異ならないように思えるのです。

ただ、本書の中で倉島が自分の判断で捜査を開始し、チームを作り、捜査費用を貰いながらロシア大使館員から情報を収集する、などの特徴はあります。

そういう意味では公安警察の小説ではありますが、なお普通の刑事警察小説の香りをまとった物語として仕上がっていると感じるのだと思います。

ただ、本書の倉島は、若干ではありますが、まるで隠蔽捜査の竜崎署長のような印象を持ちました。以前は駆け出しの公安捜査員だった倉島が、本書では「作業班」として、部下を組織し、そして自由に指揮命令する立場になっていることを明示的に示しつつも、それなりに施行錯誤する様子が、署長という立場の竜崎と類似したものでしょうか。

どちらにしても今野敏の描く小説の面白さは十分に備えた物語でした。
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このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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