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田牧 大和 鯖猫(さばねこ)長屋ふしぎ草紙(二)





鯖猫(さばねこ)長屋ふしぎ草紙シリーズの第二弾の長編の人情時代小説です。

当然の話ですが、本書でもあいも変わらずに猫のサバが幅を利かせ、飼い主である青井亭拾楽を顎で使っています。

本書での焦点は、義賊「黒ひょっとこ」の偽物が現れたことでしょう。

それを気にした本物の「黒ひょっとこ」のまわりがなにかと気ぜわしく、偽物の動きを無視しようとしている本ものの「黒ひょっとこ」も我関せずでは済まない状態になっています。

その偽黒ひょっとこの動きを縦軸に、鯖猫長屋の住人の減少に伴う取り壊しを阻止すべく、サバを中心に、涼太という新しい住人の見当をつけたり、鯖猫長屋の新しい持主として、紅白粉問屋「白妙屋」の忠右衛門が現れたり(其の一 色男、来たる)、偽黒ひょっとこの投げ込んだお金で吉原に入り浸り、母親の薬料までつぎ込む男が出てきたり(其の二 戯作者、憑かれる)という話が展開します。

また、鯖猫長屋の住人の小間物屋の清吉が仕入れてきた小間物の中にあった翡翠の玉をめぐる騒動があり(其の三 猫書き、預かる)、北町同心の掛井十四郎くわわった偽黒ひょっとことの対決があったり(其の四 縞三毛、世話を焼く)と、拾楽もサバも大忙しです。

物語自体としては決して私の好みではありません。サバという猫を中心に、あやかしが現れ、ファンタジックな展開を見せることは全く問題は無いのですが、物語の運び自体が決して練り上げられた物語という印象がしない点が納得できないのです。

特に「其の三 猫書き、預かる」の話は、翡翠の玉が清吉の仕入れた物の中に入ったいきさつや、翡翠を探しに訪れた春蔵や廻船問屋の手代の三吉の登場が突然で、いくらファンタジーだとしても物語として乱暴です。

何よりも、本書全体の物語である偽黒ひょっとこの行動の動機が納得できるものではなく、どうしても物語に馴染めないままに読み終えてしまいました。

田牧大和という作者自体はかなり好きな作家さんなので、もうこのシリーズは読まないとまではいきませんが、できればもう少し趣きの変わった作品を期待したいものです。

田牧 大和 鯖猫(さばねこ)長屋ふしぎ草紙





なんとも奇妙な小説でした。

主人公は売れない絵師の拾楽なのでしょうが、一番存在感があるのは、拾楽と共に暮らしている三毛猫というのです。



「白、茶、鯖縞柄の雄猫で、三毛の雄はごく珍しい。大人の猫にしてはほんの少し小柄だが、すらりとした身体にしゅっと凛々しい顔立ち、毛並みもつややかで、青味がかった鯖縞模様は飛びきり鮮やか、殿様姫様の飼い猫もかくやというほどの美猫(いろおとこ)である。」と描写されるこの猫が、長屋で一番偉いのだそうです。

そもそもこの長屋はもとは差配をしている老人の名をとって「磯兵衛長屋」と呼ばれていたものでしたが、猫の指図に従ったところ命が助かった者が出たこともあって、猫が一番偉いのであり、ついには「鯖猫長屋」と呼ばれるようになったものらしいのです。

この猫、鯖縞模様であるところから名をサバと名付けられたのだそうで、白いご飯に鰹節を乗せ、醤油をひとたらしした食事をいいつけ、その他に、何かにつけ指図をする、というように拾楽には思えるのです。



この拾楽は、何か秘密を抱えていそうです。

その隠された事情を各章の冒頭に設けられた「問はず語り」と題された一頁にも満たない短文で、「其の一 猫描き拾楽」では義賊「黒ひょっとこ」の独白が、「其の二 開運うちわ」では「お智」についてというように少しずつ紹介されていきます。

田牧大和氏の小説では『からくりシリーズ』でも猫が存在感を持って描かれていました。本書の場合、更に猫の存在感が大きくなり、ある種狂言回し的な位置にいるのです。

このサバを中心として、この長屋を取り仕切る拾楽の隣に住む大工の与六の女房おてるをはじめとして、拾楽に想いを寄せるおはまとその兄の貫八兄妹、料理人の利助とその女房おきねその他の住人ら、そして新しく越してきたお智という娘に住まいは別だがこの長屋の差配である磯兵衛といった面々が、この長屋に降りかかる様々な事件を乗り越えていくのです。

なんとも毒気が無さ過ぎて、私の好みからするとはずれはするのですが、そこは田牧大和という作者のうまさでしょうか。水準以上の面白さは持っていると思います。

一応、シリーズとして追いかけて見ようという気にはなる小説でした。

田牧 大和 錠前破り、銀太 紅蜆




『錠前破り、銀太シリーズ』の第二作目の、長編の痛快時代小説です



銀太の「恵比寿蕎麦」で、ふた月で三人の亭主が死んだ後家さん、つまり「亭主を取り殺した後家」の話で常連客らが盛り上がっていた。秀次は、この話に貫三郎が気にしそうな話なのに何も言ってこないのは変だという。

そこに、第一巻目で登場した質屋の「亀井屋」の手代として「三日月会」の取りまとめをしていた蓑吉がやってきて、「三日月会」が動き出したと告げてきました。

その数日後、「恵比寿蕎麦」にやってきた貫三郎が、「亭主を取り殺した後家」の綾乃という女について相談があると言ってきたものの、その後家について調べてきた秀次と言い争いになり、帰っていってしまいます。

そのうちに貫三郎が行方不明となり、探しに出た銀太は以前傘を借りた仙雀の家でおしんという女の子と出会います。一緒に住んでいる爺さんが居なくなった話を聞き、銀太はおしんの爺さんも一緒に探すことになるのでした。



前巻の第一作目『錠前破り、銀太』でそこそこの面白さを持った小説だと感じていたのですが、本書を読み終えてその感をさらに強くしました。

ひとつには、前巻で「三日月会」の一員でありながらうまいこと逃げた蓑吉が、本書でも再度良く分からないキャラクターとして登場するのですが、この「三日月会」という組織がシリーズを通した銀太の敵役として設定されているのだろうと、敵役キャラとして何となくの魅力的を感じられるからです。

とくに本書でうれしく思ったのは、銀太の店に現れるという女形集団が、予想通り『濱次シリーズ』に登場する森田座の大部屋女形たちであるということがはっきりし、また、『濱次シリーズ』の登場人物の一人である有島千雀が重要な役割を持った人物として登場してきたことです。

馴染みのあるシリーズの登場人物が、思いもかけないところで更に魅力的に登場するというのは、エンターテインメント小説の一つの面白さでもあります。

逆に気になるところもあります。それは、たまたま仙雀と出会い、そこに綾乃が狙った爺さんの孫娘のおしんがいたりなどと、発生する事件が偶然に発生していることでしょう。仙雀の登場は偶然ではないにしても、おしんの存在は偶然としか言えないのです。

とはいえ、本書では緋名の回りの人物も少しずつ顔を見せたり、仙雀がはっきりと重要人物として登場したりと、各シリーズがリンクした世界感がはっきりとしてきました。

綾乃という女の仕掛けが少々回りくどい点も気になるところではあり、このシリーズの物語の組み立てが若干緻密さに欠けると感じる点はありますが、それでもなお面白い痛快小説ではあります。

これは私の好みに合致しているところからくる贔屓目かもしれません。

読了後、ネットを調べていると驚きの情報を見つけました。それは、本シリーズは『からくりシリーズ』のスピンオフ作品だと信じて疑っていなかったのですが、それは間違いで『濱次シリーズ』のスピンオフ作品だというのです。これは作者自身の言葉として書いてあるのでこれ以上のものはありません。

驚きでした。

今後の展開が楽しみです。

田牧 大和 錠前破り、銀太





「菜や肴が旨い、うどんはまあまあ、そして、蕎麦が不味い」蕎麦屋として名高い「恵比寿蕎麦」が、木挽町の近くの三十軒堀にありました。その蕎麦屋の主は銀太といい、弟の秀次と二人でこの店をやっているそうです。ただ、この蕎麦屋は蕎麦以外は良いが、肝心の蕎麦が茹で過ぎ不味いというのでした。

その店に、ある夜一人の幼い印象の男が店に飛び込んできたものの、二人の説得に応じて裏口から飛び出していきました。

翌日、幼なじみの北町奉行所吟味方与力助役の貫三郎こと、及川吉右衛門が訪ねてきて、質屋の「亀井屋」に押し入った盗人を捉えたものの、犯人とは思えないと言います。また、同じ晩に辻斬りも発生し、ただ、それまでの辻斬りと手口が異なるというのでした。

後日、貫三郎が「恵比寿蕎麦」に飛び込んできた加助という名の子供を捉え話を聞くと、「亀井屋」に忍び込んだのは自分であり、大切な人が書いたとされる偽造された借金の証文が、無関係の「亀井屋」にあるのでそれを取り返しに来たというのでした。

そんな中、銀太が「亀井屋」について探索を始めると、何者かに後をつけられ、訳もわからないままに襲われます。その翌日には錠前師の緋名が、秀次が大番屋に引っ立てられたと知らせてきたのでした。



読み始めるとすぐに一人の女錠前師が登場します。名を緋名といい、凝った細工の鬢盥を持っています。以前読んだこの作者の『からくりシリーズ』に登場する錠前師に似ている設定だなどと思っていたのです。

ところが、読み進めるうちに、この緋名にはいつも大福という猫が寄り添っており、「緋錠前」と呼ばれるからくり錠前の作り手であるというのですから、これは『からくりシリーズ』のスピンオフ作品ではないかと思いながら読み進めることになりました。

主人公は銀太というもと盗人であり、その弟の秀次が人たらしと言われるほどに人懐っこく、加えてこの二人の幼馴染として、貫三郎という与力を配置しています。この三人を中心として話は進むことになりますが、そこに前述の緋名という女錠前師が絡み、物語の世界が別のシリーズとリンクし、ぐっと広がります。

本書は、貫三郎のある事件の吟味に対する疑いと、それとは別の人助けの話とが絡み合い、緋名の力も借りつつ展開されるミステリー仕立てのエンターテインメント小説となっています。

当初は、まずい蕎麦屋などという設定や、銀太のもと盗人という背景も、何ともよくわからないままだったので、田牧大和の作品の中では今ひとつの作品という印象でした。

しかし、読み進めるうちに、緋名の正体が明らかになり、もしかすると、「恵比寿蕎麦」に来店するらしいお騒がせの森田座の大部屋女形たちも、田牧大和の『濱次シリーズ』という別のシリーズに言登場する連中かもしれないと思えはじめます。

加えて、敵対する「三日月会」という組織の存在が見えてくるにつけ、結構この物語に引き込まれていました。


文章そのものは田牧大和の作品ですからリズム感があり、読みやすい作品ではあります。問題は登場人物のキャラクターに難有りかと思っていたのですが、それも少しずつ魅力的に思えてき始め、最終的には続巻を読みたいと思うまでになっていました。

ただ、物語の展開がたまたま銀太の周りの世界で発生し、少々偶然が重なり過ぎるきらいは感じます。

そしてシリーズものの常として世界観がきちんと把握できるのに若干時間がかかり、また何となく物語の展開が舞台を見ているようで動きに欠けるきらいはあるのです。

しかし、読み終えて見ると、やはり面白い物語と言い切ることができる作品だと思います。

田牧 大和 とうざい




江戸は木挽町にある松輪座という小さな浄瑠璃小屋を舞台に繰り広げられる人間模様を描いた長編小説です。

久しぶりに読んだ田牧大和作品はやはり心地よく、またこの人の作品を間をおかずに読みたいという気にさせられた作品でした。

ある日松輪座に、童を連れ正兵衛という隠居風の上方言葉の男が、幹右衛門を訪ねてやってきます。正兵衛の連れている童は名を駒吉と言い、何故か八十次郎のことを「かかさま」と呼ぶのでした。

翌日、松輪座では次の新作である「千鳥三味線」が化けて出た、と騒ぎになっていました。夜中、舞台で太棹三味線が聞こえてきたというのです。

そうこうしていると、今度は人形師の彦太と衣装のおせんが仕事を降りると言いだし、新作の「千鳥三味線」が演じることができなくなりそうな事態に陥るのでした。

その後、「千鳥三味線」の崇りはひどくなるし、駒吉を狙う侍が現れたり、気の弱い雲雀の芸が行き詰まったりと、松輪座は何かと騒々しいのです。これらの事態はうまく収まるのか、雲雀の芸の行方はどうなるのか、田牧大和の筆は走ります。

気の小さい紋下太夫の竹本雲雀太夫と、評判の人形遣いで女形が得手の「氷の八十次」との異名を持つ吉田八十次郎のふたりを中心に、座長の亀鶴、雲雀太夫の相方の三味線弾きである鶴沢幹右衛門やもう一人の人形遣いである毅助他の登場人物が生き生きと動き回ります。

特に、亀鶴の一人娘であるお珠がこの作家の得意とするキャラクターのようで、小生意気でおきゃんな、しかし小気味いい娘として登場します。ただ、活躍の場面は少なく、目立つわりには役割は少なめです。

何といっても目玉は八十次郎ですが、その存在は雲雀の成長を見守るところにも出ています。見守ると言っても、本来は一座の代表者である紋下太夫の雲雀のほうが格上である筈なのですが、その気の弱さが芸風にも現れていて、八十次郎の冷たい言い回しに逆らうこともできないでいるのです。

この義太夫語りと人形使いとの関係が次第に変化していくところも見どころの一つでしょうが、舞台が浄瑠璃の小屋であるところから、舞台の描写も含めた物語自体に漂う小粋さこそが本書の一番の魅力だと思います。

田牧大和のファンとして、一言だけ素人の注文をつけるとすれば、もう少し、物語の視点を定めてもらえればもっと読みやすくなるのではないか、と思うのみです。読み進める中で、会話の主体を若干見失う場面があったのです。もっとも、これは読み手である私の方の問題かもしれず、もう少し丁寧に読めば済むことなのかもしれません。

とにかく、久しぶりに読んだ田牧大和の小説は、やはり十分に面白いものでした。
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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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