田牧 大和 錠前破り、銀太 紅蜆




『錠前破り、銀太シリーズ』の第二作目の、長編の痛快時代小説です



銀太の「恵比寿蕎麦」で、ふた月で三人の亭主が死んだ後家さん、つまり「亭主を取り殺した後家」の話で常連客らが盛り上がっていた。秀次は、この話に貫三郎が気にしそうな話なのに何も言ってこないのは変だという。

そこに、第一巻目で登場した質屋の「亀井屋」の手代として「三日月会」の取りまとめをしていた蓑吉がやってきて、「三日月会」が動き出したと告げてきました。

その数日後、「恵比寿蕎麦」にやってきた貫三郎が、「亭主を取り殺した後家」の綾乃という女について相談があると言ってきたものの、その後家について調べてきた秀次と言い争いになり、帰っていってしまいます。

そのうちに貫三郎が行方不明となり、探しに出た銀太は以前傘を借りた仙雀の家でおしんという女の子と出会います。一緒に住んでいる爺さんが居なくなった話を聞き、銀太はおしんの爺さんも一緒に探すことになるのでした。



前巻の第一作目『錠前破り、銀太』でそこそこの面白さを持った小説だと感じていたのですが、本書を読み終えてその感をさらに強くしました。

ひとつには、前巻で「三日月会」の一員でありながらうまいこと逃げた蓑吉が、本書でも再度良く分からないキャラクターとして登場するのですが、この「三日月会」という組織がシリーズを通した銀太の敵役として設定されているのだろうと、敵役キャラとして何となくの魅力的を感じられるからです。

とくに本書でうれしく思ったのは、銀太の店に現れるという女形集団が、予想通り『濱次シリーズ』に登場する森田座の大部屋女形たちであるということがはっきりし、また、『濱次シリーズ』の登場人物の一人である有島千雀が重要な役割を持った人物として登場してきたことです。

馴染みのあるシリーズの登場人物が、思いもかけないところで更に魅力的に登場するというのは、エンターテインメント小説の一つの面白さでもあります。

逆に気になるところもあります。それは、たまたま仙雀と出会い、そこに綾乃が狙った爺さんの孫娘のおしんがいたりなどと、発生する事件が偶然に発生していることでしょう。仙雀の登場は偶然ではないにしても、おしんの存在は偶然としか言えないのです。

とはいえ、本書では緋名の回りの人物も少しずつ顔を見せたり、仙雀がはっきりと重要人物として登場したりと、各シリーズがリンクした世界感がはっきりとしてきました。

綾乃という女の仕掛けが少々回りくどい点も気になるところではあり、このシリーズの物語の組み立てが若干緻密さに欠けると感じる点はありますが、それでもなお面白い痛快小説ではあります。

これは私の好みに合致しているところからくる贔屓目かもしれません。

読了後、ネットを調べていると驚きの情報を見つけました。それは、本シリーズは『からくりシリーズ』のスピンオフ作品だと信じて疑っていなかったのですが、それは間違いで『濱次シリーズ』のスピンオフ作品だというのです。これは作者自身の言葉として書いてあるのでこれ以上のものはありません。

驚きでした。

今後の展開が楽しみです。

田牧 大和 錠前破り、銀太





「菜や肴が旨い、うどんはまあまあ、そして、蕎麦が不味い」蕎麦屋として名高い「恵比寿蕎麦」が、木挽町の近くの三十軒堀にありました。その蕎麦屋の主は銀太といい、弟の秀次と二人でこの店をやっているそうです。ただ、この蕎麦屋は蕎麦以外は良いが、肝心の蕎麦が茹で過ぎ不味いというのでした。

その店に、ある夜一人の幼い印象の男が店に飛び込んできたものの、二人の説得に応じて裏口から飛び出していきました。

翌日、幼なじみの北町奉行所吟味方与力助役の貫三郎こと、及川吉右衛門が訪ねてきて、質屋の「亀井屋」に押し入った盗人を捉えたものの、犯人とは思えないと言います。また、同じ晩に辻斬りも発生し、ただ、それまでの辻斬りと手口が異なるというのでした。

後日、貫三郎が「恵比寿蕎麦」に飛び込んできた加助という名の子供を捉え話を聞くと、「亀井屋」に忍び込んだのは自分であり、大切な人が書いたとされる偽造された借金の証文が、無関係の「亀井屋」にあるのでそれを取り返しに来たというのでした。

そんな中、銀太が「亀井屋」について探索を始めると、何者かに後をつけられ、訳もわからないままに襲われます。その翌日には錠前師の緋名が、秀次が大番屋に引っ立てられたと知らせてきたのでした。



読み始めるとすぐに一人の女錠前師が登場します。名を緋名といい、凝った細工の鬢盥を持っています。以前読んだこの作者の『からくりシリーズ』に登場する錠前師に似ている設定だなどと思っていたのです。

ところが、読み進めるうちに、この緋名にはいつも大福という猫が寄り添っており、「緋錠前」と呼ばれるからくり錠前の作り手であるというのですから、これは『からくりシリーズ』のスピンオフ作品ではないかと思いながら読み進めることになりました。

主人公は銀太というもと盗人であり、その弟の秀次が人たらしと言われるほどに人懐っこく、加えてこの二人の幼馴染として、貫三郎という与力を配置しています。この三人を中心として話は進むことになりますが、そこに前述の緋名という女錠前師が絡み、物語の世界が別のシリーズとリンクし、ぐっと広がります。

本書は、貫三郎のある事件の吟味に対する疑いと、それとは別の人助けの話とが絡み合い、緋名の力も借りつつ展開されるミステリー仕立てのエンターテインメント小説となっています。

当初は、まずい蕎麦屋などという設定や、銀太のもと盗人という背景も、何ともよくわからないままだったので、田牧大和の作品の中では今ひとつの作品という印象でした。

しかし、読み進めるうちに、緋名の正体が明らかになり、もしかすると、「恵比寿蕎麦」に来店するらしいお騒がせの森田座の大部屋女形たちも、田牧大和の『濱次シリーズ』という別のシリーズに言登場する連中かもしれないと思えはじめます。

加えて、敵対する「三日月会」という組織の存在が見えてくるにつけ、結構この物語に引き込まれていました。


文章そのものは田牧大和の作品ですからリズム感があり、読みやすい作品ではあります。問題は登場人物のキャラクターに難有りかと思っていたのですが、それも少しずつ魅力的に思えてき始め、最終的には続巻を読みたいと思うまでになっていました。

ただ、物語の展開がたまたま銀太の周りの世界で発生し、少々偶然が重なり過ぎるきらいは感じます。

そしてシリーズものの常として世界観がきちんと把握できるのに若干時間がかかり、また何となく物語の展開が舞台を見ているようで動きに欠けるきらいはあるのです。

しかし、読み終えて見ると、やはり面白い物語と言い切ることができる作品だと思います。

田牧 大和 とうざい




江戸は木挽町にある松輪座という小さな浄瑠璃小屋を舞台に繰り広げられる人間模様を描いた長編小説です。

久しぶりに読んだ田牧大和作品はやはり心地よく、またこの人の作品を間をおかずに読みたいという気にさせられた作品でした。

ある日松輪座に、童を連れ正兵衛という隠居風の上方言葉の男が、幹右衛門を訪ねてやってきます。正兵衛の連れている童は名を駒吉と言い、何故か八十次郎のことを「かかさま」と呼ぶのでした。

翌日、松輪座では次の新作である「千鳥三味線」が化けて出た、と騒ぎになっていました。夜中、舞台で太棹三味線が聞こえてきたというのです。

そうこうしていると、今度は人形師の彦太と衣装のおせんが仕事を降りると言いだし、新作の「千鳥三味線」が演じることができなくなりそうな事態に陥るのでした。

その後、「千鳥三味線」の崇りはひどくなるし、駒吉を狙う侍が現れたり、気の弱い雲雀の芸が行き詰まったりと、松輪座は何かと騒々しいのです。これらの事態はうまく収まるのか、雲雀の芸の行方はどうなるのか、田牧大和の筆は走ります。

気の小さい紋下太夫の竹本雲雀太夫と、評判の人形遣いで女形が得手の「氷の八十次」との異名を持つ吉田八十次郎のふたりを中心に、座長の亀鶴、雲雀太夫の相方の三味線弾きである鶴沢幹右衛門やもう一人の人形遣いである毅助他の登場人物が生き生きと動き回ります。

特に、亀鶴の一人娘であるお珠がこの作家の得意とするキャラクターのようで、小生意気でおきゃんな、しかし小気味いい娘として登場します。ただ、活躍の場面は少なく、目立つわりには役割は少なめです。

何といっても目玉は八十次郎ですが、その存在は雲雀の成長を見守るところにも出ています。見守ると言っても、本来は一座の代表者である紋下太夫の雲雀のほうが格上である筈なのですが、その気の弱さが芸風にも現れていて、八十次郎の冷たい言い回しに逆らうこともできないでいるのです。

この義太夫語りと人形使いとの関係が次第に変化していくところも見どころの一つでしょうが、舞台が浄瑠璃の小屋であるところから、舞台の描写も含めた物語自体に漂う小粋さこそが本書の一番の魅力だと思います。

田牧大和のファンとして、一言だけ素人の注文をつけるとすれば、もう少し、物語の視点を定めてもらえればもっと読みやすくなるのではないか、と思うのみです。読み進める中で、会話の主体を若干見失う場面があったのです。もっとも、これは読み手である私の方の問題かもしれず、もう少し丁寧に読めば済むことなのかもしれません。

とにかく、久しぶりに読んだ田牧大和の小説は、やはり十分に面白いものでした。

田牧 大和 三悪人


時代劇での人気者である若き遠山金四郎と、物語に登場すると必ず憎まれ役である若かりし鳥居耀蔵とが、寺社奉行水野左近衛将監忠邦の非道に立ち向かいひと泡吹かせようとする痛快時代小説です。しかし、これまで読んだこの作家の作品の中では、あまり感心しない出来の作品でした。

文政四年の師走の夜中、目黒の祐天寺から火が出て、その焼け跡から身元の知れない女と盲目の僧侶の焼死体が見つかった。たまたま、ひと儲けを企み水野の身辺を探っていた鳥居の仲間である河本主水が、祐天寺の火事は水野の仕業だという。吉原での金四郎の敵娼(あいかた)である花魁の夕顔の弟こそが、祐天寺で亡くなった僧侶だったところから、金四郎は鳥居と組んで水野忠邦の鼻をあかそうとするのだった。

遠山の金さん、妖怪鳥居耀蔵、後の老中水野忠邦という、三人ともその名前を知らない者はいないだろう程の人物を主役に仕立てた、なかなかにユニークな舞台設定の小説です。この三人の個性が書き分けられ、テンポのいい文章で語られている点は他の作品と同様で、さすがにうまいと思わせられました。

しかし、そのほかの点、例えば舞台設定では少々偶然に頼り過ぎと思われ、若干の作家のひとりよがりと言われても仕方がないと思われる個所が散見されました。

即ち、そもそも金四郎とこの事件とのかかわりが偶然です。たまたま金四郎の吉原での敵娼の弟がこの火事に巻き込まれていたことをきっかけに、水野に対する謀を巡らすというこの物語の設定自体が、現実感が薄いのです。

また、金四郎が命をかけてもいいと思わせる花魁との関わりが、金四郎が遊び人であるためにこの花魁の初めての男になった、というだけのことのようで、この点も偶然ですし、企みの動機としては単純に受け入れることはできません。「暇つぶし」という理由づけもあるのですが物語の世界に入るには弱いとしか感じられませんでした。

もう一点書くと、本作品では、何故か場面の背景が見えません。会話はテンポよく進むのですが、人物は浮かんでも、人物のいる場所が空白です。情景描写がないことに加え、ストーリー運びにだけ力が入っている印象です。こういう印象を持つことも珍しいものです。

本作品の出版年を見ると、先日読んだ『泣き菩薩』に次ぐ、三作目の作品なのですが、それにしては本作より前の『花合せ 濱次お役者双六』『泣き菩薩』の方が数段良くできていたと思います。

田牧 大和 泣き菩薩


江戸時代も初期のころ、江戸の町は何度も大火に襲われていたそうで、火消し制度が整えられていきました。武家と町人それぞれに「武家火消」と「町火消」の制度が整えられ、「武家火消」は更に大名が管理する「大名火消」と幕府つまりは旗本の「定火消」とが整備されていったそうです。

本書の主人公はこの定火消である、若き日の歌川広重を主人公としています。本書の時代の広重は未だ19歳であり、安藤重右衛門と名乗っていました。仲間に同じ定火消し同心として西村信之介と猪瀬五郎太とが配されています。西村信之介は「八代洲河岸の孔明」と呼ばれるほどに明晰な頭脳を持ち、五郎太は力持ちで、臥煙らからも慕われる人情家です。

ある日、五郎太を哲正という名の光照寺の小坊主が訪ねてきた。講堂の仏像が燃え、哲正の同輩の森念が失火を疑われ、先輩から折檻を受けているというのだ。重右衛門ら三人は森念にかけられた疑いを晴らすべく奔走するが、その裏には火つけ一味の暗躍が見え隠れするのだった。

本書は、作者田牧大和が『花合せ 濱次お役者双六』で小説現代長編新人賞を受賞した後の第一作です。『花合せ』の面白さは言うまでもないのですが、本書も『花合せ』に負けず劣らずの出来を見せています。田牧大和という作者の一番の魅力は、キャラクター造形のうまさと、文章のテンポの良さだと思っているのですが、本書でも実に小気味よく物語は進んでいきます。

主人公が若き日の歌川広重である安藤重右衛門ということで、重右衛門の画のうまさが巧みに生かされています。聞いたものに関しての情報はあいまいなのですが、見たものに関しては抜群の記憶力を発揮する安藤重右衛門が、状況を絵におこし、探索に生かします。能力は絵のうまさだけなので、腕力も勿論無いのです。なのに、単独で行動するなど、思料不足の面が危機を招いたりもします。

そうした重右衛門の欠点を残りの二人が、全てを見通しているかのような小此木啓祐という直心影流の使い手でもある上司与力のもと、事件を解決に導くのです。

物語の根底に流れる人間に対する「信頼」に琴線をくすぐられながら、続編は出ないものかと心待ちにしながら、この作者の他の作品を読もうと決めている私でした。

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Author:siro
このブログの本棟として本の紹介のサイトを開いています。
(こちらです⇒読んだ屋
本ブログを別棟として位置付けて、読んだ本を記録していこうと思い立ちました。ここでの文章を母屋であるそのサイトに転記していくつもりです。

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